- 著者
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畢 滔滔
- 出版者
- 日本マーケティング学会
- 雑誌
- マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
- 巻号頁・発行日
- vol.39, no.4, pp.20-29, 2020-03-31 (Released:2020-03-31)
- 参考文献数
- 29
本論文では,米国のカリフォルニアキュイジーヌに関する事例研究を通じて,料理文化遺産が存在しない地域において,スローツーリストを誘引するためのスローフードをつくりだす方法を検討する。本論文の結論は2点にまとめられる。第一に,カリフォルニアキュイジーヌがスローフードとして高い集客力を誇るようになった要因は,料理自体が持つ優れた特性のみならず,料理が生まれるまでのストーリーにある。第二に,そのストーリーは,スローツーリストがもつ「不純物,虚像,作り話,大量生産のもの」に溢れた生活空間から離れたいという要求や,米国の文化を知りたいというニーズ,さらに倫理的消費を重視する価値観に合致することで,スローツーリストの経験価値の向上に寄与している。ストーリーづくりの過程においては,地元の文化に関する深い知識を持った上で,倫理的消費を個人の快楽と同様に重視するスローツーリストの特徴を十分に考慮する必要がある。本論文では,こうしたストーリーづくりから生まれる観光マーケティングの可能性が示唆される。