著者
渡邊 久晃
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.75-82, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
参考文献数
37

近年,消費者は食品や化粧品といったさまざまなカテゴリーで自然製品をますます好むようになっている。自然感(naturalness)は,「人間による介入や処理,添加物がないこと」を意味する概念であり,自然感の影響に関する研究は徐々に増えてきている。そこで本稿では,消費者行動研究分野とマーケティング研究分野に関連する海外ジャーナルの論文のレビューを行った。その結果,自然感が特定の信念や推論を通じて消費者の判断や感情的反応に影響を及ぼすこと,プロセス要因と感覚的要因が自然感知覚に影響を及ぼすことがわかった。最後に,今後の研究の方向性について議論した。本稿は,自然感概念及び自然感選好についての理解に役立つ知見を提供している。
著者
石田 真貴
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.66-74, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
参考文献数
34

マーケターは新製品に対する消費者選好を正確に予測できているのだろうか。新製品開発において消費者選好を正確に予測することは重要だが,先行研究では,マーケターによる予測は正確でないことが示されている。そこで本稿の目的は,消費者選好を予測する際に生じるフォールスコンセンサス効果(False Consensus Effect:以下FCE)に関する研究を整理し,マーケターによる消費者選好の予測の正確さに貢献していくことにある。FCEとは,製品に対する個人選好を消費者に投影させる認知バイアスのことである。FCEが生じたマーケターの予測は,実際の消費者選好と乖離し,非魅力的な製品の開発を続けるなどの望ましくない意思決定を下す。そのため本稿では,FCEが生じる要因である「消費者への共感」と「顧客志向」について確認した上で,FCEを回避する方法である「個人選好抑制」について詳述していく。しかし,FCEに関する研究には残された課題が多い。そのため最後に,個人選好抑制,予測対象である消費者の属性,消費者選好の測定の正確さ,マーケターの特徴の観点から今後の研究の方向性を示唆する。
著者
井関 紗代
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.42-52, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
参考文献数
61

近年のデジタル化による技術革新は,短命で,アクセスベースで,脱物質的なリキッド消費を促進している。このような消費環境の変化は,心理的所有感(psychological ownership)を減衰させたり,他の対象へと転移させたり,維持するための新たな機会を生み出したりしている。本研究では,心理的所有感の根底にある動機として,コントロール欲求に着目し,音楽配信サービスに対する心理的所有感の醸成にどのような影響を及ぼしているのかについて検証した。調査は,音楽配信サービスであるSpotifyまたはApple Musicを週に1回以上利用する人を対象に実施された。分析の結果,コントロール欲求がサービスへの心理的所有感やロイヤルティに及ぼす影響は,利用頻度によって異なるだけでなく,サービスの違い(Spotify/Apple Music)によっても異なるパターンが示された。これらのことから,コントロール欲求が心理的所有感に及ぼす影響は,他の要因(e.g.,利用頻度)によって調整されるため,コントロール欲求が高いと心理的所有感も醸成されやすいというほど単純ではないことが示唆される。
著者
磯田 友里子 工藤 玲 恩藏 直人
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.75-86, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
43

シニア市場は同質な単一セグメントではなく多様な消費者の集まりであり,この多様性に応じたマーケティング戦略が必要であるという認識が広まりつつある。しかし,シニア市場内の多様性を捉える具体的な枠組みを提示する既存研究は少なく,消費者間の差異を十分に捉えきれていない。そこで本研究では,シニア市場内の多様性を表す指標として未来展望(FTP)と将来自己連続性(FSC)を用い,シニア女性を対象として,実際の購買データを用いて探索的な調査を行った。その結果,FTPは非消耗品の購買活動に負の影響を与え,FSCが正の影響を与えることが明らかになった。また,FTPとFSCの交互作用が観察され,購買活動がもっとも活発なのは「将来の自分とのつながりは強いが,残された時間は長くないと感じているシニア女性」であり,「将来の自分とのつながりが強く,残された時間も長いと感じるシニア女性」は,金銭的支出を控える傾向が示された。
著者
濵田 俊也 新田 都志子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.97-107, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
11

本稿はコンテンツを活用するマーケティングのマネジメント事例研究である。群馬県はマスコットキャラクター「ぐんまちゃん」を用いて,県内外の事業者へのデザイン貸与やグッズ販売等を通じた群馬エリア経済への貢献と,群馬エリアの宣伝・広報に長年取り組んできた。現在,群馬県は,さらに戦略的に「ぐんまちゃん」を群馬県のキラーコンテンツと位置付け,ブランド化事業を行って認知度と好感度の向上を達成し群馬エリアのブランド向上に結び付けようとしている。この取り組みは近年群馬県が推進するメディア戦略が基礎になっている。本稿では,1)群馬県の26年間の「ぐんまちゃん」運営の状況を確認し,2)現在の群馬県のメディア戦略と3)「ぐんまちゃん」ブランド化事業に焦点をあてて論じ,コンテンツを活用するマーケティングのマネジメントで考慮すべき要を抽出する。
著者
北澤 涼平
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.51-57, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
34
被引用文献数
2

