- 著者
-
難波 謙二
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1996
本研究では底沸点有機ハロゲン化物のうち金属の洗浄剤などとして用いられてきたトリクロロエチレン(TCE)の定量を行った。TCEは揮発性の発ガン性のある有機溶剤で,地下に浸透し,地層を汚染している場所がある事が知られている。この様な場所ではTCEが地下水から検出され,重大な問題となっている。TCEは工場排水や地下水等を通じて,河川・沿岸環境に流入している事が知られているため,堆積物の前に水中での分布をまず調べる事にした。分析装置としてはガスクロマチグラフ-FIDを用いた。溶存揮発性有機物の濃縮装置を作成したが,環境水に適用すると,メタンなど通常の炭化水素のピークによってTCEの検出が妨害される。これに対処するには,FIDに代えてBCDを検出器とし用いることがまず考えられるが,本研究では,ヘッドスペース法によって環境基準よりも二桁低いnM程度の濃度までは定量できることが分かったので,試水のヘッドスペースをFIDによって分析した。カラムはChromosorb AW-DMCS 60/80を用いた。夏期の浜名湖の湖央で水深別に採水し,測定を行った。その結果,TCEと保持時間が同じピークが現れ,20nMと定量された。また,鉛直的には2m程度の水深で最も高くなることが観察された。なお,TCEはメタン資化細菌によって分解されることが知られているので,メタン添加実験を行った。しかし,細菌の増殖はなく,TCEの分解は促進されなかった。浜名湖周辺には工場の立地もあるので,このTCEの由来を今後広範囲に水平的に調べていきたい。東京湾湾奥花見川河口付近で汚染地下水由来と思われる環境基準と同程度の数百nMのTCEが定常的に検出されている。海洋に近づくと濃度が低下する傾向があること,鉛直的には表層で低濃度になることから,表層では大気に拡散するほか紫外線による分解を受けているものと考えられる。