著者
陸田 明智 小倉 由佳理 佐藤 愛子 寺井 里沙 鈴木 崇之 升谷 滋行 宮崎 真至 本淨 学 角野 奈津
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.276-282, 2014 (Released:2014-06-30)
参考文献数
25

目的 : レジンペーストの保管温度条件がその硬化物の機械的性質に及ぼす影響について, 曲げ特性および表面硬さを測定するとともに, レーザー顕微鏡を用いてコントラクションギャップの観察を行うことによって検討した.  材料と方法 : 供試したレジンペーストは, ユニバーサルタイプのEstelite Σ Quick, BeautifillⅡ, Filtek Supreme UltraおよびSolareの4製品, インジェクタブルタイプのMI Fillの合計5製品とした. レジンペーストの保管温度条件は, 5℃冷蔵庫保管 (冷蔵条件), 23℃室温保管 (室温条件) およびコンポジットレジン加温器を用いて45℃にした条件 (加温条件) の合計3条件とした. これらの保管温度条件で硬化させた試片について, 曲げ強さ, 曲げ弾性率およびヌープ硬さを測定するとともに, レーザー顕微鏡を用いてウシ抜去歯にレジンペーストを充塡した際のコントラクションギャップの観察を行った.  成績 : レジンペーストの保管温度条件が, 曲げ強さおよび曲げ弾性率に及ぼす影響は, いずれの製品においても, 冷蔵条件と比較して室温および加温条件で有意に高い値を示した. ヌープ硬さについては, いずれの製品においても, 冷蔵条件と比較して室温および加温条件で有意に高い値を示したが, その傾向は製品によって異なるものであった. コントラクションギャップの観察については, いずれの製品においても, 冷蔵条件においては窩洞隅角部にギャップの形成が顕著に観察されたが, 室温条件ではギャップ幅が減少し, さらに加温条件では, ほかの条件と比較してギャップ幅の減少が観察された.  結論 : レジンペーストの保管条件としての環境温度は, その機械的性質および窩壁適合性に影響を及ぼすことが示唆された.
著者
小田中 瞳 下地 伸司 竹生 寛恵 大嶌 理紗 菅谷 勉 藤澤 俊明 川浪 雅光
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.9-21, 2016 (Released:2016-02-29)
参考文献数
48
被引用文献数
1

目的 : 歯科治療に対して恐怖心を有している患者は多く, そのなかでも局所麻酔は全身的偶発症の発生頻度が高いため, 局所麻酔時の恐怖心や不安感を軽減させることは, 安心・安全な歯科治療を行うために重要である. そのための簡便な方法の一つとして音楽鎮静法があるが, 歯科領域ではまだ十分には検討されていない. 本研究の目的は, 健全な若年成人に対して局所麻酔を行った際の音楽鎮静法の効果について, 筆者らが開発したモニターシステムを用いて自律神経機能の変化によって評価することである.  対象と方法 : 22名 (26.5±1.9歳) の健全な若年成人ボランティアを対象とした. 同一被験者に対して, 音楽鎮静法を行わない非音楽鎮静群と音楽鎮静法を行う音楽鎮静群を設けた. 非音楽鎮静群と音楽鎮静群の順序は, 中央割付法でランダム化して決定した. 最初に, 質問票 (DAS) を用いて歯科治療に対する恐怖心を評価した. 次に非音楽鎮静群では, 麻酔前座位 (5分間), 麻酔前仰臥位 (5分間), 局所麻酔 (1/80,000エピネフリン添加塩酸リドカイン, 2分間), 麻酔後仰臥位 (5分間) を順に行った際の血圧・心拍数および自律神経機能について, 本モニターシステムを用いて評価した. 音楽鎮静群では音楽鎮静開始後に同様の評価を行った. また, 麻酔前後の不安感についてVASによる評価を行った. 自律神経機能は, 心電図のR-R間隔を高周波成分 (HF) と低周波成分 (LF) に周波数解析することで, 交感神経機能 (LF/HF) を評価した. 統計学的分析は, Friedman test, Wilcoxon signed-rank testを用いて行った (p<0.05).  結果 : 血圧, 心拍数およびVASは, 各段階でほとんど変化がなく, 有意な差は認められなかった. LF/HFは, 両群ともに局所麻酔薬注入時に麻酔前座位時よりも有意に低い値を示した. また, 麻酔前座位時および麻酔前仰臥位時に非音楽鎮静群よりも音楽鎮静群で有意に低い値を示した.  結論 : 健全な若年成人では, 音楽鎮静法を行った際は, 音楽鎮静法を行わなかった際と比較して局所麻酔前の座位時および仰臥位時において交感神経機能が低下する.
著者
工藤 義之 櫻井 秀人 岡田 伸男 野田 守 中居 賢司
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.331-337, 2015 (Released:2015-08-31)
参考文献数
18

