- 著者
-
太郎丸 博
- 出版者
- The Japan Sociological Society
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.52, no.4, pp.504-521, 2002-03-31 (Released:2010-04-23)
- 参考文献数
- 54
- 被引用文献数
-
2
本稿の目的は, John H. Goldthorpeの問題構成と研究スタイルの検討を通して, 社会階層論とミクロ・マクロ・リンクの関係を明らかにすることである.ミクロ・マクロ・リンクの意味と枠組みを確認した上で, Goldthorpeの問題構成と研究スタイルを検討する.その結果, 以下のような知見がえられる.冷戦下では, マルクス主義と産業主義という2つの歴史主義的な理論を量的なデータ分析から “反証” することがGoldthorpeにとって最も重要な課題であり, そのためにはマクロ社会学がもっとも有効なスタイルであった.そのことが社会移動のミクロなプロセスの軽視につながった.しかし, 冷戦が終結し, マルクス主義も産業主義もその力を失ってしまったため, Goldthorpeにはデータを説明する物語がなくなってしまった.そこで, マルクス主義と産業主義にかわって物語を構築する理論として, 合理的選択理論をGoldthorpeは用いる.彼にとっては, 合理的選択理論はマクロな社会移動のトレンドを説明するためのミクロなプロセスの理論としてもっとも有望なものである.なぜなら, 合理的選択理論は抽象的で匿名的な個人像を仮定するがゆえに, マクロな現象に対して強い説明力を持つことができるのであり, 今のところ合理的選択理論以上にミクロ・マクロ・リンクに成功した理論はないからである.