著者
海老沢 政人 大島 朋子 長野 孝俊 五味 一博
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.386-394, 2007-06-30

現在,歯周組織再生療法の一つにエナメルマトリックスデリバティブ(EMD)を利用した方法がある.EMDを含むEmdogain^[○!R]-Gel(Emd^[○!R]-Gel)を用いた処置は,通法の歯周外科処置と比較して術後の治癒が良好であり,炎症反応の抑制が知られている.その理由の一つに,EMDが抗菌作用を有することが考えられているが,先行研究において一定した評価は得られていない.この理由として,EMDはアメロゲニン(AMEL),エナメリン,シースリンといった複数のタンパク質やタンパク質分解酵素を含む粗精製物であることが考えられる.このうち,AMELは最も豊富な構成物質で,EMDの約90%以上を占め,さまざまな分子量のAMELが会合して存在している.本研究の目的は,EMDの主要成分であるAMELの口腔内微生物に対する抗菌効果を評価することである.EMDは,ブタ下顎骨の幼若ブタ歯胚エナメル質から抽出し,Sephadex G-100を用いたゲル濾過クロマトグラフィーにより精製された25kDaとその誘導体である20kDa,13kDa,6kDa AMELを用い, Porphyromonas gingivalis, Prevotella intermedia, Actinobacillus actinomycetemcomitans, Candida albicansに対する抗菌効果を判定した,また,Emd^[○!R]-Gel,PGA,BSA,histatin 5との効果の比較を行った.Emd^[○!R]-Gelはすべての菌に抗菌効果を示し,Emd^[○!R]-Gelの溶媒であるPGAは歯周病関連細菌に強い抗菌作用を示したが,C. albicanには効果を示さなかった.250μg/ml濃度の25kDa,20kDa,6kDa AMELはP. gingivalisに対して抗菌効果を示したがその効果は低かった,P. intermediaおよびA. actinomycetemcomitansに対して,AMELは抗菌作用を示さなかった.したがって,Emd^[○!R]-Gelの歯周病関連細菌に対する抗菌効果はPGAがその主体であることが示唆された.一方,C. albicansに対してすべてのAMEL画分は,濃度依存的に強い抗菌効果を示した.したがって,Emd^[○!R]-GelのC. albicansに対する抗菌効果はAMELによるが,EMDにはAMEL以外にエナメリンやシースリンといったタンパクが含まれるため,これらの非AMELタンパクが抗菌作用を有する可能性も考えられる.今後,EMDに含まれるAMELおよび非AMELタンパクの特性の解明は,抗菌ペプチドの開発や臨床応用の可能性を検索するうえできわめて重要であると考える.
著者
京泉 秀明 伊藤 光哉 山田 純嗣 鈴木 敏光 久光 久
出版者
特定非営利法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.639-647, 2008-12-31
被引用文献数
1

レジンセメントで合着したコンポジットレジンインレーの物理的性質や審美性を改善するため,フロアブルレジンの合着材としての可能性について検討している.本研究の目的は,フロアブルレジンの被膜厚さおよびインレーを通過した照射光によるフロアブルレジンの重合状態について検討することにある.試験材料として11種類のフロアブルレジン,1種類のラミネートベニア合着用レジンおよび比較材料として1種類のレジンセメントを使用した.各材料を2枚のガラス板の間に挟み,3種類の温度環境下(4,23,37℃)においてそれぞれ150Nで10分間加圧した.光照射後,材料の被膜厚さを測定した.また,接着材料の厚みも弱圧(0.05MPa)および強圧(0.10MPa)によるエアーブロー後,光照射し,それぞれ測定した.フロアブルレジンの重合状態は,0から5mmまでの厚みのコンポジットレジンインレーブロックを通して40秒間光照射した試験材料の表面硬さを測定することにより評価した.その結果,次の結論を得た.1.環境温度が上がると試験材料の被膜厚さは低下する傾向が認められた.2.試験材料の被膜厚さと強圧でエアーブローした接着材料の厚みの合計は,37℃において1種類のフロアブルレジンを除くすべての材料で合着用セメントの規格である25μm以下を満たしていた.3.コンポジットレジンインレーの厚みが2mmを超えると,試験材料の表面硬さが次第に減少する傾向が認められた.
著者
木村 裕一 田辺 理彦 山崎 信夫 天野 義和 木下 潤一朗 山田 嘉重 増田 宜子 松本 光吉
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.12-20, 2009-02-28

