著者
髙橋 裕子
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.5-18, 2016-10-20 (Released:2017-11-10)

本稿では、2015年12月に開催されたジェンダー史学会年次大会シンポジウム「制度のなかのLGBT- 教育・結婚・軍隊」での報告を纏めるとともに、セブンシスターズの5女子大学が女子大学としての大学アイデンティティを重視しながらも、もはや「女性」という「性別」を一枚岩的に捉えることができなくなってきた現状を紹介する。さらに、とりわけ誰に出願資格があるのかを決定する判断の背景にある、女子大学自体の大学アイデンティティの問題を考察しつつ、2014年から15年にかけて発表された新たなアドミッションポリシーを概観した。この問題は、いわば21世紀に女子大学が直面しているもう一つの「共学」論争とも言える。20世紀後半に経験した「共学」論争との違いはどこにあるのか、その点にも着目しながら、性別二元論が女子大学における入学資格というきわめて現実的な問題としてゆらぎをみせていることとともに、米国における今日の女子大学の特色をあぶり出すことを試みた。トランスジェンダーの学生や、ノンバイナリーあるいはジェンダー・ノンコンフォーミングというアイデンティティを選び取る学生が増えていることは、女子大学が、「常に女性として生活し、女性と自認している者を対象とする」高等教育機関であるとあえて明示しなければならなくなったことに反映されている。それにも拘わらず女子大学のミッションが、すなわちその必要性や存在意義がよりいっそう強く再確認されていることに注目した。女性が社会で、そして世界で、多様な分野で参画できる力と自信を、大学時代に身に付ける場として、女性がセンターに位置づく経験をする教育の必要性が、このトランスジェンダーの学生の受け入れを巡ってのディスカッションを通していっそうクリティカルに再確認されたとも言える。大学教育という実践の場において、ジェンダー的に周縁に位置するセクシュアルマイノリティの学生をめぐって、アドミッションポリシーを文書化し、具体的に「女子大学」と名乗るのかどうか、さらには「よくある質問(FAQ)」で「女性とは誰のことなのか」という質問に詳細にわたって回答し、ジェンダー的に流動的な(gender fluid) 学生に対応しているこの局面に、21世紀のアメリカにおけるセブンシスターズの女子大学が果たしている新たな先駆的役割を見て取れる。
著者
髙橋 裕次
雑誌
書道学論集 : 大東文化大学大学院書道学専攻院生会誌 (ISSN:13489313)
巻号頁・発行日
no.15, pp.A29-A35, 2018-03-31

デジタルマイクロスコープを使って料紙を観察していると、たとえば掛幅装などの場合、料紙の重さを計れないため、料紙の特性を検討するための密度を知ることができないなどの困難に遭遇する。また透過光による観察で、表装の肌裏、増裏、総裏など裏打ち紙の繊維の影が一緒に写ってしまい区別ができないこともある。そこで、繊維の形状や添加物などをより把握しやすくする方法がないかと考えていたところ、顕微鏡の開発に携わっている技術者との会話のなかで、最新型の顕微鏡のもつEDOF(強化被写界深度)機能を応用して、繊維の状態を把握できるかもしれないと考えるにいたった。EDOFは、焦点距離の異なる一連の画像を組み合わせて一枚の画像を合成することにより、被写界深度(焦点の合う範囲)を拡大するものである。料紙に下からの透過光をあてながらEDOF機能をもつ顕微鏡で撮影した、焦点距離の異なる一連の画像をそれぞれに分析することで、内部の繊維、添加物の状態と、その正確な位置が確認できる。料紙の現状を損なわずに、その内部の様子を容易に観察することが可能になれば、料紙の研究もさらに進展すると思われる。
著者
