著者
池尾 恭一
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.6-15, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
43

新型コロナウィルス感染症の流行は,日本のマーケティングのあり方にも大きな影響をもたらした。激変する環境のなかで,マーケティング戦略をいかに適応させていくかは,マーケティング研究,マーケティング実務の双方にとって,きわめて重要な課題である。しかも,今回の新型コロナ危機がマーケティングに及ぼす影響は,それにとどまらないであろう。生活様式や購買行動の変化に不可逆的な部分が含まれるならば,長期的には,マーケティングのあり方を抜本的に変えてしまいかねない可能性も秘めている。本稿は,そうしたなか,新型コロナ危機のなかで広がった,オンライン商談,D2C,オムニチャネルに焦点を当て,これらの動きが,流通チャネル政策を通じて,将来に向けてどのような戦略課題をもたらすかを明らかにしようとするものである。
著者
飯野 純彦
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.124-140, 2015-03-31 (Released:2020-05-26)
参考文献数
44

陳列された商品が多すぎるために,消費者が購買を延期したり,妥協選択を行うという傾向が見られる昨今,本稿では制御焦点理論を用いて,新たな妥協効果の軽減要因を提案する。近年,妥協効果の軽減要因として,タイムプレッシャーや決定延期オプションの存在などが見出されているが,今回,歯磨き粉と洗濯用粉末洗剤を対象に調査した結果,促進焦点に動機づけられた消費者には促進型カテゴリカル属性をシグナルし,予防焦点に動機づけられた消費者には予防型カテゴリカル属性をシグナルすることで,妥協効果が軽減されることが明らかとなった。
著者
鳥海 不二夫
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.19-32, 2021

<p>ネット上で大きな話題が生じた場合,現実社会にも影響を与えることも多い。例えば正の側面として「バズり」があり,負の側面として「炎上」がある。現代社会においては,マーケティングを考える上でネット上の社会現象を無視することはできない。一方で,ネット上での大規模な拡散事象が実社会の現象を反映していないこともある。すなわち,ネット世論と実際の世論との間に隔離が存在していることがある。そのためネット上で生じた現象を正しく理解するために,データから全体像を把握し,ネット上の現象が何なのかを正確に把握することが望まれる。本論文では検察庁法改正案を巡るツイッターデモを対象として,データを用いたバースト現象の詳細分析を行った。その結果,2%のアカウントが50%の投稿を行っていたことが分かり,一部のユーザによって拡散が水増しされた事実はあるものの,多様な人々によって支持されており,単なるノイジーマイノリティ現象でもなかったことが明らかとなった。本論文で紹介した分析は,炎上やバズりといったバースト現象においても応用可能であり,マーケティング分野における口コミの効果を分析する上で有用であると考えられる。</p>
著者
金 春姫
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.100-109, 2021-01-07 (Released:2021-01-07)
参考文献数
13

このケースでは,中国の外食チェーン海底撈を取り上げる。四川式火鍋料理を提供する同社は,その突出したサービスで中国消費者から熱烈な支持を得ている。これまでサービス品質の向上に苦心してきた中国の外食産業に同社が与えた影響は大きく,業界全体の底上げに貢献している。さらに,高品質なサービスを支える従業員の満足と積極性を引き出すための仕組みにも各界から関心が集まっている。近年はグローバル展開も進めており,世界で最大の中華料理チェーンとも言われている。本稿は,前半で同社の概要,海底撈サービスの特徴と発展の歴史を振り返ってから,後半で高品質サービスと高速成長を両立させる背後の仕組みについてみていく。最後に,コロナ禍への対応を含めた最近の動向と今後の課題についても言及する。
著者
安藤 和代
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.96-106, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
18

