著者
野田 桂子 稲葉 治彦 山根 明臣 岩田 隆太郎 森下 加奈子 岡本 徳子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.115, pp.P3059, 2004

1.はじめに ヒメヨコバイ科昆虫は農業害虫として知られている種が多いが,樹木害虫としてはあまり知られていない。本科に属するトチノキヒメヨコバイAlnetoidea sp.は,トチノキAesculus turbinata Blumeの葉裏に寄生する体長3mm程度の吸汁性昆虫である。トチノキは日本の暖温帯都市部において街路樹や学校・公園の緑化樹として広く植えられている落葉樹であるが,近年首都圏において早期退色・落葉の症状を呈している。本種がその原因となっている可能性が高く,薬剤散布により本種の防除を行った木と無処理木とでは,処理木のほうが明らかにトチノキ葉の葉緑素数が高いという結果が出ている。そこで防除の基礎として,トチノキヒメヨコバイ(以下「ヨコバイ」)の性比および越冬調査を行った。2.試料と方法2.1.試料 性比調査に使用したヨコバイ成虫は,2002年12月から2003年12月にかけて,神奈川県藤沢市亀井野日本大学湘南校舎図書館前のトチノキより採集した。また,2003年6月25日に捕虫網を使用して,同校舎図書館前トチノキ近辺を飛翔していたヨコバイ成虫を捕らえ,これも性比調査の試料とした。2.2.方法 ヨコバイの雌雄は,成虫の尾端部で見分けられる。♂は尾端が二裂し,二裂部よりも短い陰茎が突出するのに対し,♀は尾端に体長の1/4前後の長さの産卵管を有する。多数捕獲したヨコバイ成虫を,キーエンス社製デジタルHDマイクロスコープを使用して♂♀をカウントし,その性比を調べた。 ヨコバイの越冬形態や越冬場所を確認するため,2002年12月に近辺の常緑樹を対象としたビーティングネットによる越冬調査を行った。その際,リュウノヒゲ(ジャノヒゲ)およびオカメザサからヨコバイ成虫を発見し,常緑樹の葉裏で成虫越冬をすることが確認できた。 また,2003年7月に予備調査として,日本大学構内のトチノキ以外の樹木やその下生えにおいて,ビーティングネットを使用してのヨコバイ捕獲を試みた。しかしヨコバイは捕獲できず,宿主はトチノキに限られることが示唆された。 以上を踏まえて,2003年12月_から_2004年1月にかけて,日本大学構内の常緑植物を対象としてビーティングネットによるヨコバイ成虫の捕獲を行い,越冬場所とする常緑樹および多年生草本を記録した。また,ヨコバイ成虫が越冬場所を探す際,主宿主樹であるトチノキからどの程度の距離まで移動するのかを知るため,捕獲場所から最も近いトチノキまでの距離を測定した。3.結果 全体的に♀は♂よりも数が多く,捕獲したヨコバイ成虫1196頭のうち,♂nm = 422頭,♀nf =774頭で,性比nm / (nm+nf) = 0.35となった。 2003年6月25日にトチノキ近辺を飛翔していたヨコバイ成虫は,捕獲した47頭のうち,♂38頭,♀9頭と♂が多く,性比は0.81となった。また2003年7月30日の雨上がりには,多数のヨコバイ成虫が敷石や地面に張り付くという現象がみられた。この敷石に張り付いていたヨコバイは,捕獲した143頭のうち♂114頭,♀29頭とやはり♂が多く,性比は0.80であった。 越冬調査により,ヨコバイはリュウノヒゲ(ジャノヒゲ),オカメザサ,オオムラサキ,サツキ,ハナゾノツクバネウツギ,サザンカ,イヌツゲ,シラカシ,ヤマモモなど,主宿主樹であるトチノキの近傍に生える植物の葉裏を越冬場所として利用していることが判明した。移動距離は最長が52m,最短が3mであった。4.考察 トチノキの葉裏から採集したヨコバイの性比が0.35だったのに対し,飛翔中および敷石に張り付いていたヨコバイの性比はそれぞれ0.81と0.80であった。♂成虫は♀成虫よりも活発に活動するように思われた。 越冬調査では,直接道路に面している部分より,ほかの植え込みの陰や壁際などの風当たりが弱い部分に数多く見受けられた。日本大学構内にはトチノキ付近に常緑植物が多く植栽されており,それほど移動しなくとも越冬場所を見つけられる状態にあった。トチノキ付近に常緑植物がない場合は,さらに遠くまで移動するものと思われる。
著者
中野 浩美 川井 信太郎 柏瀬 貢一 小川 篤子 石川 善英 徳永 勝士 赤座 達也 十字 猛夫 山根 明男
出版者
日本組織適合性学会
雑誌
日本組織適合性学会誌 (ISSN:21869995)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.205-212, 1997 (Released:2017-03-31)
参考文献数
19
被引用文献数
1 1

