著者
足立 拓也
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.83-88, 2015-06-25 (Released:2016-02-27)
参考文献数
24

2014年に西アフリカで報告されたエボラウイルス病は,過去最大の流行となった.医療従事者を含む多数の感染者と死者を出しながらも,関係者による多大な努力の結果,ようやく流行は終息に近づきつつある. 本稿では5つの疑問を取り上げて,今回の流行の本質について考察する.1.なぜエボラウイルス病が西アフリカに出現したのか?2.なぜ流行がこれほどまでに拡大したのか?3.なぜ医療従事者の感染が相次いだのか?4.なぜ大規模な流行が鎮静化しつつあるのか?5.日本でも同様の流行は起こり得るのか? エボラウイルス病は,病人の世話や葬儀といった人間的行為を介して伝播することから,その流行は自然に鎮静化するものではなく,人為的な努力によってはじめて終息に持ち込むことができる.患者,一般市民,国際社会といった関係者の誰の利益を尊重するかによっても,疾患対策の成否は大きく影響される.
著者
中村 観善
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.257-266, 1961 (Released:2010-03-16)
参考文献数
42

Attenuation of the Okuda and Kinugasa strains of influenza A2 virus, isolated in our laboratory in 1957, was attempted by egg passage, using chiefly 10 or 11 day eggs. Mainly 10-3 dilution of infected chorio-allantoic fluid was used as inoculum for serial passage. Infected chorio-allantoic fluids of various generations of egg passage were inoculated by inhalation or instillation method to human volunteers. For inhalation, an outlet of a nebulizer with an air compresser was kept 1-2cm apart from the nostrils of volunteers, and fine mist was inhaled by deep or normal breathing for 10 or 60sec. Instillation method was far less efficient than inhalation method, and only inhalation method was used in the following experiments.The Okuda strain of the 3rd and the Kinugasa strain of 7th egg passage provoked typical signs of influenza. The materials of about 100th passage of these strains proved to have little pathogenicity, while antigenicities of them were well preserved (Table 1, 2).Egg infectious titer of materials and inhalation time were important factors. When the titer was low, hemagglutination inhibiting (HI) antibody was poorly provoked in the subjects. When the titer was high and the material was inhaled for 60sec., some persons showed transient fever without local catarrhalic sign. When the inoculum was not so high, general toxic reactions were negligible (Table 3). Not only HI antibody, but other antibodies increased (Table 4). The persons with clinical signs such as fever, headache or lassitude, showed far poorer antibody response, than those without clinical sign.Reisolation of virus from inoculated persons was unsuccessfuland infection to others from them was not observed. The S-antibody rise and the small quantities of virus needed for antibody response seem to show active propagation of influenza virus in human volunteers. No significant difference was observed between these two strains.The strains and the inoculation method are hopeful to be used as live influenza vaccination.
著者
木村 宏
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.163-174, 2011-12-25 (Released:2013-04-30)
参考文献数
100
被引用文献数
1 2

普遍的なウイルスであるEpstein-Barr virus (EBV)は初感染後,終生潜伏感染するが,細胞性免疫が損なわれない限り症状が現れることはない.一見免疫が正常と思われる個体にEBVの慢性感染が起こることがあり慢性活動性EBV感染症(CAEBV)と称されてきた.CAEBVは発熱,リンパ節腫脹,肝脾腫などの伝染性単核症様症状が持続あるいは反復する疾患である.本症は稀ではあるが,重篤かつ予後の悪い疾患である.近年では,本症は単なる感染症ではなく,EBVに感染したTもしくはNK細胞の単クローン増殖が本態であることが明らかとなっている.本稿では未だ全貌が解明されていないCAEBVの発症病理について,筆者らの知見を交え考察するともに,本症の臨床像・治療・予後についても概説する.
著者
植松 智 審良 静男
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-8, 2006 (Released:2006-10-13)
参考文献数
29
被引用文献数
8 23

Toll-like receptors(TLRs)は自然免疫における重要な分子で,様々な病原体においてよく保存された構造を認識して自然免疫応答を誘導する.ある種のTLRはウイルス構成成分を認識してI型インターフェロンを誘導することによって抗ウイルス応答を誘導する.TLR2やTLR4が細胞表面においてウイルス構成成分を認識するのに対し,TLR3,TLR7,TLR8,TLR9はエンドソームによく発現している.ファゴサイトーシスによってウイルスやウイルスに感染してアポトーシスを起こした細胞を取り込むと,ウイルスの核酸がファゴソーム内で遊離しこれらのTLRによって認識される.最近,宿主は細胞質内でTLR非依存的に複製するウイルスを認識する機構を持つことが報告された.今回,我々は自然免疫によるウイルス認識とシグナル伝達経路について概説する.
著者
村田 貴之
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.95-104, 2014-06-25 (Released:2015-03-10)
参考文献数
45
被引用文献数
1 2