現在,歯根破折の診断において視診を確実にする目的で,ヨード,メチレンブルー,齲蝕検知液などの染色液や電気抵抗値の測定,透過光線試験(透照診),根管内視鏡,実体顕微鏡,バイトテスト,超音波診断法などを併用した報告がなされている.しかしながら,これらの方法は不完全破折や亀裂の場合には客観的ではなく,不正確になりやすいことから,診断にあまり頻繁には使用されていない.本研究の目的は,齲蝕診断に有用なDIAGNOdent^[○!R]を用いて歯根破折の診断への応用の可能性を探ることである.まず,基礎的な研究として破折のないヒト抜去歯根がメチレンブルーによる染色時間と濃度でどの程度のDIAGNOdent^[○!R]値(以後,D値と略す)を示すかを調べた.次に歯根面に切削器具による人工的な溝を作製し,染色液の有無での幅または深さとD値との関係を調べた.そのほかに歯根に圧力をかけて不完全破折を起こし,D値との関係を染色の有無で調べた.さらに,破折部への浸透性を高めるため染色液に含有するエタノール濃度とD値との関係を調べた.統計学的方法は,Mann-Whitney U検定により危険率1%で有意差を検定した.染色時間とD値との関係は5分後までは徐々に増加したが,それ以降はほとんど変化がなかった.濃度との関係では濃度依存的にD値が増加し,10^<-4>%と1%ではD値に有意差があった.染色液の使用,人工的な溝の幅における増大,または溝の深さの増大に呼応してD値は有意に増加した.歯根破折前後を比較した実験では,染色液の有無にかかわらず有意にD値が増加していた.また染色液にエタノールを20%または40%含有させると,有意にD値が増加した.これらの結果より,臨床応用するには染色液とエタノールの口腔内組織への影響などに関してさらなる研究が必要であるが,染色液を併用することでDIAGNOdent^[○!R]により歯根破折の診断がより正確にできる可能性が示唆された.
著者
織田 洋武 坪川 瑞樹 玉澤 賢 堀内 健次 鴨井 久博 中島 茂 佐藤 聡
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.384-392, 2011-12-31

銀は一般家庭において除菌,抗菌,脱臭などの目的で高頻度に使用されている.銀コロイド溶液は,銀を電気分解して精製される無色透明の溶液であり,銀イオンよりも安定した状態で殺菌力をもつことで注目されている.また,銀コロイドは,特殊イオン交換体の相乗作用により殺菌,抗菌,脱臭の効果が増強することが報告され,食品の消毒や医療分野への転用が期待されている.本研究は銀コロイド溶液の口腔内病原細菌に対する殺菌効果,ならびにヒト歯肉および歯根膜より分離培養した線維芽細胞への影響についてin vitroにて検証した.殺菌試験は,Streptococcus mutans (ATCC25175), Aggregatibacter actinomycetemcomitans (ATCC29522), Poyphyromonas gingivalis (W83, ATCC33277), Prevotella intermedia (ATCC25611), Fusobacterium nucleatum (ATCC25586)の6菌種を使用した.各細菌を洗浄後,滅菌蒸留水で希釈した銀コロイド溶液(1.5, 3, 30ppm)にて1分間処理した.その後希釈し,寒天培地に塗抹後A. actinomycetemcomitans, S. mutansは48時間, P. gingivalis, P. intermedia, F. nucleatumは72時間培養を行い,評価はColony Forming Units (CFU)で行った.細胞毒性試験は,ヒト歯肉線維芽細胞とヒト歯根膜線維芽細胞を用いた.細胞を培養後,滅菌蒸留水で希釈した銀コロイド溶液(1.5, 3, 30ppm)を30秒,1, 2, 4分間それぞれ作用させた.その後,8日間の細胞増殖の変化を測定した.また,歯肉線維芽細胞と歯根膜線維芽細胞に対し,銀コロイド溶液を1〜100ppmに調整した培養液にて培養し,検討を行った.その結果,30ppmの銀コロイド溶液はS. mutans (ATCC25175), A. actinomycetemcomitans (ATCC29522), P. gingivalis (W83, ATCC33277), P. intermedia (ATCC25611), F. nucleatum (ATCC25586)の6菌種に対して完全な殺菌効果を示し,1.5ppmと3ppmの濃度においても有意な細菌の殺菌力を示した.さらに銀コロイド溶液は30ppmの濃度において歯肉線維芽細胞と歯根膜線維芽細胞に抑制作用を示した.この作用は希釈により低下し,20ppmにおいては抑制作用を認めなかった.細胞生存率は,100ppm以下の濃度において歯肉および歯根膜線維芽細胞のLD50値は観察されなかった.以上の結果から,銀コロイド溶液は宿主細胞に影響しない濃度下で口腔内病原細菌に対して強い殺菌作用を示すことが認められた.
著者
初岡 昌憲 恩田 康平 保尾 謙三 竹内 摂 福井 優樹 善入 寛仁 加茂野 太郎 井上 昌孝 山本 一世
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.281-295, 2010-06-30
被引用文献数
1