我々はHLAの多検体のルーチン検査に適したDNAタイピング法として, Polymerase Chain Reaction-based Microtiter Plate Hybridization(PCR-MPH)法を用い, HLA-DRB1やDQB1遺伝子のタイピング法をすでに確立した. 今回, 従来の血清学的方法ではダイビングが困難なHLA-A2, A26およびB61遺伝子のアリルタイピングをPCR-MPH法で検討した. それぞれのグループに特異的なプライマーを用いてPCRを行い, A2は日本人に報告されている5種類のアリル(A* 0201, * 0203, * 0206, * 0207, * 0210)を10プローブが固定されたマイクロタイタープレートを用いてタイピングした. 同様にA26は3種類(A* 2601, * 2602, * 2603)を5プローブで, B61は4種類(B* 4002, * 4003, * 4004, * 4006)を6プローブでタイピングした. 本法を用いてアリルタイピングを行った結果, PCR-SSO法などの結果と一致した. 本法はPCRが約3時間, MPHが約2時間の計5時間で終了する. さらに今回報告したHLA-A2, A26およびB61遺伝子タイピングのMPH操作は, HLA-DRB1やDQB1のタイピングと同じ条件なので, これら全てのタイピングを同時に行うことができる.
著者
山根 明子
出版者
岡山商科大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

本研究では、株式のキャッシュフローのタイミングを表す指標である株式デュレーションを用いることによって、日本の株式市場におけるバリュー・プレミアムの説明を試みた。分析の結果、バリュー株、グロース株の違いが株式デュレーションの長さの違いと対応していること、株式デュレーションに関するリスクファクターがHMLファクターと似た性質を持つこと、1996年以降の標本ではどちらのファクターも説明力を失うことが明らかにされた。
著者
山根 明大
出版者
日本イギリス哲学会
雑誌
イギリス哲学研究 (ISSN:03877450)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.53-67, 2017-03-20 (Released:2018-07-25)
参考文献数
57

A pamphlet titled The Discoverie of a Gaping Gulf, in which John Stubbs made the comprehensive argument over Elizabeth Iʼs marriage, was published in August 1579. In Gaping Gulf, showing a strong aversion to France, Stubbs insisted that (in terms of religion, history, international war and politico-legal custom) it is impossible for England to tie the knot with France and called for solidarity among Englishmen. In addition, he demanded ʻtrue Englishmanʼ should provide ʻfaythfull counsaileʼ about this issue. According to Stubbs, ʻcounselorsʼ must be ʻChristian commonwealthmenʼ, who dedicate themselves to church and ʻcommonwealthʼ (a community aimed at the common good). If we exploit A.D. Smithʼs argument here, Stubbsʼ ʻcountry loueʼ shows the ideological transition from ʻethnicityʼ to ʻcitizenshipʼ in Tudor England.
著者
北垣 徹 山根 明弘 中馬 充子 川上 具美 田中 友佳子 K.J Schaffner
出版者
西南学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

2017年5月に西南学院大学にて研究会議を開催し、研究代表者である北垣徹が司会を務め、先ず自身が、「労働する生-優生学の政治的無意識」と題する報告を行い、その後、研究分担者、連携研究者、及び、研究協力者が各自の研究計画を発表した。7月には西南学院大学生命倫理研究会分科会「生命倫理の学際的研究」を西南学院大学にて開催し、『日本が優生社会になるまで』(勁草書房, 2015)の著者である横山尊を招聘し、「拙著『日本社会が優生社会になるまで』が生命倫理の学際的研究に為しうることー相模原障害者殺傷事件から1年を踏まえて」と題する講演を行って頂き、研究分担者である中馬充子が討論者として、書評を含みつつ、この講演に対する批評を行った。その後、横山氏と参加者達との白熱した討議が展開された。当分科会には自立生活センター久留米代表の古川克介氏も招待し、障害者の観点からこの講演に対する感想を述べて頂いた。2018年3月には、西南学院大学大学院にて公開シンポジウム「優生保護法下で何が行われたのか」を開催した。立命館大学生存学研究センターの利光惠子氏、福岡合同法律事務所弁護士の久保井摂氏をシンポジストとして招聘し、前者は「戦後日本における障害者への強制的な不妊手術をめぐって」と題する報告を、後者は「優生保護裁判と国家賠償への展望」を題する報告を行った。また、前述の横山尊氏と分科会員である、日本薬科大学元教授、波多江忠彦氏にコメンテーターを務めて頂いた。加えて、前述の中馬充子もシンポジストとして登壇し、「優生思想を支えた戦後の保健科教育」と題する報告を行った。当シンポジウムにはマス・メディアの記者も招待し、熊本日日新聞の4月8日付けの記事でこのシンポの内容が紹介された。
著者
柴田 達也 山根 明 島田 明美 永田 純史 小松 浩一郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.6, pp.467-471, 2006 (Released:2006-08-01)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

