著者
羽島 謙三
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.85-88, 1972-03-25

1971年11月11日,川崎市生田緑地内で行なわれたローム丘陵地崩壊実験では,予期しない15人の犠牲者をだす事故となった.これについては一般ジャーナリズムは別としても,"そくほう"234号,"国土と教育"11号で詳細に紹介・報告された.これらに対して若干屋上屋を架する感じはするが,地質の面について多少の資料と観点を補う意味でのべておきたい.本稿は主として事故直後の観察によるもので,観察・資料の面で制約があり,細部の点で正確を期しがたかった面はあるが,現在,総理府委嘱の調査委員会によって調査が進められているので,それが公表された段階においてより明らかにされるであろう.
著者
松岡 喜久次 桑原 希世子
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.119-124, 2021-04-25 (Released:2021-06-30)
参考文献数
28

The Capitanian (Permian) radiolarians were found from a siliceous tuff block within volcaniclastic rocks in the Sumaizuku Unit of the Northern Chichibu Belt in the Kanto Mountains. The Sumaizuku Unit is composed of chaotic rocks consisting of exotic blocks of chert and mafic rocks in Jurassic clastic matrix. The rocks of studied area consist of limestone-basalt conglomerate, lime-sandstone, volcaniclastic rocks and chert. The volcaniclastic rocks are composed of clasts of basalt lava and volcanic glass accompanied with clasts of limestone, siliceous tuff and fragment of plagioclase. The clasts of siliceous tuff containing radiolarian tests are angular pebble to boulder. The siliceous tuff is regarded as blocks which were mixed in volcaniclastic rocks by slumping. We consider that the volcaniclastic rocks deposited immediately after Capitanian age, and this deposition formed on the lower flank of a seamount.
著者
秋山 雅彦
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1-20, 2007-01-25 (Released:2017-05-16)
被引用文献数
4

地球温暖化は複雑系の科学であることから,その予測を困難にしている.大気中の温室効果ガスの増加が気温上昇をもたらす主な要因のひとつであることには疑う余地はないとしても,太陽活動による影響,とくに可視光以外のX線・紫外線の変動が気候に及ぼす影響についての解析は,まさに不十分であると言わざるを得ない.また,気温上昇にともなって生じる水蒸気の影響,雲量・アルベドの変化など,正または負のフィードバック機構の解析にも未知のことがらが多い.この論説では,地球史の最も新しい年代である第四紀の気候変動についての知識をもとに地球温暖化の現状を下記の順序で論述した.(1)第四紀における気候変動の歴史,(2)温室効果ガス,赤外吸収強度,放射強制力,太陽照射強度の変動,火山噴火・森林火災・黄砂による影響,(3)海洋中のCO_2濃度のフィードバック機構,アルベドの経年変化,宇宙線強度と雲量との関連.そして,結論として,地球温暖化ガスの増加にともなう正のフィードバック機構とともに,気候の人為変動に隠されている自然変動の解明が必要であることを強調した.
著者
梶原 良道
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.299-315, 1994