目的 : 植込み型電子機器装着患者の電気的根管長測定と根管内超音波洗浄時の不整脈惹起作用について, 多チャンネル高分解能心電計 (ドリームECG) を用いて検討することを目的とした.  方法 : 根管治療のために超音波洗浄器ならびに電気的根管長測定器の使用が必要であったペースメーカー (PM) 装着者1名, 植込み型除細動器 (ICD) 装着者1名を対象とした. 治療前に循環器内科専門医と歯科麻酔専門医による十分な問診を行い, 4週間以内にICD作動, 致死的不整脈, 心筋虚血, 心不全 (NYHA Ⅲ以上) がないことを確認した. その後, ドリームECGを装着して治療中の循環器動態を測定した. 治療には循環器内科専門医と歯科麻酔専門医が立ち会い, 不測事項発生時への十分な対応のためにAEDや救急薬品をチェアーサイドに配置した.  症例1 : 54歳男性, ICD装着例. 歯科診断 : 下顎左側第一大臼歯慢性化膿性根尖性歯周炎.  症例2 : 80歳女性, PM装着例. 歯科診断 : 上顎左側第一大臼歯慢性化膿性根尖性歯周炎.  根管治療中に電気的根管長測定 (RootZX, Morita) ならびに歯科用多目的超音波治療器 (OSADA Enac 10W, Osada) での根管洗浄を行った.  成績 : いずれの症例でも, ドリームECGで若干のノイズ増加を認めたが, 致死的不整脈, 脱分極指標および再分極指標で異常を認めなかった.  結論 : PMあるいはICD装着患者において, 十分な問診, 歯科治療時の適切な循環動態の把握により, 超音波治療器・電気的根管長測定器を用いた場合でも安全な歯科治療遂行の可能性が示唆された. また, 歯科治療中の循環動態の把握にドリームECGが有効であると思われた.
著者
中島 正俊 谷口 玄 Kunawarote SITTHIKORN 保坂 啓一 高橋 真広 岩本 奈々子 岸川 隆蔵 田上 順次
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.396-402, 2008-08-31 (Released:2018-03-30)
参考文献数
26

う蝕象牙質へのレジンの接着性能は,健全象牙質に比べ低いことが知られている.その原因として,う蝕象牙質の形態学的構造,生化学的性状および機械的性状が,健全象牙質とは著しく異なっていることなどが挙げられている.また,被着象牙質表面を覆っているスミヤー層の性状も接着性能に影響を及ぼす可能性がある.象牙質切削時に表面に形成されるスミヤー層は,被切削体と構成成分は同じであると考えられている.したがって,う蝕象牙質削面に形成されるスミヤー層は,健全象牙質のスミヤー層と比べて有機成分の割合が多いと思われる.本研究では,う蝕象牙質内層(う蝕罹患(影響)象牙質:caries-affected dentin)へのレジンの接着性能の改良を目指して,スミヤー層の構造がう蝕象牙質と健全象牙質とで異なることに着目し,スミヤー層表面の有機成分を溶解・除去することができる次亜塩素酸ナトリウム水溶液による前処理が,う蝕罹患象牙質への2ステップ・セルフエッチ接着システム(クリアフィルメガボンドFA®,クラレメディカル)の接着強さに及ぼす影響について検討した.その結果,次亜塩素酸ナトリウム水溶液30秒処理後,還元効果のある芳香族スルフィン酸塩を主成分としたアクセル®(サンメディカル)にて30秒間処理することにより,う蝕罹患象牙質に対するクリアフィルメガボンドFA®の接着強さを,無処理-健全象牙質に対する接着強さと同程度に改善させることができた.また,健全象牙質を次亜塩素酸ナトリウム水溶液30秒処理後,アクセル®にて30秒間処理した場合と無処理-健全象牙質に対する接着強さの間に有意差は認められなかった.健全象牙質とう蝕罹患象牙質におけるスミヤー層の性状の違いが,2ステップ・セルフエッチ接着システムのう蝕罹患象牙質に対する接着強さの低下の大きな要因である可能性が示唆された.
著者
坂本 富則 山本 雄嗣 秋本 尚武 桃井 保子
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.38-45, 2012-02-29 (Released:2018-03-15)
参考文献数
10

