著者
名取 威徳 秋元 功司 元木 一宏 肥塚 靖彦 比嘉 辰男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.110, no.supplement, pp.63-68, 1997 (Released:2007-01-30)
参考文献数
5
被引用文献数
8 15

New glycosphingolipids, named agelasphins, have been isolated as antitumoral compounds from an extract of a marine sponge, Agelas mauritianus. The absolute configurations of agelasphins were elucidated by the total synthesis. Various analogues of agelasphins were also synthesized and the relationship between their structures and biological activities was examined using an MLR assay. From the results, KRN7000, (2S, 3S, 4R)-1-O(α-D-galactopyranosyl)-2-(N-hexacosanoylamino)-1, 3, 4-octadecanetriol, was selected as a candidate for clinical application. KRN7000 markedly stimulated lymphocytic proliferation in allogeneic MLR, and showed potent tumor growth inhibitory activities in B16-bearing mice and strongly inhibited tumor metastasis, suggesting that KRN7000 is a potent biological response modifier. These biological effects were exerted by the activation of dendritic cells by KRN7000.
著者
今西 泰一郎 吉田 晶子 奥野 昌代 平沼 豊一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.2, pp.94-98, 2005-08-01
参考文献数
28
被引用文献数
3 1

マウスのガラス玉覆い隠し行動(marble-burying behavior)は,敷き詰めた床敷(オガクズ)上に配したガラス玉をマウスが床敷内に埋めてしまう行動であり,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor: SSRI)により行動抑制を伴うことなく抑制される.無害なガラス玉を床敷で覆い隠そうとするマウスの行動が不合理と認識しつつ繰り返される強迫性障害患者の強迫行為と見かけ上類似していること,SSRIがうつ病のみならず強迫性障害の治療薬としても有用であること,不安の代表的な動物モデルであるコンフリクト試験や高架式十字迷路試験ではSSRIは効果を示さないことから,ガラス玉覆い隠し行動は強迫性障害の動物モデルとして位置付けられつつある.反面,ガラス玉覆い隠し行動は,強迫性障害には無効とされているベンゾジアゼピン系やセロトニン5-HT<sub>1A</sub>受容体作動性の抗不安薬によっても抑制されることから,強迫性障害に対する治療効果のみを反映するモデルとは言い切れない側面を併せ持つ.ガラス玉覆い隠し行動に関連する研究は充分に行われているとはいえず,今後の研究課題の一つと考えられる.<br>
著者
喜名 美香 坂梨 まゆ子 新崎 章 筒井 正人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.151, no.4, pp.148-154, 2018
被引用文献数
4

<p>一酸化窒素(NO)はL-arginineからNO合成酵素(NOSs)を介して産生されが,最近,その代謝産物である亜硝酸塩(NO<sub>2</sub><sup>-</sup>)および硝酸塩(NO<sub>3</sub><sup>-</sup>)からNOが産生される経路が発見された.レタスやホウレン草などの緑葉野菜には硝酸塩が多く含有されている.しかし,硝酸塩/亜硝酸塩(NOx)の不足が病気を引き起こすか否かは知られていない.本研究では,『食事性NOxの不足は代謝症候群を引き起こす』という仮説をマウスにおいて検証した.私達は過去に,NOSs完全欠損マウスの血漿NOxレベルは野生型マウスに比して10%以下に著明に低下していることを報告した.この結果から,生体のNO産生は主として内在するNOSsによって調節されていること,外因性NO産生系の寄与は小さいことが示唆されたが,低NOx食を野生型マウスに長期投与すると意外なことに血漿NOxレベルは通常食に比して30%以下に著明に低下した.この機序を検討したところ,低NOx食負荷マウスでは内臓脂肪組織のeNOS発現レベルが有意に低下していた.重要なことに,低NOx食の3ヵ月投与は,内臓脂肪蓄積,高脂血症,耐糖能異常を引き起こし,低NOx食の18ヵ月投与は,体重増加,高血圧,インスリン抵抗性,内皮機能不全を招き,低NOx食の22ヵ月投与は,急性心筋梗塞死を含む有意な心血管死を誘発した.低NOx食負荷マウスでは内臓脂肪組織におけるPPARγ,AMPK,adiponectinレベルの低下および腸内細菌叢の異常が認められた.以上,本研究では,食事性NOxの不足がマウスに代謝症候群,血管不全,および心臓突然死を引き起こすことを明らかにした.この機序には,PPARγ/AMPKを介したadiponectinレベルの低下,eNOS発現低下,並びに腸内細菌叢の異常が関与していることが示唆された.</p>
著者
高原 章 内田 裕久 今田 智之 堂本 英樹 吉元 良太 小森 美幸 森岡 朋子 小野 一郎 高田 芳伸 加藤 仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.106, no.4, pp.279-287, 1995-10-01
参考文献数
19
被引用文献数
1 4

