著者
安田 憲司 塚﨑 敦 十倉 好紀
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.9, pp.640-647, 2018-09-05 (Released:2019-04-27)
参考文献数
43

磁性体や強誘電体,超伝導体といった対称性の破れを伴う秩序相に加え,物質中のバンド構造のトポロジーで分類されるトポロジカル相が物性物理学分野において近年注目を集めている.固体中のバンド構造が非自明なトポロジカル数を有する場合,その固体表面や界面にはバルクの状態と異なる特徴的なバンド分散を生じる.このような表面状態を観測する手法には,角度分解光電子分光や走査トンネル顕微分光法が主として用いられ,トポロジカル絶縁体,トポロジカル超伝導体,ディラック半金属,ワイル半金属などの新たな物質相の実験的検証が進められている.それに加えて近年では,カイラルアノマリーやワイル軌道など,特異なバンド構造に由来した新奇な輸送現象を観測して,外場などで制御しようとする取り組みが盛んになっている.トポロジカル秩序に由来する輸送現象として最も研究されてきたのが量子ホール効果である.量子ホール効果は,2次元電子系に外部磁場を印加することで試料端に1次元のカイラルエッジ伝導を生じて,ホール抵抗の量子化が観測される現象である.この外部磁場を磁化に置き換えた量子異常ホール効果は,以前から理論的な提案がなされていたが,磁性元素Crを添加したトポロジカル絶縁体薄膜(Bi1-x Sbx)2Te3において最近初めて実現された.量子異常ホール効果は,強磁場を要する量子ホール効果と異なり,零磁場でカイラルエッジ伝導を実現可能である上,磁気秩序変数によってトポロジカル数を制御できるという特徴を持っている.磁場や磁化の方向から一義的に決まる方向にしか運動できないカイラルエッジ伝導は,不純物や欠陥といった乱れによる電子散乱が禁制となるため,非散逸な1次元伝導を実現できる.そのため,カイラルエッジ伝導の次世代低消費電力素子への利用が期待されるが,試料端以外の場所に形成することが困難なため,制御性に乏しいという問題があった.この問題に対し量子異常ホール効果では,試料端のみならず磁壁においてもカイラルエッジ伝導を生じることから,磁区の制御によって伝導の方向のみならずその位置までも自在に制御可能になると期待される.我々は磁気力顕微鏡によって局所的に磁区を書き込む手法を確立し,デバイス試料内に一本だけ磁壁を有する状態を作り出した.この試料に対し,輸送特性のその場測定を行ったところ,単一磁区の状態と異なる特徴的な量子化抵抗値が観測され,磁壁でのカイラルエッジ伝導の発現が明らかになった.さらに,単一デバイス内に様々な磁区構造を形成して抵抗測定を行ったところ,いずれの磁区構造においても理論値との良い一致を示し,カイラルエッジ伝導からなる非散逸伝導回路を磁区の制御によって自在に設計できることが実証された.
著者
安池 智一 染田 清彦
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.453-456, 2005-06-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
17

近年開発された高出力レーザーが作り出す電場の強度は, 電子が原子分子内で原子核から受けるクーロン場に匹敵する.そのような強光子場で, 電子雲は大きく歪み, 分子は新しい性質を持つようになる.本稿では, 強光子場中での共有結合性ヘリウム分子の形成について報告する.
著者
香取 秀俊
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.84-85, 2017-02-05 (Released:2018-02-05)
参考文献数
8

現代物理のキーワード
著者
澤 博
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.14-23, 2019-01-05 (Released:2019-07-10)
参考文献数
24

