著者
竹内 規彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.39-50, 2023-09-20 (Released:2023-09-30)
参考文献数
50

本稿では,人的資本を扱う戦略的人的資源管理(SHRM)研究の文献レビューから,既存研究の課題を整理するとともに今後の研究方向性について議論する.具体的には,株主価値向上モデルに基づく従来のSHRM研究において,人的資本の議論がより狭義の「認知的KSAOs」に限定されている点を明らかにした.さらに,経済的,社会的,環境的側面での価値向上を重視する持続可能性パラダイム下では,「非認知的KSAOs」を含む新たな人的資本の構成要素にも着目することや,既存の認知的KSAOsとの相互作用が重要となることを提起する.
著者
青島 矢一 金 柄式
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.4-19, 2023-06-20 (Released:2023-07-12)
参考文献数
21

日本の上場企業のデータを用いて余剰資源がR&D活動やベンチャー投資に与える影響を実証した.分析結果からは,(1)余剰はR&D活動やベンチャー投資を促進するが,その関係は一部非線形であること,(2)R&D支出の増大は非主力製品分野への資源配分比率を減少させること,(3)外国人株主比率はR&D支出を増大させるが,その効果は低減すること,(4)高い利益率はR&D活動への支出やベンチャー投資を抑制させることが示された.
著者
田中 辰雄 山口 真一 彌永 浩太郎
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.47-56, 2019-03-20 (Released:2019-06-16)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本研究ではフリーミアム型コンテンツ産業の例としてモバイルゲームをとりあげ,そこでは多数の製品を出す分散型と,一つの製品に集中する集中型の二つの戦略が存在することを示した.当たり外れの多いコンテンツ産業において一つの製品に集中する戦略は異例であり,ネットワーク効果が働くフリーミアムならではの新しい戦略と考えられる.
著者
筈井 俊輔 吉澤 剛
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.4-17, 2023-03-20 (Released:2023-06-02)
参考文献数
30

2000年代以降,組織ルーチン研究においてはFeldman‌ &‌ Pentland(2003)をはじめとする,組織活動のダイナミクスを行為や実践の局面に収斂させる方法が主流になっている.本論文ではその問題点を指摘し,批判的実在論に基づいて組織ルーチンを捉え直す.そして,新たに得られた「重層的ダイナミクス」という視野が経営の実践にどのような示唆をもたらすのか,インフラ構築の切り口から考察する.
著者
片倉 もとこ
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.76-82, 1993 (Released:2022-07-15)

アラブ・ムスリム社会の人間関係を,主に日本社会の人間関係と対比し,個人と集団の主張がともになされる両極型の集団様式,開放的な人間関係のあり方,個人を所属集団の一因としてよりも個人の資格において認識する考え方,神の前にすべての人間が平等であるとする平等主義や実力主義をもととした,水平型の集団構造などについて考察する.
著者
高瀬 武典
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.4-11, 2006-06-20 (Released:2022-08-05)
参考文献数
14
被引用文献数
3

組織進化のモデルは変異-選択-保持の3段階からなる.組織変動研究に進化モデルが多く採用されてきた理由は,変異の段階に組織の自発的・創造的な側面を,選択の段階に環境からの影響を強調するというかたちで組織と環境の相互作用を変動分析に組み込むことが可能な点にある.進化モデルはいくつかの局面で「時間」の捉え方が重要な意味をもつ.本稿では時間について従来の循環型・線型の区別に加えて有界型・無界型の区別を導入し,組織=環境関係のモデルの精密化を図ると同時に現代日本に生じている組織進化の状況について考察する.
著者
関 満博
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.4-14, 2002-12-20 (Released:2022-08-03)
被引用文献数
2

日本の各地には興味深い工業集積地が広く成立している.そして,それは地域経済の主要な担い手としての役割を演じてきた.だが,全国の工業集積地は,地域内の大手企業のアジア移管などにより,現在,大きな曲がり角に直面している.本稿では,全国の工業集積地の中でも,精密機械工業の集積によって知られる長野県岡谷に注目していく.現状の岡谷の苦しみと,それに対する取り組みは,全国の工業集積地の先駆的なものであろう.
著者
玄田 有史 神林 龍 篠﨑 武久
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.18-31, 2001-03-20 (Released:2022-07-30)
参考文献数
25
被引用文献数
4