金属鋳造修復歯を金属接着性プライマーを用いて補修修復する場合,プライマーを金属部のみに塗布することは難しく,歯質接着性プライマーやセラミック接着性プライマーが金属部に付着することも少なくない.本研究は,補修修復の際の金銀パラジウム合金に対する金属接着性プライマーとシランカップリング剤の併用塗布が接着強さに与える影響について検討するとともに,被着面の研削条件の違いが接着強さに与える影響について検討を行った.金銀パラジウム合金を用い,通法に従って鋳造体を作製した.被着面は,シリコンカーバイドペーパー#600,カーボランダムポイント,アルミナサンドブラスト(50μm)の3条件で処理した.3種の金属接着性プライマー(アロイプライマー®;クラレメディカル,メタルプライマーII®;ジーシー,V-プライマー®;サンメディカル)を塗布,シランカップリング剤(クリアフィルポーセレンボンドアクティベーター®;クラレメディカル)を用いクリアフィルメガボンド®(クラレメディカル)で処理,クリアフィルSTオペーカー®(クラレメディカル)およびクリアフィルAP-X®(クラレメディカル)にて接着試験片を作製した.試験片は37℃水中保管48時間後,引張接着試験を行った.結果として,金銀パラジウム合金では金属接着性プライマー処理により接着強さの向上が認められた.シランカップリング剤塗布による接着強さへの影響は認められなかった.接着強さは被着面の研削条件に影響され,アルミナサンドブラスト処理したものが最も高い接着強さを示した.3種の金属接着性プライマーの問に接着強さの差は認められなかった.
著者
石井 信之 木庭 大槻 許 多 佐藤 イテヒョン 清水 千晶 田中 俊 林田 優太郎 菅原 美咲 水野 潤造 武藤 徳子 鈴木 二郎 室町 幸一郎 下島 かおり 藤巻 龍治 宇都宮 舞衣 山田 寛子
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.38-43, 2020

<p> 目的 : 現在では, 歯科用実体顕微鏡や拡大鏡を使用した拡大視野下の長時間にわたる精密歯科診療が求められ, 歯科医師や歯科衛生士の正確な手技への支援や肉体的負担を軽減できる歯科診療支援システムの開発が必要とされている. 本研究は歯科診療アシストスーツを開発することで, 歯科診療の精密性向上, 診療成功率の向上, および歯科医師や歯科衛生士の肉体的負担軽減を目的とする.</p><p> 材料と方法 : 歯科診療アシストスーツの上腕負担軽減効果を解析するために, 表面筋電図による解析と定量評価機能を有した臨床シミュレーション装置を使用した臼歯部窩洞形成を実施した.</p><p> 結果 : 歯科診療アシストスーツを作動することで, 上腕二頭筋および上腕三頭筋の平均振幅値はいずれも有意に減少し, 上腕の負担軽減効果が認められた. 臼歯部窩洞形成の客観的総合評価は, 歯科診療アシストスーツ作動前と比較して作動後に有意な高得点を示した.</p><p> 結論 : 本研究で開発した歯科診療アシストスーツは, 上腕二頭筋と上腕三頭筋の緊張を軽減することによって, 診療精度の向上と長時間診療における術者の負担軽減を可能にする装置であることが示された.</p>
著者
廣田 陽平 岩田 有弘 横田 啓太 吉川 一志 山本 一世
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.47-57, 2016

&emsp;目的 : 歯の硬組織切削では, Er : YAGレーザーは特に優れた効果を示し, 臨床応用されているが, 高速回転切削器具と比較し除去効率では到底及ばず, 治療時間の延長などが問題となっている. われわれの研究グループは切削効率を向上させるため, 注水機構を霧状に改良した試作チップを作製し, 実験を重ねてきた. 今回この試作チップが製品化され, CS600Fとして発売された. 本研究はCS600Fを用いてレーザー照射を行い, ヒト象牙質に対する切削体積量, チップ先端損耗体積, チップ先端損耗率および先端出力への影響について検討した. <br>&emsp;材料と方法 : 被験歯として健全ヒト大臼歯を用い, 象牙質までモデルトリマーにて面出しを行い, 耐水研磨紙にて#2000まで研磨を行った後, 0.5mm/sでムービングステージを移動させながら4&times;4mmの範囲に均一にレーザー照射を10回行った. レーザー照射は試料までの距離を0.5, 1.0mmおよび2.0mmに規定した. C600Fにてレーザー照射を行った群をコントロール群, CS600Fにてレーザー照射を行った群を霧状噴霧群とした. 各試料および各照射チップをレーザーマイクロスコープにて観察し, 象牙質切削体積量およびチップ先端損耗体積量を計測し, チップ先端損耗率を算出した (n=3). また, 照射後の先端出力を計測し, 照射前に規定した先端出力と比較した. <br>&emsp;成績 : 象牙質切削体積量およびチップ先端損耗率ではすべての条件でコントロール群と比べ霧状噴霧群が有意に高い値を示し, チップ先端損耗体積および先端出力ではコントロール群と霧状噴霧群間で有意な差は認められなかった (p=0.05). <br>&emsp;結論 : 象牙質切削において, 霧状噴霧注水は, チップの損耗状態は変わらずに象牙質切削体積量を向上させることが示唆された. また, 従来の注水機構と霧状噴霧注水ともに, 10回照射後も先端出力の変化は認められなかった.
著者
芹田 枝里 大橋 桂 二瓶 智太郎
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.510-518, 2014 (Released:2015-01-06)
参考文献数
27