電気を流す有機物を合成する.これが「有機物は絶縁体である」という通常の常識を破る化学者の挑戦の一つであった.有機物は基本的に原子間の結合に持てる電子を使ってしまって,導電性という自由度を失っている.ところが,分子を形成する分子軌道の中で,フロンティア軌道の電子(いわゆる価電子)に自由度が残されるとき,金属的電気伝導だけでなく超伝導などのエキゾチックな物性を示すことがある.物質を構成する分子や原子の価電子の自由度に拮抗した相互作用が存在するとき,多体問題として扱われる多彩な電子相が現れる.現在では,多くの有機物,分子性結晶が合成され,超伝導や磁性など様々な物性を示す物質群が合成可能となった.これらの構成分子のなかの電子状態を記述するための量子化学計算は進化し重要な位置を占めているものの,結晶や凝集体の物性を計算によって全て予測することはいまだ困難である.様々な物性を総合的に理解するためにも,その舞台である結晶中の電子密度,とりわけ価電子密度の実験的な観測が必要である.主に電子による散乱であるX線回折実験を用いて結晶からの回折強度と位相の両方が決定できれば,原理的には逆フーリエ変換によって電荷密度分布を得ることができるはずである.しかし,現実の回折実験では有限な回折データしか得られないという原理的な限界が存在する.更に,物性に直接寄与する価電子帯だけの電荷の実空間情報を抽出することは殆どできない.我々はこの限界に挑戦するため,大型放射光施設SPring-8で得られる高輝度・高分解能なX線と良質な単結晶試料を用いて,結晶中の価電子密度分布を分離観測できることを示した.原子の持つ内殻の電子分布を差し引いた価電子情報だけを抽出するこの手法を,コア差フーリエ合成解析(CDFS; Core Differential Fourier Synthesis)法と名付けた.新手法の有効性の検証のために,多角的に物性が調べられた標準的な物質として,擬1次元性分子性導体(TMTTF)2PF6を選びこの手法の精度を精査した.同形の結晶構造を持つ一連の物質群には,低次元電子系に特有な,電荷密度波,スピン密度波に加えて,分子性伝導体として圧力下で初めて超伝導が観測されるなどの多彩な電子相が発現することから,1980年代から精力的に研究されてきた.分子性導体における電子相関によるMott絶縁相の存在,誘電率測定による電荷秩序相への転移など,この系の多彩な電子相がクローズアップされた.精力的な研究にもかかわらず,電荷秩序相の電荷の偏在の直接証拠を捉えられず“structure-less transition”と呼ばれて,実に40年間ミステリーであった.我々は,CDFS法によりTMTTF分子のフロンティア軌道の電子雲を捉えて電荷秩序の詳細を解明した.内殻電子と価電子を切り分けることで価電子状態を評価でき,TMTTF分子内の実空間電荷密度分布を得ることに成功し,多くの物理学者の予測が正しかったという長年の謎に決着を得た.CDFS法はまだ始まったばかりの新しい手法であるが,分子性結晶という複雑な系で成功を収めたことで,回折実験から電荷密度分布を得るための新たな選択肢を提供すると考えている.この手法には特殊な技術は必要なく,良質な単結晶と高品質の放射光X線回折データを得られる施設の利用で,誰にでも測定・解析が可能である.分子性結晶だけでなく遷移金属酸化物など多彩な物質群にも適用可能であり,軌道の物理の観点からこの手法の活用と様々な展開を期待している.
著者
吉田 紅
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.691-699, 2019-10-05 (Released:2020-03-10)
参考文献数
18
被引用文献数
1

