著者
上野 聡 本同 宏成 山田 悟史
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.11, pp.767-770, 2016-11-15 (Released:2017-08-03)
参考文献数
8
被引用文献数
2

話題―身近な現象の物理―チョコレートのおいしい物理学
著者
早川 美徳
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.753-757, 2009-10-05
参考文献数
16

金平糖の角はどのように生え,その大きさや格好はどのようなメカニズムで決まっているのか.それに明快に解答するのは,案外と難しいことのようである.最近筆者らが行った金平糖の成長実験で得られた結果を紹介し,薄膜流を伴った結晶成長という観点から,つららや鍾乳石の表面にできる凹凸との関連性について考える.
著者
横田 一広 井元 信之
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.606-613, 2010
参考文献数
14
被引用文献数
1

量子力学では,時間発展の途中で物理量を問うことが困難である.ハーディー(L.Hardy)のパラドックスはこれを顕著に示した例だが,パラドックスに陥るのは,実際に測定できないものを議論しているからだと考えられてきた.測定自身によって時間発展が乱される為,そもそも検証ができないのだ.ところが,近年アハラノフたちによって弱い量子測定が提唱されて以来,時間発展を乱さずに測定はできないという反論が必ずしも正しくはなくなった.我々は弱い量子測定を用いて実際にハーディーのパラドックスを観測した結果,測定器がパラドックスを反映した値を示すのを確認した.この解説では,弱い量子測定と我々の実験結果について説明する.
著者
須藤 靖
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.87-94, 2015-02

物理学会誌の記事のほとんどは難しい.私の知る限り少なくとも30年以上前から編集委員会の方々が編集後記で繰り返し,わかりやすい記事をと訴えかけ,かつそれに向けた不断の努力をされてきたにもかかわらず.多分にこれは,非専門家のためにではなく,身近な専門家の顔を浮かべながら執筆してしまう著者のせいである.これが良いことか悪いことかは自明ではないが,著者が「釈迦に説法」を避けるべく書いた解説が,大多数はその分野の非専門家である平均的物理学会員にとって「馬の耳に念仏」になってしまい,ほとんど読まれなくなっているとするならば,あまりにももったいない.一般相対論の研究者ではない私が本特集の序論的解説を依頼されたのは,まさにそのためであろう.というわけで,今回は学生時代に一般相対論の講義は受けたもののほとんど覚えていない,という平均的物理学会員を念頭においた平易な,といっても一般向け啓蒙書とは異なる解説を試みたい.したがって,もしも「釈迦に説法」あるいは「厳密には正しくない」と感じられた方がいたならば今回の試みは大成功だと言える.該当しそうな方はただちに本解説をスキップして以降の記事に進まれることを強くお薦めする.
著者
上野 豊 浅井 潔 高橋 勝利 佐藤 主税
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.568-574, 2002

単粒子解析は, 単離されたタンパク質などの生体高分子を電子顕微鏡で直接観察し, 3次元像再構成によって立体構造の解析を行う手法である. 膜タンパク質などの結晶化が困難なタンパク質の構造解析だけでなく, 構造変化や分子集合体の構造研究に活用されている. ここでは, 計算機による画像処理を駆使した手法について解説し, 最近の構造解析の紹介と, 解析における課題について議論する.
著者
諏訪 秀麿 藤堂 眞治
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.370-374, 2011-05-05
参考文献数
26

マルコフ連鎖モンテカルロ法は積分計算の汎用的数値手法であり,様々な分野で必要不可欠な解析手段となっている.1953年の発明以来,この手法は詳細つりない条件の枠の中で発展を続けてきた.しかし詳細つりあいは必要条件ではない.最近の研究により,この条件を破ることで,推定値の収束が大幅に改善されることが明らかになってきた.本稿では,モンテカルロ法の原理について解説した後,我々の新しいアルゴリズムを紹介する.
著者
大関 真之 西森 秀稔
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.252-258, 2011-04-05
参考文献数
11

量子アニーリングというのは,量子揺らぎを巧みに利用して最適化問題を解くアルゴリズムである.量子力学を用いて最適化問題の解を与えるような情報処理を行うという意味では,量子計算のひとつの技法ともいえる.実験技術の進歩もあって,このような量子力学的な自由度を制御する研究が理論・実験両面で盛んになっている.量子アニーリングは,量子計算の中でも汎用性という意味において際だった特徴を持つ.量子アニーリングの今とこれからについて紹介していこう.
著者
青木 秀夫
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.80-84, 2009-02-05
参考文献数
16