歯学部学生の薬理学実習において,臨床における薬物治療の基礎となる薬物動態を理解するために,血中薬物濃度時間曲線から薬物動態パラメータを求めることは有用であると考えられる.動物実験から血中薬物濃度時間曲線を得ることもできるが,薬物動態シミュレーションプログラムを用いれば動物を使用せずに,そのような実習を行うことが可能である.鶴見大学歯学部の薬理学実習では,英国薬理学会が開発した薬理学実習ソフトウエアの1つである薬物動態シミュレーションプログラムを用いたシミュレーション実習を平成12年度からとりいれている.6~7名の学生から成る班にシミュレーションプログラムをインストールしたパーソナルコンピューターが1台ずつ配布される.4つの実習課題が用意され,班ごとにそれぞれの課題に沿って薬物投与の条件を設定し,血中薬物濃度の変化をシミュレーションする.得られたグラフから指示された値を読み取り,課題にある薬物動態パラメータを算出する.それらの結果を基にして課題にある質問に答える.本シミュレーションプログラムは,実験動物ではなくヒトの薬物動態をシミュレーションすることができるので,結果を外挿する必要がない.学生は限られた実習時間内に実習課題を終わらせることができた.実習の準備,片づけが簡素化され教員の負担は軽減された.実際に動物実験を行うことでしか得られないこともあり,実験動物を用いる実習をすべて代替法で置き換えることは難しいが,学生実習にシミュレーションプログラムを導入することは効率的に薬理学教育を行う1つの手段であると考えられる.
著者
山根 明敏
出版者
武庫川女子大学
雑誌
武庫川女子大学紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:09163115)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.35-42, 1996

The Beast in the Jungle, which was written by Henry James in 1903, has been an object of study for a long time. Not a few critics seem to agree on the point that this is a story of a man who is under an obsession of something rare and strange and cannot accept a woman's love. But it is important to bear in mind that John Marcher, the protagonist of this work, does not remember even having such an obsession. It is May Bartram who reminds him of his secret as a missing link for their association. The aim of this paper is to examine relationships between Marcher and May over the obsession. I will use the term "fiction" to refer to his obsession and consider their relation by regarding Marcher as a <narrator/writer> of the fiction and May as a <listener/reader> of it. Viewed in this light, we can regard this short story as a kind of interpretation game over the fiction.
著者
植田 悠司 岡田 力 山根 明典 和田 友孝 大月 一弘 岡田 博美
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. IN, 情報ネットワーク (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.458, pp.511-515, 2009-02-24
被引用文献数
1

火災・地震などの災害発生時に、大型建造物内より迅速に避難できないため数多くの犠牲者を出す事件がしばしば生じている。筆者らはこの問題を解決するため、GPS付き携帯端末間のアドホック通信により建造物内の人々の位置情報を自動的に交換し、災害発生時の人の動きにより建造物内の状況を把握・共有し、リアルタイムに適切な避難路を検索し表示するシステムの開発を目指している。本稿では、このようなシステムの実現を目指し、避難路の通行許容性を表す交通流量Qを用いたボトルネック検出手法を提案し、災害避難時の有効性をシミュレーションにより検証する。
著者
宮本 亮祐 岡田 力 山根 明典 森 和也 早川 洋平 山田 祐輝 和田 友孝 大月 一弘 岡田 博美
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. IN, 情報ネットワーク (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.109, no.449, pp.253-258, 2010-02-25
被引用文献数
1