ブラックホールがこれほどまでに人々を魅了するのは,「一度入ってしまうと,二度と出てくることはできない」という神秘性からであろう.しかし,この不可逆性は物理学的な立場から見ると,非常に奇妙な代物である.我々がこれまで観測してきた全ての現象は量子力学を用いて説明することができるが,量子力学は可逆の理論である.現在の状態を知ることで過去の状態を完璧に遡ることが原理的には可能なのである.この量子力学と重力理論,特にブラックホールの物理との不整合は,ブラックホール情報損失問題と呼ばれている.長らくこの問いに対する我々の答えは,系を記述する運動方程式があまりに複雑すぎて過去まで遡ることができないだけだというものだった.たとえ最初は局所的だった量子情報も,ブラックホールに落ちていく過程で複雑な相互作用を経て,ブラックホールの外にいる観測者の立場からは,まるで非局所的なものに変換されたように見える.それは到底観測できないような物で,損失したも同然だ.この現象はスクランブリング(量子情報の非局所化)と呼ばれており,まさに量子版のバタフライ効果である.このような背景から,ブラックホールの量子カオス的な時間発展は,量子情報の非局所化が最も強く純粋な形で見られる系ではないかと思われてきた.しかし約十年ほど前に,ブラックホール情報損失と量子カオスに関する衝撃的な結果が2人の量子情報理論研究者ヘイデン(Hayden)とプレスキル(Preskill)によって発表された.彼らは通常考えられてきた物とは異なる,「古いブラックホール」と呼ばれるエントロピーの半分以上をすでにホーキング輻射で失ったブラックホールを考察した.そして,運動方程式をランダムなユニタリー発展と仮定する簡単なおもちゃの物理モデルを使うことで,ブラックホールに落ちてしまった情報を非常に短い時間スケールで取り出すことが「原理的には可能」であることを発見したのである.ブラックホールがまるで鏡のように情報を即座に跳ね返すというこのヘイデンとプレスキルの結論は,スクランブリング現象及び情報損失問題の研究に革命的な発展をもたらしつつある.これまでとは全く異なる新しい物理量が量子カオスの秩序パラメータとして考案され,新たな重力ホログラフィーの模型が提案された.その影響は重力,量子情報,そして物性物理にまで及び,最近ではこれらの概念は実験家の興味の対象にさえなっている.しかし,これらの結果が真に驚くべきものである点は,「情報の取り出し可能性」がまさに「ブラックホールの量子カオス性」からの帰結であることである.もし,ブラックホールが量子情報を非局所化しない非カオス系であったならば,ヘイデンとプレスキルの言ったような情報の取り出しは不可能なのだ.量子情報理論的概念の応用から得られたこれらの一連の結果は,情報喪失問題に対する新しいアプローチを生み出すこととなった.「ブラックホールからは二度と出てくることはできない」というのは迷信だったのであろうか? ブラックホールの事象の地平線は本当に絶対的な存在なのだろうか? これらの問いを,量子情報の非局所化という視点から今一度見つめ直してみよう.
著者
江沢 洋
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.1009-1013, 1994-12-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
35

小谷先生は,朝永振一郎先生とともに"磁電管の発振機構と立体回路の理論的研究(共同研究)"に対して1948年度の学士院賞を受けておられる.その御業績が6月号の<小谷先生の物理学への貢献をふりかえって>特集にとりあげられていないとの御注意が牧二郎さん等から寄せられた.大野公男さんのおすすめにより拙い試みを敢てする.
著者
粟田 英資 久保 晴信 守田 佳史 小竹 悟 白石 潤一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.170-180, 1998-03-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
61

楕円代数という名の国があります. 最近までは, この国のことを詳しく記した地図はありませんでした. この国には楕円関数に付随した代数の秘密が伝わっていると謂われています. それはBaxter達の模型を開ける大事な鍵になると信じられています. Baxter達の模型の臨界点での振舞を読み解く鍵となったのは共形場理論でした. 臨界点から離れたところを探るために, 次の鍵を見つけよつとして, 多くの人々が何年にも亘って知恵を出し合いました. 紆余曲折の末, それでも懸命に進み, 目的地へのある扉を叩くことになった人達がいました.
著者
梅垣 壽春 大矢 雅則 日合 文雄
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.241-252, 1980-03-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
23

数学という基盤に立って物事を体系付けようとする場合, まず定義を与えることから始められる. 定義は論理的な約束, 或いは規約に基づいた条件の組合せによって設定される. エントロピーという物理学上の概念が三つの条件からなる公理系によって定義付けられたことによって遂には情報理論という全く新しい数学が構築され, 古くからの数学の問題が解決されたり, 新たな数学の概念が発見され, それが数学の進歩を促し, その結果自然科学以外の他の領域にも重大な関わりをもたらしている. エントロピーとは非常に不可思議な数理形式をしている. それが必ずS(P)=Σpklogpk-1とかS(f)=∫flogf-1dXというように表わされる必然性は偶然を支配する神々のなす業なのであろうか. 最近では再び物理, 詳しくは数理物理学ともいわれる境界領域に, 情報理論的に構成された相対エントロピーなどが頻りに立場して来ている. まさに, これは数学と物理学との交流の接点とでもいうべきか. 今後も問題点がこの接点の近傍で探求されることが期待される.
著者
黒田 和明
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.p27-34, 1989-01