南部理論と物性物理学との深いかかわりを,南部理論とBCS理論とのかかわり,南部・ゴールドストーン定理,南部理論と超伝導とアンダーソン・ヒッグス機構,などの観点から解説する.
著者
金澤 輝代士
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.360-364, 2021-06-05 (Released:2021-06-05)
参考文献数
11

物理学にはブラウン運動を代表とする確率現象が多く存在し,それらは確率過程として記述されることが多い.そして,確率過程の枠組みとして最も確立しているクラスはマルコフ過程である.マルコフ過程とは,現時点の情報だけを元に時間発展が完全に決まる確率過程クラスであり,数学的に洗練された様々な枠組みが既に出来上がっている.実際,マルコフ確率過程(マルコフ確率微分方程式)の設定が具体的に与えられた場合,対応するマスター方程式(またはフォッカープランク方程式)を導出することによって,固有値問題に帰着させることができ,系の性質を体系的に理解することが可能である.一方で現実の物理現象の多くはマルコフ過程ではなく,非マルコフ過程であることも知られている.即ち,過去全ての時系列情報があって初めて,時間発展を記述することができる.例えば,歴史的に最初に発見されたブラウン運動を思い出してみよう.ブラウン運動は水中の微粒子を題材としたものであり,流体力学相互作用に由来して強い非マルコフ性を示すことが実際に知られている.このような非マルコフ過程に,一般の非線形系を含めて適用可能な処方箋は現在確立していない.そこで最近筆者とD. Sornette(ETH Zurich, SUSTech)の研究グループは,このような非マルコフ過程を体型的に取り扱う解析手法を研究している.特に我々はホークス過程とよばれる複雑系物理学の非マルコフ確率過程のモデルに着目し,ホークス過程に適用可能な場の理論的な解析手法を構築した.ホークス過程とはバーストを伴う臨界現象を説明する時系列モデルであり,地震・社会現象・疫病・神経系といった幅広い分野で活用されているモデルである.本解析手法を用いて我々は臨界点近傍におけるホークス過程の定常分布の漸近系を調べ,非普遍的な指数をもつべき分布が,一般のホークス過程で現れることを発見した.本手法の鍵となるアイディアは非マルコフ・ホークス過程を高次元のマルコフ過程に埋め込むことである(マルコフ埋め込み法).この方法を用いることで,非マルコフ過程であっても,マスター方程式のような従来のマルコフ過程の枠組みが適用可能になる.我々の論文では一般のホークス過程に対してこのマルコフ埋め込みの手法を適用し,無限次元空間のマルコフ場の確率過程にマップする理論解析手法を開発した.結果,場の理論型のマスター方程式を用いた漸近解析手法が有効であることがわかった.この手法の適用範囲はオリジナルのホークス過程だけに留まらず,より広いクラスの非マルコフ過程(例えば,非線形ホークス過程や,より一般の非マルコフ点過程など)の解析に応用できることが徐々にわかってきた.更に本手法は形式的に非エルミート場の量子論と形式的な対応関係が存在することがわかった(例えば,一般化ランジュバン方程式は調和振動子場の非エルミート量子論と対応関係がある).今後は非エルミート場の量子論と非マルコフ古典確率過程の一般的な数学的関係を調べることで,幅広い非マルコフ系に対して適用可能な新しい理論的枠組みを構築することができる可能性があるのではないか,と筆者は考えている.
著者
呉 健雄 永宮 正治
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.660-666, 1997-09-05 (Released:2019-07-30)
参考文献数
13

C.S. Wu氏が今年2月中旬に亡くなられた. 原子核物理学者として偉大な業績を残されただけでなく, 女性科学者として, また近隣の中国人科学者として, 戦後の日本の研究者に与えた影響は大きい. Wu氏がいかにパリティ非保存の発見をなしえたのか, 御自身が仁科記念講演会において語られた記録を再録し, 追悼にかえたい.
著者
杉浦 祥 清水 明
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.368-373, 2015-05-05 (Released:2019-08-21)

