著者
井口 貴紀
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.41-51, 2015 (Released:2015-12-22)
参考文献数
24

現代日本ではゲームが社会に浸透していて、代表的な娯楽メディアとなっている。これまでのゲーム研究はメディア研究において暴力表現が強調されたゲームで遊ぶことによる人への悪影響や、教育ゲームで遊ぶことによる人への教育効果など伝統的な効果研究を中心に行われている。加えて現代のゲームジャンルは多様化しているけれどもゲームジャンルの研究も効果研究が中心である。そこで本研究ではユーザー側の利用動機と好きなゲームジャンルに焦点を当てて、大学生1503名の量的調査とインタビューによる質的調査を行った。調査の結果、好きなゲームジャンルによって利用動機が異なることと、利用動機の高いジャンル群と低いジャンル群が存在してそれによってゲームのプレイ時間や費やした金額が異なっていた。
著者
海野 敦史
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.85-97, 2018 (Released:2018-06-02)

電気通信事業法は、他人のサーバー等へのアクセス権限のみで電子掲示板を運営する個人等、「電気通信事業者にも電気通信事業を営む者にも該当しないが通信の秘密たる情報を直接取り扱う者」の取扱中に係る通信の秘密を保護していない。これは、立法政策の所為というよりも、近年になって急増したかかる者への立法的対応が追いついていない結果であり、今日的な「法律上の通信の秘密の間隙」となっているものと考えられる。立法論上、これを適切に解消するためには、電気通信役務の概念について、他人の通信の「媒介」及び「供用」に加えて、伝送行為を伴わずに媒介的な役割を果たす「実質的な媒介」という行為の要素を新たに含めつつ、それに従事する者を電気通信役務提供者と位置づけることが望ましい。そのうえで、「電気通信事業者その他電気通信役務提供者(もっぱら電気通信設備の供用を行いつつ通信の秘密たる情報を直接取り扱わない者を除く)の取扱中に係る通信の秘密」を適切に保護することが求められよう。近年、実質的な媒介を通じて通信の秘密たる情報を取り扱う者は増加かつ多様化していることから、「電気通信役務提供者」の観念を設け、それに基づき法律上の通信の秘密の射程を再構成する有用性は高まりつつあると考えられる。
著者
浅井 澄子
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.3_1-3_12, 2011 (Released:2012-03-25)
参考文献数
29

本論文は、2010年の8週間の番組表データを用い、地上放送局とBSデジタル放送局のジャンル別番組編成を経済学の視点から分析したものである。分析の結果、NHKの地上総合チャンネルと在京キー局間、地上放送局とBSデジタル放送局間で重視する番組ジャンルが異なること、NHKのBSデジタル放送の各チャンネルは差別化されているが、3チャンネル全体では番組ジャンルの放送時間が平準化されていることが確認された。また、テレビ東京とBSジャパンを除く資本関係がある在京キー局とBSデジタル放送局間において、同じ時間帯で同じジャンルの番組が放送されるケースは非常にないことが明らかになった。
著者
坂口 洋英 山口 真一 彌永 浩太郎 田中 辰雄
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.143-153, 2017

<p>ネットワーク効果は情報通信産業の発展の重要なファクターであり、様々な研究がなされてきた。しかしながら、先行研究ではネットワークの大きさは財・サービスの総ユーザーとされており、ネットワークの構成ユーザーへの注目がない。そこで本研究では、ネットワーク効果がその構成ユーザーにより異なるあり方をする可能性に注目し、モバイルゲームを対象に有料ユーザー数と無料ユーザー数が支払額にそれぞれ別の影響をもたらすモデルを構築し、分析を行った。</p><p>分析の結果、有料ユーザー数が有意に支払額に正の影響をもたらし、有料ユーザーが1%増加すると支払額は0.06%増加することがわかった。一方、無料ユーザー数は影響を与えているとはいえない結果となった。このことから、ネットワーク効果はその構成ユーザーにより異なり、無料ユーザーのもつネットワーク効果は限定的であるという示唆が得られた。</p>
著者
栗原 佑介
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.31-36, 2018 (Released:2018-08-21)

本稿は,障害者と著作権法の関係を明らかにする。障害者が著作物を利用するため,よりよい情報アクセシビリティの確保を図るべく,ソーシャルインクルージョンを考慮した制度設計を提案する。本稿では,まず,マラケシュ条約の概要,わが国著作権法の現状と課題を明らかにする。次に、障害は,機能障害と社会的障壁の相互作用によって生じていることから,情報アクセシビリティの確保の点からは,著作権の権利制限又は例外の制度設計においては,社会的障壁の除去を目指す必要がある。この観点から,「ソーシャルインクルージョン」の実現のため,著作権法も障害者福祉目的の包括的な権利制限規定を検討するなど,柔軟な制度設計が必要となる。
著者
吉見 憲二 藤田 宜治
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.89-96, 2012 (Released:2013-03-25)
参考文献数
10