Fischbachらの示したバリオン数に結合する第5の力は, 理論的に種々の方法で説明され, 発展させられているが, まだ確固たる足場はないようである. これに反して, 実験的には, 未踏の分野であったせいもあって, 宇宙物理から地球物理の分野までを巻き込んで, これまでに50に達する実験グループがその検証実験を手掛けている. これまでに公表された結果から Fischbachらの初期の理論は否定されつつあるが, 地球物理的に測定されたデータは, いずれもニュートン(Newton)重力からのずれを示唆している. ここでは, 主な実験結果に触れながら, 第5の力の検証実験の現況を紹介する.
著者
畝山 多加志
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.663-668, 2021-10-05 (Released:2021-10-05)
参考文献数
22

物性の研究ではマクロスケールの(巨視的な)物性について測定や解析が行われることが多い.マクロスケールの物質の示す複雑な緩和や応答も元をたどれば究極的にはミクロスケールの(微視的な)分子や原子の構造に還元できると期待される.これは物理(特に統計力学)の考え方としては標準的なものであろう.ソフトマターのように構成要素が複雑な場合には,ミクロスケールとマクロスケールの中間であるメソスケールにおいて特徴的な構造や運動をもつことがある.この場合もやはりメソスケールの挙動は究極的にはミクロスケールに還元できると考えられる.原理的には分子や原子の初期状態の位置と運動量がわかれば系の時間発展は一意に決まるのだから,メソスケールだろうとマクロスケールだろうとミクロスケールの情報からすべて計算が可能なように思える.もちろん,初期状態を完全に知ることはできないし,カオス的な振る舞いもあるため状況はそこまで単純ではない.メソスケールの運動や緩和,あるいはメソスケールの情報を強く反映するマクロスケールの物性を理解するには,メソスケールの運動を直接的に記述し解析することが望ましい.これはミクロスケールの情報のうち興味ある一部の情報(着目する粒子の位置や運動量)のみを取り出す粗視化とよばれる手法を用いて実現できる.粗視化によって消える自由度の効果は系統的に取り込め,未知の初期状態の影響はランダムな揺動力という形で運動方程式中に現れる.このランダムな揺動力がBrown運動の起源となり,粒子の運動の軌跡は不規則な形状を呈することになる.さらに,粒子の感じるポテンシャルや時間遅れの効果等を取り込むことで,メソスケールの運動の一般的記述が可能になるとされている.ところが,このような手法で十分に一般的なメソスケールの運動を記述可能かというと,実はそうではない.既存の手法で記述不可能な対象が少なからず存在するのである.例えば,高分子の運動は分子同士が互いにすり抜けられないという動的な拘束のために単純な形では記述できない.近年,そのようなある種の特殊なBrown運動の記述について,新しい視点からのモデル化や理解が進展しつつある.メソスケールの系を記述する際に通常着目する自由度である位置や運動量に加えて,拡散係数やポテンシャルといった量も自由度として考慮するというものである.従来の方法では,拡散係数やポテンシャルは環境の効果を平均化したものであり,平均値からのずれがランダムな揺動力として取り扱われていた.これに対して,新しい方法では,拡散係数やポテンシャル自体が時々刻々と変化する環境の影響を受けてランダムに変化する量であるとする.一見,ランダムに変化する部分が変わっただけでさほどの影響がないように思えるかもしれないが,ゆらぐ拡散係数やポテンシャルを使うことで従来の方法とは定性的に異なる運動を記述することができる.ゆらぐ拡散係数やポテンシャルを用いた新しい方法は新しい運動方程式のクラスを形成しているものと考えられる.新しい方法はソフトマターをはじめとしたさまざまな系に適用できるものと期待される.例えば,高分子の動的な拘束を表現するために各論的・現象論的にさまざまな運動モデルが提案されているが,これらをゆらぐ拡散係数やポテンシャルを使った枠組みで統一的に解釈し直すことができる.また,過冷却液体中の分子の示す一時的にトラップされるような運動も,新しい方法を用いることで単純な形で記述することができる.
著者
和達 三樹
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.36, no.11, pp.786-793, 1981-11-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
18

