著者
押切 久遠
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.1-15, 2017-03-01 (Released:2017-04-22)
参考文献数
28

近年,日本においては認知行動療法を基盤とした犯罪者処遇プログラムの導入が相次ぐなど,犯罪者の認知傾向をターゲットとする処遇に関心が集まっている。そこで,我が国における犯罪者の認知傾向を明らかにし,より有効な犯罪者処遇の実践の参考とするため,認知行動療法の一つである論理療法の中心概念「イラショナル・ビリーフ」に焦点を当てた調査研究の結果を紹介する。調査Iは,犯罪傾向の進んだ受刑者128人を対象に行い,その結果に基づき,調査IIにおいて使用するイラショナル・ビリーフのチェックリストを作成した。調査IIは,犯罪傾向の進んだ受刑者241人を対象に行い,①言語化されたイラショナル・ビリーフを収集し,②言語化されたイラショナル・ビリーフを分析・検討して,共通性の高い「抽象化されたイラショナル・ビリーフ」を抽出し,③調査対象者の属性とイラショナル・ビリーフとの関係を調べた。その結果,調査対象者は,自己責任を否定・回避・転嫁することによって,本人の内省を妨げ更生を阻害する可能性のあるイラショナル・ビリーフや,無力感や運命感を抱くことによって,自棄的になり再犯を促進する可能性のあるイラショナル・ビリーフを持つ傾向があることが示唆された。
著者
河合 直樹 窪田 由紀 河野 荘子
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.1-12, 2016-09-27 (Released:2017-03-22)
参考文献数
34

社会的養護にある児童の高校進学率が年々高まっているなか,高校中退率を見てみると,一般家庭よりも社会的養護出身者のほうが高く,とりわけ,児童自立支援施設退所者に至っては,全国的に調査されたデータはなく,その要因についてほとんど研究がなされていない。そこで本研究では,児童自立支援施設退所後,高校進学した者の社会適応過程について,複線径路・等至性モデルを用いて質的に分析した。調査協力者4名へのインタビューから作成したTEM図をもとに分析を行った結果,高校を卒業した者と中退した者とでは,(1)高校へ入学した初期の段階で,部活へ入るなどの新しい活動の場=自分の居場所を見いだせること,(2)授業でわからないことがあったときに友人や教師に助けを求められること,(3)担任教師に対する信頼感があることが,高校を継続していくために重要な要因であることがわかった。
著者
大塚 祐輔 横田 賀英子 小野 修一 和智 妙子 渡邉 和美
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.1-15, 2016

<p>本研究では,文書を用いた恐喝事件に関する基礎的な知見を提供することを目的として,事件の類型化を行い,各類型と犯人特徴の関係について検討した。分析データとして用いたのは,2004年から2012年の間に全国のいずれかにおいて発生して解決した文書を用いた恐喝事件に関する情報である(<i>N</i>=414)。多重対応分析を行った結果,「匿名性の程度」と「罪悪感利用の程度」の2次元が見出された。次に,多重対応分析によって得られたオブジェクトスコアを基に階層的クラスター分析を行った結果,「匿名性低―罪悪感利用低群」,「匿名性低―罪悪感利用高群」,「匿名性高群」の3類型が見出された。類型と犯人特徴の関連について分析したところ,「匿名性低―罪悪感利用低群」は20代以下の犯人が多く,友人・知人を犯行対象としていること,「匿名性低―罪悪感利用高群」は怨恨・憤まんを動機として,配偶者・恋人や情交関係にあった者を犯行対象にしていること,「匿名性高群」は50代または60代以上の犯人が多く,生活費・借金苦を動機として会社等に対する恐喝を行っていることが示された。</p>
著者
菅藤 健一 森丈 弓
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.11-19, 2015