Epstein-Barr (EB)ウイルスはガンマヘルペスウイルスに分類されるヒト腫瘍ウイルスである.進化学的観点からみても長期にわたって宿主と共存してきた,高度な生存戦略を備えたウイルスであり,複雑,巧妙な感染様式をとることで自身の維持,拡大を図っている.その感染様式は,潜伏感染と溶解感染のふたつに分けられ,潜伏感染から溶解感染への移行を再活性化と呼ぶ.さらに潜伏感染は主に0-IIIの4つに分類される.このような感染様式の相違や変遷は,ウイルスの維持拡大のみならずがん化のプロセスや臨床病態とも深く関わっており,その理解は重要である.本稿では,EBウイルスによる増殖性疾患の発生,維持,進展の機序について,我々の感染様式に関する研究成果を交えながら紹介したい.
著者
中原 知美 清野 透
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.57-66, 2014-06-25 (Released:2015-03-10)
参考文献数
44
被引用文献数
1 3

高リスク型ヒトパピローマウイルス群(high-risk human papillomaviruses: HR-HPVs)感染を要因とするがんは,子宮頸がんをはじめ世界の全がんの約5%,女性では約11%を占める.HPVは子宮粘膜等の重層扁平上皮組織に感染し,基底細胞において持続感染を成立させる.この持続感染は,時に数十年持続することが知られており子宮頸がん発症の背景となっている.HPVの生活環は,重層扁平上皮組織の細胞分化と密接に連動しており,ウイルスゲノムの複製やウイルス遺伝子の発現は,感染細胞の分化に応じて厳密に制御されている.HPVゲノムは,感染直後に一過的に増加した後,基底細胞では一定コピー数に維持される.一方で,感染細胞が分化を始めると爆発的に増加する.HPVゲノム複製がその生活環において3段階に制御される分子機構については長らく不明であった.近年,HPVゲノム複製の制御に,宿主のDNA損傷修復系との相互作用が深く関わることが明らかとなりつつある.本稿では,HPVゲノム複製とDNA損傷修復系との相互作用について解説する.
著者
宮村 達男
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.277-286, 2009-12-24 (Released:2010-07-03)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

ウイルス感染症との戦いの歴史において,人は天然痘の根絶という金字塔を打ち立てた1).そして(i)病気を正しく知り,おそれる,(ii)伝播様式など病原体の性状を正しく知る,(iii)安全で有効なワクチンを持つ,(iv)正確で迅速なサーベイランスと新しい科学的知見に基づく機敏な戦略をたてることが感染症コントロールの基本であることを知った.ポリオは既にSalk不活化ワクチン2),Sabin生ワクチン3)によって先進諸国ではほぼ完全にコントロールされていたが,World Health Organization(WHO)は1988年,果敢にも6つのワクチンによる予防可能疾患の筆頭として世界ポリオ根絶計画をスタートさせた.
著者
山口 由美 五條堀 孝
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-6, 1996-06-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
25
著者
田口 文広
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.81-90, 1990-12-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
52
被引用文献数
1 1
著者
鈴木 忠樹
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.135-144, 2015-06-25 (Released:2016-02-27)
参考文献数
23

ウイルス粒子の細胞外放出過程に関わるウイルスタンパク質の中にビロポリンと呼ばれるイオンチャネル様の多量体を形成する膜タンパク質が存在する.ビロポリンは100アミノ酸残基程度からなる小さな膜タンパク質で,多量体化して脂質二重膜に細胞内外を交通させる「孔」を作る.この「孔」がイオンや小分子の生体膜透過性を亢進させる.詳細な分子機構は未だブラックボックスであるが,膜透過性亢進の結果として宿主細胞膜の破綻を誘導し,最終的にはウイルス粒子の細胞外に放出に寄与すると考えられている.我々は,進行性多巣性白質脳症の原因ウイルスであるJCウイルスのコードするAgnoが,子孫ウイルス粒子放出を担うビロポリンであることを見出した.さらに,Agnoのビロポリン活性は,宿主因子との特異的な相互作用により制御されている事を明らかにした.このことは,ビロポリンが機能するためには生体膜に「孔」を形成するだけでなく,特定の宿主因子との相互作用が必要不可欠であることを示唆しており,ビロポリンはウイルス―宿主細胞相互作用における重要なインターフェースを形成していると考えられた.
著者
木所 稔
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.125-136, 2019 (Released:2020-09-16)
参考文献数
83
被引用文献数
1 2

