著者
中野 貴文 川村 和章 椎谷 亨 山本 龍生 向井 義晴
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.215-220, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
23

目的:活動性根面齲蝕に類似した象牙質病巣を作製し,ジェルタイプのフッ化物含有知覚過敏治療材の塗布時間の違いによる病巣変化と進行停止効果について,TMR(Transverse microradiography)を用いて検討を行った. 材料と方法:フッ化物含有象牙質知覚過敏治療材として,MSコートHysブロックジェルを使用した.ウシ歯根部象牙質に耐酸性バーニッシュを塗布し,2×3mmの被験面を作製した.実験群はBaseline lesion群,Control群,30s-Tr群,5min-Tr群の4群とした.4群とも脱灰溶液(1.5mM CaCl2,0.9mM KH2PO4,50mM酢酸,0.2ppm F,pH 5.0)を注いで24時間37°Cで基準病巣を作製した後,Baseline lesion群はこの直後にTMR分析を行った.他の3群は各処理を行った後に96時間脱灰を行い,TMR分析を行った.被験面処理方法は,Control群では脱イオン水を30秒間,30 s-Tr群ではHysブロックジェルを30秒間,5min-Tr群ではHysブロックジェルを5分間塗布した.すべての群の試料から薄切片を切り出した後,TMR撮影してミネラルプロファイルから脱灰深度とミネラル喪失量を測定した.統計分析はKruskal-Wallis検定ならびにSteel-Dwassの多重比較検定により,有意水準5%で実施した. 結果:5min-Tr群のミネラルプロファイルはControl群に比較し顕著に高いミネラルvol%を示し,特に表層部は約45vol%であった.各群の病巣深度は,Baseline lesion群で71.5μm,Control群で165.8μm,30 s-Tr群で155.7μm,5min-Tr群で100.1μmであり,ミネラル喪失量は,Baseline lesion群で2,020.0vol%×μm,Control群で4,727.5vol%×μm,30 s-Tr群で3,592.5vol%×μm,5min-Tr群で2,102.5vol%×μmであった.病巣深度およびミネラル喪失量とも,5min-Tr群はControl群および30s-Tr群に比較し有意に小さな値を示した. 結論:表層の再石灰化が乏しい根面脱灰病巣に対し,MSコートHysブロックジェルを規定の塗布時間を超えて5分間処理することにより,効果的な病巣進行停止効果が認められた.
著者
蔵田 和史 鈴木 奈央 笹本 実 加治木 聡 権藤 加那子 鬼塚 得也 森 智昌 永井 淳 加藤 熈 坂上 竜資
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.406-412, 2011-12-31 (Released:2018-03-20)
参考文献数
27

口臭の原因物質としては,口腔内プラークに由来する揮発性硫黄化合物が特に重要である.現在,種々の口臭抑制剤が市販されているが,このなかでも特にポリフェノール化合物には口臭の抑制効果があることが報告されている.これまでわれわれは,カキノキDiospyros kaki Thunbergの果実より得られた抽出液にトレハロースを加えて作られた消臭剤「パンシルPS-SP®」に着目し,in vitroにおけるPorphyromonas gingivalisに対する静菌作用と消臭作用,さらにメルカプトエタノールに対する消臭作用を報告してきた.そこで今回われわれは,カキノキDiospyros kaki Thunbergの果実より得られた抽出液を限外濾過し,「パンシルPS-SP®」よりもさらにポリフェノール化合物の精製度を向上させたものにトレハロースを加えて作られた消臭剤「パンシルPS-M®」(以下,パンシルと略す)を用いて,口臭の抑制効果を検証することを目的として,被験者100名の口臭を「MS-Halimeter®」(以下,ハリメータと略す)を用いて測定した.まず,起床1時間後に口臭を測定し,この値を基準値(コントロール)とした.その後,蒸留水を嚥下2分後,1.0%パンシル溶液を嚥下2分後と10分後に同様にして口臭を測定した.実験の結果,コントロールと比べて,1.0%パンシル溶液嚥下2分後と10分後では,ハリメータによる口臭測定値において統計学的に有意な減少が認められた(p<0.05).以上のことから,パンシルはin vivoにおいて口臭の原因物質である揮発性硫黄化合物に対し,消臭効果をもたらすことが明らかになった.
著者
岡田 崇之 杉田 典子 大塚 明美 青木 由香 高橋 昌之 吉江 弘正
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.344-352, 2013-08-31 (Released:2017-04-28)

