著者
盛岡 頼子 佐藤 弘 代田 文彦 山内 浩
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.845-849, 1999-03-20
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

肝硬変による腹水の治療は困難なものが多いが, 腹部症状を目標に大建中湯を用いて腹水が消失した症例を経験した。症例は67歳, 女性, 胃癌手術の際にC型慢性肝炎が発見され, 胃癌の術後より腹水が出現し, 利尿剤を投与されたが, 腹水貯留は著明で, 腹壁瘢痕ヘルニアのため2回手術が行なわれた。開腹時の肉眼所見では肝硬変像を呈していた。食欲不振, 易疲労が改善しないため, 漢方外来を受診した。補中益気湯, 五苓散, 小建中湯などを投与したが, 効果はみられなかった。しかし腹部の冷え, 腹鳴を目標に大建中湯を投与したところ, 腹部症状は改善し, 腹水が徐々に減少し, 腹部超音波検査でも消失し, 利尿剤も中止することができた。大建中湯による腹水消失の報告は調査した範囲ではみられず, 興味ある症例と考えられ報告した。漢方では患者の訴える症状や所見を注意深く観察し処方を決めていくことが重要と思われた。
著者
盛岡 頼子 佐藤 弘 代田 文彦 山内 浩
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.845-849, 1999-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

肝硬変による腹水の治療は困難なものが多いが, 腹部症状を目標に大建中湯を用いて腹水が消失した症例を経験した。症例は67歳, 女性, 胃癌手術の際にC型慢性肝炎が発見され, 胃癌の術後より腹水が出現し, 利尿剤を投与されたが, 腹水貯留は著明で, 腹壁瘢痕ヘルニアのため2回手術が行なわれた。開腹時の肉眼所見では肝硬変像を呈していた。食欲不振, 易疲労が改善しないため, 漢方外来を受診した。補中益気湯, 五苓散, 小建中湯などを投与したが, 効果はみられなかった。しかし腹部の冷え, 腹鳴を目標に大建中湯を投与したところ, 腹部症状は改善し, 腹水が徐々に減少し, 腹部超音波検査でも消失し, 利尿剤も中止することができた。大建中湯による腹水消失の報告は調査した範囲ではみられず, 興味ある症例と考えられ報告した。漢方では患者の訴える症状や所見を注意深く観察し処方を決めていくことが重要と思われた。
著者
南澤 潔 古田 一史 三潴 忠道 寺澤 捷年
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.515-519, 2002-09-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
20

抗生物質治療に抵抗性であった84歳男性の敗血症患者に対して, 黄耆建中湯が奏功した症例を経験した。患者の血液培養からは継続してクレブシエラが検出され, 明らかで無いながら感染源として腸管からの bacterial translocation が疑われた。2週間の抗生物質治療にも関わらず弛張熱と血液培養陽生が持続し, 菌交代現象が示唆された。このため抗生物質を中止の後, 黄耆建中湯単独にて加療したところ徐々に発熱, 炎症反応の低下が見られ, 抗生物質を再開することなく血液培養も陰性化し, 患者は完全に回復した。黄者建中湯は「虚労を治す」とされているが, 敗血症治療に奏功したとの報告は見られない。機序は明らかでないが, 黄耆建中湯が特に高齢者や免疫機能低下状態の重篤な感染症の治療に有用である可能性が示唆された。
著者
小山 誠次
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.469-475, 1996-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
39
被引用文献数
2 2

帰脾湯及び加味帰脾湯の出典について論考した。今日一般的に帰脾湯は人参, 白朮, 茯苓, 竜眼肉, 酸棗仁, 黄耆, 遠志, 当帰, 木香, 甘草, 生姜, 大棗と処方される。『済生方』の帰脾湯には当帰, 遠志が配合されず,『玉機微義』では『済生方』処方に当帰を加味した帰脾湯が記載され,『薛氏医案』中の諸書では更に遠志も加味した処方が記載されている。一方, 加味帰脾湯は『薛氏医案』中の諸書にあっては, 柴胡, 山梔子加味の処方, 柴胡, 牡丹皮, 山梔子加味の処方, 牡丹皮, 山梔子加味の処方の3種類が記載されている。いずれも我が国で江戸時代の通用処方書に採用されていたが, 今日では柴胡, 山梔子の加味方が最も多く処方される。これは恐らく『勿誤薬室方函』及び『勿誤薬室方函口訣』の影響によるものではないかと思われる。総じて, 出典としては帰脾湯も加味帰脾湯も共に『済生方』,『玉機微義』,『薛氏医案』をもって充てるのが順当である。
著者
小林 豊 喜多 敏明 柴原 直利 後藤 博三 寺澤 捷年
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.73-78, 1999-07-20
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

