著者
福嶋 裕造 藤田 良介 能美 晶子 宮本 信宏 山本 了 實松 宏已 田頭 秀悟
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.43-47, 2021 (Released:2022-05-17)
参考文献数
10

整形外科の疼痛性疾患が天気によって症状が悪化する場合があり,これを気象痛という。今回,交通事故後の大後頭神経痛(GON:great occipital neuralgia)の2症例で天気による症状の悪化に対して五苓散が有効であったので報告する。症例1は41歳女性で,交通事故にて受傷し頚部痛と腰痛を訴えた。2ヵ月後より不定期に後頭部痛が発症した。3ヵ月目に大規模な台風がありその日の朝より激しい後頭部痛があり,その後も天気の悪化で後頭部痛が生じたため当院を受診した。気象痛の GON と診断し五苓散を投与して軽快した。症例2は31歳女性で,交通事故にて受傷し頚部痛を訴えた。受傷後3ヵ月後より天候の悪化により後頭部痛が悪化することが分かり,気象痛のGON と診断し五苓散を投与して軽快した。頚椎捻挫が原因である気象痛の GON に対して五苓散が著効した。
著者
寺澤 捷年
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.199-201, 2018 (Released:2018-11-08)
参考文献数
11
被引用文献数
2

心身一如は漢方医学の基本的理念であり,現代の科学的医学とは異なっている。歴史的に見ると,科学は心と身を分離することを基盤に出発しているので,疾病の理解において,心身二元論が臨床的に用いられる結果になっている。しかしながら人間は心身一如のものとして存在している。筆者はこの心身一如という用語が鎌倉時代に道元により著された『正法眼蔵』を起源としていること,さらに,現代において,この用語を初めて用いたのは日本の心療内科の権威・池見酉次郎であることを明らかにした。
著者
福嶋 裕造 福嶋 寛子 藤田 良介 宮川 秀文 橋本 篤徳
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.219-223, 2020 (Released:2021-09-28)
参考文献数
14

手指の指節間関節症にはヘバーデン結節およびブシャール結節が含まれる。ヘバーデン結節は手指の遠位指節間関節の変形性関節症であり,ブシャール結節は手指の近位指節間関節の変形性関節症である。今回,手指関節症に対して疎経活血湯を投与して急激な改善を認めた3症例を経験した。症例は全例女性である。症例1は58歳で主訴は左中指 DIP 関節痛でヘバーデン結節と診断した。症例2は60歳で主訴は左環指 DIP 関節痛でヘバーデン結節と診断した。症例3は37歳で主訴は右環指 PIP 関節痛でブシャール結節と診断した。全例に疎経活血湯エキスを投与し関節痛が改善した。疎経活血湯は軽症から中等度の骨関節脊椎の疼痛に対して,NSAIDs と同様に有用な可能性があると考えられた。
著者
関根 麻理子 牧野 利明 田中 耕一郎 嶋田 沙織 四日 順子 古屋 英治 地野 充時 田原 英一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.182-203, 2021 (Released:2022-07-29)
参考文献数
25

医療安全委員会では,安全に漢方方剤を使用するための啓発活動を行っており,前回,日本医療機能評価機構の薬局から登録されたヒヤリ・ハット事例を分析した。今回は,同機構の医療機関から登録された医療事故とヒヤリ・ハット事例を分析した。漢方製剤が関係する事例は626件であった。医療事故には,薬剤性肝障害事例があった。 ヒヤリ・ハット事例に関しては,処方時では漢方エキス製剤の1包の内容量の勘違いによる用法用量の誤り,調剤時では製剤番号・外観の類似や漢方処方名の類似による調剤の誤り,投薬時では漢方処方名まで確認せずに,漢字表記やメーカー名だけで判断することによる投薬の誤りがあった。ヒヤリ・ハット事例は当事者本人や同職種者に限らず,他職種者や患者本人から発見される事例も多かったことから,ヒヤリ・ハット事例は同職種者間での共有に留まらず,他職種者とも共有することが,医療安全の推進につながると考えられた。
著者
吉永 亮 前田 ひろみ 土倉 潤一郎 井上 博喜 矢野 博美 犬塚 央 木村 豪雄 山方 勇次 田原 英一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.383-389, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
15
被引用文献数
2