目的 : コンポジットレジン修復は, 材料の機械的性質の向上, 接着システムの向上, 患者の審美的要求により, 前歯や臼歯を問わず幅広く臨床に応用されている. コンポジットレジンの研磨後の表面性状は, 材料の臨床的予後や審美性に重要であることが知られている. この研究の目的は, 4種類のコンポジットレジンと4種類のワンステップ研磨材を用いて研磨した表面の, 表面粗さ (Ra) と光沢度を評価することである.  材料および方法 : 実験に供試したコンポジットレジンは, クリアフィルマジェスティES-2 (CME : クラレノリタケデンタル, A3), フィルテックシュープリームウルトラ (FSU : スリーエムヘルスケア, A3B), プレミス (PRM : Kerr, BODY A3) およびエステライトΣクイック (ESQ : トクヤマデンタル, A3) の4種類とし, ワンステップ研磨材は, CRポリッシャーPS (CP : 松風, ディスク), オプチワンステップ (OS : Kerr, ディスク), PoGo (PG : デンツプライ三金, ディスク) およびアイポール (IP : へレウスクルツァージャパン, ディスク) の4種類を用いた. コンポジットレジン試料は, 円盤状 (ɸ11mm×3mm) に調整し, 耐水研磨紙#600にて30秒間研磨後, 各種ワンステップ研磨材で30秒間研磨し試料とした. 未研磨試料をNP群, 耐水研磨紙#600で研磨した試料を#600群, ワンステップ研磨材で研磨した試料を, それぞれCP群, OS群, PG群およびIP群とした. 試料は, 表面粗さ (Surfcom590A, 東京精密) とその光沢度 (GM-268Plus, コニカミノルタ) を測定し研磨効果を評価した. 得られた値は, 一元配置分散分析によりα=0.05で統計学的に処理し, Tukey HSDテストによる多重比較検定を行った. さらに, 表面粗さと光沢度に関してPearsonの相関分析を行った.  結果および考察 : 表面粗さ (Ra) は, CMEのNP群が最も高い値を示し, PRMのIP群は最も低い値を示した. 光沢度では, FSUのOS群が最も高い値を示した. 今回使用したワンステップ研磨材でOSとIPは, コンポジットレジン表面を滑沢にし, 高い光沢が得られた. Pearsonの相関分析から, 表面粗さと光沢度の間には, 中等度の負の相関が認められた.  結論 : 本実験の結果から, ワンステップ研磨材はコンポジットレジンの種類によって, 異なる研磨効果が得られることが明らかとなった.
著者
松島 友二 鈴木 琢磨 八島 章博 白川 哲 鈴木 丈一郎 五味 一博
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.306-313, 2015 (Released:2015-08-31)
参考文献数
28

目的 : 極細毛を用いた手用歯ブラシは, 極細毛が歯周ポケット内に到達し, 歯周ポケット内のプラークコントロールに効果があるとされているが, 手用歯ブラシでは細かな振動を与えることが困難で, 極細毛の効果を十分に発揮することができないと考えられる. 本研究では, 微細な振動を与える音波歯ブラシに極細毛を応用した場合のプラーク除去効果, 歯周ポケット内の細菌叢の変化および歯肉に対する傷害を調べることを目的とした.  材料と方法 : 実験には段差の異なる極細毛3種類と手用極細毛歯ブラシを用いた. 被験者は, 歯肉炎または軽度歯周炎を有する歯周病患者52名を対象とした. この52名を無作為に4群に分け, 0週, 2週および4週後に歯肉擦過傷, 歯肉溝滲出液量, ポケット深さ, BOP, GI, PCR値を測定した. また, 歯周病患者18名について段差3mmの極細毛歯ブラシを音波歯ブラシおよび手用歯ブラシで用い, 使用前後のポケット内細菌をPCR-Invader法で測定した.  結果 : すべての歯ブラシにおいて歯肉への傷害は軽微であった. また, プラーク除去および歯肉の炎症改善は, 各歯ブラシ間に有意差を認めなかった. 段差3mmの極細毛を音波歯ブラシで用いた場合, 有意に細菌の減少が認められた.  考察 : 極細毛を応用した音波歯ブラシは, ポケット内のプラークコントロールに有効であると考えられた. さらに歯肉傷害は少なく, 安全に使用できることが確認された.
著者
森上 誠 行定 健治 田島 賢一 佐藤 暢昭 杉崎 順平 宇野 滋 山田 敏元
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.517-524, 2010
参考文献数
9
被引用文献数
1

