- 著者
-
菊池 耕士
山本 修一
四日 洋和
吉井 英文
安達 修二
- 出版者
- Japan Society for Food Engineering
- 雑誌
- 日本食品工学会誌 (ISSN:13457942)
- 巻号頁・発行日
- vol.14, no.4, pp.169-175, 2013-12-15 (Released:2015-06-18)
- 参考文献数
- 16
- 被引用文献数
-
8
16
魚油や植物油などの液状脂質を食品高分子(包括剤または賦形剤という)の濃厚水溶液とともに乳化し,得られたO/Wエマルションを噴霧乾燥などにより急速に脱水して,微小な油滴を包括剤の乾燥層で被覆する技術を脂質の粉末化という.液状脂質を粉末化すると,脂質の酸化が抑制されたり,油相に含まれる芳香成分の放散速度が制御できるなどの利点がある.脂質を粉末化した際に,表面に露出した油の割合(表面油率)は,酸化や放散のされやすさの指標となり,一般的には,この値が低いほど良好な粉末化物といえる.粉末化物中の脂質の割合(含油率)が少ないほど,脂質の酸化が実質的に停止する未酸化率が高く[9],また油滴が微細なほど表面油率が低いことが報告されている[12].前者の現象に対して,浸透理論[14]を適用した解析が試みられている[9].近年,油滴の微細化技術が進展してきた.そこで,粉末化する際の油滴径が表面油率に及ぼす影響を傾向的に知るため,2次元または3次元の浸透理論を適用して検討した.また,乾燥条件により粉末化脂質は内部に空隙ができることがある.そのような中空粒子の表面油率についても検討した.2次元および3次元モデルでは,正方形または立方体の一辺をそれぞれNo分割し,No2またはNo3個の格子を考え,乱数を発生させることにより,粉末中の脂質の体積分率に対応するように脂質が存在する格子を決定した.2次元および3次元モデルではそれぞれ,表面に接する格子の脂質と辺または面で接する格子の脂質は抽出されると考え,脂質が存在する全格子に対する表面から連結している格子の割合を表面油率と定義した.中空粒子では,正方形または立方体の内部に一辺の分割数がNiの正方形または立方体を考え,その比Ni/Noをパラメータとして,中空の大きさが表面油率に及ぼす影響を検討した.中実および中空粒子ともに,表面油率が急激に増加する粉末中の脂質の体積分率の閾値が存在し,2次元モデルより3次元モデルの方がその値は小さかった.また,中空粒子では,Ni/Noが大きい(中空が大きい)ほど,表面油率が大きくなった.外辺の分割数Noの逆数(1/No)は,油滴の大きさに対応する.2次元および3次元モデルともに,Noが大きいほど,すなわち油滴が小さいほど,表面油率が低く,粉末化する際に油滴を微細化することは,脂質の酸化の抑制に有効であることが示唆された.また,Ni/Noが大きいほど表面油率が高くなることより,中空粒子では脂質が酸化されやすいとの経験則に合致したが,その影響は顕著ではなかった.