新規カルシウム拮抗薬(シルニジピン)を2KlC型腎性高血圧犬に連続経ロ投与し,その抗高血圧作用を二力ルジピンのそれと比較検討した.投与初日,シルニジピン(3mg/kg)および二力ルジピン(3mg/kg)の経ロ投与は投与後1時間目に収縮期および拡張期血圧を著明に低下させた.このシルニジピンの降圧作用は二力ルジピンより持続的であった.両薬剤とも心拍数と血漿レニン活性の上昇を引き起こした.投与開始8日目および15日目もシルニジピンとニカルジピンは投与初日とほぼ同程度の血圧低下作用を引き起こした.投薬中止48および72時間後に血圧のリバウンド現象は認められなかった.血圧測定時間毎に採血して血漿中薬物濃度を測定したところ,シルニジピンおよび二力ルジピンの血圧低下作用はそれぞれの時点での血漿中薬物濃度と有意に相関した(シルニジピン;r=-0.598,ニカルジピン;r=-0.594).以上の結果より,シルニジピンは二力ルジピンに比較してより持続的な抗高血圧作用を示し,連続経ロ投与による再現性のある抗高血圧作用は血漿中薬物濃度に相関して認められた.
著者
山田 久陽
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.3, pp.154-157, 2009 (Released:2009-03-13)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

腎臓は,組織の“不均一性”が高く,薬物により腎臓のさまざまな部位が障害される.障害部位の特定を含めた腎毒性の評価は,ラットを用いた一般毒性試験においても検査項目を充実させることにより可能である.特に尿検査は,鋭敏で動物に負荷を与えない非侵襲的な検査として汎用される.糸球体障害の検出には,通常濾過されない血中高分子タンパクおよびアルブミンなどが有用である.近位尿細管障害には,同部位に局在するNAG,γ-GTP,α-GSTなどの酵素やKIM-1およびclusterinなどの局在タンパク,同部位で再吸収されるβ2-microglobulinなどの低分子タンパク,さらに,遠位尿細管障害ではμ-GSTなどの局在タンパクの測定が有用である.腎毒性の評価には,各部位のマーカーを2種以上選定して,その変化を経日的に解析し,最終的には腎臓の病理組織学的所見を加味して総合的に変化の程度や部位を判定すべきである.
著者
嶋田 薫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.4, pp.210-213, 2009 (Released:2009-04-14)
参考文献数
23
被引用文献数
1

製薬企業における新薬の生産性の低下を招く要因,すなわち開発中止理由に薬物動態の割合が高いことが示されて以来,創薬初期段階での薬物動態研究が積極的に展開され,薬物動態が原因で開発中止となるケースは激減した.開発中止理由の変化を受けて,今,創薬初期段階の薬物動態試験はパラダイムシフトを起こす引金は引かれた.本稿では,「化合物から医薬品にするために必要な薬物動態試験」の序として,薬物動態研究関連のスクリーニングを解説し,実際の使用態様も紹介した.また,今後どのような評価系が望まれ,どのように戦略的に使用すべきかを開発効率の面から記述した.さらに,探索薬物動態部門が抱える問題について実際にプロジェクトを運営する現場から問題を提起・パラダイムを変える必要性について言及した.
著者
平井 洋 下村 俊泰 駒谷 秀也 小谷 秀仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.1, pp.27-31, 2009 (Released:2009-01-14)
参考文献数
37