<p>非行臨床における風景構成法を用いた査定上の知見を得ることを目的として,一般の高校生と比較した非行少年の風景構成法の特徴を抽出し,そうした特徴が非行少年のどのような心性と関連しているかについて分析を行った。描画に関する指標について因子分析を実施した結果,3因子が抽出され,それらは「流動性」,「奥行き」,「広がり」である。これら3因子によって風景構成法を分析していくことが可能である。非行少年と高校生の違いは,「流動性」と「奥行き」であることが判明した。これによって非行少年は高校生に比し,与えられた課題を解決するに際して先行きの見通しが乏しく,刺激との距離を確保して行動を吟味することができないため,いきおい直截的・即行的な振る舞いが多い傾向があると指摘される。因子分析によって抽出された3因子を用いて解釈の枠組みが構成されたことは,風景構成法を解釈する際に,注目すべき描画の特徴について着眼点が明確化されたことを意味している。また,風景構成法を継続的に試行する場合に,枠組みに沿って描画を見ていくことで,変化を客観的に捉えることも可能となる。これまで非行少年の風景構成法については,各アイテムの意味を臨床的な視点から考え,統合して解釈するという手法が一般的であったが,今回,因子分析によって得られた枠組みに則って解釈を行うことで,より安定した解釈への可能性が高まったといえる。</p>
著者
里見 聡
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.21-33, 2015

<p>本研究では,少年鑑別所におけるアセスメント面接のプロセスを間主観的に捉えることで,心理技官と非行少年との面接がいかに展開されるのかを明らかにすることを目的とした。質的研究法を用いた分析の結果,心理技官は少年との面接の中で様々な個人的体験が想起されたり,感情が喚起されたりしているが,そういった個人的な思い入れを自覚し,客観的にモニターしながら,アセスメントを実行していることが明らかになった。また,心理技官は少年を支援したいとの思いを持って面接に臨んでおり,少年は心理技官のそのような姿勢によって心理技官に対する肯定的な印象を持ち,面接の中で心情の安定を得ていることが明らかになった。少年鑑別所におけるアセスメントは,面接における心理技官と少年との間主観的相互作用が投影されており,心理技官と少年の双方の相互交流や,その結果生まれるプロセスの変化を考慮に入れずに,アセスメントは成立しえないと言える。</p>
著者
大江 由香
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.35-47, 2015

<p>本稿では,特に大きな変化のあった性犯罪者の処遇を例に挙げて,ポジティブ心理学的アプローチが評価されてきた理由と,同アプローチに対する批判的見解の双方の視点から検証し,同アプローチを導入することの利点と注意点について考察した。犯罪者に対する責任や問題点の直面化を重視するという処遇方法には,進め方を誤れば犯罪者の自尊感情の低下を招いたり,処遇に対する動機付けを高めにくかったりするといった短所が少なくないが,ポジティブ心理学の観点が追加されることによってそうした短所を補うことができると見られた。ただし,ポジティブ心理学に対する批判は軽視できないことから,ポジティブ心理学的アプローチはあくまで既存の処遇の浸透性を高めるために補足的に使用することが望ましいと考えられた。</p>
著者
緒方 康介
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.1-10, 2015

<p>Wechsler式知能検査を非行少年に実施した場合,動作性優位のプロフィールが観測されてきた。しかしPIQとVIQを排したWISC-IVへの改訂後も同様のプロフィールが得られるのかについては疑問が残る。そこで児童相談所でWISC-IVを受検した非行少年のデータを分析し,プロフィールの再現性を検証した。年齢と知能水準を統制した結果,WISC-IIIにより査定された非行少年,WISC-IVを受検した非行少年,WISC-IVを受けた非行のない児童の順に,動作性優位が観測され,WISC-IVでもこのプロフィールは再現されるものと結論された。</p>
著者
遊間 義一
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.15-27, 2011

<p>CantorとLand (1985) の理論(C-L理論)及びGreenberg (2001) と遊間 (2009) の数理モデル (G-Y model) に基づいて,日本の少年による殺人事件発生率 (HR) の原系列に対する完全失業率 (UR) の犯罪動機効果(URの一階の差分によって測定される)と犯罪機会効果(URの原系列によって測定される)について,1974年から2006年までの年次時系列データを用いて検証した。その結果,中間少年及び年長少年の両群において,URの原系列とHRの原系列は共和分関係(長期的均衡関係)にあることがわかった。また,誤差修正モデルにより,短期的な関係においても,URはHRを促進することがわかった。G-Yモデルにより,これらの結果を総合すると,中間少年においても年長少年においても,犯罪機会効果は,C-L理論とは異なり,正で有意な犯罪促進効果を有しており,犯罪動機効果は年長少年にだけしか認められなかった。これらの結果について,日本で少年の殺人事件が発生する状況と,米国との違い及び犯罪動機効果のタイム・ラグという観点から考察を行った。</p>