再発性口内炎に清熱補血湯が奏効した四症例を報告した。清熱補血湯の使用目標は「血虚と血中燥熱があり, そのために口舌に瘡を生じ, びらんし, 痛み甚だしく, 長く癒えないもの」といわれている。症例は全てが女性であったが, 妊娠や分娩を契機に, あるいは月経のたびに再発性口内炎が増悪する傾向がみられた。また, 一例はベーチェット病の急性増悪による発熱や炎症など全身症状が治まった後に発症した再発性口内炎症例であった。これら血虚が悪化しやすい状態に伴った再発性口内炎に清熱補血湯が有用である可能性が示唆された。
著者
幾嶋 泰郎
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.775-781, 2008 (Released:2009-05-15)
参考文献数
17

東洋医学では生体のエネルギーが不足した状態を気虚と説明している。生体エネルギーの低下状態では新陳代謝も低下し,血液検査に反映されると推測し,13カ月間に当院に来院した新患333名を対象に,気虚スコアにおける気虚病態の有無と血液生化学検査値の低下の有無との間でカイ二乗検定を行い,危険率0.0001未満で有意であった。感度は49%であったが,陽性的中率は85%であった。通常の血液生化学検査で基準値未満の検査結果がある場合,『異常ではない』と考えず,『新陳代謝が低下した疲弊した状態』と認識する必要がある。
著者
田原 英一 後藤 雄輔 吉永 亮 井上 博喜 矢野 博美
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.94-101, 2020

<p>四物湯を含む処方が奏功した6例を経験した。症例1は13歳男性で起床困難であったが,集中力低下を目標に治療したところ,通学も可能になった。症例2は18歳女性で,起床困難だったが,同じく通学が可能になった。症例3は10歳女性で,治療により部分的に通学可能となった。症例4は42歳男性で,社交不安に対して四物湯を追加したところ改善した。症例5は多愁訴であったが,四物湯を含む処方で症状が軽減した。症例6は56歳女性で同じく多愁訴であったが,四物湯を含む処方で症状が軽減した。いずれの症例もうつ,不安が明らかであり,4例でコルチゾールの低下を認め治療により回復した。四物湯は血虚を治療することで集中力,判断力を回復し精神症状を改善すると考えられる。</p>
著者
西内 崇将 奥谷 雄一 山岸 善文 藤田 俊和 清水 輝記 清水 寛
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.369-377, 2012 (Released:2013-07-19)
参考文献数
32

症例は84歳の女性で,横行結腸と肝臓へ直接浸潤した切除不能進行胆道癌である。本例はgemcitabine(GEM)単剤による化学療法を施行した。同時に東洋医学的所見として気血両虚の状態であったため,十全大補湯を化学療法開始の段階から併用した。その結果,3コース後の腹部造影CT/腹部エコーでは完全寛解(CR)と言える著明な腫瘍縮小効果を認めた。切除不能胆道癌に対する化学療法として腫瘍の消失にまで至ることは極めて稀であり,これまでに同様の報告はない。ここに文献的考察を加えて報告する。
著者
竹谷 徳雄
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.185-190, 1989-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
19
被引用文献数
1 2

機能的夜尿症と考えられる62例に漢方随証治療を行った。頻尿が著明でない尿保持群20例において85%の有効率を示し, 全例に何らかの効果を認めた。一方, 頻尿を認める自発覚醒群10例, 夜尿群27例においては無効例がそれぞれ20%, 40%にみられ, 何らかの併用療法を必要とし, 難治な例がみられた。漢方方剤として葛根湯, 麻杏甘石湯, 越婢加朮湯, 柴胡桂枝湯, 桂枝加竜骨牡蛎湯, 小建中湯, 甘麦大棗湯を多用した。特にどの方剤が有効ということではなく, 病型に左右された。しかし越婢加朮湯については有効例がなく, 証の取り違いが考えられた。夜間覚醒困難を麻黄剤の証の一部に取り入れて用いたが, 有効率が他と変らず妥当であったと思われる。漢方治療は副作用が少なく, 長期にわたって容易に継続でき, かつ精神的・肉体的ストレスを和らげて目覚めやすくし, 頻尿も改善するので有用な治療法であると結論できる。
著者
小山 誠次
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.529-534, 1995-01-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
23
被引用文献数
2 1