かつてハレクラニは,大衆的なバンガローホテルであった。およそ35年前に三井不動産株式会社のもとで再開業した際,その名前が意味する「天国にふさわしい館」に適したサービスを提供するラグジュアリーホテルとなることを目標にした。今日では高い評価を得ているハレクラニの高品質なサービスについて,サーバクションフレームワークに沿って分析し,物的な環境,サービス提供のプロセス,参加者の視点で考察した。また顧客が受け取る「サービス便益の束」を分解し,「コンティンジェントサービス」や「潜在的サービス」を提供するための工夫について確認した。顧客が体験するサービス経験をプロセスとして設計することに加えて,そうしたプロセスに,組織が共有する価値観を浸透させることの重要性を,同社の成功事例を通して浮かび上がらせる。
著者
原田 将 松村 浩貴 古川 裕康
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.98-108, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
33

本研究の目的は,ブランド・コミットメントに及ぼす消費価値の交互作用効果を明らかにすることである。先行研究は,消費価値を構成する各価値と購買態度・行動との関係について検討してきたが,各価値間の交互作用効果を考慮していなかった。そこで,本研究は,消費価値における機能的価値,感情的価値,社会的価値の交互作用を考慮し,それらがランニングシューズのブランド・コミットメントに与える影響について検証した。研究の結果,ブランド・コミットメントに対する各価値間の交互作用効果が明らかになった。
著者
本條 晴一郎 伊藤 友博
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.31-44, 2021-01-07 (Released:2021-01-07)
参考文献数
45

クラウドソーシングを利用した製品開発によって,高い市場性をもつ製品が生み出されることが実証されている一方,収集した多量のユーザー創出アイデアを評価し,有望なものを選ぶことは大きな負担になっている。本研究では,自然言語処理を用いることによって,ユーザー創出アイデアの評価の機械化を行った。創造性研究に立脚して,クラウドから集めたアイデア全体から概念空間を構成し,そこでの出現頻度の少なさから意見の希少性を算出することで,独創性を機械的に測定する手法を構築した。レシピ投稿のデータに対して手法を適用したところ,機械的に測定された独創性は,レシピの有望性の説明に有効性を持つことが示された。本研究で構築した手法によって,アイデア評価が機械化されたのみならず,従来顧みられなかった大多数の不採用アイデアに,概念空間を構成する材料という新たな役割と,研究対象としての位置づけが与えられた。
著者
髙橋 広行
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.44-61, 2016
被引用文献数
1

<p>本稿は,消費者の視点で食品スーパーのイノベーションについて議論するものである。消費者は買い物の仕方や店舗内でのふるまい方を行動パターンにもとづく認知要素(スクリプト)で把握しており,そのスクリプトは買い物行動,店舗内行動,売り場行動などの階層構造で捉え直すことができる。そこで本稿では,小売の価値に関する先行研究をレビューしながら,上記の階層構造ごとに革新性を整理する。その後,それぞれの革新性を具体的に実践している小売企業の先端事例(まいばすけっと,阪急オアシス,北野エース)を取り上げることで,実務的なインプリケーションを導出していく。</p>
著者
菊盛 真衣 石井 隆太
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.56-67, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
25

本研究は,グローバル企業が自社Webサイトを現地の文化に適応化させる度合い,つまりWebサイトにおける文化的カスタマイゼーションの度合いが現地消費者のWebサイト使用容易性にどのような影響を及ぼすのか,そして,その影響が制御焦点の違いによってどのように異なるのかを検討した。実証分析に際して,日本に進出するアメリカ企業のWebサイトを対象に内容分析を行い,その後,消費者調査を行うことによってデータを収集した。実証分析の結果,Webサイトにおける文化的カスタマイゼーションは情報取得の容易性およびナビゲーションの容易性という2種類のWebサイト使用容易性に正の影響を及ぼすということが示された。加えて,促進焦点はその正の効果を促進するということが示された。この知見から,本研究は,グローバル企業は自社のWebサイトに現地の文化的価値観を反映させる必要があり,そうするべきなのは,予防焦点型の消費者というより,促進焦点型の消費者に対してであるという含意を提供する。
著者
鴇田 彩夏
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.74-82, 2020-09-29 (Released:2020-09-29)
参考文献数
41
被引用文献数
1

