著者
松田 巌
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.330, 2019-05-05 (Released:2019-10-02)
参考文献数
6

談話室『プリンキピア』最後の文にまつわる英訳和訳
著者
本堂 毅
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.430-434, 2003-06-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
13
被引用文献数
2

「車内では携帯電話・PHSの電源をお切り下さい」通勤電車内で見かける携帯電話のつり広告.その片隅に,申し訳程度に小さく書かれたこの文章に出会うときがある.では,電車内で何故携帯電話の利用が問題となるのだろう.飛行機なら携帯電話の電波(電磁波)が航空機の様々な電子機器に影響を与え,安全な運行を妨げることは知られている.でも,携帯電話の使用が電車の運行を妨げるという話は聞かない.マナーの問題なら,電源までオフにする必要はないだろう.
著者
日影 千秋
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.75, no.7, pp.422-426, 2020-07-05 (Released:2020-11-01)
参考文献数
15
被引用文献数
1

宇宙マイクロ波背景放射(CMB)や大規模な銀河サーベイなどの観測の進展により宇宙の膨張と大規模構造の形成の歴史が次第に明らかになり,冷たいダークマター(Cold Dark Matter)と宇宙項Λによる標準宇宙模型「ΛCDM」が確立した.宇宙論パラメターをパーセントレベルで測定できる精密宇宙論の時代が到来する一方で,宇宙の95%を占めるダークマターとダークエネルギー(宇宙項を含む)の素性は未だ不明である.光で直接観測することが困難なダークマターやダークエネルギーの性質を調べる方法のひとつが「重力レンズ効果」である.ダークマター自身の重力によって遠方の銀河からやってくる光の経路が曲がり銀河の形がゆがむ重力レンズ効果を測定することで,ダークマターがどの方向にどれだけ集まっているかを調べることができる.特に宇宙の大規模構造による弱い重力レンズ効果「コズミックシア」を測定することで,ダークマターを主成分とする宇宙の全物質(質量)の地図を描くことができるのだ.また遠くの銀河の重力レンズ効果を調べるほど,より遠方の(過去の)大規模構造の情報を引き出せるため,宇宙の構造が時間とともに成長する様子を調べることができる.宇宙の構造成長の歴史はダーク成分の性質を探る鍵となる.ダークマターは自身の重力によって星の原料となるガスを集め銀河を形成する,つまり,構造の成長を促す役目を果たす.一方,ダークエネルギーは宇宙の膨張を加速させ,構造の成長を妨げようとする.宇宙の構造形成は2つのダーク成分の駆け引きによるため,コズミックシアの観測から宇宙のダーク成分の性質に迫ることができる.しかしコズミックシアは銀河の像の楕円率を数パーセント変える程度の弱い効果であり,これまではコズミックシアによる精密な宇宙論解析を行うことは困難であった.そこで現在,日本のすばる望遠鏡に搭載した超広視野カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)」による大規模な銀河撮像観測が進行している.すばるHSCの広い視野と優れた撮像性能によって,多数の遠方の暗い銀河の形まで精確に測ることができるようになり,コズミックシアの測定精度が飛躍的に向上したのだ.HSCチームはまず全観測計画の1割強にあたる初期観測データをもとに1,000万個におよぶ銀河の形のカタログを作った.そして銀河の形の重力レンズゆがみを解析し約150平方度の天領域にわたる宇宙の全物質分布の地図を作ることに成功した.ブラインド解析の手法を用いてコズミックシアの天球面上の角度パターンを調べ,現在の宇宙の構造の成長度合いを表す物理量S8≡σ8(Ω m /0.3)α(α~0.5,σ8は質量密度ゆらぎの振幅の大きさ,Ω mは全エネルギーに占める物質の割合)を誤差3.6%の世界最高水準の精度で測定することに成功した.本解析で測定したS8の値は,ΛCDMのもとでプランク衛星のCMB観測に基づいて予想された値と大きな矛盾はなかったものの2シグマ程度小さい値であった.HSCとは独立に異なる天域で行われた重力レンズ観測Kilo-Degree Survey(KiDS)とDarkEnergy Survey(DES)においても同様にプランクの値に比べて小さい値を示しており,プランクの結果との違いの有意性が注目されている.もしプランク衛星による宇宙初期の観測結果と重力レンズによる成長後の宇宙の観測との食い違いが明らかになれば,ΛCDMモデルに含まれていない新しい物理が必要となり,ダーク成分の性質の解明へとつながる可能性がある.今後のHSCの解析結果にぜひ注目していただきたい.
著者
酒谷 雄峰
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.709-713, 2019-10-05 (Released:2020-03-10)
参考文献数
12