多岐にわたる各種の歯科処置が歯科医師の治療時間のなかでどの程度の割合を占めているのかについて,3ヵ月間にわたる調査を虎の門病院歯科において行った.通常行われる歯科処置について,初診診査,歯周処置,歯内処置,レジン修復,インレー修復,脱離修復物・補綴物の再装着,クラウン補綴,ブリッジ補綴,義歯補綴,インプラント処置,口腔外科処置,顎関節症処置,漂白,その他の14カテゴリーに分類し,さらにこれらを全50項目に細分化した.11名の歯科医師が診療を行いながら,その処置時間をストップウォッチで計測した(単位:分).調査期間終了後,各種の歯科処置に要した時間および患者数を集計し,これに基づき処置内容別の患者1人当たりの平均処置時間を算出した.また,平均処置時間とそれぞれに対応する保険診療報酬との関係を処置内容別に比較・検討するために,保険点数を平均処置時間で除した値(Point/Time ratio,以下,P/T ratio)を算出した.カテゴリー別の処置時間は,歯周処置が29,556分(28.7%),歯内処置が9,274分(9.0%),レジンおよびインレー修復処置が16,083分(15.6%)であり,歯科保存学領域の処置は全体の53.3%を占めた.処置内容別では,スケーリングが21,677分で全体の21.0%を占め,すべての処置内容のなかで最も多くの処置時間を占めることが明らかとなった.次いでレジン修復の13,019分(12.6%),初診診査の9,312分(9.0%),歯周疾患処置の4,276分(4.1%),義歯調整の3,938分(3.8%),クラウン失活歯支台歯形成+印象採得+咬合採得の3,930分(3.8%),根管貼薬の3,725分(3.6%)という順になった.また,すべての歯科処置のなかでP/T ratioの高い処置は,硬質レジン前装ブリッジ装着(218.8),総義歯装着(171.6),床副子(ナイトガード)装着(170.1)であり,P/T ratioの低い処置は,クラウンメタルコア高洞形成+印象採得(1.3),ブリッジメタルコア窩洞形成+印象採得(2支台歯:1.6),硬質レジン前装ブリッジ試適(1.8),根管貼薬(単根:1.9)であった.P/T ratioは,診療時間に対する歯科処置のコストパフォーマンスを考慮する際の指標になるものと思われた.
著者
吉田 康一 吉田 隆一 伊東 智美 殿内 利夫 斎藤 達哉 瀧谷 佳晃 河野 哲 吉田 隆一
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.456-473, 2015 (Released:2016-01-06)
参考文献数
37

目的 : 強酸性水中の塩素酸や次亜塩素酸は大気に触れると反応し分解する. 水が凝固する際は食塩等溶解物を析出し純水に近い形で凍結するが, 電解機能水を氷結して固体で保存すれば対流はなく酸素との接触面は固定化され, 内部成分を保護でき, 殺菌力を維持した長期保存が可能になると考えた. 装置での機能水生成条件を変えて獲得した, さまざまな強酸性電解水と強アルカリ性電解水を氷結し, 保存条件を変えて解凍液の諸性質の変化を調べ, 最適な使用条件を求めた.  材料と方法 : 可変電圧 (0~90V), 直流電流 (0~10A, 整流), 貯留式の二室型機能水製造装置を試作した. 装置は生成される機能水の性状を大幅に変えることができる. 食塩水の電解により得られた酸性水とアルカリ性水を氷結前に10ml採取し, pHとORP値 (mV), 残留塩素濃度 (ppm) の測定を行った. 両水溶液は容器 (80ml) に各60mlを注入し, −17°Cの冷凍庫にて氷結した. 24, 168時間後に容器を取り出し, 室温 (23°C) で約2時間放置して解凍し, 性状を再度計測した. 分析は, 食塩添加率 (要因A) ; 3水準 (0.3, 0.6, 0.9wt%), 電解電流 (B) ; 2水準 (2, 4A), 保存方法 (C) ; 2水準 (容器の密閉の有無), 氷結時間 (D) ; 2水準として, ランダムに繰り返し3回行い, 測定値を項目別に四元配置分散分析した. さらに, 氷結保存の方法と期間が水溶液に与える影響のみを, 同データからWelchのt-testによって検定した. 機能水生成直後の諸性質の測定値に対して, 同一液で氷結解凍後に得られた値を直線方程式にて回帰分析した.  成績 : 分析から酸性電解水では, pHは解凍液でも2.2以内の酸性度を維持した. ORP値は容器の密閉を行う短期間保存で高い値を維持したが, いずれの条件でも解凍液は1,100mV以上だった. 塩素濃度 (ppm) は氷結保存の前後で263ppmから経時的に減少したが, 食塩添加率と電解電流値を高くし, 容器の密閉でこれを抑制できた. 密閉保存, 168時間氷結の解凍液でy=0.5251x−36.212 (r=0.919**) であった. 開栓でも多種の生成・保存条件の解凍液で, 薬事法上の殺菌料としての強・弱酸性次亜塩素酸水に近似した性状を獲得した. アルカリ性水では, pHは生成時の電解電流が高ければ解凍液でもわずかにアルカリ側に傾いた. ORP値は−849.2から解凍後に+224.94~301mVに転じたが, 容器の密閉によって上昇を抑制できた.  結論 : 生成・保存条件の調節により, 容器を開栓し168時間の氷結保存で解凍した酸性電解水でも十分な殺菌能が維持されており, 密閉保存すればこれが向上した. 解凍アルカリ性電解水では, 市販清掃用アルカリ性水に近似した性状であった. 氷結保存法により解凍後も殺菌能をもつ機能水を獲得でき, 人体への臨床応用の可能性が示唆された.
著者
辻本 暁正 鈴木 崇之 佐藤 愛子 寺井 里沙 高橋 史典 川本 諒 坪田 圭司 高見澤 俊樹 宮崎 真至
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.162-169, 2014 (Released:2014-05-07)
参考文献数
26