目的:歯周炎に対しスケーリング・ルートプレーニングを含む動的治療を行った後に残存したポケットに歯周病原細菌または炎症の継続が認められる場合,さらなる進行のリスクが高い.セルフケアとして,ブラッシングに薬剤を含む歯磨剤を併用し殺菌・消炎を図ることは,歯周炎の進行抑制に効果的と考えられる.歯磨剤ジェルコートFは,0.05%塩酸クロルヘキシジン,β-グリチルレチン酸,フッ化ナトリウム,ポリリン酸ナトリウムを含有している.今回,歯周治療後の残存歯周ポケットに対するジェルコートFの効果を調べた.材料と方法:対象は20歯以上を有する男女で,慢性歯周炎に対しスケーリング・ルートプレーニングを含む動的治療終了後1カ月以上経過し,2歯以上に6〜7mmの残存ポケットを有する20名とした.無作為化二重盲検法にて2群に分け実験群はジェルコートFを,コントロール群は塩酸クロルヘキシジン,β-グリチルレチン酸を除いたコントロール剤を使用した.残存ポケットを有する1歯を歯肉溝滲出液(GCF),ほかの1歯を細菌検査対象とし,GCF中のAST, ALT,縁下プラーク中のPorphyromonas gingivalis, Prevotella intermedia, Tannerella forsythiaおよびTreponema denticolaを測定した.歯周病検査を行った1週後(0w)にGCFと縁下プラークを採取し,次いでポケット内に歯磨剤を注入した.患者は毎日歯磨剤を使用してブラッシングを行い,就寝前にリテーナーにて歯磨剤を10分間適用した.4週後,同様の検査を行い結果を解析した.成績:実験群,コントロール群とも有害事象は認められなかった.ベースラインにおいて年齢,男女比,ポケット深さ,細菌レベル,GCF成分の差はなかった.術前術後比較では,実験群のみ対象歯のPlaque Index (PlI)とGingival Index (GI)が減少した.それ以外に有意な変化はなかった.また,術前術後の変化量に群間差はなかった.年齢・性別の影響を調整した線形回帰分析では,GIのみジェルコートFの効果が認められた.結論:リテーナーとブラッシングを併用してジェルコートFを4週間使用した結果,歯周治療後の残存ポケットの歯周病原細菌レベルおよび歯肉溝滲出液成分に有意な変化は認められなかった.しかし,臨床所見における縁上プラークおよび歯肉の炎症を減少させる可能性が示唆された.
著者
礪波 健一 田村 友寛 高橋 英和 荒木 孝二
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.320-327, 2012-10-31

目的:近年,審美歯科へのニーズの高まりから,歯の漂白が歯科臨床で行われる機会が増えている.一方,漂白作用の本質を担う活性酸素の作用は非特異的であるため,象牙質の機械的特性にも影響を与えることがわかっている.本研究では,漂白処理後の歯の象牙質の引張強さについてワイブル分析を行い,処理面や処理回数といった条件の違いが象牙質の破壊原因の違いに及ぼす影響について検討した.材料と方法:牛切歯の歯冠唇面を薄切し,象牙質に漂白処理面を形成した.同面に漂白処理として,ハロゲンランプ照射下で30%過酸化水素水を15分作用させた.漂白処理回数は1回もしくは3回とした.漂白処理した牛切歯の歯冠唇側表面からの深さ2.5〜3.5mmの象牙質よりダンベル型の象牙質引張試験片を作成し,象牙質引張試験を行った.各条件ともn=10とし,引張強さの平均をその条件の引張強さとした.上記象牙質処理の2条件に加え,既報(J Med Dent Sci 2008; 55: 175-180)で得られたエナメル質処理2条件および,コントロールの引張強さを用いて,統計処理とワイブル分析を行った.ワイブル分析では,各条件のワイブルプロットについて,回帰直線の傾きとして得られるワイブル係数を求め比較した.成績:象牙質引張強さは,漂白処理回数が増えるほど低下する傾向を示したが,エナメル質処理,象牙質処理で象牙質引張強さに違いは認められなかった.一方,ワイブル分析ではエナメル質処理,象牙質処理でワイブルプロットに違いを認めた.すなわち,象牙質処理群では処理回数の増加に従い,ワイブルプロットが全体的に低強度側に移動したのに対し,エナメル質処理群では,漂白処理により強度の順位が高い試片の強度が下がる傾向を示した.象牙質処理では活性酸素の影響がほかの欠陥を凌駕して単一の破壊原因となる一方,エナメル質処理では活性酸素の影響が既存の欠陥と競合する形で破壊原因の一つに加わったことが,ワイブルプロットの違いとなったことが考えられる.ワイブル係数はエナメル処理群において処理回数とともに増加したことから,信頼性の点からはエナメル質処理のほうが象牙質強度に与える漂白処理のリスクが少ないことが考えられた.結論:以上の結果より,漂白歯の象牙質引張強さは漂白処理回数や,処理面に影響を受けるため,臨床において象牙質強度に配慮した漂白処置が必要であることが示唆された.
著者
菅 俊行 石川 邦夫 松尾 敬志 恵比須 繁之
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.313-320, 2007-06-30
被引用文献数
5