対象に対する個人の所有感覚である個人的心理的所有感という概念は,2000年代初期に組織論の文脈において提唱されて以降,製品に対する購買意図や支払い意思額の向上などのマーケティング成果をもたらすために,マーケティング研究に盛んに応用されてきた。さらに,この概念に加えて,対象に対する集団の所有感覚である集団的心理的所有感という概念が提唱されており,組織の効率性などの組織成果に関して,個人的心理的所有感とは異なる帰結をもたらす可能性が指摘されている。それにもかかわらず,マーケティング領域にこの概念を応用することを試みた研究はほとんど存在しない。本稿は,個人的心理的所有感と集団的心理的所有感に関する研究をレビューし,後者の概念の,消費者コミュニティや経験消費などのマーケティング研究への応用可能性を検討する。
著者
川北 眞紀子 薗部 靖史
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.27-38, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
37

日本では長年にわたって企業が芸術支援をしている。近年では資金提供だけでなく,アートプレイス(アートが存在する場所)を企業自らが運営し,関係者のコミュニティを支える事例が注目されている。そこでは,アートプレイスを通じて,企業はステークホルダーとの関係を深め,企業への好意的な態度を獲得している。そこで,本稿の目的は,アートプレイスのメディアとしての役割をパブリック・リレーションズの視座から示すこととする。最初に企業の芸術支援に関する学際的な研究群を整理した。そのうえで,それぞれのコミュニケーション上の特徴を期間,到達範囲と深さ,コンテンツの編集権に関して提示した。これにより,企業が多様なステークホルダーとの関係構築を目指すための手がかりが得られただけでなく,芸術組織にとっても,資金提供者との交流の場を共有する意義が示された。
著者
金 春姫
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.6-15, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
39

ポップカルチャーは消費者の行動やライフスタイルに幅広い影響を与える重要な要素として知られている。特に近年,インターネットの普及やソーシャル・メディアの発達,定額型配信サービスの台頭に伴い,消費者は常にさまざまな国や地域からのポップカルチャーに触れられるようになっており,その影響はますます大きくなっている。しかし,これまでのマーケティング・消費者行動領域においてポップカルチャーの影響を直接扱うことはあまり多くない。本稿では,多様なポップカルチャーが同時に受け入れられている現状に注目し,そうした多文化のコンテキストにおいてポップカルチャーが消費者行動に与える影響について考察する。研究方法としては,マーケティングとツーリズムにおける先行研究を整理した上で,東・東南アジアを中心に実施したインタビュー調査を用いた定性的アプローチを用いる。これらの作業を通して,多文化時代におけるポップカルチャーと消費者行動に関する包括的な分析フレームワークを提示する。最後に今後の展望について述べる。
著者
石井 隆太
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.52-64, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
31

流通チャネル戦略に関する先行研究は,(1)企業成果として売上拡大のような有効性指標を用いてきた,(2)個々のチャネル戦術の組み合わせの効果を検討してこなかった,(3)チャネル構造の影響を看過してきた,という問題点を抱えている。本論は,これらの問題点を解決するために,結果として収益性を設定した上で,6つのチャネル戦術(関係特定的投資,コミュニケーション,パワー,コンフリクト,チャネル統合,および,デュアル・チャネル)の組み合わせの効果を探究する。ファジィ集合QCA(fsQCA)を実行した結果,高収益を生み出す4つのチャネル戦略パターンを同定することに成功した。本論は,個別のチャネル戦術ではなく,それらを組み合わせたチャネル戦略こそが,企業成果を左右するということを示唆することによって,チャネル研究の進展に貢献を成している。

1 0 0 0 OA 二重過程理論

著者
金子 充
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.163-175, 2014-01-15 (Released:2020-11-13)
参考文献数
39
被引用文献数
1

本稿は,二重過程理論の理論研究に焦点を当て,概観することで,現在提示されている各理論を整理し,将来需要のある研究課題を抽出することを目的とする。本稿では,二重過程理論の研究を,1)説得(態度変容),2)推論,3)セルフ・コントロール,4)統合型の観点から整理した。加えて,これらの研究に対する批判についても整理した。その結果,二重過程理論は,コンセンサスを得られていることが少なく,さらなる理論の精緻化が必要であるが明らかにされた。
著者
森村 文一
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.87-97, 2009-06-30 (Released:2021-04-27)
参考文献数
46
被引用文献数
1
著者
朴 宰佑 外川 拓 元木 康介
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.6-16, 2023-01-10 (Released:2023-01-10)
参考文献数
46

本稿ではマーケティング関連の感覚要因が消費者の健康的な食行動に与える影響に焦点を当て,2000年以降のマーケティングのトップジャーナルに掲載された関連研究をレビューした。その結果,感覚要因と健康的な食行動の関連性は,消費者行動,広告,公共政策,小売など,マーケティングに関連する様々な分野において関心が寄せられていることが確認できた。また,レビューを通じて,健康的な食行動に関するセンサリーナッジ研究の課題として,視覚以外の要因,複数の感覚要因の関連性および文化差の検討,現実の食行動に即した研究の推進,健康的な食生活の実践と感覚マーケティングの関連性に関するより包括的かつ長期的な検証の必要性の5つを提示した。
著者
落原 大治
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.72-80, 2023-01-10 (Released:2023-01-10)
参考文献数
38
被引用文献数
1