正常な体細胞ががん化する為には,細胞のいくつかの制御機構に異常が引き起こされることが必要と考えられている(1).これらは,細胞増殖のシグナルの異常,細胞死制御の異常,DNAの修復機構の異常などが含まれるが,その中でも,細胞周期に変化を起こすような細胞分裂制御機構の異常は細胞のがん化におけるひとつの大切なホールマークとして知られている. 細胞分裂は4つの周期に分けられており,それらはG1期,S期,G2期,M期で,それぞれ異なったタンパク質がその時期の制御に関わっている.現在使用されている抗がん薬の多くは,この細胞周期の1つまたは,複数期に関わっているタンパク質の活性を阻害するものであり,その臨床的な有用性は様々な研究によって証明されている. しかしながら,現行の抗がん薬には様々な副作用も知られており,また,多くの抗がん薬がその化合物が天然物由来であることもあり,阻害メカニズムに由来した以上の副作用も存在している.これらのことから,患者さんからは副作用の少ない次世代の抗がん薬の創製が強く望まれている. 以上のような理由から,現在細胞分裂の制御に関係したタンパク質の阻害薬が多くの研究者,企業によって開発されている.このレビューでは,特に,現在その標的に対して薬が作られていない新規の細胞分裂抗がん薬ターゲットに着目してその開発状況を報告する.
著者
矢野 浩志
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.5, pp.270-273, 2009 (Released:2009-05-14)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

創薬の初期から,薬物吸収に関連した種々のin vitro試験や物性パラメーターが評価されるようになった.しかし,それらの数値を有効に活用するためには,溶解性および膜透過性などの化合物の物理的な特性と,実際の吸収への関連を明らかにすることが重要である.物性を通じ吸収過程を理論的に細分化し,そして統合することで,定量的な吸収率予測および吸収過程に問題がある化合物の排除へとつながると思われる.近年,難溶解性や低膜透過性に起因して,吸収低下のリスクが伴う化合物も多く合成されるなか,そのリスク自体を定量化することが求められており,そういった定量化につなげるための切り口として「物性評価と薬物吸収の関連」についてまとめた.
著者
真野 高司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.3, pp.149-153, 2009 (Released:2009-03-13)
参考文献数
22

新薬の物性測定,結晶スクリーニング,製剤技術の応用といった薬剤学的検討は,吸収性・薬物動態・製造性・安定性に大きな影響を与える.創薬研究を効率よく行うには,探索段階のステージに応じた,脂溶性・酸塩基解離定数・溶解度・溶解速度測定などの分子物性測定,結晶化・塩・結晶多形のスクリーニング,製剤技術の応用といった項目を実施することが重要である.また,それぞれの項目について科学的理解と最新の技術(テクノロジー)の把握,さらに創薬研究への応用についての正しい戦術策定があってこそ,新規スクリーニングの開発と導入,適切なプロジェクトへの応用といった意味のある研究が可能になる.それらを可能にするには科学技術・プロジェクトチーム両面から見た人材育成も必要であり,そのためにはマネージメントも大きな役割を果たす.探索段階における薬剤学的研究の意義とファイザー株式会社中央研究所(愛知県)における実践例を紹介する.
著者
花田 充治 野口 俊弘 村山 隆夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.141-150, 2003 (Released:2003-07-22)
参考文献数
29
被引用文献数
9 14

アムルビシンは住友製薬により全合成された新しいアントラサイクリン系の抗癌薬であり,2002年4月に非小細胞肺癌と小細胞肺癌を適応症として製造承認を得た.ドキソルビシンなど現在市販されているアントラサイクリン系薬剤は全て発酵品あるいは発酵品からの半合成品であるのに対し,アムルビシンは化学的に全合成された化合物である.9位に水酸基の代わりにアミノ基を有し,アミノ糖の代わりにより簡単な糖部分を有するという,発酵品あるいは発酵品からの半合成品にはない化学構造上の特徴を有している.非臨床試験では,アムルビシンはヌードマウス皮下に移植したヒト腫瘍細胞株に対しドキソルビシンより強い抗腫瘍効果を示した.このマウスモデルにて薬剤組織分布を調べたところ,in vitroにてアムルビシンの約5~200倍の細胞増殖抑制活性を示す活性代謝物アムルビシノール(13位ケトン還元体)が正常組織に比べ腫瘍組織に多く分布していた.アムルビシンは組織分布の上でドキソルビシンに比べより腫瘍選択性の高い薬剤であると考えられ,また,既存のアントラサイクリン系薬剤と異なり,その抗腫瘍効果の発現に活性代謝物アムルビシノールが重要な役割を果たすと考えられた.アムルビシンはトポイソメラーゼIIを介したクリーバブルコンプレックスの安定化により抗腫瘍効果を示し,強いインターカレーション作用により抗腫瘍効果を示すドキソルビシンとは作用機序が異なると推察された.臨床試験では,未治療の進展型小細胞肺癌に対し高い奏効率(76%)を示した.未治療の非小細胞肺癌に対する奏効率は23%であった.主な副作用は骨髄機能抑制で,特にグレード3以上の好中球減少の発現率は77%であった.現在,悪性リンパ腫に対する後期第II相試験と未治療の進展型小細胞肺癌に対するシスプラチンとの併用による第II相試験が進行中である.
著者
丸山 和容 腰原 なおみ
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.1, pp.27-34, 2015 (Released:2015-01-10)
参考文献数
15