フッ化ジアンミン銀(サホライド^[○!R])は,齲蝕進行抑制剤および象牙質知覚過敏症治療剤として臨床で使用されている.しかしながら,フッ化ジアンミン銀は塗布後に銀の沈着による歯の黒変が起こる.したがって,フッ化ジアンミン銀は主に乳歯に使用されている.この欠点を改良するために,フッ化ジアミンシリケートを調製した.銀の代わりにシリカを導入した理由は,シリカは歯質の変色を起こさないこと,そして擬似体液からアパタイトの生成を誘導するからである.本研究の目的はヒト口腔内を模倣した環境下において,フッ化ジアミンシリケート処理後の象牙細管封鎖効果と持続性を評価することである.フッ化ジアミンシリケートの象牙細管封鎖効果は,ヒト抜去歯を用いて評価を行った.フッ化ジアミンシリケート処理直後および人工唾液浸漬7日後の象牙質プレートの表面を,走査電子顕微鏡(SEM)にて観察を行った.SEM観察の結果,開口象牙細管はフッ化ジアミンシリケート処理直後にはシリカ-リン酸カルシウム結晶により完全に封鎖されていた.さらに,人工唾液浸漬7日後には象牙質表面は新たに生成した結晶により覆われていた.EDXA分析によると,フッ化ジアミンシリケート処理直後に象牙細管内に析出した結晶はシリカ,カルシウム,リンを含有しており,シリカ-リン酸カルシウム結晶であることが明らかとなった.その結晶のカルシウムとリンのモル比はフッ化ジアミンシリケート処理直後には2.02であったが,人工唾液浸漬後には徐々に減少した.一方,象牙質表面に新たに生成した結晶は実験期間を通して,ほぼ一定の値(Ca/P=1.16〜1.28)であった.周囲の管間象牙質と比べて有意に低い値であることから,おそらくカルシウム欠損アパタイトが析出していると推察された.フッ化ジアミンシリケート処理は人工唾液中からリン酸カルシウムの析出を誘導し,したがって,ヒト口腔内を模倣した環境下において,持続的な象牙細管封鎖能を有することが明らかとなった.
著者
川崎 孝一
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.854-866, 2006-12-31
被引用文献数
5

Some endodontists maintain that periapical cysts do not heal following conservative endodontic therapy, and the mechanism by which periapical cysts can heal is not well understood. The purpose of the present study was to suggest a new rationale for the nonsurgical endodontic treatment of periapical cysts. To induce subepithelial hemorrhage and dissolution of the epithelial lining of the cyst wall, application of canal irrigant was carefully performed with 6% sodium hypochlorite (Purelox^[○!R]) followed by 3% hydrogen peroxide alternately into the canal. The effectiveness of the solubility of the tissue was estimated by macroscopic bleeding. The patients were a 51-year-old man and a 35-year-old man who had respectively a large periapical rarefaction over the area of the lower or the upper lateral and central incisors. The latter patient had nasal-apical communication associated with the involved tooth, and presented swelling and discomfort from the upper left lateral incisor which was accompanied in the left nostril. The diagnosis was made of inadequate root canal fillings with periapical rarefaction and the presence of epithelial cells by means of the periapical biopsy and cholesterol crystals from the periapical lesions. FR paste material containing guaiacol-folmaldehyde resin and calcium hydroxide was estimated to occupy 1 to 2 mm of the apical root canal space. The remaining canal was filled with gutta-percha cones and zinc oxide eugenol sealers (Canals^[○!R]) by lateral condensation. Radiographs of these cases demonstrated the gradual resolution of the large lesions over a period of nearly 5 to 7 years after root canal filling. This article describes the successful root canal treatment and decompression by using opened canal therapy releasing copious amounts of suppurative exudates for 6 months. The rationale behind the usefulness of this technique is reviewed and its advantages are highlighted.
著者
小川 弘美 黒川 千尋 星野 睦代 玉崗 慶鐘 東光 照夫 柴 肇一 真鍋 厚史
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.197-205, 2016 (Released:2016-05-06)
参考文献数
16
被引用文献数
1

