著者
西山 浩平 藤川 佳則
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.45-62, 2016-01-08 (Released:2020-04-28)
参考文献数
32

本論文は,クラウドソーシングやクラウドファンディングなどの技術を通じて,数多くの顧客がこれまでにない規模で価値共創に参画するプラットフォーム型のサービス・イノベーションの普及過程に焦点をあてる。企業でも顧客でもない,社会を構成する他者による反発がサービス・イノベーションの社会受容を阻む際,プラットフォームの運営管理に関する権限を持つ「レギュレーター」が果たす役割について議論する。理論上の貢献としては,従来のサービス研究における価値共創の議論,イノベーション研究におけるユーザー・イノベーションの知見に,規制科学(レギュラトリー・サイエンス)の視点を取り入れた,価値共創の「アクター・モデル」を提案する。また,実務上の知見として,レゴを通じた価値共創プラットフォーム「LEGO CUUSOO」の事例研究から,「第一のアクター」である企業,「第二のアクター」である顧客,「第三のアクター」であるレギュレーターの役割に関する仮説創造型の議論を展開する。
著者
水越 康介 コールバッハ フローリアン
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.86-101, 2015-03-31 (Released:2020-05-26)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

本稿では,イクメンという言葉と意味が普及し消費される過程と,その言説に向き合う現在の父親のアイデンティティ構築について考察する。これまでの研究では,具体的な消費行動とアイデンティティ構築の関係に焦点が当てられることが多く,特定の父親像を担う言説とアイデンティティ構築の関係についてはあまり考察されてこなかった。そこで本稿では,マクロな視点から,主に新聞記事にもとづきながら家族サービスとの対比によってイクメンという言葉と意味の普及を明らかにするとともに,ミクロな視点から,これから親になる夫婦へのヒアリングにもとづきながらイクメンという言葉が2つの意味で捉えられ,父親のアイデンティティ構築に関わっている可能性を示す。
著者
石淵 順也
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.27-51, 2016-03-31 (Released:2020-04-21)
参考文献数
86
被引用文献数
1 1

本研究の目的は,店舗内行動研究の2つの下位分野である動線研究,店舗感情研究の成果を統合した研究枠組みに基づき,快感情が快楽的価値の提供や衝動購買の促進だけでなく創造的購買を促進すること,創造的購買が長期的来店行動を促進すること,その結果として消費者と小売店の長期的関係構築に快感情が寄与することを明らかにすることである。既存研究の検討から,店舗内行動研究の課題を整理し,課題解決のため心理学分野の快感情と創造性に関する研究成果を援用し,4つの仮説を構築した。百貨店の地下食品売場の来店客の調査データを基に仮説検証を行い,快感情が消費者の創造性を高めること,快感情は創造的購買を促進すること,動線長は快感情を考慮した場合,狭義の非計画購買に影響しないこと,創造的購買は消費者の長期的来店行動に正の影響を与えることが確認された。小売企業,メーカーにとって計画購買を高めること,小売企業にとって衝動購買を高めることの重要性はこれまでも指摘されてきたが,快感情を通じて創造的購買を高めることが消費者と小売店の長期的関係構築に有用であることを明らかにした。
著者
松井 剛
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.69-85, 2015-03-31 (Released:2020-05-26)
参考文献数
20

本論文の目的は,ある人物像に対して社会的に共有されたイメージ,すなわち社会タイプ(social type)がどのようなものかを明らかにすることにある。具体的には,「大人女子」とか「アラフォー女子」という表現で最近多用されることが多い「女子」という表現が,どのような人物像を想起させるのか,という問題に着目する。吉田秀雄記念事業財団が実施したオムニバス消費者調査から明らかになった知見は主に2つある。ひとつは,年齢や男女を問わず,「女子力」ということばが肯定的なイメージを持つ,ということである。これは,「女子力」ということばが「アップ」(もしくは「up」)という表現と強く結びついているという「女子力」に関する雑誌記事タイトルのテキストマイニングを行った既存研究の結果と整合的である。もうひとつは,回答者の年齢が上がるにつれて,イメージされる「女子」の年齢もまた上がり,かつ,そもそも年齢に依存しないと考える者が多くなるということである。自身の年齢に応じて,ある人物像についての年齢のイメージが変わることは,知覚年齢(perceived age)に関する既存研究には見いだせない新しい知見である。
著者
權 純鎬 恩藏 直人
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.86-96, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
12

ダイキン工業株式会社は90年以上を超える歴史の中で,優れた製品開発によって成長を遂げてきた。近年,同社は製品志向から顧客志向への転換を試み始め,空調設備のサブスクリプション・サービス「AaaS(エアアズアサービス)」で成果をあげつつある。AaaSは空調設備ではなく空気を提供するという発想であり,月額料金で空調設備の設置工事から最適な運用の提案,メインテナンス,アフターサービスに至るまで,快適な空気を安定的に供給するための一連のサービスである。顧客自身も気づかない潜在的なニーズに注目したダイキンは,既存のモノ売り発想では対応が困難であった課題をコト売り発想への転換によって解決を試みた。同サービスは空調の最適化を実現することでランニングコストを削減するなど,コストの面においても顧客にメリットをもたらしている。昨今のコモディティ化の深化に伴い,製品の機能や品質だけで競争優位性を保つことが困難になってきている中,ダイキン工業のAaaS事例は,製品志向から顧客志向に組織の軸足を移すことで,提供製品を変えることなく新しい価値を提供できることを示唆している。
著者
磯田 友里子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.162-174, 2016-09-30 (Released:2020-04-07)
参考文献数
40
被引用文献数
1 1