グリンタフ地域の黒鉱鉱床と石油鉱床の形成には西黒沢階来の環境異変に伴って背弧海盆に異常濃集したPUMOS(含重金属有機堆積物の愛称)が共通起源物質として関与した可能性がある,とする著者の一昔前の仮説を,その後蓄積された地球化学データに徹して再吟味し,以下の考察を行った.1)黒鉱硫化物と原油有機硫黄は互いに酷似した硫黄同位体化を有しており,両者はともに無酸素海盆での海水硫酸イオンのバクテリア還元によって生じた生起源硫黄に由来したとみなせる.2)原油の炭素同位体比は黒鉱層準近傍の地層に含まれているケロジェンのそれと類似しており,黒鉱生成期付近においてこれらに共通の有機物の集積があったことが示唆される.3)黒鉱硫化物鉱石および石膏鉱石の初生的なストロンチウム同位体比はそれぞれ近傍油田産の原油および当時の海水の値に比較でき,黒鉱鉱化作用の初期過程に有機堆積物源および海水源のストロンチウムが本質的に関わった可能性が示唆される.4)黒鉱鉱床の鉛同位体については,広域的な均質性を示唆する情報と,鉱床間および鉱種間の有意な不均一性を示唆する情報が得られている.仮に後者を重視しても,鉛の海洋平均滞留時間が極めて短いことおよび後熱水作用による母岩との同位体交換の可能性を考慮するかぎり,PUMOS仮設を否定する材料とはならない.5)黒鉱鉱石の重金属元素組成と大洋底マンガン団塊のそれとは,PUMOSのモデル組成(定常海洋等のフラックス比)に対して補完的な関係にあり,両者が共通の海洋システムコントロールを受けていること,つまり,PUMOSの共役的な酸化還元分化産物である可能性を強く示唆している.黒鉱鉱床の形成は,局地的なマグマ熱水活動の一部ではなく,地球表層圏における生物地球化学過程によって本質的に規制されている現象であることに注意を喚起したい.
著者
根本 直樹 佐藤 正洋
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.183-195, 2013

秋田県北部,二ツ井地域の天徳寺層上部及び笹岡層下部からの有孔虫化石を検討した.検討した区間からのGloborotalia inflata(sensu lato)の豊富な産出は,この区間が上部鮮新統のNo.3 Globorotalia inflata bedに相当することを示唆する.また,その産出は温暖な中層環境を示す.いくつかの層準からのGlobigerina quinquelobaの産出は,本地域の表層が時々低塩水に覆われたことを示唆する.天徳寺層上部産化石底生有孔虫群集の多くは,上部漸深海帯での堆積を示唆する.天徳寺層最上部の堆積の間,本地域は温暖な水塊の影響を受けた.笹岡層下部は,温暖な水塊の影響を受けた外部浅海帯に堆積した.
著者
武井 〓朔 野村 哲
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.13-20, 2006-01-25
被引用文献数
2

関東山地と足尾山地とにはさまれた中新統堆積盆地を,前橋-熊谷堆積盆地と呼ぶことにする.この堆積盆地は,NW-SE方向に延び,幅30km前後,延長約100kmである.この堆積盆地は,そのほぼ中央部を通る鳥川-深谷線(断層)(新称)により,北帯と南帯とに分けられ,南帯ではさらに南縁部(下仁田構造帯や滑川帯)が識別できる.中新統は地表では大部分が南帯に分布するが,盆地北縁のすぐ北側にも小分布がある.中新統はその年代,層相,分布,構造などにもとづき,M-I(下部中新統),M-II(中部中新統下部),M-III(中部中新統〜上部中新統下部),およびM-IV(上部中新統上部)の4地層群に区分できる.地表の資料と,これまでに公表されている深坑井,地震探査などの資料をもとにして,この堆積盆地を横断する地下断面図を二つ作製した.その結果,地下構造についてつぎのような性格が明らかになった.まず北帯では中新統はほとんどM-IIIであり,北帯の南半部で層厚が大きく,構造は水平に近いが,北半部では北方向に向かって徐々に薄くなる.これに対し南帯ではM-I, M-II,およびM-IIIがみられる.このうちM-IとM-IIはその南側で厚く,北側に向かって薄くなる.いっぽうM-IIIは北側では厚いが,南側に向かって薄くなる.なお,M-IVは南帯の西部の地表に分布し,火山噴出堆積物からなる.堆積盆地の発達史に関しては,堆積は南縁帯から始まり,時代とともに堆積の中心が南から北へと移動したことがうかがえる.
著者
室生団体研究グループ 八尾 昭 茅原 芳正 別所 孝範 鎌田 浩毅 山本 俊哉 渕上 芳孝 石井 久夫 森山 義博 西尾 明保 寺戸 真 八尾 昭
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.97-108, 2008
参考文献数
52
被引用文献数
2