目的 : 歯の漂白法は歯科臨床において不可欠な治療となりつつあるが, 処置後, 有色飲食物や酸性食品の摂取が制限される. 近年, 着色物や酸性物の影響を軽減できるとされるポリリン酸含有の漂白剤が臨床に紹介されている. 本研究は, ヒト抜去歯を用いポリリン酸含有の試作漂白剤の漂白・着色抑制・脱灰抑制効果を検討したものである. 材料と方法 : 35本のヒト抜去歯を漂白効果の検討に使用した. 処理は, 10%ポリリン酸と10%過酸化尿素の混合溶液 (PPa+CP), 10%ポリリン酸 (PPa), 10%過酸化尿素 (CP), Nite White Excel (NWE), 人工唾液サリベート (SA) の5群に分け各試片数は7とした. 各群は1回2時間, これを14回行い, 処理前後のL*a*b*値から色差ΔE*ab値を算出した. 別の35本のヒト抜去歯を着色抑制効果の検討に用いた. 漂白効果と同様の試片を用い, 各群で2時間処理後, ただちに着色液 (珈琲液) に15分間浸漬し着色液浸漬前後のL*a*b*値から色差ΔE*ab値を算出した. 脱灰抑制効果の検討は, 走査型電子顕微鏡 (SEM) 観察で2本, キャピラリー電気泳動試験で3本のヒト抜去上顎前歯を使用し, それぞれ, エナメル質表面をPPa, SAまたは蒸留水で2時間処理した後, 40%リン酸で30秒間処理し水洗したものを試料とした. 処理後のエナメル質表面をSEM観察 (n=2), 処理後の希釈液についてカオチン分析キットを用いキャピラリー電気泳動でCa溶出量を測定した (n=3). 結果 : 漂白後, NWE, PPa+CP, CPの色差ΔE*abは大きな値を示したが, PPa+CPとNWEの間に有意差は認められなかった. 色素沈着の検討では浸漬後, PPa+CP, PPaの色差ΔE*abはCPとSAと比較し有意に低い値を示した. SEM像は, 両群ともにエナメル小柱断面の構造が認められ, PPa群と比較してSA群がより深層まで脱灰されている像が観察された. Ca2+はSA群での溶出量を100%とすると, PPa群では66.3%となった. 結論 : 本研究では, ポリリン酸を含有した試作漂白剤は従来の漂白剤と同等の漂白効果があり, 着色抑制・脱灰抑制効果を有することが示唆された.
著者
山田 嘉重 木村 裕一 高橋 昌宏 車田 文雄 菊井 徹哉 橋本 昌典 大木 英俊
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.237-247, 2021

