著者
大原 悟務
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.36-48, 2019-09-27 (Released:2019-09-27)
参考文献数
36

本稿の目的は医療分野におけるユーザーイノベーションの意義や実現可能性を考察することにある。医療の概念とユーザーイノベーションの概念を広く捉え,同イノベーションの分類や多様性を確認した。今後,検証が必要となるが,患者の生活の質の向上を目的としたものや患者の所有物を対象にしたユーザーイノベーションについては実現可能性が高いものと考えられる。一方,医薬品や医療機器については患者だけで開発を進めるのが難しく,患者側が臨床試験や治験の被験者を紹介したり,患者の視点から臨床試験や治験のあり方を提案するといった形で製薬企業などとの共創や連携を進めるのが現実的であるとの見解を示した。開発プロセスへの患者団体の参画について,日本ではまだ件数が少ないが,日本せきずい基金と日本網膜色素変性症協会の取り組みを紹介した。ただし,この2件は大学などの研究機関と患者団体とが連携,交流したものである。製薬企業と患者団体との連携が待たれるところである。
著者
石井 裕明 外川 拓 井上 一郎
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.107-118, 2018-09-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
17
被引用文献数
1

マーケティングが様々な対象に応用できることは古くから指摘されてきた。その中でも,公共団体への応用は,ソーシャル・マーケティングなどとして,しばしば取り上げられるテーマの一つである。その一方,我が国に目を向けてみると,本格的にマーケティングに取り組んでいると考えられる市町村単位の地方自治体はそれほど多くない。そこで本稿では,マーケティング課を設置し,様々なマーケティング活動を展開している流山市に注目した。インタビュー調査の結果からは,同市の人口増加の背景にマーケティング的発想に基づく様々な取り組みが存在することが確認された。また,自治体組織特有のマーケティングを応用する難しさ,トップマネジメントである市長によるマーケティングの強調による効果,自治体組織にマーケティングを根付かせるための方策が示唆されている。
著者
金子 充 臼井 浩子 宇田 詩織 大池 寿人 落合 彩映 神﨑 啓慎 検見﨑 誠矢 山田 南帆 守口 剛
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.20-37, 2015-09-30 (Released:2020-05-12)
参考文献数
25

近年,「○○女子」,「××男子」というラベリングを用いて,特定の趣味や嗜好を有する消費者を呼称することが多く見られるようになった。本稿では,これらのラベリングにより,消費者の消費障壁が低くなるのか,また,消費意向が高くなるのかを検証した。調査の結果,「◯◯女子」,「××男子」というラベリングにより,おおむね消費障壁が下がることが明らかになった。ただし,消費対象となる製品や消費行為の性別イメージが弱い時には,その効果は小さく,また,反対に消費障壁を高めてしまう可能性がある。また,他の消費者と一緒に消費する時や消費頻度が高い時に,ラベリングの効果が大きい傾向が見られた。本稿の結果から,「◯◯女子」,「××男子」というラベリングの効果は一様ではなく,マーケティング・コミュニケーションのターゲティングをより精緻に考える必要があることが示唆される。
著者
李 素熙
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.79-90, 2018-09-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
98

外食国際化は,長らくアメリカの外食チェーンが牽引してきたと言っても過言でないが,21世紀に入ると,日本の外食企業を筆頭にアジア諸国の外食企業の国際化が進展し,外食国際化は新たな局面を迎えるようになった。しかしながら,外食国際化現象は,グローバライゼーションを巡る議論や食文化の伝播を巡る議論の中で取り上げられる程度であり,企業行動を前提とした論考は非常に限られたものしか存在してこなかった。また,その限られた研究もほとんどが特定の外食企業の現状把握が中心であり,それらの現状を捉える視角も非常に多様で,内容的には浅い分析にとどまるものが多く見られるのが実状である。それゆえ,この領域の研究蓄積を整理することは非常に難しいのが実態である。そこで,本稿では,外食国際化行動と類似する部分が多い小売国際化研究の研究視角を参照しながら,外食国際化研究の現状を整理・理解した上で,今後の研究課題を四点提示した。
著者
杉谷 陽子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.38-53, 2018 (Released:2020-01-24)
参考文献数
35
被引用文献数
1 1