現在の歯科臨床の場には,MMA系レジンセメントやコンポジット系レジンセメント,セルフアドヒーシブレジンセメントといったさまざまなレジンセメントが存在する.今回われわれは,さまざまなレジンセメントのエナメル質,象牙質,12%金銀パラジウム合金(以後,金銀パラジウム合金)およびセラミックに対する引張接着強さを測定し,レジンセメントの接着性について検討を行った.実験には,MMA系レジンセメントとしてスーパーボンドC&B^[○!R](サンメディカル)およびマルチボンドII(トクヤマデンタル)を使用し,コンポジット系レジンセメントとしてレジセム(松風)およびパナビア^[○!R]F2.0(クラレメディカル)を,前処理を行わないセルフアドヒーシブレジンセメントとしてクリアフィル^[○!R]SAルーティング(クラレメディカル)およびリライエックス^<TM>ユニセムクリッカー^<TM>(3M ESPE),マックスセム(Kerr)を使用した.ウシ抜去歯に#600の耐水研磨紙を用いてエナメル質および象牙質平坦面を作製し,エナメル質および象牙質被着面とした.金銀パラジウム合金にサンドブラスト処理(0.5MPa)を行い金銀パラジウム合金被着面とし,セラミックブロックにサンドブラスト処理(0.3MPa)を行いセラミック被着面とした.被着面積は直径3mmに規定した.クリアフィル^[○!R]CRインレー(シェードXL,クラレメディカル)をテフロンモールドに填塞,硬化させCRブロックを作製した.それぞれのレジンセメントの製造者指示に従い,各被着面に対しCRブロックを接着させた.接着後24時間37℃水中保管した後,万能試験機(IM-20,Intesco)を用いてクロスヘッドスピード0.3mm/minにて接着強さを測定した.各被着面につき8試料とした.なお統計処理は,一元配置分散分析およびTukeyの検定を行った(α=0.05).前処理を行うMMA系およびコンポジット系レジンセメントは,セルフアドヒーシブレジンセメントよりもエナメル質および象牙質,金銀パラジウム合金,セラミック被着面に対する引張接着強さが有意に高い傾向が認められた.セルフアドヒーシブレジンセメントは前処理を必要としないため使いやすい材料であるが,前処理を行うレジンセメントよりも各種被着面に対する接着性が低下することが懸念される.
著者
近藤 一郎 小林 哲夫 若林 裕之 山内 恒治 岩附 慧二 吉江 弘正
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.281-291, 2008-06-30
被引用文献数
3

