著者
西口 敏宏
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.4-17, 2001-09-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
19

近年の英防衛調達の活性化は著しい.エージェンシー化された防衛調達庁内に,装備品開発の機能横断的チームを全面展開し,契約企業を早くからチームメンバーとして参加させるなど,民間の製品開発やアウトソーシングの技法を積極的に応用している.さらに国防に関する抽象化されたケーパビリティーを「カストマー」とし,防衛調達庁(上流)と国防省(下流)間にも,サプライヤー=カストマー関係を制度化するなど,革新的なビジネスモデルを展開しつつある.この経験的証拠は,単に民間ベストプラクティスの政府事業への応用といった次元を超えて,組織間関係論や社会システム論に一定の含意をもたらす.
著者
島本 実
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.53-66, 2001-06-20 (Released:2022-07-30)
参考文献数
21

本論文はファインセラミックス産業を題材に,その発展過程を行為システムの視点から分析するものである.この産業は1981年より技術政策の対象とされ,現在では2兆円産業に迫る成長を遂げた.しかし,その過程を複数主体の行為システムと把握すれば,そこには政策を指標とした複数の企業の資源の集中によって間隙が発生し,その間隙に位置した企業によってこの産業の発展がもたらされたというメカニズムが浮かび上がる.
著者
峯野 芳郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.80-91, 2000 (Released:2022-07-27)

地方公共団体においては,組織内の調整や統合を図る管理技能や,組織を代表して外部の圧力団体に抵抗する技能こそが重要である.しかも,これらの技能は,組織外から導入することが困難であり,昇進を含む人事異動による職務経験を通して育成されることになる.ここでは,ある政令指定都市の人事異動の状況を分析するとともに,民間企業とは異なる地方公共団体という組織の特徴から上記の点が確認され,理解される.
著者
伊地知 寛博
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.54-75, 2000 (Released:2022-07-27)

知識生産の主要なアクターである大学と知識を経済・社会的価値に変換する主要なアクターである企業との連携がますます求められている.しかし,産学間のインタラクションでは,必然的にその利害に相違があり,利益相反のマネジメントが重要となる.本稿では,利益相反のマネジメントが実際に重要であることを浮き彫りにし,主要諸国における利益相反のマネジメントに対する取り組みの制度・運用面での現状を示し,日本の現状と比較する.そして,利益相反のマネジメントは,とくに法人化された大学においてはコーポレート・ガバナンスの課題の一つであり,その質的な向上を図るためには,先進的な経験に倣ってベンチマーキングの概念を援用することが有益であろうということを示唆する.
著者
榊原 清則
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.45-53, 2000 (Released:2022-07-27)

日本の産学連携は実りに乏しいといわれ,大学がしばしば批判されている.だがそれは大企業を中心とする偏見の疑いがある.中小企業やベンチャー企業に着目すれば,むしろ実効性の高い産学連携が進んでいることを,データは示しているからである.本稿では,産学連携の日本における実態を明らかにし,知識生産システムの変容を論じている.
著者
松井 剛
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.105-115, 1999 (Released:2022-07-27)

本稿では,1993年~95年にかけて国内で発行された雑誌の内容分析を行い,ポケットベルについて複数の社会集団が当時共有していたと思われる捉え方(これを本稿では「社会的定義」と呼ぶ)を測定する.そこで明らかになったのは,接触・使用経験がより深い社会集団ほど,ポケットベルの社会的定義の多様性がより高い,ということである.本稿では,こうした違いが生じる理由を考察する.
著者
高尾 義明
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.79-87, 1999 (Released:2022-07-27)

組織が成員のふるまいに還元できない集合的行為主体として選択を行っているという了解の成立を,成員のふるまいが組織の選択として関連づけられる組織コンテクストの編成という観点から検討する. まず,日本の企業組織において「職場」が組織コンテクストとして機能しているメカニズムを上位権威の制度化と比較しながら明らかにする.続いて,日本型の組織コンテクスト編成を社会文化的進化という見地から理論的に考察する.最後に,電子メディアの導入との関係から日本型の組織コンテクスト編成の今後の展望を示す.
著者
加藤 俊彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.69-79, 1999 (Released:2022-07-27)

