2 0 0 0 OA 記憶と場所

著者
浜 日出夫
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.465-480, 2010-03-31 (Released:2012-03-01)
参考文献数
31
被引用文献数
1

近代社会は,均質で空虚な空間のなかに位置する社会がやはり均質で空虚な時間のなかを前進していくものとして自らの姿を想像してきた.そして,近代社会の自己認識として成立した社会学もまた社会の像をそのようなものとして描きつづけてきた.本稿では,「水平に流れ去る時間」という近代的な時間の把握に対して,「垂直に積み重なる時間」というもう1つの時間のとらえかたを,E. フッサール・A. シュッツ・M. アルヴァックスらを手がかりとして考察する.フッサール・シュッツ・アルヴァックスによれば,過去は流れ去ってしまうのではなく,現在のうちに積み重なり保持されている.フッサールは,過去を現在のうちに保持する過去把持と想起という作用を見いだした.またシュッツは,この作用が他者経験においても働いていることを明らかにし,社会的世界においても過去が積み重なっていくことを示した.アルヴァックスによれば,過去は空間のうちに痕跡として刻まれ,この痕跡を通して集合的に保持される.この考察を通して,時間が場所と結びつき,また記憶が空間と結びつく,近代的な時間と空間の理解とは異なる,〈記憶と場所〉という時間と空間のありかたが見いだされる.
著者
稲葉 昭英
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.214-229, 2002-09-30
被引用文献数
4

社会的属性とディストレス (抑うつ) の関連, および婚姻上の地位とディストレスとの関連を全国確率標本データから検討した.分析の結果, 若年層, 女性, 無配偶者, 低所得者にディストレスが高い傾向が示され, さらに配偶者の有無は男性のディストレスと大きく関連していた.婚姻上の地位をさらに細分化した分析では, 男性は無配偶者一般に高いディストレスが示されるのに対して, 女性の未婚者のディストレスは総じて低かった.また, 離別経験者を対象にした分析の結果, 男性の再婚者のディストレスが低いのに対して, 女性の再婚者はきわめて高いディストレスを経験していた.全般的には結婚は男性に大きな心理的メリットをもたらしていたが, 女性においてこの傾向は小さかった.この差異は女性によるケアの提供という社会的な性別役割分業によって生じているものと解釈された.
著者
京谷 栄二
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.224-235, 2011-09-30 (Released:2013-11-19)
参考文献数
69
著者
吉田 民人
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.260-280, 2004-12-31
被引用文献数
1

17世紀の「大文字の科学革命」に発する正統的科学論は, 物理学をモデルにして「法則」以外の秩序原理を考えない.この「汎法則主義」に否定的または無関心な一部の人文社会科学も, 「秩序原理」なる発想の全否定を含めて, 明示的な代替提案をしていない.それに対して「大文字の第二次科学革命」とも「知の情報論的転回」とも名づけられた新科学論は, 自然の「秩序原理」が改変不能=違背不能=1種普遍的な物質層の「物理科学法則」にはじまり, 改変可能=違背不能=2種普遍的な生物層のゲノムほかの「シグナル記号で構成されたプログラム」をへて, 改変可能=違背可能=3種普遍的な人間層の規則ほかの「シンボル記号で構成されたプログラム」へ進化してきたと主張する.<BR>この新科学論の立場から人文社会科学の《構築主義》を共感的・批判的に検討すれば, 第1に, 《構築主義》の争点とされる本質と構築の非同位的な2項対立は, 物質層の「物理科学的生成」と生物層の「シグナル型構築」と人間層の「シンボル型構築」という秩序原理の3項的な同位対立として読み解かれる.第2に, 言語による構築を認知 (ときに加えて評価) 的なものに限定して指令的な構築を含まない《構築主義》を「認識論的構築主義」と批判し, 認知・評価・指令的な3モードの構築を統合する「存在論的構築主義」への拡張・展開を訴える.一言でいえば, 《構築主義》は人文社会科学における〈法則主義との訣別〉へと導く理論だという解釈である.
著者
山田 昌弘
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.649-662, 2013
被引用文献数
1

近代家族は, 近代社会において人々を, 経済的, 心理的に社会的に包摂する装置として形成された. 日本を例に取ってみると, 戦後から1980年代ごろまでは, ほとんどの人がこの近代家族を形成することが可能であった. しかし, 近代家族が頂点となった80年ごろ, 言説の中で, 近代家族規範の抑圧性に注目が集まり, 近代家族からの解放を目指す動きが起きた.<br>1980年ごろから先進国で始まる経済のグローバル化に象徴される経済構造の転換は近代家族の経済基盤を壊し, 個人化の加速が近代家族規範の有効性を低下させる. その結果, 近代家族を形成・維持できない人々が増大する. 欧米先進国の一部では, 家族の中に閉じ込められていた諸要素 (家計, ケア, 親密性, セクシュアリティなど) が分解して, 独自のメカニズムで動くようになる.<br>日本でも, 1990年代半ばから経済の構造転換や個人化の影響を受け, 未婚率, 離婚率の上昇が顕著である. その結果, 日本では, 近代家族を形成・維持できる人々と, それからこぼれ出る人々に分裂していると判断できる. しかし, 近代家族形成以外に, 経済的自立やケア, 社会的承認のモデルがないため, 近代家族への意識上の回帰現象がみられる.<br>この近代家族に属している人といない人への分裂傾向は, 家族社会学だけでなく, 他の社会学の実証分野にも大きな影響を及ぼすであろう.
著者
流王 貴義
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.408-423, 2012

『社会分業論』にてデュルケムは有機的連帯という社会統合の概念を提示している. この連帯概念の特徴は, 集合意識に基づく機械的連帯とは異なり, 社会的分化を許容している点に存する. しかし社会統合の概念である以上, 有機的連帯は個々人の自己利益にのみ基づく経済的な関係から区別されるべきであり, その基礎となる契約関係も当事者間の合意に還元はできない性質を持っている. 「契約における非契約的要素」とは, 経済学的な契約観に対するデュルケムの批判をパーソンズが定式化したものである.<br>しかし「契約における非契約的要素」とは具体的に何を指しているのか. 有機的連帯に固有の統合メカニズムの特定に重要となる論点であるにもかかわらず, デュルケム研究者の間でも見解が分かれている. 集合意識を指しているのか, 人格崇拝なのか, 社会の非合理的基礎なのか, それとも社会に由来する強制力を意味しているのか. 本稿は「契約における非契約要素」とは契約法である, との解釈を提示する.<br>契約法の役割は, 契約当事者間の権利義務を定め, 有機的連帯の安定を可能にする, という法の執行のみに留まらない. 契約関係における調和の維持という積極的な役割も契約法は担っている. 合意が契約として法的保護を受けるためには, 法により定められた条件を満たす必要があるが, デュルケムはこの条件を調和的な協働が維持されるための条件として理論的に読み替えるのである.