- 著者
-
前川 展祐
- 出版者
- 一般社団法人 日本物理学会
- 雑誌
- 日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
- 巻号頁・発行日
- vol.70, no.6, pp.427-435, 2015-06-05 (Released:2019-08-21)
2012年7月4日に素粒子の標準模型における最後の粒子であるヒッグス粒子が発見され,標準模型はほぼ完成したと言える.一方で,1998年に高山で行われたニュートリノ会議以降,次々と観測されたニュートリノ振動は標準模型では質量が持てないニュートリノが有限の質量を持つことを示唆しており,標準模型を拡張する必要がある.拡張として多くの可能性が提案されているが,最も単純な拡張として右巻きニュートリノを導入する,というものがある.標準模型ではニュートリノを除くすべてのクォーク,レプトンが左巻き場と右巻き場両方を含んでいるが,ニュートリノに対しても右巻き場を導入する,という拡張になっており,自然な拡張と言える.さらに,右巻きニュートリノは標準模型の対称性で禁止されない質量を持つことができるので標準模型のスケールに比べて大きい質量を持たせると自然に左巻きニュートリノの質量が他のクォーク,レプトンに比べて小さいことが説明できる(シーソー機構)という利点もある.この解説では,右巻きニュートリノも含めて標準模型と呼ぶことにする.実験的には非常に成功を収めている標準模型であるが,理論的には様々な問題が知られており,また,存在が予測されているダークマターが含まれていない等の問題もあるので,標準模型を有効理論として含むようなさらに基本的な理論として様々な可能性が提唱されている.その中でも,超対称大統一理論は標準模型を超える理論として最も有望な理論と言える.自然界に存在する重力,電磁気力,強い力,弱い力のうち,重力を除く3つの力を統一する理論であるが,同時に,物質であるクォーク,レプトンをも統一するという理論的な魅力があるだけではなく,それぞれの統一において実験からのサポートも存在しているからである.力の統一に対しては,標準模型における3つのゲージ力の強さを表すパラメータ(結合定数)があるスケール(統一スケール)で一致することが知られている.低エネルギーで測定したパラメータを用いて高エネルギーでのパラメータを理論計算した結果であるから,実験からのサポートと言える.一方で,物質の統合に関しても間接的な証拠があることは,それほど知られていない.この論説ではその間接的な証拠について説明し,特にニュートリノ混合角や質量差がここ20年の間に決定されてきたことが重要な鍵となっていることを見る.具体的には,SU(5)大統一理論で実現される物質の統合の結果,「10表現のクォーク,レプトンは5^^-表現のクォーク,レプトンよりも強い階層性を引き起こす」,という一つの仮定をすることで,クォーク,レプトンの質量や混合角の様々な階層性を統一的に理解できることを示す.この際に,ニュートリノの質量や混合角の階層性が分かってきたからこそ,この理解は説得力を得ることを見る.次に統一群として例外群E_6を採用すると,SU(5)の時には与えるしかなかった上記の階層性の起源に関する仮定を理論の結果として導出することができることを指摘する.この構造がとても自然にE_6大統一理論に埋め込まれているので,3世代のクォーク,レプトンすべてを1つの場に統一しつつ,現実的な質量や混合角を実現できるような模型を構築することができる.この解説では,現在測定されているクォーク,レプトンの質量や混合角が大統一理論を示唆している,という観点で説明するが,歴史的にはこの方向でのE_6大統一理論はニュートリノ振動が発見されて間もない2001年に提唱され,その予言(特にθ_<13>〜O(0.2))がその後のニュートリノ振動に関する実験的な進展により確認された.大統一理論の最重要予言である核子崩壊も将来実験で発見されることが期待される.