著者
鳥越 皓之
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.482-495, 2016 (Released:2018-03-31)
参考文献数
35

沖縄は地域を研究する社会学的研究にとって見過ごすことができない2つの特徴をもっている. 1つは, そこはながらく独立国であって, 日本併合に対する不信が存在する. それは政治的イデオロギーを超えて, 小さな村の住民にも, 「沖縄世」への憧れとして存在している. それが現在の米軍基地反対につながっている.もう1つは日本民俗学を中心にした南島研究の研究者たちが沖縄を日本の原郷として位置づけ, 膨大な資料を蓄積し, 数多くの注目すべき論文を発表しつづけてきた. それは日本民俗学の巨人, 柳田国男と折口信夫が沖縄研究に多くの労力を割いたことが大きい.このような事実をふまえて, 社会学が沖縄にどのような貢献をし, どのような限界をもたざるをえなかったのかを本稿では示した. 基本的には, 社会学を狭義に位置づけて, 歴史的・政治的課題および南島論に示された文化的課題をとりあげないようにしたこと. そのように自己の課題を狭めたことによって, かろうじて社会学を成立させてきた経緯がある.
著者
難波 孝志
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.383-399, 2016 (Released:2018-03-31)
参考文献数
28

本稿の目的は, 沖縄の郷友会について概念的な再整理を行うこと, そしてこれまで扱われることが少なかった軍用地との関わりをもつ郷友会について, 軍用返還跡地再利用の過程を通してその現実と今後の行方を考察することにある. 2015年4月, 沖縄県北中城村にオープンした全国資本の巨大ショッピングモールは, 沖縄の軍用跡地再開発の最新の事例である. この事業に大きな役割を果たしたのが, この地区の地権者の多くが加入する郷友会であった. このように軍用地などの共有財産の管理のための地縁的組織を, ここではアソシエーション型郷友会と呼ぶことにする. これまでの沖縄における郷友会研究は, 社会学における都市移住者コミュニティ研究そのものであった. これに対してここで扱う郷友会とは, 利益集団であって, アソシエーションである. そして, アソシエーションであるからこそ, 社会学の研究対象になりにくかったといってもよい. ただ, 沖縄社会では, この両者が同じ「郷友会」というフォークタームで混同して使われているのも事実である. 本稿では, 巨大ショッピングモールの再開発を事例に, その経過を分析することによって, 軍用跡地利用の合意形成と沖縄社会の行動原理の根本ともいえる郷友会のシマ結合について考察した. 結果として, (1)経済的機能を失ったアソシエーション型郷友会の存続可能性, (2)経済的機能以外の他の機能の消滅への危惧, (3)郷友会解体過程におけるシマ結合のゆるぎない存続, などのポイントを摘出した.
著者
宮城 能彦
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.368-382, 2016 (Released:2018-03-31)
参考文献数
46

社会学者による沖縄研究の幕開けは, 九学会連合社会学班によって日本復帰前後の1971~73年に行われた調査である. それらは沖縄村落社会の特質の理解と日本における沖縄村落の位置付けについての暗中模索であった. その時に持ち込まれたのが「家」を単位として村落構造をとらえる研究手法と理論仮説であったが, それは沖縄の村落では通用せず, 門中研究についても多くの課題が残った. しかしその時に, 寄生地主制が発達せず, 比較的平等で相互扶助的・自治的機能が高いという沖縄村落共同体像の基礎が形作られたといえよう.その後, 門中研究が深化する一方で, 社会学者たちの興味は, 基地や経済的自立問題へとシフトしていく. 他方で沖縄在住の社会学者は, ウェーキ・シカマ関係 (隷属的生産関係) や共同店, 沖縄村落の停滞性に重点をおいた研究を行ってきた.2000年代以降は, 日本やアジアとの比較の中で沖縄村落社会の特質を明らかにすることよりも環境や地域自治などをテーマとした研究の事例としての沖縄村落がとりあげられることが多くなっていく. その一方で, 隣接する歴史学や経済史, 法社会学等では, 近世沖縄村落における共同関係の脆弱さが強調されるようになってきた.近世村落における強固な共同体を前提に展開し, ある種のユートピア的共同体像を描いてきた社会学における沖縄村落共同体研究も現在その見直しが迫られている.
著者
安藤 由美 藤井 和佐
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.365-367, 2016 (Released:2018-03-31)
参考文献数
1
著者
直井 道子
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.191-203,266, 1986-09-30 (Released:2009-11-11)
参考文献数
8
被引用文献数
2