技術発展の方向性を規定する要因については,長年にわたり議論が展開されてきた.特に最近では,経営学をはじめとする技術研究で支配的な枠組であった「決定論的視座」に対抗する「非決定論的視座」に基づく議論が,この領域で活発に展開されている.そこで本稿では,議論の前提に遡って技術発展の規定要因に関する既存の文献を整理・検討した上で,「技術システムの構造化理論」という概念枠組を提示する.この概念枠組は,二つの視座を発展的に統合するものである.ただし,ここでの焦点は,決定論的視座を擁護するのではなく,むしろその重大な問題点を明らかにすることに,当てられる.
著者
網倉 久永
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.48-57, 1999 (Released:2022-07-27)

「機械」のメタファーは組織研究において非常に強い影響力を持ってきた.コンティンジェンシー理論においても,「有機体」のメタファーが提唱されていたが,実際には「機械」メタファーの影響から逃れてはいない.その原因は,テーラーの科学的管理法の時代からコンティンジェンシー理論に至るまで,経営学の目的は経験事象の体系的な観察から実証的に因果関係を確立することであるという「経営学の科学化」志向があり,さらにその背後には決定論的・機械論的な世界観が存在していた.日本における組織研究では,1980年代半ばから「自己言及」という論理タイプか導入され,決定論的世界観と決別しようとする方向性が打ち出されてきたものの,新しい理論構築のための基礎が十分に確立されていないため,現在の組織研究は進むべき方向を見失っている.
著者
山岸 俊男
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.24-34, 1999 (Released:2022-07-27)

通常は集団との心理的同一化の結果として理解されている日本人の集団主義的な行動傾向か,集団との同一化によってではなく,集団の内部に一般的互酬性が存在することに対する期待によりもたらされていることを示す一連の実験を紹介する.これらの実験の結果は,集団成員からの互酬的な「内集団ひいき」が期待できない状況においては,実験参加者が集団主義的に行動しなくなることを示している.
著者
金井 一賴
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.48-57, 1999 (Released:2022-07-27)

地域における戦略的社会性をもったネットワーク(ソシオダイナミクス・ネットワーク)の形成と展開のプロセスを,場の創造および場と場の連結のプロセスの観点から明らかにする.この中で特に,市民企業家の事業コンセプトの創造や場の設定,連結といった行動が分析される.さらに草の根で活動する市民企業家を地域政策形成の場に組み込むことによるミクロ・マクロループの活発化を通じた地域活性化の方法が提示される.
著者
加護野 忠男
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.47-54, 1999 (Released:2022-07-27)

この論文では,吉田民人のプログラム科学という考え方に準拠しながら,経営学の歴史を振り返り,プログラム科学という考え方が経営学にとってどのような意味をもつかを考える.実践との深いかかわりをもつ経営学は,新たな混沌期に入っている.かつて支配的であった自然科学的方法に対して,さまざまな疑問が提唱されることになった.このような状況で,プログラム科学は経営学にどのような示唆を与えているか,経営学の視点から見たときにプログラム科学の課題は何かを考える.
著者
原田 勉
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.78-96, 1998 (Released:2022-07-27)

本稿の目的は,研究開発組織におけるゲートキーパーの役割について中堅工作機械メーカから収集したデータをもとに再検討を行うことにある.既存の研究では,ゲートキーパーの受け持つ機能として,①情報収集機能,②情報伝達機能,が指摘されてきたが,現在では,それに加え,③知識転換機能が重要な役割を果たしていることを議論する.そして,これらの機能のうち,情報収集機能と知識転換機能には別々の異なった,しかも相対立するスキルが要求されるため,ゲートキーパーとコミュニケーション・スターは一致せず,したがって,2段階ではなく3段階のコミュニケーション・フローが生じるというのが本稿の基本的な仮説である.
著者
原田 勉
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.93-111, 1998 (Released:2022-07-22)
被引用文献数
1

本稿の目的は,日本工作機械産業における技術革新のプロセスについて汎用・専用技術の相互転換プロセスという独自の概念によって分析し,その背後にある学習メカニズムについて明らかにすることにある.われわれは,汎用・専用技術の相互転換プロセスは両技術の相互浸透したインターフェイス知識の増大を伴うということを議論する.インターフェイス知識は,汎用・専用技術の相互転換プロセスを助長する機能をもっており,技術革新を推進していく上で極めて重要な役割を担っている.このようなインターフェイス知識をいかに効率的に蓄積していくかが今後の工作機械産業のみならず技術融合が進むハイテク産業においても重要な課題となることを議論する.
著者
高橋 伸夫
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.14-27, 1998 (Released:2022-07-22)
被引用文献数
5