デジタル化の進展の中で,自律的・積極的な消費者と他律的・偶然的消費を好む消費者の2極化が進む。偶然的消費を好む消費者が求めるのは,文脈依存的で瞬間的な消費や予測不可能な衝動的な満足である。消費行動に伴うインスピレーションはこの衝動的な満足を満たすとともに,後続する購買関連行動を動機づけることができる。本稿では,この偶然的な消費に対応したマーケティングを考えるにあたり重要な「消費者インスピレーション」について既存研究の整理を行った。消費者インスピレーションの「メカニズム」「先行要因」「効果」の3つの視点で検討した結果,今後の研究課題として,(1)消費者インスピレーション拡散的な性質に対応するためのマーケティングによる観点の設定の検討,(2)デジタル環境に対応した個人差要因と状況要因とその対応方法の検討,(3)消費者インスピレーションの認知的効果の検討の3つを提示した。
著者
權 純鎬 河股 久司 須田 孝徳
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.51-62, 2023-01-10 (Released:2023-01-10)
参考文献数
33

コード型モバイル決済サービス(以下,決済サービス)の普及とともに,各社によるポイント還元型のプロモーションが頻繁に行われている。そのため,ポイント獲得を目的とした短期的利用者が増えており,決済サービスの利用定着率の低さが課題となっている。本研究は決済サービス利用時におけるタッチ・インターフェースへの接触に注目し,コントロール感および心理的所有感の向上によって決済サービスの再利用意向を高められるかを検証する。2つの調査を実施した結果,画面への接触回数が増加する金額入力型の決済方法は(vs. 金額非入力型),決済サービスに対するコントロール感を高め,コントロール感の知覚は心理的所有感を高めることが示された。また,画面接触によって知覚された心理的所有感の向上は,決済サービスへの再利用意向を高めることが確認された。
著者
河股 久司 守口 剛
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.39-50, 2023-01-10 (Released:2023-01-10)
参考文献数
42

近年,ブランド・ロゴの変更を行う企業が増えている。変更の仕方はさまざまであるが,ロゴの形状は変えずに,色だけを変更する企業も挙げられる。そこで,本研究は,ブランド・ロゴの変更時における彩度の変化が消費者のブランド態度に与える影響を検討する。色の鮮やかさを示す彩度は,消費者に活力やはつらつさといった印象を与えることが知られている。そこで,ブランド・ロゴの変更時における彩度の変化が,ブランドの活力感や,ブランド態度に与える影響を検討した。3つの実験を通じて,1)彩度が高いロゴマークはブランドの活力感の知覚を高める,2)ロゴ・カラー変更時に彩度を高めることで,ブランドの活力感の知覚が高まり,その結果として,ブランドへの態度を高める,3)ブランドの活力感知覚がブランドへの態度に与える影響は,国際展開しているブランドのほうが,国内展開のみのブランドよりも強まることが明らかとなった。ブランド・ロゴ変更時に彩度がもたらす影響とブランド態度の関係を明らかにした本研究は,ロゴの変更を検討する企業に対して多くの示唆を提供すると考えられる。
著者
小野 雅琴
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.65-70, 2022-03-31 (Released:2022-03-31)
参考文献数
21

「制御焦点理論」は,近年,マーケティング・消費者行動研究の分野において,多くの応用研究が行われている理論である。本論は,制御焦点理論基盤型の広告研究を,3種類に分けてレビューする。すなわち,(1)広告メッセージのフレーミングに関する制御焦点研究,(2)広告メッセージの解釈レベルに関する制御焦点研究,および,(3)広告の非言語的構成要素に関する制御焦点研究である。そして,レビューの結果として浮上する今後の研究の方向性として,立ち遅れている広告の非言語的構成要素に関する制御焦点研究の推進が必要であること,さらには,こうした広告の非言語的構成要素は,文化的背景の影響を受ける傾向が強いため,異なる文化的背景を持つ消費者を対象とした比較研究が求められることを指摘する。
著者
山本 晶
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.125-131, 2008-01-15 (Released:2021-06-18)
参考文献数
45
被引用文献数
2 1
著者
江上 美幸
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
pp.2022.014, (Released:2022-03-12)
参考文献数
25

本論文では,銀座や竹下通りといった外国人に対する著名地区ではなく,裏路地に極めて多くのインバウンド旅行者が回遊する裏原宿に着目し,その誘引性を考察した。結果は,裏原宿への最も多い来街者は中国からの旅行者であり,裏原宿独特のストリートファッションブランドに誘引されて訪れていることが分かった。また,これらのブランドは,近年まで日本のファッションの主軸として語られてきた百貨店やSCを中心に販売するブランド群とは異なるものであり,当該エリアならではのカルチャーを有するユニークなブランド,そしてオリジナリティーや希少性ある商品が評価され,推奨の対象となっていることが,Kotler5Aモデルを修正したカスタマージャーニーにより示された。