テレワークは、「情報通信技術を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」のことであり、自宅でも職場と同様に仕事ができるという点で有事におけるリスクマネジメントとしての効果が期待されている。本研究では、東日本大震災後の交通網の混乱に関する事例に着目し、実際のテレワークの導入状況や効果について、企業雇用労働者2000名を対象としたWebアンケート調査を実施した。結果から、(1)通勤困難な状況下でも、多くの社員が出社しようとしていた、(2)テレワークの導入企業は全体の1割弱程度であった、(3)以降の交通網の混乱の事例に反省が活かされていない可能性がある、(4)テレワークの導入により交通網の混乱時における態度及び対応が変化する可能性がある、ことが示された。
著者
実積 寿也
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.13-27, 2015

情報通信技術(ICT)の急速な進歩を背景に、コンテンツ産業は、日本の持続的成長・発展を支える基盤産業としての貢献が期待されている。そのため、同産業に対して何らかの成長阻害要因が予見される場合は、相応の政策的対処を検討し、望ましい産業組織を育成する必要がある。近年のインターネットプロトコル(IP)技術の高度化は、ネットワーク産業とコンテンツ産業を垂直統合した新しいプレイヤーを生みつつあり、これら新型プレイヤーは、独占力のレバレッジを通じて競争政策上の新たな課題をもたらす懸念がある。具体的には、モバイルブロードバンド(BB)が主流になるにつれ、プロバイダ市場の寡占化が進み、コンテンツ・ディストリビューションの効率的確保が阻害される可能性がある。そのため、モバイル BB 事業者に対し一定の規律を与えることは、BB 市場の効率性改善の観点のみならず、コンテンツ産業育成の観点からも重要である。米国のネット中立性規制は、その際、良い参照例となろう。
著者
井上 淳
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.35-44, 2017 (Released:2018-01-26)

欧州委員会は、2016年9月、オンライン・プラットフォームの著作権物の配信による収益の公正な分配を図るため、新聞等の発行者に対して、著作隣接権を付与する等の指令案を提案した。これにより、新聞社等の立場を改善することを意図するものであるが、オンライン・プラットフォームが新聞社等のウェブサイトのアクセスの重要な窓口になっている状況を勘案すれば、新聞社等は囚人のジレンマの状態となり、現状と大きく変更しない可能性がある。
著者
竹村 朋子
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.93-106, 2013-09-25
参考文献数
24

本稿の目的は、デジタル先進国の韓国における若者の「ダウンロードしたテレビ映像ファイルの視聴」と「テレビ機器を通した映像視聴」を比較し、各映像視聴手段の利用動機と利用動機をもたらす社会状況およびメディア状況について理解することである。そして、ダウンロードによるテレビ映像視聴がテレビ機器を通した映像視聴を代替しうるかを考察する。インタビュー調査の結果から、「ダウンロード視聴」に関して、「ファイルの保有性」「時間からの解放」「場所からの解放」「映像の多様性」「選択的視聴」「テレビ機器の非所有」という既存メディアの先行研究とは異なる利用動機が示された。「テレビ機器視聴」は、「共同視聴」「リアルタイム視聴」「画面の特性」などテレビ機器の独自特性に関連した動機によって行われている傾向がみられた。映像視聴動機に影響をもたらす要因として、「映像視聴手段の多様化」「映像コンテンツの多様化」「個人用テレビ機器の非所有」「地上波放送以外の放送コンテンツの人気」「日常生活の忙しさ」が確認された。「ダウンロード視聴」と「テレビ機器視聴」の2つの映像視聴手段が独自の動機をもって利用されていたことから、テレビ放送の存在価値を維持・向上するために、テレビのメディア特性を生かした映像視聴のあり方が求められる。
著者
浅井 澄子
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.1-12, 2011-12-25

本論文は、2010年の8週間の番組表データを用い、地上放送局とBSデジタル放送局のジャンル別番組編成を経済学の視点から分析したものである。分析の結果、NHKの地上総合チャンネルと在京キー局間、地上放送局とBSデジタル放送局間で重視する番組ジャンルが異なること、NHKのBSデジタル放送の各チャンネルは差別化されているが、3チャンネル全体では番組ジャンルの放送時間が平準化されていることが確認された。また、テレビ東京とBSジャパンを除く資本関係がある在京キー局とBSデジタル放送局間において、同じ時間帯で同じジャンルの番組が放送されるケースは非常にないことが明らかになった。
著者
林 紘一郎
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.3_37-3_48, 2011 (Released:2012-03-25)
参考文献数
38