「自己とブランドのつながり(Self-brand connection)」は,ブランド購買やブランド支援行動を導く重要なブランド評価である。本研究では,自己とブランドのつながりを,いかにすれば強化することが出来るか,その方法を明らかにした。また,自己とブランドのつながりは,状況によって変化しにくく,常に購買意図を導く効果をもつことを明らかにした。実験では,まず,参加者に未知のファッションブランドの広告を見せてブランドに対する評価および購買意図を回答させた。次に,そのブランドが自らの所属する集団,あるいは,羨望集団において多く採用されているブランドであるという情報を,オンラインマガジンの記事として提示した。その結果,記事を参照することで,自己とブランドのつながりは有意に上昇した。また,記事を参照する前,参照した後,いずれにおいても,自己とブランドのつながりは購買意図を高める効果を持つことがわかった。一方,他のブランド評価(プレステージ,知覚品質,ファッション性)は状況によって変動しやすく,購買意図との関連は弱いことが分かった。考察では,自己とブランドのつながり,および,その他のブランド評価の性質について論じた。
著者
西村 順二
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.37-54, 2019-01-17 (Released:2019-01-17)
参考文献数
12

本研究は,生産と消費をつなぐ流通・商業,特に相対的に小商圏を対象とする地域商業・流通における中小規模卸売業と中小規模小売業の環境適応に着目する。そして減退化に向かう地域の小売業に対して積極的に支援しながらも自身の成長を目指し,もって地域全体の商業・流通の活性化を図ろうとする卸売業の動向をボランタリーチェーンの事例を通して確認し,商業・流通の果たすべき役割の変化について検討する。近年の卸売業と小売業の販売額推移をみると,本来は卸売業と小売業が連関性を持って,生産と消費をつないできた商業・流通にあって,全国市場を標的とする大規模な小売業・卸売業が減退し,小規模な小売業と中規模な卸売業において増大の傾向が見られる。中間流通として,小規模な小売業と中規模な卸売業を中心とした連関性が生まれ,全体としては減退傾向にある商業・流通において反転の動向を示している。この一つの事例としてコスモス・ベリーズは,ボランタリーチェーンの本部企業として,地域市場の小規模な小売業支援を行っている。バンドリング,ハブ&スポーク,業種を超えた業態対応の点で,優位性を保ち,流通フローを最適に流しているのである。
著者
麻里 久
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.104-115, 2020-01-11 (Released:2020-01-11)
参考文献数
28

ブランドコミュニティ研究にとって,ソーシャルメディアの登場によるコミュニティの変容に対する理解は重要な問題である。ソーシャルメディアをブランドコミュニティとして捉えるべきか,あるいはブランドパブリックとして捉えるべきか,その捉え方はマネジメントの方策に対しても大きな影響を及ぼすものと考えられる。既存研究において,このふたつの概念は特定の状況下で一方のみが形成されるものなのか,あるいは同じ次元で共存可能なものなのか,ふたつの可能性が示唆されてきた。しかし,後者に関する考察はあまり進んでいない。そこで本稿では,既存研究におけるブランドコミュニティとブランドパブリックというふたつの概念をそれぞれ確認しながら,企業が運営するFacebookページにおける消費者行動を観察する。その結果として,企業が運営するFacebookページにおいて,ブランドコミュニティの特性とブランドパブリックの特性がどちらも遍在していることを提示する。
著者
酒井 崇匡
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.22-41, 2017-06-30 (Released:2020-03-10)
参考文献数
20

近年,急速な技術革新や超高齢化などの人口動態的課題の顕在化に伴い,日本の未来予測に注目が集まっている。一方,そのようなマクロ環境の変化の下で,生活者の価値観は今後,どのように変化し,それが具体的にどのようなライフスタイルや街の風景を生むのだろうか。本研究では,特にBtoCビジネスを展開する企業の中長期的なマーケティング戦略立案への活用を目的として,2025年から2030年前後の生活者の価値観変化およびそれに基づく街のシナリオと具体的な生活風景の導出を行った。シナリオ・プランニングの手法に基づきつつ,未来の分岐軸として生活者の価値観変化を設定する試みを行い,あける(≒解放する),しめる(≒集約する)という相反する方向を持った,街の中の「生活空間」と「人間空間」という2つの軸を導出した。また,それらを掛け合わせた未来の街のシナリオとして,「鍵のないまち」,「住所のないまち」,「壁のないまち」,「窓のないまち」の4つの街の姿と,そこに生まれる100の具体的なライフスタイル・風景を導出した。
著者
石井 隆太
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.86-94, 2019-01-17 (Released:2019-01-17)
参考文献数
39

