著者
栗原 伸一 霜浦 森平
出版者
Japanese Society of Agricultural Informatics
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.15-24, 2006
被引用文献数
3

多くの農村では, 急速に進む高齢化や過疎化によって, 多面的機能を有する地域資源の維持管理が難しくなってきている. また, 地域を問わず, 子供に対する犯罪や高齢者の孤独死の増加なども危惧されている. しかしながら, こうした地域の問題は, 本来, コミュニティが正常に機能していれば, その多くは防げる性質のものである. 本研究では, そうした問題意識のもと, コミュニティに関する意識調査を千葉県の住民に対して実施し, その実態と評価の要因を都市・農村間で比較分析した. その結果, 農村では現在でも高齢者などによって伝統的な文化・行事が守られ, 比較的地域住民のまとまりが強いが, 都市ではコミュニティでの共同活動は環境美化作業など限定的であることが確認された. そして何れの地域でも, そうした活動への参加は, 町内会や自治会行事であるためという, ネガティブな理由であった. また, コミュニティに対する満足度評価の要因分析を通して, 婦人や若者の意見を反映したり, 新旧住民の交流の機会を創造することによってコミュニティを再評価させることや, 既に様々な面で地域の柱の一つとなっている町内会・自治会を上手く利用することも, コミュニティ活動の促進には有効であることが示唆された.
著者
大江 靖雄 栗原 伸一 霜浦 森平 宮崎 猛 廣政 幸生
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究課題では、都市農村交流時代における新たな農業と農村の役割として近年注目を集めている農業の教育機能について、理論的な整理と実証的な評価を加えて、今後の増進の方向性についての展望を得ることを目的に研究を実施してきた。主要な分析結果については以下のとおりである。1)農業の教育機能は、正の外部性を有する農業の多面的機能の一つの機能で、その外部性が環境ではなく人間を対象としている点に、特徴がある。2)定年帰農者の事例分析から、農業の教育機能は、近代的な最先端技術よりも、伝統的な技術の方が、教育的な機能が大きいことを明らかにした。この点で、高齢者や退職者帰農者などの活躍の場を農業の教育機能の提供者として創出できる余地がある。3)その経済性について実証的な評価を行った結果、正の外部性については、十分な回収がされておらず農家の経営活動として内部化は十分されておらず、農業の教育サービスの自律的な市場としてはまだ十分成長してないことを、計量的に明らかたした。4)酪農教育ファームについての分析結果から、多角化の程度と体験サービスの提供とはU字型の関係を有していることを、実証的に明らかにした。その理由として、技術的結合性、制度的結合性が作用していること、特に制度的な結合性の役割が大きいことを明らかにした。5)農業の教育機能については、今後とも社会的なニーズが高まることが予想されるので、農業経営の新たな一部門として位置づけて、有効な育成支援策を講じることが重要である。
著者
伊野 唯我 栗原 伸一 霜浦 森平 大江 靖雄
出版者
千葉大学園芸学部
雑誌
食と緑の科学 (ISSN:18808824)
巻号頁・発行日
no.63, pp.83-88, 2009-03

近年、わが国ではBSE(牛海綿状脳症)や高病原性鳥インフルエンザ、そして各種の偽装表示の発覚など、食品に対する消費者の信頼を失墜させる事件や問題が次々に発生している。ここ最近でも、2007年1月に起きたテレビ健康番組での納豆に関するデータ捏造事件や、2008年9月に発覚した事故米の不正転売事件など、枚挙にいとまがない。そして、カイワレ大根や低脂肪牛乳の様に、一度(ひとたび)問題が明るみになると、その消費がなかなか回復されない食品も多い。こうした状況を生んだ原因の一つは、経済成長と共に進んだ食の外部化が、結果としてフード・チェインを延長したことにある。そのため、安全性を自ら調べることの出来ない末端の消費者が、新聞やテレビなどから得た一方的な安全性に関する情報のみに頼って購入せざるを得ない状況になってしまったのだろう。そこで本研究では、そうした食品の安全性や危険性に関する情報が、消費者行動にどのような影響を与えているのかを計量的に分析する。
著者
霜浦 森平 山添 史郎 塚本 利幸 野田 浩資
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.8, pp.151-165, 2002-10-31
被引用文献数
1