日本では国産おたふくかぜワクチンによる無菌性髄膜炎への懸念から定期接種化が進まず,接種率の低迷に伴いムンプスの全国的流行が繰り返されている.2015-16年流行期のムンプス難聴の報告数は348例を数え,定期接種の導入は喫緊の課題である.一方,海外では122カ国で定期接種が制度化され,117カ国で2回接種を採用している.その多くが安全性に定評のあるJeryl-Lynn株を含む麻しん,風しんワクチンとの三種混合(MMR)ワクチンを用いている.反面,2回接種の導入によってムンプス流行の抑制に成功した国々では,2000年代以降にアウトブレイクの再発が問題となっている.このように,国内と海外におけるおたふくかぜワクチンをめぐる課題は大きく異なっている.しかし,それらの背景には安全性と有効性を両立しがたいというおたふくかぜワクチンの本質的な特性が関連している.国内のワクチンギャップを迅速に解消するには,最新の知見に基づいた現行国産ワクチンの再評価が必要である.また将来的には,おたふくかぜワクチンの本質的な課題を解決した有効性と安全性を兼ね備えたワクチンが必要であろう.
著者
坂口 末廣
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.163-167, 2002-06-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
19

プリオン病の病原体は, 正常脳組織に発現する正常型プリオン蛋白 (PrPC)が構造変換を起こし産生された異常型プリオン蛋白(PrPSc) から構成されているとするプリオン仮説が一般に広く受け入れられている. しかし, 未だPrPScそのものが感染性であるという直接的な証明はない. また, この構造変換は, プリオン病の病態形成の中心的役割をも担っていると考えられているが, その詳細な分子機構は未だ不明である. ここでは, プリオン病の病原体及び病態生理について, これまでの研究から明らかになったことを紹介しながら概説したい.
著者
加藤 四郎
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.237-239, 2001-12-30 (Released:2010-03-12)

この度本誌の下遠野邦忠編集委員長より随筆の執筆を依頼された. 思えば5年前 (1996) に当時の西山幸廣編集委員長より第1回の随筆の執筆を依頼され, たまたまその年がジェンナーによる種痘発明200年という記念すべき年でもあり, ジェンナーを巡る随想を述べた. 最初の随筆ということもあり可成緊張して執筆した思い出がある.今回の依頼は来年第50回の日本ウイルス学会を迎えるにあたり, 第1回よりの日本ウイルス学会を知る者としての随筆を期待されたようである. その構想に取り組み始めてから間もなく, かねてより憂慮していた生物兵器を用いるテロが米国で現実のものとなった. 特に痘そうの脅威を知る者として半世紀前の思い出に浸っている場合ではなくなったが, 敢えて回顧録とともに後半痘そうウイルステロの脅威に対する警告文としたい.
著者
朝長 啓造
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.209-218, 2012-12-25 (Released:2013-10-22)
参考文献数
77
被引用文献数
1

モノネガウイルス目に属するボルナウイルス科ボルナウイルス属には,哺乳類に感染するボルナ病ウイルスと鳥類に感染する鳥ボルナウイルスが同定されている.ボルナウイルスは神経系組織に好んで感染することが知られており,自然感染した動物ではさまざまな神経疾患を発症することが明らかとなっている.ボルナ病ウイルスはウマやヒツジの伝染性脳脊髄炎(ボルナ病)の原因であり,中枢神経系への持続感染が特徴である.一方,鳥ボルナウイルスは腺胃拡張症と呼ばれる難治性の消耗性疾患を引き起こす.これまで,ボルナウイルスは遺伝的に良く保存されていると考えられていたが,鳥ボルナウイルスには少なくとも9つの遺伝子型が存在することが報告され,ボルナウイルス属の多様性が明らかになってきている.ボルナウイルスは,細胞核での持続感染や宿主ゲノムへの内在化など,他のRNAウイルスではみられない多くの特徴を有している.本稿では,ボルナウイルスによる疾患に加えて,これまでの研究で明らかとなったユニークなウイルス学的性状について紹介する.
著者
新矢 恭子 河岡 義裕
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.85-89, 2006 (Released:2006-10-13)
参考文献数
11
被引用文献数
16 22