国際マーケティング論や国際流通論における最重要トピックの一つは,輸出チャネルの選択である。これまで,大半の既存研究は,企業が単一種類の輸出チャネルを選択すると仮定してきたが,現実世界における数多くの企業は,複数種類の輸出チャネルを選択している。そのため,近年の学術研究は,国際市場におけるマルチ・チャネル戦略,すなわち,マルチ・チャネル輸出に関する研究を展開することが必要であると頻繁に主張してきた。しかしながら,マルチ・チャネル輸出に関するレビュー論文は,未だ刊行されていない。マルチ・チャネル輸出に関する研究の必要性が高まっていることを考慮に入れると,これまでの研究知見を整理し,残された問題点を明確化することは,必要不可欠な試みであると言いうるであろう。そこで本論は,マルチ・チャネル輸出の選択要因を探究した研究潮流,および,マルチ・チャネル輸出が成果に及ぼす影響を探究した研究潮流について概観する。そして,それを踏まえた上で,今後の研究には,(1)既存の研究潮流の拡大,および,(2)新たな研究潮流の形成が求められるということを指摘する。
著者
阿久津 聡 勝村 史昭
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.5-26, 2016-06-30 (Released:2020-04-14)
参考文献数
36
被引用文献数
4

本稿は,これまで企業と顧客との関係性の問題として議論されることが多かったブランディング活動について,組織力強化プロセスという観点から考察するものである。ブランディング活動は組織力の強化に寄与し,それによってブランド価値が高まるという分析的枠組みを提示し,それを基に複数企業のブランディング活動の内容とその効果を定性及び定量的に検討した。具体的には,当該企業の事例を基に,組織風土や社員の思考・行動様式に対してブランディング活動が及ぼす効果について定性的に分析した上で,日本市場における主要ブランドの価値を測定しているブランド・ジャパンの定量データを用いて対象企業のブランド力の推移からブランディング活動の効果を分析した。
著者
高橋 千枝子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.119-130, 2019-06-28 (Released:2019-06-28)
参考文献数
8

従業員への健康投資により企業価値向上を実現する経営スタイルとして健康経営が注目され,流行の経営手法として多くの企業が取り組んでいる。サンスターは健康経営の取り組みそのものからイノベーションを生み出し企業価値向上に活かしてきた。早くから従業員の健康に投資しており,従業員向け健康増進施設で提供する玄米菜食を基本とした健康メソッドから「健康道場」ブランドを創出した。当初から健康経営を本業に取り込み,経済的価値を得ることを念頭に置いていた。同社の取り組みには,従業員の健康増進とその健康メソッドを活かしたビジネス創出を両立するCSVの視点と,モノ(健康道場ブランド)とサービス(健康メソッド)とを一体化して価値共創するサービス・ドミナント・ロジックの視点がみられる。
著者
李 相典
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.70-77, 2018-06-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
18

デスティネーション・ブランド(Destination Brand)に関する研究は1990年代半ばから行われた。これまでデスティネーションに関するブランド視点からの研究は,観光機会の拡大,再訪問客の増加,そして他デスティネーションとの継続的な差別化による競争力確保の必要性が徐々に高くなっている観光環境から起因した。とりわけ,デスティネーション・ブランド・エクイティ(Destination Brand Equity)に関する研究は当該デスティネーションの持続的な競争力の増進による観光客の増加を目標として進められてきた。しかし,デスティネーション・ブランド・エクイティに関する研究はその理論的構造においての限界など,まだ多様な課題を抱えている。本稿では,デスティネーション・ブランドに関する研究の整理とともに,デスティネーション・ブランド・エクイティの特徴と今後の課題に関して検討した。
著者
石井 隆太 菊盛 真衣
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.52-67, 2018-09-30 (Released:2018-12-14)
参考文献数
47