<p> 目的 : SARS-CoV-2感染予防は, COVID-19流行を阻止するために非常に重要である. そのため, 手指の消毒と個人防護器具 (PPE) の装着に加えて新たな予防対策を講じる必要性がある. その予防策の候補の一つとして, エピガロカテキンガレート (EGCG) を代表とするカテキンの使用が挙げられる. 分子ドッキング法により, 選択的にSARS-CoV-2スパイクタンパク質とEGCGが結合することで, スパイクタンパク質とACE2受容体との結合を抑制する可能性が報告されている. 本研究では, SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対してEGCG単独, 4種混合カテキンおよび緑茶が実際にスパイクタンパク質とACE2との結合抑制に効果を有するのかを調べることを目的とした.</p><p> 材料と方法 : 本研究では, 異なる状態のカテキン (EGCG, 4種混合カテキン, 粉末緑茶) を使用した. 溶液の濃度はEGCG溶液 (EGCG) と4種混合カテキン溶液 (4KC) で1, 10, 100mg/m<i>l</i>, 2種類の緑茶溶液Ⅰ (PWA) と緑茶溶液Ⅱ (PWB) では1, 10mg/m<i>l</i>とした. SARS-CoV-2スパイクタンパク質抑制スクリーニングキットを使用し, TMB基質で発色後の撮影とELISAによる検討を行った.</p><p> 結果および考察 : 各種抑制溶液において100mg/m<i>l</i>の濃度が最もSARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2との結合抑制効果が強く, 濃度の減少に比例して抑制効果が減少するのが観察された. それぞれの結合抑制率の割合は, EGCGでは12~89%, 4KCは11~88%, PWAでは10~47%, PWBでは11~47%であった. 本研究結果において, EGCGだけでなく4KCやPWA, PWBでもスパイクタンパク質とACE2との結合抑制効果を有することおよび, その結合はカテキンの濃度に依存することが判明した.</p><p> 結論 : 本研究によりEGCG単独だけではなく, 4種カテキン混合状態および粉末緑茶溶液においてもSARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2との結合に対して濃度依存的に抑制効果を有することが確認された. カテキン配合溶液は, SARS-CoV-2感染に対する新たな予防法の一つとなることが期待される.</p>
著者
山口 幹代 岡本 基岐 朝日 陽子 山田 朋美 伊藤 祥作 林 美加子 伊藤 勇紀 須崎 尚子 堅田 千裕 外園 真規 川西 雄三 増田 晃一 伊藤 善博 米田 直道
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.255-261, 2017

<p> 目的 : ニッケルチタン (NiTi) ファイルは弾性係数が小さいため, 湾曲根管への追従性に優れており, 根管治療において必要不可欠な器材となりつつある. 本研究では, 歯学部学生の臨床前基礎実習において, FKGレイス (FKG DENTAIRE, Switzerland) による湾曲根管形成実習を実施し, 習熟到達度を評価した.</p><p> 材料と方法 : 大阪大学歯学部3年生49名に対して, J型エポキシレジン製透明湾曲根管模型を用いてFKGレイスによる形成実習を2回行った. Kファイル#15にて根管長を測定後, プリレイスによる根管上部のフレアー形成とKファイル#15によるグライドパス形成を行った. 作業長は根管長から1mm引いた長さとし, レイス#30/6%, #30/4%, #25/4%, #20/4%を用いて根管形成を行った.</p><p> 形成前後の根管模型をマイクロCT (R_mCT2, RIGAKU) にて撮影し, 根管長軸方向に対して平行に根尖から1, 2, 3, 5, 7, 10mmの位置で内湾側および外湾側の根管幅径増加量を計測した. 根管幅径増加量および形成時間を学生1回目, 2回目, ならびに日本歯科保存学会専門医・認定医10名の結果と比較検討した.</p><p> 結果 : 学生1回目の根管形成においては, 28根管で根尖破壊, 1根管でファイル破折, 1根管で目詰まりを認めた. また, 学生2回目の根管形成においては, 5根管で根尖破壊, 1根管で目詰まりを認めた. 内湾側および外湾側の根管幅径増加量および形成時間は, 学生1回目, 2回目, ならびに専門医・認定医の間で統計学的有意差を認めなかった.</p><p> 結論 : NiTiファイルを用いた湾曲根管形成実習において, 根尖部の形成に特に注意を促すことにより, 習熟到達度が向上することが明らかとなった.</p>
著者
大嶋 淳 内藤 克昭 阿部 翔大郎 上村 怜央 高橋 雄介 伊藤 祥作 林 美加子 川西 雄三 岡 真太郎 山田 朋美 山口 幹代 朝日 陽子 外園 真規 鍵岡 琢実 渡邉 昌克
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.263-270, 2019

