著者
堀川 裕司
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.60-73, 2010-09-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
22

自然現象を解明することを目的とした科学と,モノを作ることを目的とした技術はどのように相互作用するのだろうか.本研究は,この問いに対する一つの仮説を提示する.本研究の基本的主張は,明示的な知識の世界と考えられている科学の世界には,暗黙的知識が副産物として深く蓄積されており,この暗黙知が新しい技術を生み出し,それを実用化していく上で非常に重要な役割を果たしている,というものである.
著者
清水 大昌
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.6-12, 2010-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
9

経済学において「競争」というと完全競争がまず浮かぶ.その後,その批判から完全競争の仮定を緩めた不完全競争の分析が考えられる.本稿ではまずそれらの流れを紹介する.またその後それらを踏まえて,競争に関連する研究がどのような設定で行われてきたかについて紹介していく.具体的には収入最大化,混合寡占,そしてオークションに触れる.
著者
巌佐 庸
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.38-45, 2010-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
13

生育・生存・繁殖などに必要な資源を利用している個体同士は,同種でも異種でも他の存在は互いにマイナスの影響を与える.これを競争と呼ぶ.生態学および進化生物学において,競争は生物界をつくり上げてきた基本的なプロセスである.進化において,異なるタイプの生物に生じる競争は自然淘汰および性淘汰の形をとって適応性をもたらす.それらのはたらき方や,細胞レベルの進化である発ガン過程について述べる.
著者
澤田 直宏 中村 洋
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.57-71, 2010-03-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
28

本研究は,競争優位の劣化・逆転の要因について,個々の要素技術や製品アーキテクチャのレベルではなく,企業のビジネスシステムのレベルにおいて考察する.これら分析レベルの相違は,問題に対する解決方法の相違にもつながる可能性がある.本研究では,外部環境変化への適応の問題を「認知」とその後の「アクション」の問題に区分した上で,新たな競争優位劣化・逆転の仮説を提示し,事例研究により検証を行う.
著者
稲水 伸行
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.72-85, 2010-03-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
18

組織的決定のゴミ箱モデルは,「構造が未分化になるほど『問題解決』は一般的なスタイルではなくなり,『見過ごし』と『やり過ごし』が増える」としてきた.そこで,シミュレーションによって検討したところ,⑴構造が未分化になっても,「問題解決」に大きな変化はなく,むしろ「決定を要求される頻度」が低いと増加する傾向がある,⑵「見過ごし」が急減する,⑶「やり過ごし」が急増することが明らかとなった.
著者
竹内 規彦 竹内 倫和
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.38-50, 2009-12-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
33

近年,ミクロ及びマクロの諸理論・諸概念の統合化を図る新たな視点からのリーダーシップ研究が注目されつつある.本研究では,このメソ・アプローチと呼ばれるリーダーシップ研究について,既存の研究類型を踏まえた3つの基本的なメソ・モデル(行動的・文脈的・関係性アプローチ)を提起する.更に,これらモデルを応用した今後のメソ・リーダーシップ研究の理論的・方法論的課題について,2つの研究事例を通じて考察する.
著者
藤原 雅俊
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.84-96, 2009-12-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
28

本稿は,産業間の競争的相互作用に注目し,補完的産業からの影響を包含した技術蓄積メカニズムを分析している.具体的には,デジタルスチルカメラ産業での競争と相互作用しながらインクジェットプリンター産業で印字精度の同質的競争が展開され,産業全体でインクジェット技術が高精細化へと蓄積されていく流れが扱われる.補完的産業との相互作用にまで分析空間を広げて技術蓄積メカニズムを解明することの意義が示唆される.
著者
佐藤 俊樹
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.20-28, 2009-09-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
20

この論文では組織の自己産出系論を解説する.これはN. ルーマンによって提唱された理論で,C.I.バーナードの「協働」やH. A. サイモンの「決定前提の連鎖」をふまえて,組織自身が行為するかのように見えるしくみを,より厳密に再構成したものである. ここでは,まず,そのしくみを「組織としてふるまう」ことの相互参照-自己参照ネットワークという形で定式化する.相互参照-自己参照ネットワークとしての組織は作動的に閉じており,それによって環境に開かれる.それゆえ組織は外部の環境に影響されるが,内的な組織/環境イメージにのみ反応する.この点が自己産出系論の最大の特徴である.
著者
大沼 雅也
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.53-66, 2009-09-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
37

本稿では,既存技術と新規技術の関係性> の経時的な変化という動態的な現象について議論する.このような問題は既存の技術革新研究では必ずしも十分に検討されてきたわけではない.そこで,イノベーションの普及理論をはじめとする議論を基に,技術を利用するユーザーの行動がもたらす影響を組み入れた技術の関係性の変化メカニズムの説明枠組みを,日本におけるX線CTとMRI の普及過程を事例として提示する.
著者
平野 創
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.67-79, 2009-09-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
42

本稿の目的は,投資水準の適正化を企図した設備投資調整により,逆に過剰投資が発生するメカニズムを提示することである.本研究では,石油化学工業を対象とした事例研究を当時の調整主体の会議資料等を利用して行う.事例研究の結果,設備投資調整という行為の本質は各社の投資活動に人為的な時間差を生み出す仕組みに過ぎず,むしろ多数の投資主体を温存するシステムとして機能し,設備過剰を促進していることが明らかにされる.
著者
フェルナルド・F スアレス マイケル・A クスマノ 長内 厚 中本 龍市
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.4-20, 2009-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
41