"解けるモデルは皆同じである." 古典論においても量子論においても, ソリトン系は無限個の保存量を持ち, ソリトンの振舞には共通の性質がある. また, 古典論において成功を収めた逆散乱法は量子場の理論にも適用でき, さらには格子系の統計力学における転送行列の方法をより簡単な形にする. "解けるモデルは皆同じである" という標語は, 完全積分可能系の「普遍性」とソリトン的自然観を提示しているのである.
著者
中山 康之 伊藤 真
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.38, no.10, pp.787-793, 1983-10-05 (Released:2008-04-14)

原子を形づくる原子核と電子の間の空間には何が存在するだろうか. そこにはもはや他の分子や原子が入り込めないことを我々はよく知っている. そこにはどんな物も存在し得ない, まさしく虚とか空とか言えそうな場所である. 我我の物理学ではその空間は負のエネルギーをもった電子で満たされていると解釈し, それを真空と呼ぶ. この真空は外からエネルギーを与えれば簡単に確認出来るが, 原子番号が173をこえるような超重原子では外からエネルギーを与えなくても, 真空から自発的に電子-陽電子対が発生して真空が崩壊する. これは真空中に実在の電子が出来ることを意味し, 真空の全く新しい側面である. こんな理論的予測を実証しようとする実験が永い間続けられている.
著者
上原 正三
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.40, no.8, pp.627-634, 1985-08-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
33

重力を含む相互作用の統一理論について, 最近の超重力理論及び超弦理論を中心に解説する. カルツァ・クライン理論の解説からはじめて, その考え方が現在精力的に研究されている超重力及び超弦理論に用いられていることを見る. 重力理論では常に問題となる紫外発散についても, これらの新しい理論では解決されるのではないかという期待が高まっている.
著者
中西 秀 市川 正敏
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.480-483, 2016-07-05 (Released:2016-10-04)
参考文献数
5

話題―身近な現象の物理―コーヒーの湯気:水面に浮遊する微小水滴のダイナミクス
著者
菅野 礼司
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.20, no.12, pp.799-801, 1965-12-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
23
著者
上野 豊 浅井 潔 高橋 勝利 佐藤 主税
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.8, pp.568-574, 2002-08-05 (Released:2011-02-09)
参考文献数
21

単粒子解析は, 単離されたタンパク質などの生体高分子を電子顕微鏡で直接観察し, 3次元像再構成によって立体構造の解析を行う手法である. 膜タンパク質などの結晶化が困難なタンパク質の構造解析だけでなく, 構造変化や分子集合体の構造研究に活用されている. ここでは, 計算機による画像処理を駆使した手法について解説し, 最近の構造解析の紹介と, 解析における課題について議論する.
著者
牧島 一夫 高橋 忠幸
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.12, pp.854-860, 2012-12-05
参考文献数
17

宇宙線の発見から百年を経た今年は,偶然,宇宙X線の発見から50年目にもあたる.初期にはおもに宇宙線研究者により開拓された宇宙X線の研究は,この半世紀で爆発的な発展を遂げ,宇宙を探る不可欠の手段としての地歩を固めた.ここでは多種多様なX線天体のうち,代表として中性子星に焦点を当て,この分野の黎明期の様子と,2014年に打ち上げ予定の日本のASTRO-H衛星とを結び,50年の歴史を往来しよう.以下,エネルギー0.1keV〜数百keV程度の高エネルギー光子を「X線」と呼び,より高いエネルギーを持つ「ガンマ線」と区別する.人名の敬称は,省略させていただく.