目的 : 光重合型コンポジットレジン (光重合型レジン) 修復の臨床応用範囲の拡大に伴って, 大型窩洞に対して一括で充塡できるバルクフィルコンポジットレジンが開発され, 臨床応用されている. しかし, このカテゴリーに属するコンポジットレジンの市販から間もないこともあり, これらの機械的諸性質に関する情報は少ないのが現状である. そこで, バルクフィルコンポジットレジンの機械的諸性質について, 市販されているコンポジットレジンと比較, 検討した. 材料と方法 : 供試した光重合型レジンは, バルクフィルレジンとしてTetric N-Ceram Bulk Fill (Ivoclar Vivadent) およびSDR (Dentsply DeTrey), ユニバーサルコンポジットレジンとしてTetric N-Ceram (Ivoclar Vivadent) およびEsthet・X HD (Dentsply DeTrey), フロアブルコンポジットレジンとしてTetric N-Flow (Ivoclar Vivadent) の合計5製品を用いた. これらの光重合型レジンについて, 硬化深さ, 無機フィラー含有量, 曲げ強さおよび曲げ弾性率および体積重合収縮率を, 通法に従って測定した. また, 供試した光重合型レジンのフィラー性状について, フィールドエミッション型SEMを用いて加速電圧10kVの条件で観察した. 成績 : バルクフィルレジンの硬化深さは, 3.42~4.27mmであり, その値は製品により異なるものの, 市販の光重合型レジンと比較して有意に高い値を示した. 供試した光重合型レジンの無機質フィラー含有量は60.3~77.5wt%であり, ペーストタイプの光重合型レジンがフロアブルタイプのものと比較して有意に高い値を示した. バルクフィルレジンの曲げ強さは123.3~127.5MPaおよび曲げ弾性率は7.0~8.0GPaであり, その値は製品により異なるものであった. バルクフィルコンポジットレジンの照射開始180秒後の体積重合収縮率は, 2.12~2.23vol%であり, ユニバーサルコンポジットレジンより大きく, フロアブルコンポジットレジンより小さい値を示した. 結論 : 本実験の結果から, バルクフィルコンポジットレジンは, 市販の光重合型レジンと比較して, その硬化深さの値が大きくなっているとともに機械的強度も同等あるいはそれ以上であった. したがって, これらのバルクフィルコンポジットレジンは, 今後の光重合型レジン開発の一つの方向性になるものと考えられた.
著者
杉田 典子 中曽根 直弘 花井 悠貴 高橋 昌之 伊藤 晴江 両角 俊哉 久保田 健彦 奥田 一博 吉江 弘正
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.219-228, 2014 (Released:2014-06-30)
参考文献数
24

目的 : 化学的プラークコントロール法としてグルコン酸クロルヘキシジン (CHG) 配合洗口液が効果的であるが, アレルギーなどの副作用が問題視されている. そこで今回, 塩酸クロルヘキシジン (CHH) と塩化セチルピリジニウム (CPC) を抗菌成分として配合した洗口液を開発し, 基本治療終了後の歯周炎患者が4週間使用した場合の口腔細菌に対する効果を評価した.  材料と方法 : 新潟大学医歯学総合病院歯周病科を受診中で, 20歯以上を有し歯周基本治療後5mm以上の歯周ポケットを1~7部位有する歯周炎患者30名を対象とした. 新洗口液 (CHH+CPC群), CHG配合のコンクールF (CHG群), 抗菌成分を含まないコントロール洗口液 (コントロール群) を使用する3群にランダムに各10名を割付け, 二重盲検法で比較した. ベースラインおよび使用4週後に唾液・舌苔・歯肉縁上プラークを採取し, 総菌数, 総レンサ球菌数, Porphyromonas gingivalisおよびStreptococcus mutansの菌数を測定した. またterminal restriction fragment length polymorphism (T-RFLP) 法による解析を行った.  成績 : いずれの洗口液でも有害事象は認められなかった. ベースライン (術前) と4週目を比較した結果, CHH+CPC群において唾液中総菌数とS. mutans数, 舌苔中総菌数, 縁上プラーク中総レンサ球菌数が有意に減少していた. CHG群においては, 縁上プラーク中総菌数の有意な減少が認められた. コントロール群では舌苔中総菌数および総レンサ球菌数が有意に減少していた. T-RFLP解析の結果, CHH+CPC群の唾液中において制限酵素Msp I切断断片から推定されるStreptococcus群, Hha I切断断片から推定されるStreptococcus・Eubacterium群, Parvimonas群およびPorphyromonas・Prevotella群が有意に減少していた. 縁上プラーク中の細菌については, Hha I切断断片から推定されるStreptococcus・Veillonella群がCHG群で有意に減少していた. その他に有意な変化は認められなかった.  結論 : これらの結果より, CHH+CPC配合洗口液はより安全に使用でき, CHG配合洗口液と同程度以上の抗菌効果をもつことが示唆された.
著者
織田 洋武 坪川 瑞樹 玉澤 賢 堀内 健次 鴨井 久博 中島 茂 佐藤 聡
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.384-392, 2011-12-31 (Released:2018-03-20)
参考文献数
26