超弦理論は重力を含んだ素粒子の統一理論の有力候補であると考えられている.この理論では,物質を構成する素粒子は,大きさを持たない点ではなく,実は観測できないほど短い弦であると考える.素粒子が弦で構成されていると仮定すると,点の場合とは異なった不思議な現象が起こる.それに伴って,従来の重力理論である一般相対論とその基礎であるリーマン幾何学は,超弦理論の性質を取り入れたものに修正される必要があると考えられる.近年,超弦理論におけるT双対性と呼ばれる対称性に基づいた新たな幾何学が発展し,それを応用した重力理論の研究が進展している.超弦理論は10次元時空において定義されており,現実的な4次元の時空を導出するには,10次元のうち6次元は現在の観測にかからない程小さくする必要がある.このように時空の一部を小さくすることをコンパクト化と呼ぶ.例えば,6次元空間を平坦な空間とし,座標xをx ~ x+2πRのように周期的に同一視するコンパクト化の方法がある.これはトーラスコンパクト化と呼ばれ,Rをトーラスの半径と呼ぶ.実は,超弦理論においてトーラスコンパクト化を行うと,T双対性と呼ばれる弦理論に特有の対称性が現れる.弦理論に特有の長さスケールをlsとするとき,これは,半径がRのトーラスでコンパクト化された超弦理論と,半径がls2/Rのトーラスでコンパクト化された超弦理論が等価であるという対称性である.T双対性は,弦が半径Rのトーラスと半径ls2/Rのトーラスを“区別できない”ことを示唆しており,例えばTフォルドと呼ばれる異なる半径の2つのトーラスを貼り合わせた空間(右図)上も,弦は何ら特異性を感じず運動できると考えられる.しかし,Tフォルド上では,空間を一周まわると空間の大きさ・曲率が突然変わってしまうため,通常のリーマン幾何学ではTフォルドを大域的に記述できない.Tフォルドのような不思議な空間を記述するには,超弦理論に特有の対称性であるT双対性を尊重した幾何学・重力理論が必要になる.近年,閉弦の場の理論を用いた議論から,T双対性に基づく超重力理論としてDouble Field Theory(DFT)が提案された.DFTでは,T双対性を明白にするため,トーラス上の通常の座標x mに双対座標x(˜)mを加えた「一般化座標」を導入し,それらの座標を持つ2倍の次元を持つトーラス(ダブル空間)における重力理論を考える.ダブル空間上では一般座標変換の定義が通常のものから修正されており,共変微分や曲率テンソルの定義も通常のリーマン幾何学のものとは異なる.そして,この新たな幾何学量を用いれば,一見特異に見えるTフォルドの貼り合わせ部分も,実は滑らかにつながっていることがわかる.さらに,DFTの作用はT双対性が明白になっているため,T双対性変換の下で互いに関係づくIIA型超重力理論とIIB型超重力理論を,統一的に記述できることもわかった.最近,DFTの様々な応用が研究されている.特に,超弦理論の対称性を用いることで超重力理論の解を生成する手法が近年急速に進展しているが,その研究の中で「一般化された超重力理論」と呼ばれる変形された超重力理論が提案された.実は,この一般化された超重力理論もDFTから導出できることがわかり,これに基づいた議論から,従来は超弦理論が整合的に定義できないと考えられていた新たなクラスの時空においても超弦理論を定義できる可能性が示唆されている.さらに,従来から研究されている超重力理論の解の生成手法についても,これまでにDFTで開発された様々な手法を応用することで,より一般的かつ明確に議論できるようになっている.今後も,DFTのアイデアをより発展させることで,超弦理論のさらなる進展につなげられると期待している.
著者
前川 展祐
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.427-435, 2015-06-05 (Released:2019-08-21)