成果主義的賃金制度が労働意欲を刺激するには,どのような条件整備が必要だろうか.成果主義が導入された職場でホワイトカラー非管理職の労働意欲が高まるには,能力開発の機会拡大が重要である.それは,性別,年齢,学歴,職種等の個人属性,規模,社員増減,業績等の企業属性の違いを超えてあてはまる.能力開発と並び,仕事の分担や役割の明確化も労働意欲を高め,これらは職場全体の個々の能力を活かす雰囲気も改善する.
著者
佐藤 郁哉
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.4-15, 1998 (Released:2022-07-22)

ある種のアート組織は,個性と個人レベルの業績を何よりも強調する芸術活動をチームワークを重視する組織という器の中で行なわざるを得ないという点で,根本的な矛盾を内包するシステムである.本論文では,この「不可能なシステム」としての芸術団体の特質について,日本の現代演劇系の劇団の事例を通して検討する.日本の劇団が抱えるさまざまなレベルとタイプの葛藤やディレンマについては,組織環境と組織構造・組織過程をめぐる問題という文脈だけでなく,組織体および組織フィールド・レベルでのアイデンティティの拡散に由来する問題として把握可能であることが示される.
著者
竹内 倫和 竹内 規彦
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.132-145, 2011-03-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
39
被引用文献数
3

本研究では,社会的情報処理理論を基に,新規参入者が結ぶ上司及び同僚との社会的交換関係(LMX・TMX)の質が,組織社会化戦術と組織適応とを媒介する仮説が導かれ,その検討が行われた.新規参入者137名の縦断的調査(入社1・2年目) データの分析から,仮説が支持された.この結果から,入社初期段階での上司・同僚との社会的交換関係の重要性が示唆され,その理論的・実践的含意が議論された.
著者
阿久津 聡
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.14-29, 2002-09-20 (Released:2022-08-03)
参考文献数
95
被引用文献数
1

これまでブランドを研究対象としてきたのが主にマーケティングの分野だったこともあり,ブランド戦略の研究は経営戦略論の中で比較的関心の低いものだった.しかし,市場と組織の接点であるブランドの戦略を策定し実行することは,ポーターの競争戦略論に基づく「外から内」の え方と資源ベースの戦略論に基づく「内から外」の え方との間に生じる対立を弁証法的に綜合する作業と捉えることができる.戦略家が直面する矛盾やジレンマを乗り越えるために,ブランド戦略が広く経営戦略論の中で研究されることの意義について議論する.
著者
酒井 健
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.69-81, 2016-12-20 (Released:2017-08-28)
参考文献数
21

新技術の制度化を進める上で,制度的企業家が誰をどのように支援者にすればよいのかという問題は,既存研究では十分には解明されていない.制度的企業家は,技術を正統化する権力の構造を読み解いて,制度化の鍵となる支援者を見出し,その支援を引き出すためにフレーミングを通じて政治的に働きかけるのである.本論文では,支援者の選別とフレーミングによる政治的働きかけが新技術の制度化の成否を左右することを示す.
著者
関 満博
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.43-51, 2002-06-20 (Released:2022-08-03)
被引用文献数
1

中国広東省の深圳-東莞に至るエリアは,現在「世界の工場」と言われている.特に,OA機器に関する世界最大の生産地になっている.それを促した条件としては「広東型委託加工」「転廠」「無限大の労働力供給」「香港のビジネス環境の良さ」が指摘される.香港企業,台湾企業の進出が多い.日本勢としては,「深圳テクノセンター」と言われる組織が,興味深い活動をしている.
著者
伊藤 清彦 ローズ エリザベス L. 趙 殷範
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.4-13, 2011-06-20 (Released:2022-08-20)
参考文献数
32
被引用文献数
1