齊藤 明 岡田 恭司 髙橋 裕介 柴田 和幸 大沢 真志郎 佐藤 大道 木元 稔 若狭 正彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>成長期野球肘の発症には投球時の肘関節外反が関与し,その制動には前腕回内・屈筋群が作用することが知られている。成長期野球肘おいては投球側の円回内筋が硬くなることが報告されており,特に野球肘の内側障害ではこれらの硬い筋による牽引ストレスもその発症に関連すると考えられている。しかしこれらの筋が硬くなる要因は明らかにされていない。そこで本研究の目的は,成長期の野球選手における前腕屈筋群の硬さと肘関節可動域や下肢の柔軟性などの身体機能および練習時間との関係を明らかにすることである。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>A県野球少年団に所属し,メディカルチェックに参加した小学生25名(平均年齢10.7±0.7歳)を対象に,超音波エラストグラフィ(日立アロカメディカル社製)を用いて投球側の浅指屈筋,尺側手根屈筋の硬さを測定した。測定肢位は椅子座位で肘関節屈曲30度位,前腕回外位とし,硬さの解析には各筋のひずみ量に対する音響カプラーのひずみ量の比であるStrain Ratio(SR)を用いた。SRは値が大きいほど筋が硬いことを意味する。身体機能は投球側の肘関節屈曲・伸展可動域,前腕回内・回外可動域,両側のSLR角度,股関節内旋可動域,踵殿距離を計測し,事前に野球歴と1週間の練習時間を質問紙にて聴取した。また整形外科医が超音波診断装置を用いて肘関節内外側の骨不整像をチェックした。統計学的解析にはSPSS22.0を使用し,骨不整像の有無による各筋のSRの差異を比較するため対応のないt検定を用いた。次いで各筋のSRと各身体機能,野球歴や練習時間との関係をPearsonの相関係数またはSpearmanの順位相関係数を求めて検討した。有意水準はいずれも5%とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>参加者のうち肘関節内側に骨不整像を認めた者は4名(野球肘群),認められなかった者は21名(対照群)であった。浅指屈筋のSRは2群間で有意差を認めなかった(1.01±0.29 vs. 0.93±0.23;p=0.378)が,尺側手根屈筋のSRでは野球肘群が対照群に比べ有意に高値を示した(1.58±0.43 vs. 0.90±0.28;p<0.001)。浅指屈筋のSRと各測定値との相関では,各身体機能や野球歴,練習時間のいずれも有意な相関関係は認められなかった。尺側手根屈筋のSRも同様に各身体機能や野球歴との間には有意な相関関係を認めなかったが,1週間の練習時間との間にのみ有意な正の相関を認めた(r=0.555,p<0.01)。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>成長期の野球選手において浅指屈筋,尺側手根屈筋の硬さは,肘・股関節可動域や野球歴とは関連がないことが明らかとなった。一方,1週間の練習時間の増大は尺側手根屈筋を硬くし,このことが成長期野球肘の発症へとつながる可能性が示唆された。</p>
著者
髙橋 裕子
出版者
ジェンダー史学会
雑誌
ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.5-18, 2016

<p>本稿では、2015年12月に開催されたジェンダー史学会年次大会シンポジウム「制度のなかのLGBT- 教育・結婚・軍隊」での報告を纏めるとともに、セブンシスターズの5女子大学が女子大学としての大学アイデンティティを重視しながらも、もはや「女性」という「性別」を一枚岩的に捉えることができなくなってきた現状を紹介する。さらに、とりわけ誰に出願資格があるのかを決定する判断の背景にある、女子大学自体の大学アイデンティティの問題を考察しつつ、2014年から15年にかけて発表された新たなアドミッションポリシーを概観した。この問題は、いわば21世紀に女子大学が直面しているもう一つの「共学」論争とも言える。20世紀後半に経験した「共学」論争との違いはどこにあるのか、その点にも着目しながら、性別二元論が女子大学における入学資格というきわめて現実的な問題としてゆらぎをみせていることとともに、米国における今日の女子大学の特色をあぶり出すことを試みた。