2012年7月4日に素粒子の標準模型における最後の粒子であるヒッグス粒子が発見され,標準模型はほぼ完成したと言える.一方で,1998年に高山で行われたニュートリノ会議以降,次々と観測されたニュートリノ振動は標準模型では質量が持てないニュートリノが有限の質量を持つことを示唆しており,標準模型を拡張する必要がある.拡張として多くの可能性が提案されているが,最も単純な拡張として右巻きニュートリノを導入する,というものがある.標準模型ではニュートリノを除くすべてのクォーク,レプトンが左巻き場と右巻き場両方を含んでいるが,ニュートリノに対しても右巻き場を導入する,という拡張になっており,自然な拡張と言える.さらに,右巻きニュートリノは標準模型の対称性で禁止されない質量を持つことができるので標準模型のスケールに比べて大きい質量を持たせると自然に左巻きニュートリノの質量が他のクォーク,レプトンに比べて小さいことが説明できる(シーソー機構)という利点もある.この解説では,右巻きニュートリノも含めて標準模型と呼ぶことにする.実験的には非常に成功を収めている標準模型であるが,理論的には様々な問題が知られており,また,存在が予測されているダークマターが含まれていない等の問題もあるので,標準模型を有効理論として含むようなさらに基本的な理論として様々な可能性が提唱されている.その中でも,超対称大統一理論は標準模型を超える理論として最も有望な理論と言える.自然界に存在する重力,電磁気力,強い力,弱い力のうち,重力を除く3つの力を統一する理論であるが,同時に,物質であるクォーク,レプトンをも統一するという理論的な魅力があるだけではなく,それぞれの統一において実験からのサポートも存在しているからである.力の統一に対しては,標準模型における3つのゲージ力の強さを表すパラメータ(結合定数)があるスケール(統一スケール)で一致することが知られている.低エネルギーで測定したパラメータを用いて高エネルギーでのパラメータを理論計算した結果であるから,実験からのサポートと言える.一方で,物質の統合に関しても間接的な証拠があることは,それほど知られていない.この論説ではその間接的な証拠について説明し,特にニュートリノ混合角や質量差がここ20年の間に決定されてきたことが重要な鍵となっていることを見る.具体的には,SU(5)大統一理論で実現される物質の統合の結果,「10表現のクォーク,レプトンは5^^-表現のクォーク,レプトンよりも強い階層性を引き起こす」,という一つの仮定をすることで,クォーク,レプトンの質量や混合角の様々な階層性を統一的に理解できることを示す.この際に,ニュートリノの質量や混合角の階層性が分かってきたからこそ,この理解は説得力を得ることを見る.次に統一群として例外群E_6を採用すると,SU(5)の時には与えるしかなかった上記の階層性の起源に関する仮定を理論の結果として導出することができることを指摘する.この構造がとても自然にE_6大統一理論に埋め込まれているので,3世代のクォーク,レプトンすべてを1つの場に統一しつつ,現実的な質量や混合角を実現できるような模型を構築することができる.この解説では,現在測定されているクォーク,レプトンの質量や混合角が大統一理論を示唆している,という観点で説明するが,歴史的にはこの方向でのE_6大統一理論はニュートリノ振動が発見されて間もない2001年に提唱され,その予言(特にθ_<13>〜O(0.2))がその後のニュートリノ振動に関する実験的な進展により確認された.大統一理論の最重要予言である核子崩壊も将来実験で発見されることが期待される.
著者
藤井 賢一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.69, no.9, pp.604-612, 2014-09-05 (Released:2019-08-22)
被引用文献数
4