銀は一般家庭において除菌,抗菌,脱臭などの目的で高頻度に使用されている.銀コロイド溶液は,銀を電気分解して精製される無色透明の溶液であり,銀イオンよりも安定した状態で殺菌力をもつことで注目されている.また,銀コロイドは,特殊イオン交換体の相乗作用により殺菌,抗菌,脱臭の効果が増強することが報告され,食品の消毒や医療分野への転用が期待されている.本研究は銀コロイド溶液の口腔内病原細菌に対する殺菌効果,ならびにヒト歯肉および歯根膜より分離培養した線維芽細胞への影響についてin vitroにて検証した.殺菌試験は,Streptococcus mutans (ATCC25175), Aggregatibacter actinomycetemcomitans (ATCC29522), Poyphyromonas gingivalis (W83, ATCC33277), Prevotella intermedia (ATCC25611), Fusobacterium nucleatum (ATCC25586)の6菌種を使用した.各細菌を洗浄後,滅菌蒸留水で希釈した銀コロイド溶液(1.5, 3, 30ppm)にて1分間処理した.その後希釈し,寒天培地に塗抹後A. actinomycetemcomitans, S. mutansは48時間, P. gingivalis, P. intermedia, F. nucleatumは72時間培養を行い,評価はColony Forming Units (CFU)で行った.細胞毒性試験は,ヒト歯肉線維芽細胞とヒト歯根膜線維芽細胞を用いた.細胞を培養後,滅菌蒸留水で希釈した銀コロイド溶液(1.5, 3, 30ppm)を30秒,1, 2, 4分間それぞれ作用させた.その後,8日間の細胞増殖の変化を測定した.また,歯肉線維芽細胞と歯根膜線維芽細胞に対し,銀コロイド溶液を1〜100ppmに調整した培養液にて培養し,検討を行った.その結果,30ppmの銀コロイド溶液はS. mutans (ATCC25175), A. actinomycetemcomitans (ATCC29522), P. gingivalis (W83, ATCC33277), P. intermedia (ATCC25611), F. nucleatum (ATCC25586)の6菌種に対して完全な殺菌効果を示し,1.5ppmと3ppmの濃度においても有意な細菌の殺菌力を示した.さらに銀コロイド溶液は30ppmの濃度において歯肉線維芽細胞と歯根膜線維芽細胞に抑制作用を示した.この作用は希釈により低下し,20ppmにおいては抑制作用を認めなかった.細胞生存率は,100ppm以下の濃度において歯肉および歯根膜線維芽細胞のLD50値は観察されなかった.以上の結果から,銀コロイド溶液は宿主細胞に影響しない濃度下で口腔内病原細菌に対して強い殺菌作用を示すことが認められた.
著者
鈴木 英明 三田 肇 藤田 光 小泉 直也 岡田 珠美 水野 恭子 有川 量崇 池見 宅司
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.296-303, 2010-06-30 (Released:2018-03-29)
参考文献数
40