</p><p>トランスジェンダーの学生や、ノンバイナリーあるいはジェンダー・ノンコンフォーミングというアイデンティティを選び取る学生が増えていることは、女子大学が、「常に女性として生活し、女性と自認している者を対象とする」高等教育機関であるとあえて明示しなければならなくなったことに反映されている。それにも拘わらず女子大学のミッションが、すなわちその必要性や存在意義がよりいっそう強く再確認されていることに注目した。女性が社会で、そして世界で、多様な分野で参画できる力と自信を、大学時代に身に付ける場として、女性がセンターに位置づく経験をする教育の必要性が、このトランスジェンダーの学生の受け入れを巡ってのディスカッションを通していっそうクリティカルに再確認されたとも言える。</p><p>大学教育という実践の場において、ジェンダー的に周縁に位置するセクシュアルマイノリティの学生をめぐって、アドミッションポリシーを文書化し、具体的に「女子大学」と名乗るのかどうか、さらには「よくある質問(FAQ)」で「女性とは誰のことなのか」という質問に詳細にわたって回答し、ジェンダー的に流動的な(gender fluid) 学生に対応しているこの局面に、21世紀のアメリカにおけるセブンシスターズの女子大学が果たしている新たな先駆的役割を見て取れる。</p>
著者
井上 駿也 髙橋 裕司 前田 卓哉 田村 将希 阿蘇 卓也 野口 悠 高橋 知之 古山 駿平 尾﨑 尚代 古屋 貫治 西中 直也
出版者
日本肩関節学会
雑誌
肩関節 (ISSN:09104461)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.181-186, 2023 (Released:2023-09-20)
参考文献数
16

リバース型人工肩関節全置換術(RTSA)後の自動屈曲可動域,臨床スコアに対して術前三角筋体積が関係するかを検討した.術後2年以上経過観察可能であったRTSA患者23名を包含した.画像解析ソフト上で三角筋を前部(AD),中部(MD),後部(PD)に区分けし,各部位の指数を得た.術後自動屈曲可動域(6カ月,1年,1.5年,2年)とJOAスコア(2年)との相関の有無を,Spearmanの相関係数を用い検討した.術前AD体積指数と術後各時期での自動屈曲可動域との相関係数は,0.57(p < 0.01),0.73(p < 0.001),0.72(p < 0.001),0.70(p < 0,001)と全ての時期で有意な正の相関を認めた.術前PD体積指数と術後各時期での自動屈曲可動域との相関係数は,-0.34(p=0.11),-0.49(p < 0.05),-0.56(p < 0.01),-0.63(p < 0.01)と術後6カ月以外の時期で有意な負の相関を認めた.JOAスコアとの相関は術前AD体積指数のみ0.50(p < 0.05)と有意な正の相関を認めた.術前AD体積指数が高い症例ほど術後自動屈曲可動域およびJOAスコアは高くなる傾向にあり,術前PD体積指数が高い症例ほど術後自動屈曲可動域獲得に難渋する可能性が示唆された.
著者
富田 正弘 湯山 賢一 永村 真 杉本 一樹 綾村 宏 田良島 哲 増田 勝彦 髙橋 裕次 池田 寿
巻号頁・発行日
1995-07

古代中世の文書料紙の歴史的変遷について、文献史料によって検討を加えてみると、檀紙・引合・杉原紙・鳥の子等の紙種が観察される。平安時代の文書料紙は、重要な公文書には紙屋紙が公紙として用いられていた。他方、軽微な文書や私文書などの料紙には、地方産の楮紙である檀紙が使用されていた。平安後期になると、檀紙が粗悪な紙屋紙を駆逐し、重要な公文書の料紙となるのである。鎌倉時代にはいると、京都においては、檀紙が公紙として発展し、大きく高檀紙と普通の檀紙とに分化する。後期には、普通の檀紙のうちから良質のものが引合と呼ばれ、上級貴族・僧侶の書状料紙として用いられた。鎌倉においては、幕府の下文・下知状等には御下文紙(後の鎌倉紙)が用いられ、他方幕府の御教書や武士の書状などには杉原紙が盛んに使用された。