中新世の室生火砕流堆積物は近畿地方,紀伊半島中央部に分布し,その面積は1.9×10^2km^2に達する.室生火砕流堆積物は基底相と主部相に区分できる.基底相は層厚50m未満で異質岩片を含む溶結した火砕流堆積物と火山豆石を含む降下火山灰,火砕サージ堆積物で構成される.主部相はさらに下部にはさまれる層厚30m未満の斜方輝石を含むデイサイト質火山礫凝灰岩と上部の層厚400mを超える膨大な黒雲母流紋岩質火山礫凝灰岩に分けられる.主部相の基質はほとんどが溶結した結晶凝灰岩である.基底相には中礫大未満のチャート,砂岩,頁岩などの岩片が含まれており,室生火砕流堆積物を供給した地域の基盤岩を構成していた.室生火砕流堆積物は以前から中期中新世の熊野・大峯酸性岩類など大規模な珪長質火成岩が分布する南方から供給されたと推定されていた.異質岩片のチャートにペルム紀〜ジュラ紀の放散虫化石が含まれ,その給源火山の一部は秩父帯にあった可能性がある.秩父帯では半円形の断裂に沿って火砕岩岩脈群が貫入する大台コールドロンが存在しており,膨大な火砕流を噴出したことが推定される.
著者
秋山 雅彦
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.139-147, 2004-05-25 (Released:2017-07-14)

地球大気のCO2濃度と地球表層の温度との間には密接な関係が存在することから,温暖化はCO2を排出する化石燃料の燃焼によってもたらされ,地球温暖化対策が国際的な課題として取り上げられてきている.しかし,大気中のCO2が温室効果に果たす役割は,現在の濃度ですでに飽和になっているため,今後のCO2濃度の上昇は地球温暖化には影響しない,とする見解も提出されている.しかし,この見解は一般には問題視されていない.もし,この見解が科学的に正しいとするならば,地球温暖化対策は大きく軌道修正を迫られることになる.地質時代における地球大気組成の変遷史を検討すると,確かに,大気中のCO2濃度と気温との問には密接な関連が浮かび上がってくる.しかし,両者間の原因と結果という因果関係については明らかになっていない.地球温暖化の原因は化石燃料の燃焼である,と断定する前に,太陽活動の変化にともなう気候変動を含め,科学的にその因果関係を解明するための努力がなされなければならない.
著者
秋山 雅彦
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1-20, 2007
参考文献数
83
被引用文献数
4

地球温暖化は複雑系の科学であることから,その予測を困難にしている.大気中の温室効果ガスの増加が気温上昇をもたらす主な要因のひとつであることには疑う余地はないとしても,太陽活動による影響,とくに可視光以外のX線・紫外線の変動が気候に及ぼす影響についての解析は,まさに不十分であると言わざるを得ない.また,気温上昇にともなって生じる水蒸気の影響,雲量・アルベドの変化など,正または負のフィードバック機構の解析にも未知のことがらが多い.この論説では,地球史の最も新しい年代である第四紀の気候変動についての知識をもとに地球温暖化の現状を下記の順序で論述した.(1)第四紀における気候変動の歴史,(2)温室効果ガス,赤外吸収強度,放射強制力,太陽照射強度の変動,火山噴火・森林火災・黄砂による影響,(3)海洋中のCO_2濃度のフィードバック機構,アルベドの経年変化,宇宙線強度と雲量との関連.そして,結論として,地球温暖化ガスの増加にともなう正のフィードバック機構とともに,気候の人為変動に隠されている自然変動の解明が必要であることを強調した.
著者
伊藤 俊方 高木 信彦 佐藤 健一 佐藤 寿則
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.363-369, 2007-09-25