齲蝕は口腔内の細菌が産生する酸によって引き起こされる疾患であり,連鎖球菌の1種であるStreptococcus mutansを代表とする齲蝕原因菌による内因性疾患であることが明らかにされている.現在,実用化されている齲蝕予防法には,宿主対策としての歯質強化を目的としたフッ化物の応用があるが,それ以外は効果的な齲蝕予防対策が得られていないのが現状である.近年,齲蝕罹患率の減少や予防のためにさまざまな研究が行われており,齲蝕予防効果を付与した種々の口腔用剤や飲食物が考案されてきている.アントシアニンは,フラボノイドの1種で植物性食品素材の色素成分として検出され,抗酸化作用,抗肝障害作用,視神経機能改善作用,抗炎症作用,動脈硬化改善作用などを有する.今回,われわれはアントシアニン系のなかからナスの皮に含まれるポリフェノールの1種であるナスニンに着目した.本研究の目的は,デルフィニジン型アントシアニンに属するナスニンに齲蝕予防の可能性があるかどうかを,その抗菌作用についてin vitro実験において調べることである.検討の結果,以下の知見が得られた.1.S.mutansに対する最小発育阻止濃度は500μg/mlであった.2.Streptoccus sobrinusに対する最小発育阻止濃度は250μg/mlであった.3.Actinomyces viscosusに対する最小発育阻止濃度は500μg/mlであった.4.ナスニンの抗菌作用は,S.mutans,S.sobrinusおよびA.viscosusのresting cellに対して殺菌的であった.5.ナスニンは,S.mutans PS-14株ならびにS.sobrinus 6715株産生粗glucosyltransferaseのsucrose依存性非水溶性グルカン合成活性を顕著に阻害した.以上のことより,ナスニンは齲蝕原因菌に対して顕著な殺菌作用が認められ,抗齲蝕作用を有することが示唆された.
著者
細川 義隆 細川 育子 尾崎 和美 松尾 敬志
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.10-16, 2018 (Released:2018-02-28)
参考文献数
15

目的 : テアフラビンは紅茶に含まれる渋味成分の一つであり, ポリフェノールに分類される色素成分である. テアフラビンは, 抗酸化作用・抗炎症作用などさまざまな生理活性作用が報告されているが, 口腔上皮細胞に対する作用に関しては不明な点が多く, 十分に明らかにされていない. 本研究では口腔上皮細胞に対するテアフラビンの抗炎症作用について調べることを目的とし, 炎症性サイトカインの一つであるインターロイキン (IL)-27が誘導するケモカイン産生に与えるテアフラビンの影響を明らかとするため検討を行った. 本研究では, Th1細胞浸潤に関与するケモカインであるCXC chemokine ligand (CXCL) 9, CXCL10およびCXCL11産生に着目した. 材料と方法 : 口腔上皮細胞としてTR146細胞を用いた. TR146細胞のケモカイン産生は市販のELISAキットを用いて, テアフラビンにて1時間前処理後にIL-27で24時間刺激を行い, 上清中のCXCL9, CXCL10およびCXCL11産生を測定して検討した. また, IL-27が活性化するシグナル伝達経路に与えるテアフラビンの影響についてWestern blot法を用いて検討した. シグナル伝達経路としては, IL-27が活性化することが知られているprotein kinase B (Akt), extracellular signal-regulated kinase (ERK), signal transduction and activator of transcription (STAT) 1およびSTAT3に着目した. 結果 : テアフラビンの前処理によりIL-27で誘導されたTR146細胞のCXCL9, CXCL10およびCXCL11産生は, 濃度依存的に抑制された. また, IL-27が誘導したAkt, ERK, STAT1およびSTAT3のリン酸化は, テアフラビン処理により抑制された. 結論 : テアフラビンは口腔上皮細胞においてIL-27誘導ケモカイン産生を抑制することにより, 歯周炎組織の炎症を軽減できる可能性が示唆された.
著者
平木 大地 植原 治 原田 文也 髙井 理衣 高橋 周平 虎谷 斉子 森川 哲郎 安彦 善裕
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.271-278, 2019 (Released:2020-01-07)
参考文献数
24

目的 : ホップには抗菌効果のあることから, 口腔細菌に対する抗菌作用も期待できるが, 歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisに対しての抗菌効果およびそのメカニズムについては明らかにされていない. 本研究では, ホップの成分であるキサントフモール (XN) のP. gingivalisへの作用についてRNA-Seqによる網羅的解析を行った. 材料および方法 : 歯周病原細菌P. gingivalisへのXNの影響について, 次世代シーケンサーを用いたRNA-Seqによるトランスクリプトーム解析を行った. P. gingivalis W83株をXNと嫌気培養し, 最小発育阻止濃度 (MIC) の測定, 抽出したRNAを用いRNA-SeqおよびReal time PCRによる再現性の確認を行った. 結果 : トランスクリプトーム解析で発現が増加していたものにmolecular chaperone GroES, nucleotide exchange factor GrpEおよびmolecular chaperone HtpGなどのHeat Shock Proteinにかかわる遺伝子が認められた. 低下していたものにFe-S cluster assembly protein SufB, Fe-S cluster assembly protein SufDおよびFe-S cluster assembly ATPase SufCが認められた. SufB, SufDおよびSufC遺伝子は, 鉄の取り込みや鉄-硫黄クラスターの形成において重要な役割を果たしていると考えられることから, XNはP. gingivalisの発育に必要な鉄の取り込みを阻害する可能性がある. 結論 : ホップ成分XNがin vitroで歯周病原細菌P. gingivalisの発育抑制効果を有することが示唆された.