デクスラゾキサン(サビーン®点滴静注用500 mg)は,アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の血管外漏出時の唯一の治療薬として,海外30ヵ国以上で承認され臨床使用されている.本邦においては「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において,医療上の必要性が高い薬剤であると評価され,キッセイ薬品工業株式会社がその開発に着手した.非臨床薬理試験においてはアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の血管外漏出による組織障害モデルとして,ダウノルビシンまたはドキソルビシンの皮下投与により誘発されるマウス皮膚潰瘍モデルを作製し,本薬の抗潰瘍作用を評価した.ダウノルビシン誘発皮膚潰瘍モデルにおいて,デクスラゾキサンの腹腔内単回投与は潰瘍発現率を用量依存的に低下させ,潰瘍面積AUCを有意に減少させた.また,本薬は1日1回3日間の腹腔内反復投与においても潰瘍発現率を低下させ,潰瘍面積AUCを著しく減少させた.同モデルにおいて,デクスラゾキサンはダウノルビシン処置後3時間までの腹腔内投与により明らかな潰瘍抑制作用を示し,ダウノルビシン処置後6時間の投与においても潰瘍面積AUCにおいて減少傾向が認められた.静脈内および腹腔内投与による本薬の抗潰瘍作用を比較検討した結果,投与経路の違いによる明らかな差は認められなかった.アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の作用は,主に二本鎖DNAを切断する酵素であるトポイソメラーゼⅡへの阻害活性によるものと考えられており,DNAが切断された状態でDNA-トポイソメラーゼ複合体を安定化させることにより細胞障害を発現する.デクスラゾキサンはアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬とは異なる部位でトポイソメラーゼⅡに結合し,アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬によるDNA-トポイソメラーゼ複合体の安定化を阻害することにより,血管外漏出による組織障害を改善するものと推察される.臨床試験においては,アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の血管外漏出患者を対象に,有効性の主要評価項目として血管外漏出に対する外科的処置率を評価した結果,海外臨床試験において本薬投与後に外科的処置が実施された患者は54例中1例のみであり,他に外科的処置が行われた患者および血管外漏出による壊死が確認された患者はなく,本薬の有効性が確認された.また,国内臨床試験においても外科的処置が行われた患者はなく,本薬の有効性が示唆された.安全性について,副作用の多くはアントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬の副作用として一般的に知られている事象であり回復が認められた.
著者
柴田 達也 山根 明 島田 明美 永田 純史 小松 浩一郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.6, pp.467-471, 2006 (Released:2006-08-01)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

歯学部学生の薬理学実習において,臨床における薬物治療の基礎となる薬物動態を理解するために,血中薬物濃度時間曲線から薬物動態パラメータを求めることは有用であると考えられる.動物実験から血中薬物濃度時間曲線を得ることもできるが,薬物動態シミュレーションプログラムを用いれば動物を使用せずに,そのような実習を行うことが可能である.鶴見大学歯学部の薬理学実習では,英国薬理学会が開発した薬理学実習ソフトウエアの1つである薬物動態シミュレーションプログラムを用いたシミュレーション実習を平成12年度からとりいれている.6~7名の学生から成る班にシミュレーションプログラムをインストールしたパーソナルコンピューターが1台ずつ配布される.4つの実習課題が用意され,班ごとにそれぞれの課題に沿って薬物投与の条件を設定し,血中薬物濃度の変化をシミュレーションする.得られたグラフから指示された値を読み取り,課題にある薬物動態パラメータを算出する.それらの結果を基にして課題にある質問に答える.本シミュレーションプログラムは,実験動物ではなくヒトの薬物動態をシミュレーションすることができるので,結果を外挿する必要がない.学生は限られた実習時間内に実習課題を終わらせることができた.実習の準備,片づけが簡素化され教員の負担は軽減された.実際に動物実験を行うことでしか得られないこともあり,実験動物を用いる実習をすべて代替法で置き換えることは難しいが,学生実習にシミュレーションプログラムを導入することは効率的に薬理学教育を行う1つの手段であると考えられる.
著者
矢野 貴久
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.4, pp.172-177, 2013 (Released:2013-10-10)
参考文献数
38
被引用文献数
2 2