今日,実店舗とオンライン店舗の両方で買物する消費者,すなわち,マルチ・チャネルショッパーが増加している。既存研究は,マルチ・チャネルショッパーの制御焦点が店舗選択に影響を及ぼすということを示唆してきた。しかし,(1)チャネル属性の知覚水準に影響を及ぼしうるオンライン購買経験を考慮に入れていない点,および,(2)消費者の店舗推奨行動を検討していない点において問題が残されている。これらの問題に対応するために,本論は,マルチ・チャネルショッパーの制御焦点が店舗選択・推奨に及ぼす影響,および,その影響に対するオンライン購買経験の調整効果を検討する。シナリオ法を用いた調査を実施し,241名の参加者からデータを収集した。回帰分析の結果,予防焦点は,オンライン店舗(対実店舗)の選択および推奨行動に負の影響を及ぼす一方,消費者のオンライン購買経験が多い場合,促進焦点は,オンライン店舗(対実店舗)の選択および推奨行動に正の影響を及ぼすということが見出された。こうした知見を提示することで,本論は,消費者のチャネル選択に関する研究,クチコミに関する研究,および,制御焦点理論に関する研究の進展に貢献を成すだろう。
著者
大森 信 滝本 優枝
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.47-65, 2018 (Released:2019-05-31)
参考文献数
39

本稿は,欧州で経営戦略論の新しい研究アプローチとして進展してきた Strategy as Practice (SaP)から,Strategizing Activities and Practices (SAP)へと移行する現在までの過程に着目し,SAPの現状と課題を指摘し,その可能性について示す。日本では SaPの研究は少しずつ浸透しつつあるものの,SAPについての論考は未だ見当たらない。経営学と隣接する分野であり,市場戦略や競争戦略について研究展開がなされてきたマーケティング分野において両者の関係性について検討しておく必要性は少なくないと考える。本稿では,プラクティス理論に基づいた SAPの観点から,特に日本企業の周辺的活動が継続され習慣化されていく過程に着目する必要性を提示する。また研究の進展を通じて,新たな経営戦略観ならびに組織観を示すことができるとともに,特にリレーションシップ・マーケティングに対する含意も少なくないことを指摘する。
著者
小林 哲
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.43-60, 2019-06-28 (Released:2019-06-28)
参考文献数
22

日本の農林漁業は,就労者の減少や高齢化により,深刻な状況に直面している。こうした状況の中,政府は,農林漁業再生手段のひとつとして6次産業化をあげ,それを推進するため,さまざまな支援を行っている。しかしながら,6次産業化の研究は,政府の支援策に関する考察や事例の紹介にとどまり,6次産業化の成果規定要因に関する定量的分析はほとんどなされていない。そこで,本稿は,政府が作成した「6次産業化の取組事例集」を用いて,その定量的分析を試みる。分析の結果,加工と直販の両方を行う方が6次産業化の成果が高まることや,同じ6次産業化でも直販とレストランで成果に与える影響が異なることが明らかになった。また,地域への関与が高い6次産業化の方が,成果が高まることも示された。
著者
清水 信年
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.49-60, 2019-09-27 (Released:2019-09-27)
参考文献数
46
被引用文献数
2

小売企業間の競争において,製品差別化を実現できるようなPBや独自商品の開発が重要となっている。生産設備や開発力などの点でメーカーに劣る小売企業が魅力的な製品開発を行うためには,大きな販売力を持ち消費者に関する情報の源でもある店舗の存在がその源泉とであると考えられてきた。加えて,そこで働く従業員の中には店舗で扱う製品についてのリードユーザーが存在しており,製品開発活動にそうした店舗従業員が関与することによって独自性の高い製品が生み出される可能性がある。スポーツ用品販売チェーンと食品スーパーに関する事例研究を行った結果,ユーザーイノベーションの代表的なマネジメント手法であるリードユーザー法とクラウドソーシングが実践され成果を挙げていることが確認された。