加味逍遙散の出典は書物により一定しない。今日の10種薬物の処方からみれば,『和剤局方』には単に逍遙散のみ収載され,『女科撮要』,『内科摘要』には生姜, 薄荷を含まない8種薬物の処方が収載されているだけである。薛己以後,『万病回春』に初めて10種薬物の処方が登場する。また四物湯合方の出典も書物により一定しない。『和剤局方』には四物湯合方の記載はないが,『内科摘要』に8種薬物処方の加味逍遙散合四物湯の医案例がある。更に『勿誤薬室方函口訣』には10種薬物処方の加味逍遙散合四物湯は確かに記載されているが, 今回の調査でそれより約90年前の『療治経験筆記』に周身痒瘡に対する同合方の記載を見出した。一般的に方剤の出典は, 加味逍遙散のように成立経緯が複雑な場合, 構成の各段階に貢献のあった所作は全て出典の一部分をなし, 合方については原則的に複数処方を用いて著明な治験例があった所作が出典になると考察した。
著者
夏秋 優 武田 裕美子 矢野 倫子
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.255-259, 2000-09-20
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

顔面の皮疹に対して紫雲膏, 太乙膏を外用していたところ, 激しい皮膚炎を生じた50歳の女性症例を報告した。皮膚炎はステロイド療法にて約2週間で略治し, 以後, 再発を認めていない。パッチテストの結果, 紫雲膏, 太乙膏, およびそれらの成分である紫根とミツロウで陽性反応を認めた。このことから, 自験例はこれらの外用剤によるアレルギー性接触皮膚炎と診断した。漢方外用薬による接触皮膚炎は少ないものの, 使用中に皮膚症状が悪化した場合はその外用剤による接触皮膚炎を疑う必要がある。
著者
小山 誠次
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.63-69, 1996-07-20
参考文献数
32
被引用文献数
2

〓苡仁は, 往古は不老延寿の薬であった。『黄帝内経素問』には真心脉を〓苡仁に例えて形態的特徴が記され, また『金匱要略』には〓苡仁を含む四処方が記載されている。〓苡仁の治疣作用については,『本草綱目』や『能毒』にも記載なく, 江戸時代の治疣療法としては艾灸もよく用いられた。〓苡仁の治疣作用を最初に記載した文献は『大和本草』であるとされているが, その病変の記述からは疣贅とは即断できない。従来はその後の『松蔭医談』の〓苡仁の治疣記載を経て,『青嚢瑣探』の治疣神方が最初の治疣処方とされて来た。しかし今回の独自の調査で『青嚢瑣探』の20年前に, 山田元倫撰『名家方選』に「治疣方 〓萩三銭甘草一分」という内服のみならず外用にも用いる処方の記載を見出した。治疣作用の発見は恐らくチョウセンムギの菓子としての摂食よりも〓苡飯, 〓苡粥による大量摂取によって著効例を多数経験したことによるものではないかと考按した。
著者
西岡 五夫
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.631-644, 1996-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

大黄の向精神作用について, 化学的, 行動薬理学的及び神経化学的検討を行い, 下記の結論を得た。1. 大黄の向精神作用成分は, RG-タレニンである。2. 大黄の向精神作用は, 典型抗精神病薬の作用によく一致するが, 行動毒性を伴わない特長がある。これは, カタレプシーなどを惹起しないこと, また脳内ドパミン神経系の黒質―線条体路に対する影響が少ないことから立証された。
著者
新井 一郎 津谷 喜一郎
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.161-171, 2011 (Released:2011-07-08)
参考文献数
9
被引用文献数
1

漢方の英語論文において文献データベースで付与されているキーワードと論文中の漢方の英語表現との関係を調査し,漢方が英語論文中でどのように表現されるべきかを考察した。まず,The Cochrane Library中のCENTRALからPubMed由来の漢方論文を選出した。“Medicine, Kampo”というMedical Subject Headings(MeSH)が付与されている論文は,本MeSHが設定された2000年以後では53報中13報と少なかった。次に,論文中の“Kampo”という言葉の有無や漢方が“Japanese medicine”と表現されているかどうか,また,それと“Medicine,Kampo”付与との関係を調査した。その結果,論文中に“Kampo”と“Japanese”を含む表現が併記されていると,“Medicine,Kampo”が付与される割合が高いことが判明した。英語論文を書く場合には,漢方の英語表現として“Kampo”および“Japanese”が含まれる“Kampo medicine (traditional Japanese medicine)” のような表現を用いるべきである。
著者
有光 潤介 萩原 圭祐 大塚 静英 中西 美保 岸田 友紀 井上 隆弥 加藤 由紀子 大谷 安司 尾崎 和成 清水 健太郎 蔭山 充 西田 愼二
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.548-555, 2011 (Released:2011-10-21)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