薬剤性腎障害は,診断もしくは治療のために使用した医薬品による有害事象であり,実臨床における重要な課題の一つとされている.しかしながら多くの薬剤では腎障害の発現機序が不明であり,有効な対策法の確立には未だに至っていない.そこで著者らは,培養腎細胞や実験動物を用いて薬剤性腎障害評価モデルを作製し,各薬剤により生じる腎障害の細胞内分子機構の解明を行った.その結果,造影剤や抗MRSA薬バンコマイシンは腎尿細管細胞にアポトーシスを引き起こし,その発現はいずれもミトコンドリア機能障害に起因したカスパーゼ9およびカスパーゼ3活性化に基づくものであったが,その一方で詳細な細胞死分子機構は異なっていることが明らかとなった.造影剤は,スフィンゴ脂質であるセラミドのde novo合成を活性化し,Aktリン酸化ならびにCREBリン酸化の抑制に基づくBax/Bcl-2の発現変化によってミトコンドリア機能障害やアポトーシスを惹起するが,バンコマイシンは,ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの活性化を抑制し,スーパーオキシドを産生することでアポトーシスシグナルを誘導することを見出だした.一方,抗真菌薬アムホテリシンBは腎細胞にミトコンドリア機能障害に基づくネクローシスを引き起こしたが,その発現分子機構は主作用に類似したものであり,アムホテリシンBが腎細胞膜のコレステロールに結合して小孔を形成し,細胞内へのNa+流入を惹起すると共に小胞体やミトコンドリア由来のCa2+上昇を引き起こして細胞死に至ることが明らかになった.さらに,ミトコンドリア分子機構に基づく腎保護薬の研究を進めた結果,プロスタサイクリン誘導体ベラプロストが腎細胞内のcAMPレベルを上昇させ,造影剤腎障害に対して顕著な保護効果を示すことを見出だした.本研究により明らかとなった知見が,薬剤性腎障害の対策法の確立において一助となることを期待する.
著者
本田 主税 溝手 紳太郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.150, no.1, pp.23-28, 2017 (Released:2017-07-07)
参考文献数
20

薬学・生命科学の進歩に伴い,創薬研究者に求められる統計学の素養も日増しに高まっている.創薬に関わる,あるいはこれから関わろうとしている研究者に対して,創薬研究を円滑に進めるための統計教育が必要である.筆者は,創薬研究者の統計的思考力を高めることにより,研究目的に沿った合理的な実験計画の立案力がつくだけでなく,創薬イノベーションや研究競争力強化の一助になると考えている.本稿では,筆者の所属する企業における非臨床分野の統計教育事例を紹介する.そのなかで,創薬ターゲット選定,リード物質探索などの創薬の初発研究から非臨床試験,品質試験など,いわゆる非臨床分野に携わる統計家と創薬研究者のかかわりや,創薬研究者が抱えている統計学での悩み,統計的思考力を高める人財育成の展望についても論じる.
著者
杉本 直樹
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.6, pp.232-236, 2011 (Released:2011-06-10)
参考文献数
6
被引用文献数
1