蜂刺症とムカデ咬症に対して,受傷直後から黄連解毒湯エキスと茵蔯五苓散エキスを中心とした漢方治療を併用し,翌日には著明に改善した5例を報告する。症例1は70歳男性,30分前に左手背をスズメバチに刺されて受診した。症例2は43歳男性,20分前に左顔面をスズメバチに刺され受診した。症例3は55歳男性,10分前に左下腿をスズメバチに刺され受診した。症例4は39歳男性,60分前に右大腿をスズメバチに刺され受診した。症例5は35歳男性,20分前に右第1趾をムカデに咬まれて受診した。5例とも受診後直ちに漢方治療を開始し,以後,数時間おきに間隔を詰めて治療を継続したところ,翌日には疼痛と皮膚の紅斑と腫脹が改善した。蜂刺症,ムカデ咬症に対して漢方治療を行うことで速やかな治癒に貢献できる。
著者
木村 容子 杵渕 彰 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.627-633, 2011 (Released:2011-12-27)
参考文献数
9
被引用文献数
4 2

頭痛は日常診療で訴えの多い症状の一つであり,漢方治療では頭痛以外の随伴症状などによって,様々な漢方薬を使い分ける。今回,当帰芍薬散が有効な頭痛の症例を報告した。症例1-4は更年期障害,症例5は月経困難症が背景にみられた。症例3では頭痛のほか,めまい,むくみ,手先のしびれなど様々な症状が当帰芍薬散で改善した。また,症例4は呉茱萸湯が無効であり,一方,症例5は呉茱萸湯である程度頭痛は軽快したが,残存した排卵期または月経前と前半の頭痛に対して,当帰芍薬散を併用して症状が改善した。当帰芍薬散を用いた頭痛の11症例をまとめて検討したところ,頭痛は片頭痛が多く,月経や冷えで増悪傾向であった。当帰芍薬散は五苓散や半夏白朮天麻湯と鑑別が必要となることもあるが,当帰芍薬散では月経周期や更年期症状などいわゆる「血証」と関わりのある頭痛で,頭重感またはめまいを訴える比較的虚証の人に有効であると考えられた。
著者
大宜見 義夫
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.301-308, 1995-09-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
3
被引用文献数
1 2

咳, 鼻水, 鼻閉, 悪心, 悪寒, 頭痛, 腹痛などの急性症状を訴える患者に対して漢方製剤がしばしば即効性を示すことがある。筆者は, 急性症状を呈する患者に漢方製剤を投与する際, 証の判定に迷ったり, 決定した処方の有効性を確認したい時,「確認投与」と称して, 漢方製剤を外来で投与し, 30分以内でその効果を確かめる方法を行っている。これまで行った確認投与の中から, 対象として選んだ339例について漢方エキス製剤 (ツムラ) による即効性の検討を行った。使用回数の多かった漢方エキス製剤は, 麻杏甘石湯, 五苓散, 人参湯, 半夏厚朴湯, 真武湯, 半夏瀉心湯, 黄連解毒湯, 川〓茶調散などであった。70%以上の有効性を示した主なエキス製剤は, 苓甘姜味辛夏仁湯, 川〓茶調散, 安中散, 半夏瀉心湯, 小青竜湯, 麻杏甘石湯, 麦門冬湯, 真武湯などであった。外来での, 即効性を生かした確認投与は, 証の判定や処方の決定に際して有用である。
著者
田中 政彦 小俣 浩 鈴木 輝彦 大野 修嗣 土肥 豊
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.351-357, 1994-10-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
12

MCTD症例における人参養栄湯の有用性について, 特にレイノー現象 (レ現象) を中心に検討を加えた。対象はMCTD 19例, 男女比2:17, 平均年齢38歳, 平均罹病期間57.6ヵ月である。方法は人参養栄湯エキス顆粒 (医療用) 9.0gを3分服とし, 4週間の連続投与とした。試験期間はレ現象が多発する11月1日より翌年の3月30日までとした。投与前後において, レ現象を含む臨床症状, 種々の検査データを比較検討し, またサーモビュアーを用いて投与前後の皮膚温も測定した。比較検討のため関心領域を設定し, その平均値を統計処理した。レ現象改善率は, やや改善以上が74%で, 悪化例は認めなかった。サーモグラフィーでは, ほぼ全関心領域において皮膚温は上昇傾向で, 特に左第I指関心領域では有意な皮膚温の上昇が認められた (P<0.05)。
著者
川島 春佳 木村 容子 伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.359-365, 2018 (Released:2019-08-01)
参考文献数
21