火災・地震などの災害発生時に,大型建造物内より迅速に避難できないため数多くの犠牲者を出す事態がしばしば生じている.本研究は,情報通信技術を用いてこのような問題を解決あるいは軽減することを目的としている.すなわち,GPS付き携帯端末間のアドホック通信により建造物内の人々の位置情報を自動的に交換し,災害発生時の人の動きにより周囲の状況を把握・共有し,リアルタイムな災害発生検知および適切な避難路検索・表示を実現する非常時緊急通信(ERUC)システムの開発を目指す.本稿ではERUCの実現を目指し,災害時に周囲の人々と同じ行動を取ろうとする心理的な同調偏向によるパニック行動の伝搬性を考慮した、正確かつ迅速な災害発生位置推定法を提案する.災害発生検知の正確性や迅速性および災害避難時の有効性をシミュレーションにより検証する.
著者
大庭 喜八郎 呂 綿明 楊 政川 LIBBY Willia 津村 義彦 丹下 健 松本 陽介 戸丸 信弘 中村 徹 内田 煌二 荒木 眞之 山根 明臣 YANG Jeng-chuan LU Chin-ming GAVIN F.Mora 黄 啓強
出版者
筑波大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

1.目的現生のスギ科(Taxodiaceae)樹種には10属15種・1雑種(推定)が知られ、わが国の林業上重要な樹種の一つであるスギが含まれている。本研究はスギ科樹種を対象とし以下の3点を目的とした。(1)葉緑体等のDNA分析によりスギ科樹種の遺伝分化の分子的基礎を明らかにし、それらの系統分類を行う。(2)生態学、生態生理学さらに集団遺伝学の3分野からスギ科樹種の種特性を解明する。(3)この(1)と(2)の成果を基礎とし、スギをはじめとする各樹種の分類学的位置づけについて論じる。2.研究項目と研究方法(系統分類)(1)スギ科樹種の分子系統分類:PCR法を用いた葉緑体の特定遺伝子(rbcL,PsbA等)のRFLP分析(種特性に関する研究)(2)成育立地の生態学的研究:立地環境調査・植生調査、文献調査(3)生態生理学的研究:光合成特性・水分特性調査(4)集団遺伝学的研究:アイソザイム分析、DNA分析、文献調査(総合取りまとめ)(5)スギの系統分類学的位置づけとスギ科樹種の種特性の解明3.研究成果(1)系統分類スギ科樹種の系統分類と伴に針葉樹におけるスギ科の位置づけを明らかにするため、スギ科の10属15種・1雑種(推定)、ヒノキ科の6樹種、マツ科の18種、イチイ科の2種及びイヌガヤ科の1種について、DNA分析用試料として筑波大学や森林総合研究所等に植栽してある個体から若芽を採取した。これらの若芽から抽出した全DNAを用い、PCR法による6種類(frxC,psbA,psbD,rbcI,trnK)の遺伝子の増幅を行い、得られたPCR産物を用いて各遺伝子あたり約10種類の制限酵素によるRFLP分析を行った。得られた塩基置換のデータから、Wagner parsimony法とNJ法による分子系統樹を作製した。その結果、スギ科とヒノキ科は非常に近い科であり、Sciadopitys verticillata(コウヤマキ)はそのスギ科とヒノキ科から系統的に大きくことなることがわかった。(2)種特性(1)生育立地の生態学的研究:中華人民共和国に分布するTaiwania fousiana(ウンナンスギ)、Cunninghamia lanceollata(コヨウザン)、Metasequoia glyptostroboides(アケボノスギ)の各林分、さらにオーストラリアのタスマニアに分布するAthrotaxis cupressoides(タスマニアスギ)、A.laxifolia(ヒメタスマニアスギ)、A selaginoides(オオタスマニアスギ)、台湾に分布するCunninghamia konishii(ランダイスギ)及びTaiwania cryptomerioides(タイワンスギ)の各林分について、植生調査等の生態学的調査い、これらのスギ科樹種の構成林分の種組成が判明した。(2)集団遺伝学的研究:わが国に分布するCryptomeria japonica(スギ)の17集団から集団遺伝学的解析のための試料である針葉を採取し、アロザイム分析を行った。その結果、現在のこの種の分布が離散的でかつそれぞれの分布面積が小さいにも関わらず、種内の遺伝的変異量は木本植物の中では大きいが(H_t=0.196)、集団間の遺伝的分化は非常に小さいことがわかった。この遺伝的多様性の保有パターンの理由として、かつての分布は現在のものよりも広く、連続的なものであったこと、遺伝子流動がかなり起こっていること、寿命の長さが考えられた。一方S.verticillata(コウヤマキ)の6集団から集団遺伝学的解析のための試料である針葉を採取し、DNA分析のために全DNAを抽出した。制限酵素EcoRIで消化し、イネのrDNAをプローブとして用いてRFLP分析を行った。その結果、この種のrDNAの集団内の変異は大きく、さらにその変異は集団間で明らかに異なることがわかった。