建武新政以後、関東武士が京都に大挙常住すると、鎌倉の紙使いが京に持込まれ、また武家が京都の紙使いの影響を受け、互いに混淆し合う。公家・寺社においては、高檀紙から大高檀紙・小高檀紙の種別が現れ、近世の大鷹檀紙・小鷹檀紙への繋がり見えてくる。武家では、幕府文書の料紙の主役から鎌倉紙が消え、その地位は普通の杉原紙に取って代られる。後期には、書礼様文書の料紙としては、公武ともに引合や鳥の子を使用し始める。高檀紙は、秀吉の朱印状・判物の料紙に繋がっていき、また、この時期に現れる奉書紙は、引合の系譜を引く文書と言われる。また、古代中世の現存の文書料紙から検討すると、料紙の縦寸法・横寸法・縦横比率・厚さ・密度・簀目本数・糸目巾の時代的変遷を跡付けることができた。また、これらの共通の画期が室町時代と確認され、杉原紙の普及との関係が浮き彫りにされた。これらの研究成果は、まだ中間報告の域を出ないが、今後もこの研究体制を維持し、別の形で研究を続けていくことにより、この試論的成果を検証・訂正したいと思う。
著者
齊藤 明 岡田 恭司 髙橋 裕介 柴田 和幸 大沢 真志郎 佐藤 大道 木元 稔 若狭 正彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1220, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】成長期野球肘の発症には投球時の肘関節外反が関与し,その制動には前腕回内・屈筋群が作用することが知られている。成長期野球肘おいては投球側の円回内筋が硬くなることが報告されており,特に野球肘の内側障害ではこれらの硬い筋による牽引ストレスもその発症に関連すると考えられている。しかしこれらの筋が硬くなる要因は明らかにされていない。そこで本研究の目的は,成長期の野球選手における前腕屈筋群の硬さと肘関節可動域や下肢の柔軟性などの身体機能および練習時間との関係を明らかにすることである。【方法】A県野球少年団に所属し,メディカルチェックに参加した小学生25名(平均年齢10.7±0.7歳)を対象に,超音波エラストグラフィ(日立アロカメディカル社製)を用いて投球側の浅指屈筋,尺側手根屈筋の硬さを測定した。測定肢位は椅子座位で肘関節屈曲30度位,前腕回外位とし,硬さの解析には各筋のひずみ量に対する音響カプラーのひずみ量の比であるStrain Ratio(SR)を用いた。SRは値が大きいほど筋が硬いことを意味する。身体機能は投球側の肘関節屈曲・伸展可動域,前腕回内・回外可動域,両側のSLR角度,股関節内旋可動域,踵殿距離を計測し,事前に野球歴と1週間の練習時間を質問紙にて聴取した。また整形外科医が超音波診断装置を用いて肘関節内外側の骨不整像をチェックした。統計学的解析にはSPSS22.0を使用し,骨不整像の有無による各筋のSRの差異を比較するため対応のないt検定を用いた。次いで各筋のSRと各身体機能,野球歴や練習時間との関係をPearsonの相関係数またはSpearmanの順位相関係数を求めて検討した。有意水準はいずれも5%とした。【結果】参加者のうち肘関節内側に骨不整像を認めた者は4名(野球肘群),認められなかった者は21名(対照群)であった。浅指屈筋のSRは2群間で有意差を認めなかった(1.01±0.29 vs. 0.93±0.23;p=0.378)が,尺側手根屈筋のSRでは野球肘群が対照群に比べ有意に高値を示した(1.58±0.43 vs. 0.90±0.28;p<0.001)。浅指屈筋のSRと各測定値との相関では,各身体機能や野球歴,練習時間のいずれも有意な相関関係は認められなかった。尺側手根屈筋のSRも同様に各身体機能や野球歴との間には有意な相関関係を認めなかったが,1週間の練習時間との間にのみ有意な正の相関を認めた(r=0.555,p<0.01)。【結論】成長期の野球選手において浅指屈筋,尺側手根屈筋の硬さは,肘・股関節可動域や野球歴とは関連がないことが明らかとなった。一方,1週間の練習時間の増大は尺側手根屈筋を硬くし,このことが成長期野球肘の発症へとつながる可能性が示唆された。