アレルギー性鼻炎は,鼻粘膜のアレルギー性疾患であるが,様々な要因が増悪因子となる。今回,随証治療により用いた当帰芍薬散が奏功したアレルギー性鼻炎の4症例について報告する。症例1は31歳女性。冷え・月経不順に対して当帰芍薬散の内服を開始したところ,元々あった鼻炎症状が改善し,休薬により鼻炎症状が再燃した。症例2は40歳女性。子宮筋腫に対して内服していた桂枝茯苓丸加薏苡仁から当帰芍薬散に転方して,毎年認めていた花粉症状が軽快した。症例3は49歳女性。多種類の漢方薬を内服しても改善しなかった鼻炎症状が,当帰芍薬散に転方して速やかに消失した。症例4は65歳女性。葛根湯加川芎辛夷の内服後も残存した鼻炎症状に対し当帰芍薬散を併用して症状が改善した。古典では,当帰芍薬散の鼻炎に関する記載は見当たらないが,陰虚証で,水毒に加えて瘀血・血虚を認める鼻炎には,当帰芍薬散も鑑別処方の一つと考えられる。
著者
中永 士師明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.847-852, 2010 (Released:2010-12-24)
参考文献数
29
被引用文献数
12 10

治打撲一方を服用した場合の酸化ストレス度と抗酸化力を測定し,経時変化について検討した。健常人20例に治打撲一方7.5g/日を3日間服用させ,服用直前と服用72時間後に酸化ストレス度(d‐ROMsテスト)と抗酸化力(OXY吸着テスト)を測定した。酸化ストレス度について服用前後で有意な変化はみられなかった。一方,抗酸化力は服用直前と比べて服用後には有意に低下した(p=0.0290)。服用中に副作用のため,中断した症例はなく,肩こり・便通・打撲痛などの改善といった好反応は6例にみられた。特に好ましい反応がみられなかった14例については,服用後に治打撲一方は酸化ストレス度,抗酸化力ともに有意に低下させた(p=0.0279,p=0.0413)。治打撲一方は体内の抗酸化力を動員して病態改善に寄与する可能性が示唆された。
著者
森元 康夫 渡部 晋平 道原 成和 範本 文哲 中島 慶子 樋浦 基 大窪 敏樹
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.150-159, 2013 (Released:2013-11-18)
参考文献数
19
被引用文献数
3 2

六君子湯は8生薬から構成され,食欲不振や胃もたれに用いられている。これらの症状は胃排出の低下に起因する場合が多い。シスプラチンは食欲不振や吐き気を引き起こす代表的な薬物であるが,やはり胃排出を低下させる。しかし,シスプラチンによる胃排出低下に対する六君子湯の作用はこれまで検討されていない。そこで今回,シスプラチンによるラット胃排出低下に対する六君子湯(白朮処方)の作用を検討した。その結果,六君子湯は胃排出を改善し,構成生薬では白朮,人参,茯苓,陳皮が同様に改善した。これら4生薬の組み合わせでは,白朮を含む場合に作用が強くなる傾向が認められた。一方,六君子湯から白朮を除くと作用は六君子湯よりも減弱した。なお,白朮由来成分のアトラクチレノリドⅢも六君子湯や白朮と同様に胃排出を改善した。以上の結果から,六君子湯はシスプラチンによる胃排出低下を抑制し,それには白朮が深く関与することが示唆された。
著者
森 瑛子 及川 哲郎 小田口 浩 花輪 壽彦
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.121-126, 2020 (Released:2020-12-07)
参考文献数
15
被引用文献数
1

女神散は「血の道症」に対して使用される処方であるが,婦人科三大処方と呼ばれる当帰芍薬散,加味逍遙散,桂枝茯苓丸と比較すると使用頻度は低く,多数例における使用経験をまとめた報告は少ない。そこで今回女神散の臨床応用に役立つ使用目標を明らかにするため,当施設で過去5年間に女神散を処方された症例のカルテを後方視的に検討した。その結果,女神散が有効な患者は身体的・精神的ストレスを背景とする気の異常と瘀血を伴う一方,水滞の兆候は認めないことが多かった。これらの所見は,女神散の効果的運用に役立つと考えられた。
著者
中永 士師明
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.809-812, 2008 (Released:2009-05-15)
参考文献数
12
被引用文献数
5 4