企業固有の優位性,先発者の優位性,規模の経済の概念に基づいて,企業の国内競争力と多国籍度との関係を調査した.大手企業は経営資源を多く持つため,多国籍度が高いと思われる.しかし日本企業のデータの分析結果からは,企業規模と国際経験をコントロールすると,日本国内市場のリーダー企業は競合他社に比べて,多国籍度が低くなりがちであり,多国籍度に関してはリーダーが後続企業のあとを追っている状況がうかがえる.
著者
山口 栄一 水上 慎士 藤村 修三
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.30-44, 2000 (Released:2022-07-27)
被引用文献数
5

技術創造の方法論として,基礎研究から開発に至る線形モデルは衰退し,技術と科学とのフィードバック・ループによるモデルの有効性が高まってきた.そのため「実行情報」の担い手の共鳴場を作ることが急務の課題であり,大学等の研究施設を企業に開放するなど研究者の地域的集積を図る必要がある.公的な研究支援では,研究主体とは独立し自己革新の契機をもった目標設定と評価の主体が不可欠である.
著者
具 承桓 加藤 寛之
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.4-18, 2013-06-20 (Released:2013-11-07)
参考文献数
49
被引用文献数
2

1990年代後半〜2000年代前半に生じた日韓造船産業の競争力逆転の背景のメカニズムを明らかにする.長期の時間軸を設定し競合するプレイヤー間の相互作用を焦点とした分析を行った結果,長期停滞の後に造船市場が成長市場へと再突入を果たした際に,成長機会を捉えた韓国大手は必ずしも戦略的な行動の結果現在の地位を築いたわけではないこと,日本の旧大手企業ではまさにその時期に多角化の成功が成長の桎梏になっていたことを指摘する.
著者
山田 仁一郎 松岡 久美
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.17-28, 2014-03-20 (Released:2014-06-30)
参考文献数
32

本研究では,大学発ベンチャーにおける企業家研究者の中長期的な関与の変化と離脱に至る過程を,心理的オーナーシップの観点から考察する.バイオ系2社の比較事例分析の結果,企業家研究者の技術とその事業に対する責任の認識から生まれる心理的オーナーシップは,企業家研究者とベンチャーやその利害関係者との関係の変化や離脱に影響することが明らかになった.
著者
稲水 伸行 牧島 満 島田 祐一朗
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.17-32, 2022-09-20 (Released:2022-12-02)
参考文献数
27

ハイブリッド・ワークではどの場所にどのように時間を配分すべきかが問われる.本研究では,ある企業から取得したオフィス内の位置情報とオンラインチャットのデータ,質問紙調査のデータを分析した.その結果,オフィス内利用場所の多様性が中程度であるとクリエイティビティが高いことが明らかとなった.このことは,場所と時間の配分に関する制約がなくなる中,主体的にそれらの配分を選択できていることの重要性を示唆するものであった.
著者
金間 大介 西川 浩平
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.74-89, 2017-12-20 (Released:2018-03-30)
参考文献数
68

本稿は,どのような環境にある企業が自社以外の組織に技術を提供しているかを,第2回全国イノベーション調査の結果を用いて計量的に検証した.その結果,イノベーションの収益化のための専有可能性として法的保護の有効性が高い企業ほど,また自社の補完的資産を把握している企業ほど,多様な外部組織へ技術提供していることがわかった.さらに,市場環境の変化が企業の技術提供に影響を及ぼしていることも明らかとなった.
著者
臼井 哲也
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.4-17, 2020-06-20 (Released:2020-08-20)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本稿は,日本に研究拠点を置く我々が,日本企業の研究を通じて世界の学界へいかに貢献できるのか,あるいは貢献すべきなのか,その戦略的方向性を明示する試みである.かつて日本企業研究が世界へ残した貢献を振り返るとともに,日本企業への関心が減退した2000年以降から現在まで,日本企業を対象としたトップジャーナル論文をレビューする.これらを踏まえ,世界の学界への貢献に資する日本企業研究の3つの戦略的方向性を提示する.