情報法という法領域はあり得るが、未だ誰も体系化に成功していない。有体物なら「占有」から「所有」へと連続的に法的な扱いを論ずることが出来るが、無体の情報には明確な「占有」も「占有の移転」も起こらない、などの特性があるからである。しかし、個人情報保護法などの試行錯誤を経て、どのような情報が法的に保護され、あるいは禁止さるべきかについて、知見が高まりつつある。そこで「情報法の基礎理論」の第一歩として、まずは「情報法の客体論」を論ずることとしたい。本稿では、アメリカ式に人格権をとりあえず捨象した「客体としての情報」を想定して、保護方式として知的財産型と秘密型を区分し、禁止方式として (負の) 財産型と不法行為型を区分する。その上で、情報に対しては「帰属」と「保用」の主体が異なること、「一財多権」が一般的であること、法を補完するライセンス契約を重視すべきことなど、法体系を整備するための要件を検討する。
著者
平井 智尚
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.61-71, 2012-03-25
参考文献数
39

本論ではウェブで炎上がなぜ起こるのかという問題を日本のウェブ文化の観点から明らかにする。炎上とはブログ、ミクシィ、ツイッターなどに投稿されたメッセージの内容に対して、批判や非難が巻き起こる現象を指し、ブログの普及以後、たびたび発生している。それに伴い、炎上に対する社会的な認知も高まり、新聞、雑誌、ニュースサイトなどで言及が行われている。しかし、学術的なアプローチをとった考察は今のところ多くはなく、考察の余地も残されている。<br>本論ではまず炎上の事例を歴史的に整理する。次いで、先行研究への言及をかねてフレーミング現象との比較検討を行う。この作業を通じてフレーミングと炎上の違いを示したうえで、電子掲示板2ちゃんねるの文化と、若年層が担う携帯電話の文化の両面から炎上が起こる理由の説明を行っていく。そして最後に、炎上とは対極に位置するように見えるウェブと公共性に関する考察を展開していく。
著者
海野 敦史
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.25-32, 2014 (Released:2014-07-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1

憲法21条2項後段にいう「通信」の利用の局面において、憲法14条1項にいう「差別」禁止の義務を負う主体については、「通信の秘密」の侵害主体に通信管理主体が含まれると解されることにかんがみ、公権力のみならず通信管理主体もこれに含まれるものと解される。当該局面における平等の保障のあり方に関して、不当な差別の禁止を正面から掲げる米国のオープンインターネット規則(2014年1月の司法判断による一部無効化前のもの)は、その具体的な検討の参考になると思われる。当該規則策定の背景には、ネットワークを支配・管理する回線管理事業者が、それに依存してコンテンツ等を一般利用者に供給する特定のプラットフォーム事業者のトラフィックを差別的に取り扱った事実があるが、このような通信管理主体としての回線管理事業者が負うべきプラットフォーム事業者を「平等」に取り扱う憲法上の義務の具体的内容・範囲については、回線管理事業者自身の財産権や営業の自由とも関係して、一義的に特定することが難しい。オープンインターネット規則の下では、プラットフォーム事業者が回線管理事業者の役務を利用する局面においては、ネットワークの使用量に応じた従量課金や混雑等発生時の帯域制御については不当な差別に該当しないとされる一方で、特定のトラフィックの優先取扱いについてはこれに該当する可能性が高いとされていたことが特徴的である。
著者
実積 寿也
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-12, 2014 (Released:2014-07-01)
参考文献数
22

インターネット政策声明を執行可能なルールとすることを目指した連邦通信委員会(FCC)の努力は、Comcast事件とその後の控訴審判決での敗訴の経験を経て、2010年12月にオープンインターネット命令として結実した。ブロードバンド事業者が遵守すべき開示義務、公平義務および接続義務を定める本命令は、ビジネスの自由を求めるプロバイダにとっては行動の自由の制約に他ならない。本命令の有効性に関し、2014年1月14日に巡回控訴裁判所が下した結論は、開示義務以外の有効性を否定しており、一見すると、プロバイダ側の主張が全面的に認められFCCの努力が無に帰したかのように見える判決ではある。しかしながら、詳細に評価してみると、ネットワーク中立性問題に対する規制権限を確立し、しかも命令が本来実現しようとしていたはずの効果にはほとんど影響がないという、FCCにとっては実質的な勝訴に他ならず、むしろプロバイダ側にとっては何の問題解決にもならなかった可能性がある。