著者
木内 淳子 安部 剛志 松村 陽子 野坂 修一 前田 正一
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.7, pp.702-706, 2005 (Released:2005-11-29)
参考文献数
6
被引用文献数
2 2

2003年末までに, 判例時報などの法律雑誌に掲載された麻酔科関連領域の判例について検討した. 全身麻酔および硬膜外麻酔に関しては, 麻酔専門医による麻酔管理も訴訟の対象となっていた. 病院開設者とともに, 麻酔担当医も被告となっている症例が半数を占めた. 救急医療の領域では, 過失と結果の因果関係に関して, 医療側に厳しい判例が平成12年に最高裁判所から出された. この判断の影響でその後の救急医療領域で, 同じような判断が3判例みられた. 説明義務については, 過失がない場合においても, 十分な説明に基づく同意がない場合は下級審判決が覆り, 最高裁で医療側有責とされた. 今後麻酔科医には, 医療水準に合致した医療と十分な説明が求められると考える.
著者
佐藤 俊明
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.213-219, 2005 (Released:2005-04-21)
参考文献数
30

心筋細胞のミトコンドリア内膜に存在するATP感受性K+ (mitoKATP) チャネルやCa2+活性化K+ (mitoKCa) チャネルは, プレコンディショニングの成立に重要な役割を担っている. MitoKATPチャネルの活性化によりK+が細胞質からマトリックスへ流入すると, ミトコンドリア内膜が脱分極し, Ca2+のdriving forceが減少するのでミトコンドリアCa2+過負荷が抑制される. MitoKCaチャネルも同様のメカニズムでミトコンドリアCa2+過負荷を抑制する. ミトコンドリアCa2+過負荷の軽減は膜透過性遷移孔の開口を遅らせるためアポトーシスも抑制するので, 強力な心筋保護作用を発揮すると考えられる.
著者
佐藤 健治 森田 潔
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.185-191, 2013 (Released:2013-05-16)
参考文献数
6

岡山大学病院では1996年に麻酔科の院内急性痛対策をPOPS(Postoperative Pain Service)と命名し,実践的マニュアルを作成した.術後早期の良好な疼痛管理が可能となった.近年注目が集まるERAS(Enhanced Recovery after Surgery)では,離床を促進し経口摂取を妨げない疼痛管理が必要となる.手術室で開始された硬膜外PCAや静脈PCAの漸減や終了,経口鎮痛薬へのステップダウンや嘔気・嘔吐対策などが課題となる.岡山大学病院では手術が決まった外来時点より,多職種連携の医療チームが手術患者にかかわり,快適・安全・安心な手術と周術期環境を効率的に提供する周術期管理センター(ペリオ)を2008年に開設した.われわれはPERIOの取り組みの中でPOPSの課題解決を模索している.
著者
山田 卓生
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 = The Journal of Japan Society for Clinical Anesthesia (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.303-308, 2006-05-15
被引用文献数
5 2

宗教上の理由で輸血を拒否する患者に対し, いかに対処するべきかは, この30年の間医療関係者を悩ませてきた. とりわけ外科手術における輸血の必要性は言うまでもないが, 他方でインフォームドコンセントの考え方によれば, 明白な意思に反する輸血をするわけにはいかない. 当初は輸血拒否に当惑したが, 徐々に患者の意思を尊重するようになってきた. 意思を無視して輸血をすれば, たとえ快方に向かっても損害賠償の義務があるとする最高裁判決も出た. 子供についてどうするか, とくに, 親が自己の信仰に基づき子供への輸血を拒否することを認めるべきかが争われている.
著者
恒吉 勇男 永田 悦朗 當房 和己 竹原 哲彦 上村 裕一
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.119-123, 2004 (Released:2005-03-31)
参考文献数
12

敗血症を合併し長期間臥床を余儀なくされた患者で多発性に骨化性筋炎を発症した症例を経験した. 患者は61歳男性. 前交通動脈の動脈瘤破裂によるくも膜下出血に対し緊急開頭クリッピング術を施行した. 術後に肺炎から敗血症を合併し, 約2ヵ月間意識障害を呈した. 初期より強い痙縮を伴った下腿関節の拘縮が出現したため, 関節可動域増強訓練を施行した. また, 排痰を目的として, 患者を定時的に腹臥位とした. しかし, 第40病日ごろから下腿関節部および肩・肘関節部の可動域が著明に低下し, 単純X線所見で多発性に異常骨化像が認められた. 長期臥床を要する患者では理学療法が必要とされるが, 骨化性筋炎の発生には十分注意すべきである.
著者
菊地 博達
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.35-39, 2006 (Released:2006-01-24)
参考文献数
1

1993年2月から2003年の12月までの期間週1回の頻度で外科系病棟のデイルームで手術室・麻酔教室を術前患者およびその家族を対象に実施してきた. 一般的な麻酔法, 麻酔の危険性・安全性, 患者の手術室入室までの手順を写真などを用いて説明した. 直接語りかけることにより直接患者からの質問に応えられ, 改善すべき問題点などの参考となった. 一方, 聞かれなかったことを含め, 患者自身からの種々の情報提供が必要であることを理解してもらった. 積極的に患者が自分の受ける医療に参加することにより, 患者自身が安全に医療を受けることができるとの啓発活動となった.
著者
影山 京子 橋本 悟 田中 義文
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.7, pp.980-985, 2008-11-14 (Released:2008-12-13)
参考文献数
2