Toffler(1980)によって提案されたプロシューマーの概念と活動は,情報技術や社会環境の変化によって拡大してきた。本稿の目的は,能動的な消費者として定義されているプロシューマーに関する研究をレビューすることによって,生産技術や社会的環境とともに変化するプロシューマーの定義と彼らの活動動機を明らかにすることである。プロシューマーの概念はさまざまな分野で応用され,類似した概念も複数存在する。これらの類似概念は活動の能動性の高さや他者へのモノ・サービスの提供という点で相違がある。これらの定義を活動の能動性と製品・サービスの消費主体という2つの軸で分類した上で,近年の社会環境に対応するためにプロシューマーの生産と利用にとどまらず,他者への提供も含めるべきであると指摘する。さらに,彼らの活動動機として,個人的動機と社会的動機に加えて,経済的動機についても考察する。最後に,これらを踏まえた上で今後の研究課題を提示する。
著者
守口 剛
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.4-19, 2012-09-28 (Released:2021-01-05)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2
著者
大平 進
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.45-57, 2021

<p>近年,実務家のみならず,研究者の間でもギグ・エコノミーが注目されている。ギグ・エコノミーとは,デジタル・プラットフォームを介して,クライアント企業とワーカーの間で,単発の労働と金銭的報酬の交換がなされる社会経済的活動である。ギグ・エコノミーは,果たして企業の製品開発活動にどのような影響をもたらすのだろうか。著者の知る限りにおいて,当該分野の文献レビューは存在しない。そこで本研究は,ギグ・エコノミーと製品開発に焦点を当て,先行文献のレビューをおこなった。その結果,重要な5つのテーマが特定された。人的資源マネジメントの対象としてのギグ・ワーカー,ギグ・ワーカーのモチベーション管理,ギグ・エコノミーとアイデア創出,ギグ・エコノミーにおけるプラットフォームの役割と管理,ギグ・エコノミーにおけるコワーキング・スペースの役割と管理である。最後に,当該分野の研究が抱える課題と今後の可能性について議論した。</p>
著者
山口 信夫
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.66-85, 2019

<p>本稿の目的は,愛媛県松山市三津地区の衰退商業地を事例にして,ワークライフバランス事業者のビジネスモデルに関する仮説的論点を抽出することにある。三津地区において,近年微増しつつあるワークライフバランス事業者は,不動産価格の下落をチャンスととらえ,内装のセルフビルドにより固定費を抑えると同時に,高付加価値商品の提供により収入曲線の傾きを増大させることで,自らのビジネスの損益分岐点を引き下げることに成功している。三津地区においては,人口減少や住民高齢化により,周辺住民の購買力が低下しているため,単なる地域密着のビジネスでは店舗経営が成り立たない。むしろ,高付加価値商品を提供することで,関与度の高い消費者を広範囲から集客することに成功している。上記のようなビジネスモデルは,衰退商業地で収益をあげるための知恵として理解できる。また,衰退商業地は,上記のような商店主を呼び込むポテンシャルを有している。</p>
著者
吉田 満梨
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.16-32, 2018 (Released:2019-05-31)
参考文献数
43
被引用文献数
1

本研究の目的は,不確実性の高い市場環境に直面したマーケターが,いかに課題解決を行うのかを分析し,近年アントレプレナーシップ研究を中心に注目されている「エフェクチュエーション」(Sarasvathy 2001, 2008)の論理のマーケティング課題への適用可能性を明らかにすることにある。具体的には,マーケターを対象に,マーケティング実践における8つの意思決定課題への回答を,シンクアラウド法による発話プロトコルデータとして収集する調査を実施した。分析の結果,第一に,市場創造の経験を持つマーケターが課題解決においてエフェクチュエーションに基づく意思決定を行っていること,第二に,起業家ではなくマーケターの文脈における,エフェクチュエーションに基づく意思決定の様式が明らかになった。以上から,起業家の論理としてのエフェクチュエーションを,大企業におけるマーケティングや新規事業開発にも有用な知識として精緻化し,既存のマーケティング理論を補完する知識開発に寄与できる可能性が示された。