本稿では,滋賀県守山市を中心として活動している「豊穣の郷赤野井湾流域協議会」を事例として,地域環境ボランティア組織の活動の二元性について検討していく。協議会は,守山市の住民が主体となって水環境保全活動を行なっている組織であり,その活動は2つの方向性をもっていた。協議会は,水量確保対策や清掃活動による水環境の保全を重視する「自立型活動」を行なうとともに,これまでの水環境の管理主体である行政,自治会,農業団体の協力,協議会活動への一般住民の理解を得るための「連携型活動」を行なってきた。協議会では,活動の2つの方向性をめぐって意見対立が起こった。本校では,まず,この意見対立の経過をたどり,協議会の活動が「自立型活動」と「連携型活動」の二元性を有することを示し,次に,協議会が2つの活動を両立し得た要因について考えたい。地域環境の維持・管理を行なう新たな担い手として,地域環境ボランティア組織の役割が期待されている。地域環境ボランティア組織には,自らの活動によって地域環境を保全する「自立」的側面とともに,従来の地域環境の管理の担い手と協力関係を形成する「連携」的側面が求められる。「自立」と「連携」の両立が地域環境ボランティア組織の課題である。
著者
霜浦 森平 山添 史郎 植谷 正紀 塚本 利幸 野田 浩資
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.15, pp.104-118, 2009-10-31

地域の水環境保全に取り組む地域環境NPOには,関連主体との協働のための多様な活動の展開が求められている。滋賀県守山市の琵琶湖流域において地域水環境保全を行うNPO法人「びわこ豊穣の郷」では,会員間の活動理念,および財源確保の方法に関する会員間の意見の相違により,活動の志向性をめぐる2つの異なるジレンマに直面していた。1つめは,住民主体による自立的な水環境保全,および地域の多様な主体との連携という2つの活動の両立のあり方を背景とする,「自立/連携」をめぐるジレンマである。2つめは,NPO法人化に伴い増加した委託事業と無償ボランティア性に基づく実践的な活動の両立のあり方を背景とする,「ボランティア性/事業性」のジレンマである。この2つのジレンマの要因について,会員を対象としたアンケート調査結果を用いて分析した。会員は3つの「活動の志向性」(「調査重視」「連携重視」「地域重視」)を有していた。「自立/連携」をめぐるジレンマは,「地域重視」,「連携重視」という2つの「活動の志向性」の間で生じていた。一方,「ボランティア性/事業性」をめぐるジレンマは,「調査重視」志向,「地域重視」志向という2つの「活動の志向性」の間で生じていた。
著者
櫻井 清一 霜浦 森平 新開 章司 大浦 裕二 藤田 武弘 市田 知子 横山 繁樹 久保 雄生 佐藤 和憲 高橋 克也
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

農村経済多角化に資する経済活動の運営方式と、地域レベルの経済活動を下支えする社会的成立基盤との関係性を分析し、以下の諸点を明らかにした。(1)農産物直売所が開設されている農村社会では、高齢出荷者の社会活動レベルの低下および出荷活動の停滞がみられる一方、後発参入者が広域的な社会ネットワークを広げ、出荷活動にも積極的である。(2)多角化活動の実践は地域社会における経済循環を形成している。(3)政府による農商工等連携事業において、農業部門の自主的な参画・連携がみられない。(4)アイルランドで活発な地域支援組織LAGはプロジェクト方式で自主的に運営され、地域の利害関係者間に新たな協働をもたらしている。(5)アメリカの消費者直売型農業にかつてみられたオールタナティブ性が変化し、対面型コミュニケーションが希薄化している。
著者
栗原 伸一 霜浦 森平
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.47-57, 2005-03-31
被引用文献数
1

少子高齢化が進む一方,長引く景気低迷から新たな税源確保も難しい我が国において,財政をいかに効率良く支出するかという「資源の最適分配」はもっとも重要な問題の一つである.そこで本研究は,地域住民を対象とした意識調査を行い,財政構造に関する意識や要因を都市・農村などの地域間比較を中心に整理・考察した.その結果,以下のようなことが明らかになった.(1) 現在行われている公共事業や社会保障に対して,地域住民の大半が「(やや)不満」に感じていた.(2) 公共事業費については,効率化による予算削減を望む者が多かったが,地方部では集落排水などの農村整備に対する選好も比較的高かった.(3) 社会保障費に関しては,農村を筆頭に多くの者が「増額」を望んでいたが,赤字公債発行によるこれまでの景気刺激型財政支出に対する嫌気と相まって,相対句なウェイトは小さかった.また老後等に備えての貯蓄額は平均5万円/月程度であった.(4) 予算支出の総額を抑えた再建型財政に対する選好が高かった.こうした分析の結果は最近の世論とも整合的であり,また都市農村で比較した場合,農村部では公共投資に関して寛大であり,社会保障費の希望増額が都市部よりも若干大きいことが分かった.こうした地域住民の選好を土台にして,財政決定を計画すれば納税者の効用度も向上し,納税者のコンセンサス獲得へとつながると考えられる.