従来の手法では,有機化合物の絶対純度を簡単に測定することが困難であった.定量核磁気共鳴法(定量NMR: quantitative NMR(qNMR))は計量学的に信頼性の高い定量値または純度値を求めることができる強力なツールとして注目を集め始めている.1H-NMRは,特に有機化合物の構造決定のための代表的な定性分析法の1つであり,これは官能基上の水素の数と信号強度が比例することを利用しているが,1H-NMRスペクトル上に観察される水素の数を示す信号強度は10%を超えるばらつきがあり,有機化合物の精密な定量分析には不向きであるとされていた.しかし,近年,定性的なNMR測定条件を全面的に定量用に最適化することで,1H-NMRスペクトル上の化合物の水素の信号強度は結合状態に依存せず分子構造が異なっても等モル量であれば等しく観察されることが見出された.この定量的なNMR現象を利用することによって,qNMRは他の定量分析法に匹敵する不確かさ約1%以内の定量精度を実現した.さらに,これまでの定量分析技術の常識を覆し,たった1つの純度既知の基準物質を上位標準とするだけで無限の有機化合物の絶対量や絶対純度が国際単位系(SI)にトレーサブルに求められるようになった.今後,qNMRは多分野の研究に関連する有機化合物の絶対純度決定法として応用がはじまり,得られた分析値や評価値の信頼性を間接的に裏付けるための必須の分析技術となると考えられる.本稿では,有機化合物の純度に関するSIトレーサビリティの重要性,qNMRの原理,市販標準品や試薬の絶対純度測定への応用例などを紹介する.
著者
長野 嘉介
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.133, no.2, pp.87-90, 2009 (Released:2009-02-13)
参考文献数
8

呼吸器は,空気から酸素を取り入れ血液から二酸化炭素を放出するガス交換を行うための器官である.空気中に存在す化学物質は呼吸を通して体内に入るため,呼吸器はこれらの化学物質に最初に接触しその影響を最も受けやすい器官である.このため,大気汚染物質による健康障害では呼吸器が標的器官となることが多い.医薬品の分野では,吸入以外の経路でも抗癌剤等による薬剤性肺障害の報告があり,本誌でも詳しい総説がある(1).また,近年は経鼻投与など経気道的に投与する薬剤の実用化が進んでおり,医薬品の開発に際して鼻腔などの気道を含む呼吸器への直接的な接触による副作用が課題になってきている.本稿では,鼻腔等の気道を中心として,呼吸器の構造と機能,呼吸器毒性の検査法,薬剤等による呼吸器毒性について概説する.
著者
長村 文孝
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.4, pp.211-215, 2015 (Released:2015-04-10)
参考文献数
7

自社内のみで開発から市販までを完結するクローズドイノベーションは,特に創薬に関しては世界的に行き詰まりをみせ,外部機関と広く連携を行うオープンイノベーションが推進されている.一方,アカデミアの基礎研究力を活かした新規治療法の開発が着目され,政府の支援も拡大している.アカデミアも従来の自機関内での開発では非効率的であるだけではなく,必要なインフラの整備あるいは開発に必要な専門家の確保等の問題により,広く連携を行うことが不可欠となってきている.アカデミア間の連携促進のために国からの競争的資金も導入されるようになり,また,他施設との共同利用型の設備あるいは体制整備も進んでいる.本章では,このようなアカデミアでの連携,すなわち,オープンイノベーションの推進の現状,そしてそれと密接に関連したアカデミアでのシーズ開発についてまとめる.
著者
川西 徹
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.148, no.5, pp.272-277, 2016 (Released:2016-11-01)
参考文献数
18

健康長寿社会の実現および21世紀の産業基盤の構築という両面から医薬品・医療機器・再生医療等製品等の医療製品開発および産業の振興が国家戦略としてあげられ,健康・医療戦略としてその研究開発および実用化を促進するための法律(健康・医療戦略推進法)の制定,研究開発予算を一元的に管理する日本医療研究開発機構(AMED)の設立等,矢継ぎ早の政策が実行されている.この中で注目すべき点の一つは,レギュラトリーサイエンス(RS)の振興・推進が強調されていることである.我が国においては,新しいタイプの先端的医薬品を世界に先駆けて承認した例は少なく,日本発の先端的医薬品を開発するという国の施策を成功させるためには,まずは日本での開発が円滑に進むことを可能にする環境の整備の一つとして,開発対象となると思われる医薬品の承認申請・審査に必要な規制要件をまとめた文書の整備,およびその作成を支える標準的な製品評価法の開発が重要である.現在AMED等からの研究支援をうけ,産学官を交えてこのようなRS研究が加速されており,あわせて我が国では人材が十分でないこの分野の人材育成の試みが実行されている.このような戦略を通じて,一つでも多くの先端的医薬品開発が世界に先駆けて我が国で迅速かつ安全に実現することが期待される.