修治ブシ末単独投与による組織血流量増加および温熱作用について検討を行った。健常人14例に対して修治ブシ末を3g/日を3日間処方した。服用直前,服用90分後,服用72時間後の3回,示指の皮膚温,組織血流量を測定した。皮膚温に関して,直前と90分後の間には有意差を認めなかったが,72時間後との間には有意差を認めた(p=0.0736,p=0.0219)。また,90分後と72時間後との間にも有意差を認めた(p=0.0253)。組織血流量に関して,直前と90分後の間には有意差を認めなかったが,72時間後との間には有意差を認めた(p=0.0736,p=0.0219)。90分後と72時間後との間には有意差を認めなかった(p=0.4074)。皮膚温と組織血流量との間には有意の相関関係が認められた(p=0.0052)。ヒトにおいて附子が組織血流量増加作用と温熱作用を発揮する可能性が示唆された。
著者
後藤 由夫
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.145-158, 1993-10-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
22
著者
鈴木 朋子 伊関 千書 佐橋 佳郎 三潴 忠道
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.130-135, 2019 (Released:2019-12-20)
参考文献数
19

『傷寒論』を原典とする白朮附子湯は意外に報告が少ない。今回我々は痛みで体動困難となった患者に対し白朮附子湯が著効した症例を経験したので報告する。症例は介護施設入所中の84歳女性。主訴は痛みによる体動困難。 X 年1月定期受診した際左側胸~側腹部の激しい体性痛を訴え即日入院となった。精査上器質的異常は認めず,問診にて冬期にもかかわらず脱水予防のため水道水を2—3L/日近く施設で摂取させられていたことが判明した。小便は自利だが数日便秘であった。NSAIDs などは効果なく,入院当日より白朮附子湯を開始した。内服後大量の軟便を排泄するとともに痛みは急速に改善し退院調整後第13病日退院した。会津地方の介護施設で冬場に水道水を多飲させられ水毒に陥り「風湿相搏」状態となったことが今回の痛みの一因と考えられた。風湿が原因の痛みに対しては桂枝附子湯,甘草附子湯とともに白朮附子湯も考慮すべき処方と考えられる。
著者
佐藤 浩子 佐藤 真人 平林 香 大山 良雄 紫野 正人 田村 遵一
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.113-118, 2019 (Released:2019-12-20)
参考文献数
22

中咽頭癌術後,化学放射線療法後の嚥下困難に対し漢方治療が効果的であった症例を経験した。症例は61才女性。 中咽頭癌に対し左扁桃摘出,両側頚部郭清術,続いて化学放射線療法を施行された。治療後に自覚した嚥下困難と口腔乾燥に対し,漢方治療を試みた。半夏厚朴湯エキスを食直前に内服後,嚥下が容易となり摂食時間が短縮した。 麦門冬湯エキスを合方後,口腔乾燥が軽減した。体重が増加し,職場復帰の一助となり得た。近年,癌補助療法や緩和医療として漢方治療の併用が行われるようになった。中咽頭癌そのものによる,あるいは癌治療に伴う嚥下障害・口腔乾燥に対し,漢方治療は症状の軽減に役立ち,患者のQuality of Life を向上させる一助になりうると考えられた。
著者
岡 孝和 松浦 達雄 三島 徳雄
出版者
The Japan Society for Oriental Medicine
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.103-108, 1989-10-20 (Released:2010-03-12)
参考文献数
12

いわゆる心臓神経症患者にみられる胸背部過敏点の臨床的意義を検討し, 以下の結論を得た。心臓神経症患者では, 第4, 5, 6胸椎棘突起上, 左第4, 5胸肋関節上に高頻度に過敏点を認めた。同部位は健常人においても出現頻度が高かったが, 患者群では有意に高頻度であった。また, 過敏点の出現頻度と神経症傾向, 顕在性不安との間に有意な相関関係は見出せなかった。胸部過敏点では, 圧迫により過敏性疼痛を示したにすぎなかったが, 背部過敏点では, 圧迫により胸痛, 動悸, 胸部圧迫感等の自覚症状を訴えた者が多く, 背部過敏点を検索することは, 患者の愁訴を理解する上で有用な身体所見であると考えられた。第4, 5, 6胸椎棘突起レベルには厥陰兪, 心兪, 督兪が配されていることと比較すると興味深い結果と考えられた。
著者
山田 光胤
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.505-518, 1996-01-20