伝統的情報処理理論において,人の知識は文脈や環境の影響を受けない独立した概念であると考えられてきた。しかし近年,知識の文脈依存性が指摘され,消費者がおかれた環境(気温や香り,他者の存在等)が意思決定や製品評価に与える影響に注目した研究成果が蓄積されつつある。そこで本稿では,知識は身体感覚や周辺環境と相互作用する依存的なものであるとする新しい認知の理論「グラウンディッド・コグニション」を中心にレビューを行い,こうした知見がマーケティングや経済学でどのように位置付けられてきたかを検討する。さらに,マーケティングにおける文脈(コンテクスト)が,知覚品質の向上や市場におけるポジショニング,ブランドの強化にいかに貢献しうるかを明らかにし,今後のコンテクスト研究の方向性を示す。
著者
新倉 貴士
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.43-56, 2014-03-31 (Released:2020-06-23)
参考文献数
17

本稿では,消費者視点から捉えた業態認識に関する概念モデルを提唱する。消費者情報処理研究に基づき,消費者のもつ認知表象として業態を捉えたうえで,その認知表象を構成するメカニズムとして,既存研究で言及されてきた業態の「原型なるもの」に焦点を当て,業態認識に関する抽象的な概念と具体的な実像という抽象関係の構図に着目する。次に,消費者による業態認識の情報処理をトップダウン型とボトムアップ型に識別したうえで,カテゴリー化研究における典型性に基づくカテゴリー構造に示される典型事例としてのプロトタイプとエグゼンプラーの役割の重要性を踏まえ,新たな概念としてエグゼタイプを導入する。そして,これらの典型事例を基にした業態の認知分布を仮定することにより,業態間の連続性と業態間変動,業態における中心性,そして業態内変動と業態間変動についての説明が可能になるのである。
著者
畢 滔滔
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.20-29, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
参考文献数
29

本論文では,米国のカリフォルニアキュイジーヌに関する事例研究を通じて,料理文化遺産が存在しない地域において,スローツーリストを誘引するためのスローフードをつくりだす方法を検討する。本論文の結論は2点にまとめられる。第一に,カリフォルニアキュイジーヌがスローフードとして高い集客力を誇るようになった要因は,料理自体が持つ優れた特性のみならず,料理が生まれるまでのストーリーにある。第二に,そのストーリーは,スローツーリストがもつ「不純物,虚像,作り話,大量生産のもの」に溢れた生活空間から離れたいという要求や,米国の文化を知りたいというニーズ,さらに倫理的消費を重視する価値観に合致することで,スローツーリストの経験価値の向上に寄与している。ストーリーづくりの過程においては,地元の文化に関する深い知識を持った上で,倫理的消費を個人の快楽と同様に重視するスローツーリストの特徴を十分に考慮する必要がある。本論文では,こうしたストーリーづくりから生まれる観光マーケティングの可能性が示唆される。
著者
清水 信年
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.49-60, 2019
被引用文献数
2

<p>小売企業間の競争において,製品差別化を実現できるようなPBや独自商品の開発が重要となっている。生産設備や開発力などの点でメーカーに劣る小売企業が魅力的な製品開発を行うためには,大きな販売力を持ち消費者に関する情報の源でもある店舗の存在がその源泉とであると考えられてきた。加えて,そこで働く従業員の中には店舗で扱う製品についてのリードユーザーが存在しており,製品開発活動にそうした店舗従業員が関与することによって独自性の高い製品が生み出される可能性がある。スポーツ用品販売チェーンと食品スーパーに関する事例研究を行った結果,ユーザーイノベーションの代表的なマネジメント手法であるリードユーザー法とクラウドソーシングが実践され成果を挙げていることが確認された。</p>
著者
鈴木 智子 阿久津 聡
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.72-87, 2016-06-30 (Released:2020-04-14)
参考文献数
84

本論文では,日本でもポピュラーになりつつある共同ブランド戦略について,米国を中心として発展してきた先行研究をレビューしてこれまでの知見を整理した上で,日本における共同ブランド戦略について考察する。先行研究からは,共同ブランドは,親ブランドの高い一致あるいは適度に不一致のものが高く評価されることが明らかになっている。このことは日本人においても同様だが,日本人の場合は,さらに,親ブランドの一致が低い共同ブランドも高く評価される可能性があることが指摘される。また,米国では,適度に不一致な共同ブランドが高く評価されるためには,コミュニケーションによる説明の必要性が挙げられているが,日本では,そうした説明がなくても高く評価される可能性がある。本論文では,文化心理学の知見を援用しつつ,日本と米国ではこうした差がなぜ見られるのかについて説明を試みる。最後に,日本における共同ブランド戦略の実施に向けた提案と今後の研究課題についても述べる。
著者
鈴木 智子 竹村 幸祐
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.108-126, 2014-01-15 (Released:2020-11-13)
参考文献数
33

サービス業のグローバル化が進んでいる。複数の国で事業を行う際,グローバリゼーション戦略とローカリゼーション戦略といった二つの選択肢がある。これまでに米国を中心に発展してきたブランド・マネジメント論では,どちらかといえばグローバリゼーション戦略が推奨されてきた。これに対し,本研究では,グローバリゼーション戦略の有効性について再考を試みる。グローバリゼーション戦略を推奨する研究者の主張からは,「一貫性」がキーワードとして浮上する。しかし,一貫性を選好する傾向には文化差があり,ある文化圏の人々は一貫性を重視するが,別の文化圏の人々は変化や矛盾に対して寛容であることが指摘されている。前者ではブランド・イメージに一貫性が欠如していると,そのブランドに対する評価が下がる可能性があるが,後者ではブランド評価が下がるとは限らない。本論文ではこのことについて,ユニバーサル・スタジオを事例として取り上げつつ,考察する。