H5N1鳥インフルエンザウイルスがアジア,ヨーロッパ,そしてアフリカで猛威を振るっている.すでに,100人を越える人が本ウイルスに感染し死亡したが,ヒト‐ヒト間の伝播はまれである.私たちは,人の呼吸細気管支,肺胞細胞の多くが鳥由来インフルエンザウイルスによって認識されるシアリルオリゴ糖(SAα2,3Gal)を発現していることを見出した.しかし,人の上部気道の上皮細胞では,鼻粘膜の一部の細胞をのぞいて,人由来ウイルスによって認識されるSAα2,6Galしか発現していないことがわかった.これらの事実は,なぜ鳥インフルエンザウイルスが鳥類からヒトに直接感染し,感染患者において重篤な下部呼吸器障害を引き起こすことができるかを説明している.また,ヒトの上部気道には,人のウイルスのレセプター(SAα2,6Gal)はたくさん存在するが,トリウイルスのレセプター(SAα2,3Gal)はほとんど存在しないことは,H5N1ウイルスが,めったにヒト‐ヒト間伝播を引き起こさない事実と一致している.しかしながら,H5N1ウイルスの中には人ウイルスのレセプターを認識するものも存在する.したがって,H5N1インフルエンザウイルスが効率よくヒト‐ヒト間で伝播する能力を獲得するためには,レセプター特異性の変化のみならず,それ以外の変異が生じる必要があるのであろう.
著者
飯島 沙幸 田中 靖人
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.23-32, 2013-06-25 (Released:2014-04-26)
参考文献数
46

B型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus; HBV)は現在も世界的な感染拡大が続いており,依然として大きな問題となっている.Australia抗原が発見されて以来,臨床医学・疫学など様々な方法で研究が続けられてきたが,HBVは感染宿主域が狭く,in vitro, in vivo共に簡便で効率の良い感染実験系が現在に至るまで確立されていない.そのため逆遺伝学:リバースジェネティクスの手法が果たしてきた役割も大きい.我々はB型慢性肝疾患患者から様々な遺伝子型のHBVクローンを樹立し,リバースジェネティクス手法を用いて解析を行ってきた.それらの結果からHBVの病態と遺伝子型の関連性がどのようなものか徐々に明らかになってきた.本稿では我々がHBVについてリバースジェネティクスを用いて解析してきた研究内容について紹介したい.
著者
堀江 真行 朝長 啓造
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.143-154, 2010-12-25 (Released:2011-09-01)
参考文献数
41
被引用文献数
2 2

私たちのゲノムの8%は内在性レトロウイルスによって占められている.内在性レトロウイルスは過去におけるレトロウイルス感染の痕跡であり,現存する唯一の「ウイルス化石」として,ウイルスと宿主との共進化に様々な知見を提供してきた.一方で,複製の際に宿主ゲノムへの組み込み(インテグレーション)を必要としないウイルスの生物系統的な内在化はこれまでは知られていなかった.最近,私たちはヒトをはじめとする多くの哺乳動物のゲノムにマイナス鎖RNAウイルスであるボルナウイルスの遺伝子断片が内在化していることを発見した.これは,生物ゲノムに見つかった初めてのRNAウイルス化石である.さらに,自らは逆転写酵素を有していないボルナウイルスが宿主由来のレトロトランスポゾンを介して宿主DNAへとインテグレーションされる可能性も示された.この発見は,RNAウイルスと宿主との新たな相互作用を示すとともに,遺伝学や細胞生物学をはじめとする多岐にわたる分野に大きな影響を与えた.本稿では,内在性ボルナウイルス因子の発見について概説するとともに,現在次々と発見されているレトロウイルス以外の内在性ウイルス断片についての最新知見を紹介する.
著者
武部 豊
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.123-134, 2001-12-30 (Released:2010-03-12)
参考文献数
64
被引用文献数
2 2

HIVがヒト集団に伝播し, 世界中に播種する過程は, 同時にウイルスゲノムが劇的な多様性を獲得し, 適応していく過程でもある. HIVが多様性を獲得するメカニズムには, 複製エラーによる突然変異と, 遺伝子組換えの2つが関与するが, さらに, ウイルスのもつ生体内での高度でしかも持続的な増殖能によって加速され, 驚異的な多様性が生み出される. HIVは地球上の生物の中で最も高速で変異する生命体であり, その変異速度は真核細胞の100万倍にも達する. これらの性質は, 増殖環境の変化に対して, HIVが適応・進化していくメカニズムの生物学的基盤ともなっている. 薬剤耐性ウイルスの急速な出現は, このウイルスのもつ驚異的な flexibility を反映する現象の一例である. 本稿では, 世界流行のもっとも主要な原因ウイルス株であるHIV-1を中心として, HIVのゲノム多様性獲得機構と多様性がもたらす生物学的・ウイルス学的意義について論じたいと考える.