フロムやアドルノによる権威主義的性格の研究は、戦後日本にとって重要な問題提起であった。とくに、家族の権威構造と権威主義的性格の関連性というテーマは、川島武宜の問題提起以来注目を集めたが、実証研究はほとんど発展してこなかった。本稿は、このテーマに関連して、夫の親と同居する主婦 (直系家族における、いわゆる嫁) が、別居している主婦より、より権威主義的か否か、をデータ分析によって追究したものである。夫の親と同居する主婦は、別居している主婦より平均的に有意に権威主義的であることがデータから立証された。さらに、その差は、同居の主婦と別居の主婦の年齢の差によるものではないことも確認された。最後に、一五歳時の居住地、夫の学歴、夫の職業、妻の学歴、ライフ・サイクル等の説明変数をコントロールしても、なお、夫の親との同居は主婦をより権威主義的たらしめる方向に対して直接効果をもつことが、パス解析によって立証された。夫の親との同居は、主婦の権威主義的性格の維持あるいは再生産に対して一定の機能を果していると結論できる。
著者
山本 泰
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.262-281,363*, 1993-12-30
被引用文献数
1

一九九二年四月のロサンゼルス事件は、現代アメリカのマイノリティ問題の深刻さを改めて浮き彫りにした.この事件が黒人青年を暴行した警察官に対する無罪判決に端を発している以上、これは差別に対するマイノリティの大衆的抗議である.しかし、その背景についていえば、この事件は、 (1) 現代のマイノリティ問題の焦点は人種 (黒人) 問題ではなく、大規模な《都市アンダークラス》の問題であること、 (2) 都市貧困層=黒人ではもはやなく、そこには、きわめて多様な人種・民族が含まれること、 (3) 都市最下層の貧困は、六〇年代の公民権運動以来、少しも改善されていないこと、を劇的な形で示したのである.このような複合的な抑圧・葛藤関係はどのような構造のなかで、いかにして生み出されるのか、本論では、人種や民族に中立であるはずの自由主義的多元主義体制のもとにある現代のアメリカに、何故、人種や民族間の葛藤・反目がかくも顕在的にあらわれるのかを考察する.人種や民族の線に沿った集団形成やエスニシティの主張は下層の人々が上位者の資源独占に対抗する社会戦略であるが、この戦略は逆に、ルール指向・個人主義・手段主義といった基準になじまないが故に、中産階級が下層に対しておこなう差別に識別標識と正当化根拠を与えてしまうことになる.階層間葛藤は、自由主義的多元主義体制を仲立ちに人種間葛藤へと転態されるのである.
著者
遠藤 英樹
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.133-146, 2001-06-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
34
被引用文献数
3

現代社会において, 観光はますます重要な事象となっている.とくに, それはイメージを媒介することではじめて成立するという点で, 近代のありようと共鳴しあっていると考えられる.観光パンフレット, テレビ, 雑誌, 映画といったようなメディアを通じ, 観光地に対するイメージはたえず再生産されつづけており, こうしたメディアによるイメージの再生産に関する分析は, 観光という事象を語るうえで不可欠のものとなっている.本稿は奈良を事例とする意義について述べるとともに, 観光地・奈良のイメージを再生産するうえでメディアが重要な役割を果たしていることを指摘する.こうしたことについては, かつてD.J.ブーアスティンが指摘した問題圏にかさなるものであるが, ここではブーアスティンの指摘よりもさらに議論をすすめ, イメージの消費者たるべきツーリストたちが奈良という観光地をいかに読み解いているのかまでも考察する.それにより最後には, ツーリストたちが 「ブリコラージュ」の方法を用いつつ, 観光という「イメージの織物 (text-ile) 」を主体的に読み解いている姿を浮き彫りにする.
著者
稲津 秀樹
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.19-36, 2010

本稿では,非集住地域に居住する日系ペルー人の生活世界への参与観察に基づいた,彼・彼女らの「監視の経験」を取り上げ,そこに存在する権力の構成を示す視座を提供することを目的とするものである.これまで監視に関する彼らの言明は,精神医学的な知見から「妄想」とみなされてきた故に,移民と監視を巡る研究は国境管理政策の分析に終始していた.そこでは都市における監視社会化の流れも含めた,移民にとっての監視社会の展開を日常的な視点から捉えかえす視点に欠けていたと言える.従って本稿では,監視の経験=関係妄想とする主張をまず批判した上で,調査に基づく彼らの経験を,ガッサン・ハージが説く「空間の管理者」概念を援用しながら分析する方法を採った.空間の管理者とは,移民を空間的に管理する意識をもち,かつそうした態度を取る権利を有する者のことを指している.日系ペルー人への個々の聞き取りから浮かび上がるのは,過去/近い将来における空間の管理者との出会いを想起/予期する経験,更には,空間の管理者として振る舞う日本人との関係を築く過程で自らも管理者として他者と接する経験であった.そして,ある語りの中で,それらの経験が重層的にあらわれている点に着目し,日系ペルー人にとっての権力作動の要諦を,彼らの意識における空間の管理者が,時間/民族間を2つの意味で〈転移〉している点にあることを指摘した.