能登半島地震の震源地に近い輪島市門前町において,自然ガンマ線探査を実施した.調査期間は,余震が続く4月19,20日である.探査はカーボーンによって行い,測線は国道249号に沿って実施した.探査期間中には震度1以上の有感地震は観測されていないが,M2.0以下の余震は数回発生しており,これらの発生時間におけるガンマ線強度の変化については,特定の傾向が得られなかった.三種類のガンマ線核種を用いた解析によると,ビスマスが急増する異常点がいくつかの地点で見出された.これらは地震断層に伴なう断裂の可能性がある.地震断層として発見された中野屋の県道では,すでに亀裂も修復されガンマ線強度の増加は認められなかった.今後は定点における長期連続測定を行い,余震前後のガンマ線強度変化を把握することによって,この手法が地震防災に活用できる可能性を検証する必要があると考えている.
著者
井尻 正二 秋山 雅彦 後藤 仁敏
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.1-18, 1991-01-25 (Released:2017-06-06)

The purpose of this paper is to indicate a biological misunderstanding on the neoteny doctrine and a danger of the biological determinism inevitably included in the doctrine. The neoteny doctrine discussed in this paper is used in a broad sense, including Bolk's fetalization, Montagu's neoteny and Gould's retardation theories. A general understanding of the term (concept) of neoteny is a mixture of the above-mentioned three, though exemplifications of their characters for neoteny are not always same. Morphogenesis is classified into the following eight types by de Beer; 1) caenogenesis, 2) deviation, 3) neoteny, 4) reduction, 5) adult variation, 6) retardation, 7) hypermorphosis, and 8) acceleration. According to this classification, Bolk's fetalization and Montagu's neoteny correspond to neoteny, and Gould's retardation is to retardation and neoteny. Anatomical characters of Homo sapiens are enumerated in Table 1, where characters identified as neoteny by Bolk, Montagu and Gould are marked with circles. However, the critique of the neoteny doctrine should be focused on the anatomical characters for bipedal walk in erect posture, since this posture is the most important biological character of Homo sapiens. Bipedal walk in erect posture consists of erect posture, bipedalism and walk. The most fundamental characters are sigmoidal flexure of a vertebral column for erect posture, shape of a pelvis for bipedalism, and plantar arches for walk. If the neoteny doctrine is correct, those fundamental characters of Homo sapiens should appear in fetus or infant stages of anthropoids. Anatomical and comparative embryological examinations reveal that those characters are not observed in these stages. It is, therefore, concluded that the above-mentioned characters of Homo sapiens do not support the neoteny doctrine. Since the fundamental characters of Homo sapiens do not support neoteny, discussion on the other characters hitherto related to neoteny seems to be unnecessary. However, we discussed such characters as cranium, cranial flexure and direction of vagina so far regarded to be representative for neoteny, and proved that these characters are not to be neoteny. All of those who support the neoteny doctrine of Homo sapiens believe the human body as a perfect (harmonic) reality without any contradiction and are, at the same time, lacking in historical (geohistorical or phylogenic) viewpoints to human body constituent organs. Moreover, the neoteny doctrine originates in neglect or disregard of the importance of 'human society' in the course of humanization of the genus Homo. Lastly, we discussed the background for the birth of the neoteny doctrine and suggested the existence of biological determinism behind. We insist that organically unified natural and social sciences could become only the science in the 21 century.
著者
相坂 冀一郎
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.445-453, 1993-09-25 (Released:2017-06-06)

In this paper, I discussed about the fact that infant of anthropoid has alredy tendency to keep erect posture, and that human erect, too. So I wish to assert that characters of hominids and infant of hominoids are homology, and that hominids is neotenic species of infant of hominoids: This is a reason why human keeps erect posture and bipedal walk.
著者
小泉 斉
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科学 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.19-25, 1972-01-25 (Released:2017-07-26)