本稿は,企業が自社の製品技術を支配的なプラットフォーム(PF)へと成長させようとする場合に,サービスがどのような効果を持つのかを議論するものである.サービスは,製品技術と産業の状態に応じて,5つの特別なメカニズムを持っている.サービスは,⑴市場初期に,顧客がPFを採用する際の,不確実性,複雑性を低減する,⑵顧客からのフィードバックを可能にすることでPFを改善する手がかりになる,⑶補完製品,時には競合するPFとさえ連携を可能にし,PFの価値を上げる,⑷PFを採用する顧客への補助として機能する,⑸成熟期においては,製品自体に代わって売上・利益の源泉となり,競争力を維持する手助けになる,という5つの効果がある.
著者
前川 佳一 椙山 泰生 姜 聖淑 八巻 惠子
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.21-36, 2009-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
42

本論文では,富士通のフィールドワークの事業化の事例をもとに,サービス分野のイノベーションにおいてフィールドワークのような定性的な社会科学的方法が持つ意味を検討する.事例の考察から,フィールドワークが研究の形態から変容してサービス化することや,定性的研究法が技術者のコミュニティに受容される際に「比較可能化」されていくことを指摘する.
著者
伊藤 宗彦 長内 厚 松本 陽一
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.37-49, 2009-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
14

本稿は,製品事業のサプライ・チェーンにおける位置取り競争に直面した企業が,本業の製品事業に付随するサービスの提供によって優位性を獲得していることを示し,製品とサービスの融合による企業の競争優位構築の可能性について検討する.本稿では台湾の半導体製造企業であるTSMC社とフランスの家電量販店であるFNAC社の事例をもとにこれらの議論を行う.我が国の産業が,依然としてものづくりの強み持ちながら十分な収益を獲得できない現状に対して,製品・サービスの一貫した取り組みによる価値獲得の方策を示唆する.
著者
西尾 久美子 藤本 隆宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.62-76, 2009-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
27

サービスは人工物制御の出力であるとの観点から,接客サービス現場に製造業で発達してきた広義の「ものづくり」分析のフレームワークを応用する.具体的には,競争力を持つ接客サービス業である京都花街の顧客経験(プロセス)分析,お座敷のチーム作業(オペレーション)分析,人材育成分析を試み,京都花街のサービス現場とトヨタ自動車の組立現場に「多能従業員のチームで良い流れを作る」という意外な共通点があることを示す.
著者
楠木 建
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.31-47, 2009-03-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
53

日本企業の実務家にとって有用な戦略論を提供するために,経営学者はどのような構えをとるべきか.因果論理のシンセシスとしての戦略は,本来は「長い話」であった.しかし,近年の戦略論は「短い話」に終始しがちである.戦略論を本来の姿である「長い話」へと押し戻していくことこそに,実務家でもコンサルタントでもない経営学者の役割がある.そのひとつの試みとして,「ストーリーの戦略論」という視点を提示する.
著者
淺羽 茂
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.48-58, 2009-03-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
22

戦略の実務家教育の問題は,成功事例の解釈は学べても,戦略の構想の仕方が身に付かないことである.ゆえに,戦略構想プロセスの研究が必要である.いくつかの日本企業は,バブル崩壊後に事業の選択と集中によって収益性を回復したが,同時に成長の原資を手放してしまった.現在の不況を脱して日本企業が再成長に向かうとき,同じ轍を踏まないために,長期戦略を構想し,短期の意思決定をそれに連動させることが焦眉の課題である.
著者
若林 隆久
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.47-60, 2008-12-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
23

近年,急速に発達してきている企業ポイント交換市場の構造をネットワーク分析の手法を用いて分析した.その結果,ネットワーク内に混在している多様な主体が各自の意図に基づいて行動していることによって,⑴企業ポイント同士の交換関係についても,また市場全体としても,一方向的で非対称な構造をしており,⑵交換の行える経路が偏在し,交換にかかるルールも区々である複雑な市場となっていることが明らかになった.
著者
山田 幸三 伊藤 博之
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.89-99, 2008-12-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
25

有田焼と京焼の陶磁器産地を比較事例とし,産地の分業構造を事業システムの概念に依拠して捉えて形成メカニズムを探る.有田では中核となる窯元が技能や伝統を伝承して産地を方向付けする責任を果たし,産地のヘゲモニーをもってきた.一方,京都では生産者の窯元,顧客,問屋が「顔の見える」関係にある.両地域とも窯元は他者の真似をしないという不文律があった.産地の分業構造は人材育成の仕組みを基盤とする競争の不文律に支えられてきたことを主張する.
著者
古瀬 公博
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.48-60, 2008-09-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
30

本論文の目的は,中小企業の合併・買収を分析対象として,その取引の特徴を「贈与と売買の混在する交換形態」として整理することである.贈与と売買は必ずしも対立しあうものではない.中小企業M&Aを観察すると,同一の財の取引においても贈与と売買の要素が混在し,また,混在することによって取引が成立していることが理解できる.贈与と売買の二分法では捉えきれない多様な交換形態が存在するのである.
著者
中川 功一
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.69-78, 2008-06-20 (Released:2022-08-19)
参考文献数
7

製品アーキテクチャの変化は,既存の組織の不適合を招き,企業の競争力を著しく低下させる恐れがある.既存研究では,その変化に合わせて,企業は事業組織全体を改編すべきことが主張されていた.本稿ではこれに対し,事業組織の全てを変更せずとも,コンポーネントの技術的相互関係が直接に影響する組織だけを変更することによっても対応できることを,記録型 DVDドライブのイノベーションの事例から検討する.