<p> 目的 : 弾性係数が小さく, 形状記憶性, 超弾性, ファイルテーパーの多様化といった特徴をもつニッケルチタン (NiTi) 製ロータリーファイルは, ステンレススチールファイルと比較して高い切削効率や作業時間の短縮, 優れた根管追従性を有し現在の歯科臨床においても頻繁に用いられるようになりつつある. 本研究では, 歯学部学生の臨床前基礎実習において, FKGレイス (FKG Dentaire, Switzerland) およびJ型, S型湾曲根管模型を用いた根管形成実習を実施し, 習熟到達度を評価した.</p><p> 材料と方法 : 大阪大学歯学部3年生56名に対して, J型およびS型エポキシレジン製透明湾曲根管模型を用いてFKGレイスによる形成実習を2回ずつ行った. Kファイル#15にて穿通し, 根管長を測定後, プリレイスによる根管上部のフレアー形成とKファイル#15によるグライドパス形成を行った. 作業長は根管長から1mm引いた長さとし, レイス#30/6%, #30/4%, #25/4%, #20/4%を順に用いて, 最終拡大号数を#30/6%として根管形成を行った.</p><p> 形成前後の根管模型をマイクロCT (R_mCT2, RIGAKU) にて撮影し, 根管長軸方向に対して根尖から垂直に1, 2, 3, 4, 5mmおよび6mmの位置で内湾側および外湾側の根管幅径増加量を計測した. その後, S型根管幅径増加量および形成時間について, 学生ならびに日本歯科保存学会専門医・認定医10名がおのおの2回実施した結果を比較した.</p><p> 結果 : J型根管1回目の根管形成では, 62.5%の学生が根尖破壊, 5.4%がレッジ形成を生じ, 成功率は32.1%だった. J型根管2回目では, 30.4%が根尖破壊, 3.6%がファイル破折, 3.6%がレッジ形成を生じたものの, 成功率は62.4%と改善した. S型根管1回目は23.2%が根尖破壊, 7.1%がファイル破折を生じた. S型根管2回目では7.1%がファイル破折を生じた. 根管形成に要した時間については, 学生のS型2回目の形成時間がS型1回目と比較し有意に短縮され, 専門医・認定医によるS型1回目, 2回目の形成時間と比較して有意差を認めないレベルまで改善した. 内湾側および外湾側の根管幅径増加量については, 学生1回目, 2回目, ならびに専門医・認定医の間で統計学的有意差を認めなかった.</p><p> 結論 : NiTiファイルを用いた湾曲根管形成実習において, 特に根尖部の形成に注意して実習回数を重ねることにより, 難易度の高いS型湾曲根管であっても迅速に, 正確に根管形成ができるようになり, 習熟到達度が向上することが明らかとなった.</p>
著者
吉永 泰周 長野 史子 金子 高士 鵜飼 孝 吉村 篤利 尾崎 幸生 吉永 美穂 白石 千秋 中村 弘隆 藏本 明子 髙森 雄三 野口 惠司 山下 恭徳 泉 聡史 原 宜興
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.154-161, 2014 (Released:2014-05-07)
参考文献数
23

目的 : 歯周病原細菌と考えられている細菌群はグラム陰性菌であり, 進行した歯周炎患者の歯周ポケット内ではグラム陰性菌が優勢である. しかしながら, 歯肉炎や初期の歯周炎ではプラーク中の細菌はグラム陽性菌が優勢であるため, 歯周ポケット形成の初発時にはグラム陽性菌が大きな影響を与えると考えられる. われわれの過去の実験では, グラム陽性菌であるStaphylococcus aureusとグラム陰性菌であるAggregatibacter actinomycetemcomitansの菌体破砕物で感作したラットの歯肉溝に各菌体破砕物を滴下すると, 両細菌ともに強い歯周組織破壊を誘導した. しかし歯周組織の破壊が著しく, どちらがより強い影響を与えるかについての判断はできなかった. そこで本研究では, グラム陰性菌とグラム陽性菌の歯周組織破壊への影響を比較するために, より低濃度の菌体破砕物を用いて実験を行った. 材料と方法 : S. aureusとA. actinomycetemcomitansの菌体破砕物にて感作したラットと非感作ラットの歯肉溝内に, 12.5μg/μlの菌体破砕物を頻回滴下し, 病理組織学的に観察した. 無滴下のラットを対照群とした. 結果 : A. actinomycetemcomitans感作群では対照群と比較して統計学的に有意なアタッチメントロスの増加と歯槽骨レベルの減少を認めたが, S. aureus感作群およびA. actinomycetemcomitans非感作群ではみられなかった. 両細菌の感作群では免疫複合体の存在を示すC1qBの発現が接合上皮に観察されたが, 非感作群では認められなかった. 結論 : グラム陰性菌であるA. actinomycetemcomitansの菌体破砕物のほうが, グラム陽性菌であるS. aureusのそれよりも歯周組織破壊への影響が強いことが示唆された. また, 歯周組織の破壊には免疫複合体の形成も重要であることも改めて示唆された.
著者
高橋 礼奈 榎本 愛久美 織田 祐太朗 内山 沙紀 盧山 晨 金森 ゆうな 明橋 冴 田上 温子 髙橋 彬文 則武 加奈子 佐藤 隆明 田上 順次
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.220-226, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
19