医療は専ら西洋医学を修めた医師によって行うこととし, 漢方を学んでも医師の資格は与えないという明治政府の処置によって, 明治16年 (1883) 以降漢方医学を学ぶ者は次第に絶え, 我が国の伝統医学・医療は絶滅に瀕した。 これは, 日本人の特に当時の政府人の西洋崇拝, 伝統蔑視の思想が強く関与しているものと思われた。 このような風潮は, 現在でも引き継がれていると考えられる。 しかし, 幕末から明治にかけて, 日本漢方を西洋医学と対比するに, 外科手術の面は別として, 内科的治療のレベルは, むしろ日本漢方が優れていた。 この具体的な症例を, 浅田宗伯は著書『橘窓書影』の中に記録している。 そのような時流の中で, 東洋医学を学んで医師となった和田啓十郎は, 漢方医学の有用性・重要性を唱えて, 明治43年 (1910), 『医界之鉄椎』を著した。 この書は実に, 漢方医学復興の一粒の種子となった。 金沢医専出身の医師・湯本求眞は, この書によって啓発され, 和田門下となって生涯を漢方医学の究明と, それによっての患者の治療に尽し, 昭和2年, 『皇漢医学』3巻を著した。 この書は, 西洋医学の知見を混えて, 傷寒諭, 金匱要略の解釈を中心にした, 漢方最初の現代語による解説書である。 湯本の『皇漢医学』は, その後の我が国に於ける漢方医学の復興に, 大きな影響を及ぼしたのみでなく, 中国に於ても, その伝統医学の温存にカを与えたといわれる。 ともあれ昭和年代初頭では, ごく僅かな生き残りの漢方医と数名の医師によって, 漢方医学が伝承されていたが, やがて, 漢方復興の機運が, 次第に醸成され, 種々な運動が起こった。 昭和11年 (1936), 当時新進の漢方医学研究者が志を同じくし, 漢方医学復興を目指してその講習会を開催した。 偕行学苑と名付けられたが, 翌年より拓大漢方講座と名を改めた。 この漢方講座は, 昭和19年 (1944) 迄8回, 毎回約3ヵ月乃至4ヵ月間ずつ開催され, 第2次大戦後の昭和24年 (1949) に, 第9回紅陵大学漢方講座として15日間開催された。 通算9回, 700名以上の有志が聴講し, 中からはその後, 漢方医学界の柱石となる人物も輩出した (筆者も, 戦後の第9回講座を, 医学生の身分で聴講した)。 第2次大戦前の昭和16年, 南山堂より『漢方診療の実際』という書が発行された。 この書は, 従来の「証」に随って治療する漢方の本質から一歩踏み出して, 現代医学的病名に対して, 使用した経験のある漢方処方を列挙して解説している。 当時とすれば画期的な漢方医学の解説書であった。 そして, 第2次大戦後, 昭和29年 (1954) に改訂版が発行された。 さらに昭和44年 (1969) に発行された『漢方診療医典』(南山堂)は, 漢方診療の実際を大改訂した書である。 これらの書を通じて解説された, 現代医学病名に対応して用いられる漢方処方の延長が, 現在の日本で, 大量に使用されている漢方製剤の応用なのである。 これらの書が, 現代日本漢方に及ぼした影響は多大なものがある。 その『漢方診療の実際』初版は, 大塚敬節, 矢数道明, 木村長久, 清水藤太郎の共著となっている。 これらの著者達こそ, 拓大漢方講座講師団の中核であって, その後の漢方復興運動を成し遂げた人達である。 それらの人達の系譜こそはまた, 現代日本漢方の正統でもある。 即ち大塚敬節は, 湯本求眞門下の古方派の学統を継ぎ, 木村長久は, 明治の大家・浅田宗伯の直門・木村伯昭の嗣子で折衷派の学統を継ぎ, 矢数道明は, 大正時代に活躍した漢方医・森道伯の流れを汲む後世派・一貫堂の後裔であった。(敬称略)
著者
山﨑 麻由子 木村 容子 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.273-277, 2014 (Released:2015-03-30)
参考文献数
14

強い気虚や不眠,抑うつを呈する患者に対して随証治療を進めて加味帰脾湯を投与したところ,月経前症候群(PMS)の精神症状だけでなく,月経痛も軽減した3症例を経験したので報告する。症例1は26歳女性で月経前のイライラ,乳房痛,月経痛を訴えていた。疲労感などの気虚が強く不眠も認めたため加味帰脾湯を処方したところ,不眠と倦怠感の改善とともにPMS 及び月経痛も軽快した。症例2は38歳女性で疲労倦怠感が強く,不眠,月経前のイライラを認めたため加味帰脾湯を処方した。倦怠感の改善に伴いPMS 及び月経痛も軽快した。症例3は31歳女性で膀胱炎を繰り返し,倦怠感が強く不眠や憂うつ感もみられた。加味帰脾湯を処方したところPMS や月経痛の軽快だけでなく膀胱炎も再発していない。加味帰脾湯は帰脾湯に柴胡・山梔子を加味した処方である。気虚が強い患者で不眠や抑うつ傾向があり,PMS や月経痛を訴える場合に有効であると考える。