質量の単位であるキログラム(kg)は,メートル条約に基づいて1889年に開催された第1回国際度量衡総会で定義された.このとき白金イリジウム合金製の国際メートル原器と国際キログラム原器がそれぞれ長さと質量の単位として承認されたが,長さは1960年に光の波長による定義へと移行し,国際メートル原器は不要となった.更に1983年に光速度を不確かさのない定数として定義することによって,光周波数の測定から誰もが長さの単位を実現することができるようになった.誰もが単位を実現することができるということは,特定の国や組織が所有する標準器への依存性から開放されるという点で,科学技術の進歩にとっては重要な要素である.しかし,キログラムだけは1889年以来,人工物によって定義される唯一のSI基本単位として残り現在に至っている.このため,質量を正しく測るためには国際キログラム原器への校正の連鎖が必要であるが,表面汚染の影響などにより,分銅の質量に頼る限りキログラムの安定性は50μg(相対的に5×10^<-8>)程度が限界であると考えられている.このような経緯から,2011年に開催された第24回国際度量衡総会ではプランク定数h,電荷素量e,ボルツマン定数k,アボガドロ定数N_Aを不確かさのない定数として定義し,キログラム,ケルビン,アンペア,モルの定義を将来,同時に改定することが決議された.これは,基礎物理定数を基準としてSI基本単位の定義を世界的な合意のもとで改定するという方針を示したものであり,歴史的にも極めて画期的である.キログラムの定義を改定するためには,国際キログラム原器の質量の長期安定性を超える精度でプランク定数を測定することが必要である.従来はワットバランス法と呼ばれる電気的な方法だけがこの精度を超えることに成功していた.プランク定数はアボガドロ定数からも精度よく導くことができるので,従来はX線結晶密度法と呼ばれる結晶を用いる方法でアボガドロ定数が測定されてきた.しかし,この測定には自然同位体比のシリコン結晶が用いられていたので,その同位体比の測定精度に限界があり,国際キログラム原器の質量安定性を超える精度でアボガドロ定数を測ることができなかった.この問題を解決するために,^<28>Siを遠心分離法によって99.99%まで濃縮し,その結晶の格子定数,密度,モル質量の測定からアボガドロ定数やプランク定数の精度を高めるための国際プロジェクトが実施され,ワットバランス法を超える3×10^<-8>の精度での測定結果が得られるようになった.本稿では,この精度向上をもたらした幾つかの実験技術を中心に紹介し,キログラムの定義改定をめぐる研究開発の動向について解説する.定義改定後は磁気定数や電気定数(真空の透磁率や誘電率),炭素^<12>Cのモル質量など,これまでは不確かさのない定数として扱われてきたものが,微細構造定数などの値に応じて変化する測定量(変数)になる.本稿では,国際単位系の定義改定が与える影響についても考察し,キログラムの定義改定がもたらす新たな可能性について述べる.
著者
藤井 賢一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.700-708, 2019-10-05 (Released:2020-03-10)
参考文献数
51
被引用文献数
1