Endops yanagisawai (Endo & Matsumoto) gen nov. 1) Dorsal shield oval. 2) Glabella urceolate, strongly expanded forward with a flat marginal border, granulose. 3) Occipital ring rather with tubercles stand in a line. 4) Preoccipital lobe small, length-ways elongate, trigonal. 5) Eyes large, reniform, half long as grabella. 6) Free check rim inflated or slightly rounded. 7) Genal spines short. 8) Thorax consists of ten segments. 9) Pygidium semicircular, axis composed of 8 to 9 segments, pleurae about 6 or 7 segments, rather, finely granulose.10) Occurs in the Yabeina zone of the Upper Permian, in G2 valley, Takakura-yama, northwest of Tamayama Mineral Spring, Yotsukura Town, Iwaki City, Fukushima Prefecture. Nipponaspis takaizumii Koizumi, gen. et sp. now. 1) Dorsal shield elongate oval. 2) Cephalon semicircular; geneal spine short. 3) Glabella lengthways elongate, narrow in the middle, widest at the posterior. 4) Lateral glabellar furrow in four pairs, shallow and short. 5) Frontal part of glabella without flat marginal border, but a narrow preglabellar field present. 6) Occipital ring rather wide with a tubercle. 7) Eyes very large, reniform, two thrids as glabella. 8) Genal spine short. 9) Thorax consists of 9 segments. 10) Pygidum semicircular, axis composed of 12 to 13 segments, pleurae composed of about 8 segments. Fringe of pygidium wide. 11) Occurs in the Yabeina zone G2 valley, Takakura-yama.
著者
金 光男
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.287-300, 2006-07-25
被引用文献数
5

"御雇い外国人"Curt Adolph Netto(ネットー:ドイツ1847-1909)は,1873(明治6)-1877(明治10)年秋田県小坂鉱山において鉱山兼製鉱師として手腕を振るったのち,1877年10月東京大学の設立とともに理学部地質および採鉱冶金科採鉱冶金学教室に勤務し,その間多くの門下生を育成した日本鉱山学の恩人である.筆者は歴史資料の分析により,岩倉派遣団に同行し1873(明治6)年の春訪独した大島高任(1826-1901)がネットーとドイツのフライベルクにおいて契約し,小坂鉱山再興のためマンスフェルト式溶鉱炉を備えるドイツ式の製錬施設を購入したものと推定した.ネットーは1873(明治6)年11月来日する.ネットーの小坂鉱山への道のりについては,横浜を出港したのち箱館〜能代〜米代川を遡る海路によるルートが,吾妻(1974)により想定されていたが,筆者は滞日中彼が作製した幾枚かのスケッチを検討することによりネットーは1873(明治6)年11月横浜を出港し,同年11月7日に三陸海岸釜石湾に入港,大島がかつて開発した釜石鉱山(橋野鐵山)から東北に上陸,遠野街道〜奥州街道〜盛岡を経由し,同年12月17日柳沢分レを通過.津軽街道を経て陸路小坂鉱山に向かったことを明らかにした.ネットーの一枚のスケッチ「Japanische Kuste Dat. Dec. 7.73」は,太平洋上にある船上から釜石湾を眺望したものであり,それには蛇紋岩からなる早池峰山,ペルム系ホルンフェルスからなる片羽山,白亜系花崗岩からなる五葉山などの北上山系の高峰はもちろん,遠く奥羽脊梁山脈を構成する第四系火山秋田駒ヶ岳,焼石岳,栗駒山などの高山群までが描かれていることが明らかとされた.ネットーを乗せた船が入港するとき,釜石湾は年に一度あるかないかの好天により彼を出迎えたことが復元される.ネットーのスケッチを含む鉱山資料は,写真記録のほとんどなかった明治初期における貴重な科学史資料である.国内に残されるこれらの古い鉱山資料は,今後組織的に整理保管され専門家により再調査される必要がある.
著者
野村 正純
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.255-263, 2007-07-25
参考文献数
2
被引用文献数
2

能登半島地震(2007年3月25日発生,マグニチュード6.9)の震源地から約40km離れる旧七尾市において,震度5強が記録された.旧七尾市における地震被害の概要が本報告で述べられる.液状化や不同沈下のような特有な現象が七尾南湾の埋立地で頻繁に見られた.また,墓石転倒の被害は低い丘陵上の山の寺寺院群に集中した.転倒した墓石の方向から,旧七尾市での地震動は南北方向であったと推測できる.