目的 : 近年, コンポジットレジン修復において, さまざまな被接着体に対して同一のボンディング材が使用できるユニバーサルタイプの接着システムが開発され, 臨床でも多用されるようになってきている. 本研究では, 術者の臨床経験と接着システムが象牙質接着性能に及ぼす影響について評価した. 材料と方法 : 2ステップボンディングシステムであるクリアフィルメガボンド2 (MB2) および1ボトルユニバーサルタイプのボンディングシステムであるクリアフィルユニバーサルボンドクイック (UBQ) の, 2種類の接着システムを使用した. ウシ抜去下顎永久切歯の唇面象牙質平坦面を流水下にて露出させ, #600の耐水研磨紙で研削した. 基礎実習中の歯学部学生 (undergraduates) 5名と臨床経験5年以上 (平均7.4年) の歯科医師 (professionals) 5名が, MB2またはUBQを業者指示どおりに象牙質表面に接着操作を行った後, コンポジットレジンを2mm築盛し, 光照射を20秒行った. 試料を24時間37°Cの水中に保管した後, クロスヘッドスピード1mm/分にて微小引張試験を行った. 得られた値は, 二元配置分散分析とt検定により統計処理を行った (p=0.05). さらに, Weibull分析により解析した. 結果 : MB2-undergraduates, MB2-professionals, UBQ-undergraduates, UBQ-professionalsの平均値±標準偏差 (MPa) は, 33.7±10.1, 36.7±10.1, 26.0±10.7, 28.1±11.1, Weibull係数は3.6, 4.2, 2.0, 2.6であった. 二元配置分散分析により, “臨床経験” は微小引張接着強さに影響せず (p>0.05), “接着システム” は微小引張接着強さに影響した (p<0.05). Weibull係数は, 大きい値からMB2-professionals, MB2-undergraduates, UBQ-professionals, UBQ-undergraduatesの順であった. 傾きの差の検定では, すべての群のmの間に有意差を認めた (p<0.05). 結論 : MB2はUBQより高い象牙質接着強さを示し, 信頼性も高い接着システムであった. 臨床経験の違いは象牙質接着強さに影響を及ぼさなかったが, 信頼性に関してはMB2, UBQともに臨床経験5年以上の歯科医師のほうが歯学部学生に比べて高かった.
著者
佐藤 治美 馬場 宏俊 下岡 正八
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.384-395, 2010
参考文献数
30

スケーリングでは各種スケーラーを用いるが,スケーラーやペリオドンタルキュレットは使用目的や部位に合わせて,刃部や頸部形態が異なる.歯科衛生士は,スケーリングを行うために部位に合わせたスケーラーを選択し,安全で効率のよい処置を行うことが求められる.本研究では,歯科衛生士学生がグレーシー型キュレットを選択する際に,キュレットの構成部の確認箇所と選択について眼球運動の測定を行い,人の認知活動について調べた.研究対象者は,日本歯科大学新潟短期大学歯科衛生学科でスケーリングについて基礎実習のみを終了した第1学年45名(1年次生)と,基礎実習を終了し臨床実習中の第2学年43名(2年次生)の学生である.その結果,グレーシー型キュレットを選ぶ際は,1,2年次生ともにスケーラーの刃部および頸部と番号を見ていた.1年次生では刃部および頸部よりも番号を,2年次生では番号よりも刃部および頸部を多く見ており,臨床実習の経験によって注目点は異なった.正解者と不正解者との間では,刃部および頸部と番号を見るということは同じであった.正解者は早い段階で選択を決断できていた.不正解者は注目点にばらつきがあり,さまざまなスケーラーを見た結果,正解を判断できないという傾向がみられた.教育で視覚素材を用いる際には,学習者が視覚素材を教育者と同等に認知していないことに留意し,視覚素材の構成や説明に配慮の必要なことが示唆された.