信頼性の高い物理量の計測は科学技術発展の基礎である.その基準として用いられているのが国際単位系(SI)における7つのSI基本単位の定義である.それらのなかで,質量の単位であるキログラムだけは,1889年にメートル条約にもとづいて開催された第1回国際度量衡総会において国際キログラム原器によって定義されて以来,原器による定義が使われ続けてきた.例えば,長さの単位であるメートルは,1960年に国際メートル原器から光の波長による定義へ,さらに1983年に光の速さにもとづく定義へと移行した.これによって,光周波数の測定から長さの単位を実現することが可能になった.秒も以前は地球の自転周期や公転周期によって定義されていたが,1967年からはセシウム原子時計によって実現されるマイクロ波の周波数(約9.2 GHz)が秒の基準として用いられるようになり,さらに光周波数コムや光格子時計などによって光周波数領域(約500 THz)における新たな秒の定義に関する研究も行われている.電圧と電気抵抗についても1990年からはそれぞれジョセフソン効果と量子ホール効果にもとづく計測が実用化され,再現性の高い電気量の計測が可能になった.このように,科学技術の発展とともに多くの単位の定義は変遷を重ね,より普遍的で再現性の高い定義へと移行してきたが,キログラムだけは19世紀末に定義されて以来,人工物による定義が使われ続けてきた.しかし,表面汚染などの影響があるため,その安定性は50 µg(相対的に1億分の5)程度が限界である.このため,物理定数によってキログラムを定義するための研究が行われるようになり,21世紀に入ってからようやく原器の安定性を超える精度でプランク定数hを測定することが可能になった.このような経緯から,2018年11月にメートル条約にもとづいて開催された第26回国際度量衡総会において,キログラム,ケルビン,アンペア,モルの定義にそれぞれ不確かさのない定数として定義されたプランク定数h,電気素量e,ボルツマン定数k,アボガドロ定数NAを用いることが採択され,新しい定義が2019年5月20日の世界計量記念日から施行された.特にキログラムについては130年ぶりにその定義が改定され,歴史上初めて人工物に頼らない単位系が誕生した.これを可能にしたのがキッブルバランス法と呼ばれる電気的にhを測る方法と,X線結晶密度法と呼ばれる結晶中の原子の数を測ることによってNAを求める方法である.基礎物理定数の関係式を用いればhをNAからも高精度に導くことが可能であり,この2つの独立した測定原理から得られたプランク定数が高い精度で一致したことも,今回の定義改定を後押しした.科学技術データ委員会(CODATA)では,SI基本単位の定義改定のために2017年10月にh,e,k,NAについての特別調整を実施し,2017年7月1日までに受理された論文に報告されているデータの重み付け平均からこれらの基礎物理定数を決定した.特にプランク定数の決定においては,半数である4つのデータに産業技術総合研究所の計量標準総合センター(NMIJ)が貢献した.欧米以外の研究機関がSIの定義において決定的な役割を果たすのは歴史的にも今回が最初である.SIの新しい定義では,磁気定数μ0や炭素12Cのモル質量M(12C)などのように,これまで不確かさゼロの定数として扱われてきたものが不確かさをもつ変数に変わるものもあるが,多くの基礎物理定数の不確かさは小さくなる.SIの新しい定義では,hの不確かさがゼロになるので,原子や素粒子などの質量の不確かさも大幅に小さくなる.これまでは測定することが困難だった微小質量などをトレーサブルに計測することも可能になる.
著者
内山 龍雄
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.635-642, 1969-10-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
4

素粒子の電荷がすべてne0(n=0, ±1,…)の形にあらわされるという事実を再現するために現在までに提唱された理論の主なもの3つを概説する。第1はDiracのmagnetic monopoleに関する論文で, これと関連して電荷の量子化が示される。第2はKaluza, Kleinの統一場理論で, そこでは第5座標X5に正準共役なP5が電荷を示すことに着目して素電荷の存在を示す。最後に筆者自身の考えを紹介する。これは一般化されたゲージ場の一種として荷電ベクトル場を導入し, これが素電荷の運搬役をつとめることによって素電荷の普遍性を示す。

1 0 0 0 OA 泡の流体力学

著者
松信 八十男
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.22, no.8, pp.500-507, 1967-08-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
45
著者
樋口 卓也
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.720-725, 2018-10-05 (Released:2019-05-17)
参考文献数
19