日本企業で見られる意思決定の多くは,ゲーム理論や決定理論から見ると一見不合理なものに感じられるが,実は「未来の重さ」によって導かれた合理的なものである.非ゼロ和の世界では均衡も安定ももはや説得的ではなく,これらに代わって経営の現場で実際の行動に意味を与え続けてきたのが「未来の重さ」である.単に概念としてではなく,実際に手応え,やりがい,生きがいとなって,われわれの日常感覚の基礎をなしてきている.
著者
國領 二郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.4-13, 1998 (Released:2022-07-22)

情報・通信産業などにおいて,商品供給連鎖を構成する諸階層のうちで,自社の提供する階層を絞る一方で,自分がコミットする階層についてはより多くの地域で高いシェアをとろうとするプラットフォーム型の経営戦略が一般的になりつつある.プラットフォーム型経営戦略がただちに全ての産業に広がることは考えられないが,このトレンドは知識経済化の現われであると認識され,今後広がることが予想される.プラットフォーム型経営戦略は短期的には従来の日本の組織の強みを否定するが,情報技術を組織構成員間の文脈共有の道具として活用していくことに成功すれば,日本の組織の強みを強化するものともなりうる.
著者
長瀬 勝彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.60-78, 1997 (Released:2022-07-22)

この報告の目的は,競争的状況下におけるリスクを含む連続意思決定について,合議決定と個人決定を動態的に比較分析することにある.被験者212名を対象にした実験の結果,いくつかの事実発見があった.強気の意思決定が高いパフォーマンスをもたらすポジティブ・フィードバックが続くと,個人群よりも2人合議群,4人合議群と人数が多い方がよりリスク・シーキングな意思決定を下すようになった.また,弱気の意思決定が高いパフォーマンスにつながるネガティプ・フィードバックが与えられると,逆に人数が多いほどリスク・アバースに振れた.全体的に,環境からのフィードバックに対しては個人よりも小集団合議のほうが敏感に反応し,またその反応は単純であると考えられる.この結果は,選択シフト,プロスペクト理論,エスカレーティング・コミットメント,組織の慣性等の諸理論に新しい論点を提供する可能性がある.
著者
輕部 大
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.85-98, 1997 (Released:2022-07-22)
被引用文献数
1

半導体プロセス技術における日米の支配的な企業戦略の違いに注目して,両国の資源投入パターンの違いを明らかにする.その上で,資源投入パターンの相違が生み出される原因を,外部事業化の可能性の違いという経済制度的要因に求め,その要因が企業戦略に与える影響を考察する.最後に,外部事業化の可能性が高い米国型システム下では,資源投入の2極分化が起きやすくなる,という論理的な可能性を仮説として提示する.
著者
伊藤 秀史
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.51-59, 1997 (Released:2022-07-22)
被引用文献数
1

本論文で紹介される組織の分析視座は,次の3つの要素からなる.(1)ゲーム理論の人間観.(2)階層組織のエージェンシー・モデル.(3)集団ネットワークとしての組織とりわけ,組織のメンバーが集団を形成し集団として行動する可能性を,元来個人主義的な人間観に立脚したエージェンシー・モデルに導入し,組織を個人間の相互作用と集団のネットワークを規定する全体的ルール設計の問題として捉える見方を強調する.
著者
福留 恵子
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.37-50, 1997 (Released:2022-07-22)

組織成員間の自由なコミュニケーションは,組織の活力や創発,成員の満足などとの関係からその重要性が注目されているが,現場におけるその実現や維持は決して容易ではない.本論文ではグループウェア等情報通信技術の利用現場の経験から,自由なコミュニケーションの実現・維持の試みが自由と制約の循環に陥りがちであること,さらにルーマンらの議論を参考に,それが実は(近代組織にとって)原理的・必然的な事態であることを示す.その上で,この困難を解消して自由なコミュニケーションを導入するためのマネジメントのデザインを考察する.