マクスウェルやボルツマンにより創始された統計力学は,ギブズにより「アンサンブル形式」の統計力学として完成し,物理学の礎の一つとなった.しかし,その基本原理については,未解明な部分も残され,教科書の記述も様々である.アンサンブル形式では,等重率の原理に基づき,「(統計)アンサンブル」と呼ばれる確率集団を導入する.そして磁化や相関関数といった力学のみで定義できる物理量(力学変数)の平衡値は,この確率集団での平均値(アンサンブル平均)として求めることができる.しかし,熱力学で登場する,温度やエントロピーといった量(純熱力学変数)は,力学変数として表すことができない.そこで,純熱力学変数は,von Neumannエントロピー(古典系の場合Shannon entropy)や分配関数から求める.しかし,統計力学の基本原理である等重率の原理の本質は,アンサンブル平均ではなく,「ほとんどのミクロ状態がマクロには同じだ」ということである.即ち,温度や体積といったパラメーターを指定した時にあり得るミクロ状態の個数は組み合わせ論的に増大し,すぐに天文学的な数になる.このミクロ状態達のうち,圧倒的多数が平衡状態とみなせる状態であり,マクロ物理量を測った時に同じ測定値を返す.それとは異なる測定値を取るような非平衡状態はずっと少ない.その結果,平衡状態も非平衡状態もひっくるめたアンサンブルを作ってアンサンブル平均を求めれば,その値はほぼ100%を占める平衡状態での値になる.この「典型性」こそが,等重率の本質なのである.それならば,天文学的な数のミクロ状態についてアンサンブル平均を計算する必要は必ずしもない.我々は最近,マクロな量子系における典型性に着目し,熱力学的平衡状態を代表する,熱的な量子純粋状態(Thermal Pure Quantum state,略してTPQ state)をたった一つ用意するだけで統計力学の全ての結果が得られることを示した.つまり,磁化や相関関数といった力学変数がTPQ stateの期待値により計算されるだけでなく,熱力学関数のような純熱力学変数すらも適切なTPQ stateの規格化定数から得られる.TPQ stateは,アンサンブルの持つエネルギーの確率分布と非常に近いエネルギー分布を持つ量子純粋状態の中から,一つをランダムに選び出した状態であり,物理量のゆらぎまでも再現する状態となっている.アンサンブル形式では,熱ゆらぎの効果はアンサンブルを導入した結果生じる古典混合によって取り込まれると見なすことができた.しかし,TPQ stateを用いた定式化では,量子純粋状態の内部に量子エンタングルメントを作ることで,熱ゆらぎも量子ゆらぎの一部として取り込んでいる.その結果,たった一つのTPQ stateが統計力学で興味ある全ての物理量を正確に与えるのである.たった一つの量子純粋状態で熱力学的平衡状態が記述できるという事実は,理論的な興味のみならず,応用上もメリットをもたらしている.その例として,本記事では代表的なフラストレーション系である,カゴメ格子系上のハイゼンベルグ模型の数値計算結果を示す.
著者
向山 信治
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.85-95, 2012-02-05 (Released:2019-10-19)
参考文献数
19

銀河や銀河団などの宇宙の豊かな構造は,微小な原始揺らぎを種としてできたと考えられている.そのため,初期宇宙の量子揺らぎの生成メカニズムは,宇宙論において最も重要な研究対象の一つとなっている.特に,宇宙揺らぎの非ガウス性は,近い将来観測される可能性があり,様々な研究が最近急速に進んでいる.本稿では,インフレーション起源の量子揺らぎを記述する有効理論と,それを用いて相関関数を評価する方法を中心として,初期宇宙における揺らぎの非ガウス性を解説する.
著者
田崎 晴明
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.797-804, 2008-10-05 (Released:2017-08-04)
参考文献数
17

マクロな系の平衡状態に関する普遍的な体系である熱力学と統計力学を非平衡定常系にまで拡張するという(まったく未解決の)課題について,問題意識と現状を解説する.特に,過剰熱の概念,「ゆらぎの定理」,確率分布の表現,そして,拡張クラウジウス関係式といった,非平衡定常系の物理学の鍵になりうる結果について,基本的なアイディアと意義を述べる.この解説では,非平衡物理の「業界用語」を持ちださず,古典力学と平衡統計力学の初歩的な知識だけを使って,ミクロな時間反転対称性がいかにマクロな非平衡物理と関わりうるかを描き出したい.