エレクトロニクスの進歩の歴史は,その速度向上の歴史と言っても良い.エレクトロニクスの速度を決める要因は多々あるが,その中でも特にここでは電流をどれだけ短い時間で発生させられるかを考えてみよう.通常のエレクトロニクスが扱える時間よりもずっと短い時間だけ光るパルスレーザーを用いてその限界を調べる試みが進められている.フォトダイオードなどの通常の光受信機を用いると光のパルスが受信機を通っている間に徐々に電流は発生し,光の強度を電流として測定できる.しかしこの場合,我々が測定しているものは光強度の1周期平均であり,光の電場波形そのものではない.光の強度が強くなり,その光の電場の強さが物質の中で電子が感じている力よりも強くなると,電子が光の振動する一周期よりも短い時間で動き出すことができる.この時,電子の応答は光電場に対して非摂動的な非線形性を示し,応答の結果は光の(1周期を平均した)強度だけによっては決まらず,詳細な電場波形の時間発展の様子によって決定される.実際にこのような現象はこれまでガス状の原子や分子,透明な絶縁体などで発見されてきた.それではエレクトロニクスに欠かすことのできない良導体では光の電場で電子を駆動することはできるのだろうか.しかしこのような実験は電気を流す物質では実現が難しかった.これは金属は通常光の反射や吸収が強く,物質の中にまで強い光が届かないために,その中の電子が強い光を感じることができないからである.そこでグラフェンを用いることでこの困難を乗り越え,光の電場によって電子を駆動することで光の一周期より短い時間(1フェムト秒以下)で電流を流し始め,光の波形によってその電流の向きを制御することに成功した.グラフェンは良導体ではあるものの,原子一層分の厚みしかないために,光の反射や吸収が少ないという特徴がある.ここで重要となってくるのは,光が当たっている間,光の電場による加速によってグラフェン中の電子の運動量が時間とともに変化することである.この運動量の変化量が大きくなると,光と物質の相互作用を摂動展開した時にその展開が収束しない領域に達する.すると電子の運動はLandau-Zener過程のように振る舞い,光の1サイクルよりも短い時間で電子がバンド間を遷移するようになる.さらにこのような短い時間になると,電子の量子力学的な波としての性質が重要になってくる.この研究では,光の振動の半周期の間に起きる電子の波の経路干渉(Landau-Zener-Stückelberg干渉)によって電流の向きが決定されることが分かった.この経路干渉の結果は光によって駆動された電子の波数空間での軌道に大きく依存しており,光の偏光によってこの軌道を自在に操ることで電流の向きを光の1サイクルよりも短い時間でスイッチすることができることも明らかになった.光は1015 Hz程度の高い周波数で振動しているので,本来電気信号が扱えるよりもずっと多くの情報を単位時間あたりに運ぶことができる.この高い密度の情報を読み取れる原理が示されたことで,光を直接電気信号のように扱えるエレクトロニクス技術への一歩が踏み出せたと言える.
著者
大栗 博司
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.130-133, 2015-02-05 (Released:2019-08-21)

一般相対論と量子力学の統合は,現代物理学の大きな課題のひとつである.この記事では,これを達成する究極の統一理論の最も有望な候補である超弦理論の現状,特にアインシュタインらの指摘した「量子もつれ」にかかわる最近の話題について解説する.
著者
北尾 彰朗
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.12, pp.893, 2017-12-05 (Released:2018-09-05)

新著紹介生体分子の統計力学入門;タンパク質の動きを理解するために
著者
張 紀久夫 石原 一 大淵 泰司
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.343-349, 1997-05-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
27

近ごろ盛んなメゾスコピック系の物理を考えるもう一つの切り口として, 光学応答における非局所性がある. これを取り入れた理論は従来の応答理論と量子電磁気学をつなぐ半古典論であるが, 輻射補正を含む散乱理論の形で線形・非線形応答が記述され, 物質と輻射場の運動を自己無撞着に決めることのできる実行可能な枠組みである. メゾスコピック系では, 感受率だけでなく,輻射シフトや寿命および内部電場が試料のサイズや形状に強く依存するために, 特異な応答が生じるが, そのいくつかの例をモデル計算の結果を用いて示す. これは物質の電磁気学を再構築する試みであると同時に, 応用へ向けた物質開発の新しい指導原理を探究する試みでもある.