サフランは,駆瘀血剤として使用される。瘀血は西洋医学的な病態で考えると,血液の粘稠度亢進と微小循環障害と解釈できる。今回我々は,サフランの臨床的な駆瘀血効果を観察し,血小板活性化の指標である,platelet factor4(PF-4)とbeta-thromboglobulin(β-TG)を瘀血のマーカーとして検討した。リウマチ膠原病アレルギー患者71人(女性66人,男性5人,平均年齢52.3 ± 16.1歳)にサフラン(300mg∼900mg)を投与し,78.7%(n=37/47)の自覚症状の改善を認めた。投与前後での血漿中PF-4,β-TGともそれぞれ有意な改善を認めた(PF-4:49.6 ± 29.8→24.0 ± 19.6,β-TG:117.5 ± 64.0→64.6 ± 47.1,paired t-test, p
著者
浜田 幸宏 赤瀬 朋秀 田代 眞一 佐川 賢一 島田 慈彦
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.645-650, 2003-05-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

最近, 使用量が急増している大建中湯エキス顆粒の使用実態を北里大学病院において6ヵ月間にわたり調査した。またその調査から剤形に関する問題点が浮かび上がったので大規模病院8施設において実際に服用実態を把握している看護師にアンケート調査を行った。大建中湯エキス顆粒は, 北里大学病院において, 主に婦人科および外科から処方されており, いずれも手術後が多かった。こうした患者への投薬は経管など看護師の手で行われていたことから大建中湯エキス顆粒を与薬する際に生ずる問題点を抽出する目的で行ったアンケート調査の結果, 与薬した患者からの苦情のうち8割以上は味や剤形に関する指摘であった。今回の調査において,臨床現場においてエキス顆粒という剤形の使い勝手のよくない事が明らかとなった。このことは粉砕・溶解など看護師の与薬業務に負担になっている可能性が示唆された。特に, 嚥下能力の低下した患者に投与する際にはさらに一歩すすんだ改良が必要であり, 煎剤を個別包装したスティック入り液状製剤のように, 使用性の優れた新しい漢方製剤が必要であると考えられた。
著者
塩谷 雄二 寺澤 捷年 伊藤 隆 嶋田 豊 喜多 敏明
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.615-623, 1998-03-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
23
被引用文献数
1

アトピー性皮膚炎は東洋医学的に風湿熱・血熱・血虚・〓血などと捉えられている。一般に温清飲, 治頭瘡一方, 消風散, 十味敗毒湯, 越婢加朮湯, 白虎加人参湯, 駆〓血剤などの方剤が広く用いられているが, 成人型のアトピー性皮膚炎の治療は容易ではないというのが実状である。これまでアトピー性皮膚炎の治療とされているものでは, アトピー性皮膚炎に特有の皮膚の乾燥症状 (ドライスキン) が改善されないことが多く臨床上の課題である。今回, 治療に難渋していた乾燥性紅斑型の5症例に対して加減一陰煎加亀板膠の加減方に転方したところ奏効が得られた。加減一陰煎加亀板膠は養血潤燥, 養陰生津, 養陰清熱の働きがあり, 皮膚の炎症だけでなく, ドライスキンも改善され, ステロイド外用剤の離脱が比較的容易にできた。アトピー性皮膚炎患者の皮膚はドライスキンによってバリアー機能が障害され, 汗, 衣服, 掻破などの機械的な刺激, あるいはダニなどの環境アレルゲン因子に対して敏感になっている。そのため, 治療としては消炎だけでなく, ドライスキンも改善しなければ, アトピー性皮膚炎の治療とはならない。ドライスキンは表皮角層の水分量の減少が主因であり, 治療上考慮されなければならない重要な側面であると考える。
著者
岡 洋志 犬塚 央 永嶺 宏一 野上 達也 貝沼 茂三郎 木村 豪雄 三潴 忠道
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.947-951, 2005-11-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
13
被引用文献数
3 1

黄耆桂枝五物湯は痺れや痛みに用いられる方剤であるが, 今回我々は同方を投与した29症例において, 有効例が18例で無効例が11例であった。有効群と無効群の自覚症状の違いを解析し, それらが処方決定の指標となると思われた。「寒がり」,「体全体が重い」はこれまでの報告にもみられた症候であり, 今回の検討でも強い傾向と特異性が見られた。さらに,「関節が痛む」,「皮膚が乾燥する」,「怒りっぽい」が無効群に比較して有効群に多く見られた。これらは今後, 黄耆桂枝五物湯を投与する上で特異性の高い使用目標となる可能性がある。