麻酔科領域には紛争, 訴訟に発展する数々の特殊な問題が潜んでいる. 第一に,「麻酔担当医と患者との人間関係, 信頼関係が十分に形成されない間に麻酔が実施される」, 第二に, 患者側の「麻酔の危険性」に対する認識不足, 第三に,「全身麻酔は患者の不可視の状態の下に行われ, 医療行為の過程が患者にはわからない」, 第四に「局所麻酔の場合, 患者にとって簡易な医療行為にみえるにもかかわらず発生した結果はきわめて重大・深刻である」ということである. これらの特殊性を理解したうえでの慎重な麻酔業務の遂行と, 不幸にして事故が発生した場合,「過失」に相当するか否か慎重に検討し, 事故の再発防止と当事者, 被害者両者の救済に努める必要がある.
著者
米井 昭智
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.427-432, 2009-07-15 (Released:2009-08-10)
参考文献数
1

術前診察と術後回診を効率的に行うことは麻酔科医の過重労働を軽減するために必要と考えられる. われわれは麻酔説明用のアニメーションビデオを業者と共同開発した. 2008年10月より, 手術予定の患者・家族に麻酔科外来にて医師の診察が始まる直前にビデオを鑑賞してもらうことを開始した. これにより医師の説明時間が短縮し, 患者・家族の理解が促進されたと考えられる. 一方, 術後回診の効率化はいまだ課題として残っている.
著者
中尾 三和子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.7, pp.595-602, 2005 (Released:2005-11-29)
参考文献数
2

麻酔管理において術前診察の果たす役割は今も変わらず重要であるが, いつ, どこで, 誰が行うかについては施設によって異なってきている. 県立広島病院における術前診察は, 通常, 手術1~2日前に, ベッドサイドで, 研修医を含めた担当麻酔科医が行う. 問題症例, 日帰り手術, 当日入院患者は術前診察担当麻酔科医が外来で術前診察を行う. 当院で手術を受けた患者60名へのアンケート結果では, プライバシーの保護, 家族への説明, わかりやすい言葉で話すなどの問題点が明らかになった. 今後これらの問題点を解決できれば, 担当麻酔科医が術前診察する方法は, 研修医の教育や患者との信頼関係を築くうえで優れた方法と考える.
著者
田畑 美織 松本 延幸 村上 康郎 水上 智 松本 勲
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.206-211, 2004 (Released:2005-03-31)
参考文献数
20

突発性難聴64例に星状神経節ブロック(SGB)と上頸神経節(SCG)近傍への低反応レベルレーザー照射を併用したところ(SGB+C2レーザー群), SGB単独の62例(SGB群)と比較して治療成績が向上した. 治療効果の判定は, 初診時とほぼ安定状態に達した時点の聴力を比較し, 治癒, 著明回復, 回復, 不変に分類した. その結果, SGB群(治癒 : 11%, 不変 : 27%)に比べSGB+C2レーザー群(治癒 : 30%, 不変 : 8%)で聴力改善度は有意に上昇した(p<0.01). 固有蝸牛動脈より末梢にはSCGからの交感神経線維が分布しており, SCGへのレーザー照射併用により, SGB単独よりさらに広範な交感神経線維が遮断されたものと思われる.
著者
石田 和慶 松本 美志也 平田 孝夫 坂部 武史
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.526-534, 2008-06-15 (Released:2008-08-13)
参考文献数
33

虚血に伴う神経細胞傷害に蛋白を成熟させる細胞内小器官である小胞体 (ER) が関与する. 虚血によるアミノ酸やglucoseの低下, ER内Ca2+ 低下は異常蛋白蓄積を生じ, ERストレスとなる. 蓄積した異常蛋白のrefoldingにER chaperone GRP78が使われ, ER膜上のキナーゼ (PERK, ATF6, IRE1) を活性化する. いずれもERストレスを改善する遺伝子 (grp78など) を転写するが, PERKはeIF2αのリン酸化によりmRNAの翻訳を抑制し, 蛋白合成を阻害する. 虚血耐性では, GRP78の発現亢進と本虚血後のeIF2αのリン酸化が生じにくく, 異常蛋白の修復が速く, 蛋白合成抑制が生じにくい. バルプロ酸などによるGRP78の増強, ERの保護は神経細胞保護につながる.
著者
安川 毅 藤井 智子
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.42-50, 2005 (Released:2005-03-25)
参考文献数
17
被引用文献数
2 2

手術中や集中治療領域において脳虚血の監視は近年, ますます重要となっている. 頸動脈内膜剥離術や上行・弓部大動脈人工血管置換術は, 術中に一時的に脳血流を遮断あるいは脳灌流を行うので, 脳虚血を監視するために術中モニタリングの工夫が試みられている. そのモニタリングの一つである近赤外分光法 (NIRS) は手技的に計測が簡単であり, 内頸動脈領域など局所脳動脈領域のモニタリングとして有用で, 他のモニターとの組み合わせにより信頼性を増す. しかし椎骨動脈領域を含む全脳のモニタリングには限界があり, 今後の検討が必要である.