母乳に含まれるラクトフェリン(LF)は鉄結合性糖タンパク質であり,抗菌作用などの生理活性を有することが知られている.本研究では,ウシLF配合錠菓(森永乳業)を3カ月間摂取した場合の歯周炎患者に及ぼす影響を,臨床的,細菌学的,および生化学的に検討した.同意が得られた軽度慢性歯周炎患者18名を無作為に,ウシLF含有錠菓摂取群(実験群:8名)およびプラセボ錠菓摂取群(コントロール群:10名)に分けて,ともに錠菓を1日3回(1回2錠)3カ月間摂取し続けてもらった.錠菓摂取直前(ベースライン),摂取1週後,1カ月後,および3カ月後の来院時に,1)歯周組織検査,2)定量性PCRによる歯肉縁下プラークおよび唾液細菌検査(総菌数,Porphyromonas gingivalis数,Prevotella intermedia数,3)サンドイッチELISA法による歯肉溝滲出液(GCF)および唾液ヒト・ウシLF濃度検査,4)リムルステストによるGCFおよび唾液エンドトキシン濃度検査,を二重盲検法にてそれぞれ行った.各来院時での検査結果の群間差をMann-Whitney U testにて統計解析した.本実験期間中でウシLF錠菓摂取に伴う副作用は一切認められず,同錠菓の安全性が再確認された.実験群ではコントロール群と比べてベースラインに対する歯肉緑下プラーク細菌数変化量の有意な低下が,総菌数(1カ月後),P.gingivalis数(1,3カ月後),P.intermedia数(1週後)においてそれぞれ認められた.唾液細菌数および臨床所見における群間差はみられなかった.ウシLF濃度は,コントロール群と比べて実験群で有意に高いレベルが維持された.ヒトLFおよびエンドトキシンの濃度変化量には群間差はみられなかったが,実験群のGCFでは低レベルで推移する傾向が認められた.以上から,ウシLF配合錠菓の継続的な経口投与により,歯周病原細菌が減少することが臨床レベルで初めて確認された.ウシLFのレベルがGCFである程度維持され,歯肉縁下プラーク細菌を抑制した可能性が考えられる.食品成分であるウシLFを配合した錠菓の経口投与は,より安全な歯周病の予防法として有望であることが示唆された.
著者
中島 正俊 谷口 玄 SITTHIKORN Kunawarote 保坂 啓一 高橋 真広 岩本 奈々子 岸川 隆蔵 田上 順次
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.396-402, 2008-08-31
被引用文献数
1

う蝕象牙質へのレジンの接着性能は,健全象牙質に比べ低いことが知られている.その原因として,う蝕象牙質の形態学的構造,生化学的性状および機械的性状が,健全象牙質とは著しく異なっていることなどが挙げられている.また,被着象牙質表面を覆っているスミヤー層の性状も接着性能に影響を及ぼす可能性がある.象牙質切削時に表面に形成されるスミヤー層は,被切削体と構成成分は同じであると考えられている.したがって,う蝕象牙質削面に形成されるスミヤー層は,健全象牙質のスミヤー層と比べて有機成分の割合が多いと思われる.本研究では,う蝕象牙質内層(う蝕罹患(影響)象牙質:caries-affected dentin)へのレジンの接着性能の改良を目指して,スミヤー層の構造がう蝕象牙質と健全象牙質とで異なることに着目し,スミヤー層表面の有機成分を溶解・除去することができる次亜塩素酸ナトリウム水溶液による前処理が,う蝕罹患象牙質への2ステップ・セルフエッチ接着システム(クリアフィルメガボンドFA^[○!R],クラレメディカル)の接着強さに及ぼす影響について検討した.その結果,次亜塩素酸ナトリウム水溶液30秒処理後,還元効果のある芳香族スルフィン酸塩を主成分としたアクセル^[○!R](サンメディカル)にて30秒間処理することにより,う蝕罹患象牙質に対するクリアフィルメガボンドFA^[○!R]の接着強さを,無処理-健全象牙質に対する接着強さと同程度に改善させることができた.また,健全象牙質を次亜塩素酸ナトリウム水溶液30秒処理後,アクセル^[○!R]にて30秒間処理した場合と無処理-健全象牙質に対する接着強さの間に有意差は認められなかった.健全象牙質とう蝕罹患象牙質におけるスミヤー層の性状の違いが,2ステップ・セルフエッチ接着システムのう蝕罹患象牙質に対する接着強さの低下の大きな要因である可能性が示唆された.