著者
小林 久子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.71-78, 1990-10-31 (Released:2009-11-18)
参考文献数
12

1重度失語症例の9年間にわたる訓練の経過を報告する.症例は初診時63歳の右利き男性.右片麻痺と構成障害を伴い,観念運動失行も疑われた.自発語はわずかな残語のみで,発話開始時には発語器官の模索行動が顕著であった.最初の3年間,言語機能の改善を目的とした訓練をおこなったが,目立った改善はなかった.また指差しやジェスチャー,描画は拙劣でそれらを単一の代用コミュニケーション手段として活用することはできなかった.そのため日常のコミュニケーションに困難を示した.4年目より語用論に基づいた治療法PACE (Promoting Aphasics' Communicative Effectiveness)を家族の協力を得,また他の患者とともにおこなった結果,描画やその他の手段を併用することが可能になり,また伝達の内容は目前にはないことがらの報告や要求へと広がった.その結果,日常のコミュニケーションは改善し,コミュニケーション意欲の向上が見られた.
著者
斉藤 佐和子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-10, 2002-04-25 (Released:2009-11-18)
参考文献数
32

ダウン症は特異な言語障害をもつとされ,言語のさまざまな側面の研究が積み重ねられてきた.しかしいまだ不明の点も多く,研究途上である.ここ10数年の国内外の研究を概観し,まとめた.その結果,以下の知見が得られた.(1)言語獲得以前のコミュニケーション能力については,反応の弱さがあるものの,さまざまなタイプのコミュニケーションを行っており,逸脱や大幅な遅れはなかった.(2)構音の誤りは,浮動性が目立ち,口腔器官の器質的障害や舌運動の拙劣さ,筋緊張の低下など運動能力のみでは説明ができず,なんらかの中枢性の障害が予想された.(3)言語表出は,精神年齢に比し発達が遅れた.しかも語彙と構文で異なった発達を示し,語彙の発達が先行した.健常児の発達過程との比較,他の発達障害児との比較では,研究により異なった結果を示した.(4)言語発達の個人差が目立ち,理解,表出の発達のバランスを考えてもさまざまなサブグループが存在する可能性が考えられた.(5)サイン指導が言語理解・表出を発達させるために効果的であることが立証された.しかし日本におけるダウン症児者の言語理解,表出発達に関しての研究はいまだ少なく,これからの課題である.
著者
青木 久
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.41-46, 2002-04-25
参考文献数
8

本報告では,我々がこれまでに開発した1つのスイッチで操作するコンピュータ使用支援機器と,現在研究を進めている重度身体障害児・者用の新しい入力手段を紹介した.新しい入力方法は,文字認識に対する皮膚電位変化をスイッチの作動信号に採用したので,スイッチを操作するためにどのような動作も必要としない方法である.4名の健常な被検者の左手掌から記録した皮膚電位には,ターゲット文字の判別時に交感神経皮膚反応(SSR)が観察された.4名の被検者における文字認識時のSSR出現率の平均値は,63%であった.SSRのような皮膚電位をスイッチ作動信号として使用することには,脳波によるBrain Computer Interfaceと比較して,記録方法や信号判別の簡便さや,利用者の特別な訓練を必要としない点などの多くの利点があることが明らかになった.しかし,実用化するには,SSRの反応潜時が長いこと,出現率が低いこと,慣れなどの問題を解決する必要があることが示唆された.
著者
大井 学
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-15, 1994-04-30 (Released:2009-11-18)
参考文献数
92

「自然な方法」による3つの言語指導法,相互作用アプローチ,伝達場面設定型の指導および環境言語指導に関連する最近の研究を展望し,それらの理論的な背景,技法,効果,今後の方向について検討した.大人との相互作用が子供の言語獲得に及ぼす影響に関する研究に基づく相互作用アプローチは,相互作用を改善し既有の伝達技能の使用を促す効果があるが,それによる新たな言語構造の獲得を示す証拠はない.また高い指示性と低い応答性という仮定の他に指導のモデルを求める必要がある.慣例化された活動が子供の伝達と言語理解を促すという研究結果を基礎としている伝達場面設定型の指導は,標的とされた伝達技能の改善に効果が認められているが,活動の選択や行動連鎖の形成方法について検討する必要がある.応用行動修正技法を基礎とする環境言語指導は,先の2つのアプローチとの交差によって,「自然な方法」による言語指導の発展に寄与することが期待される.
著者
峪 道代 住田 恵子 井脇 貴子 山本 基恵
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.131-139, 1994-12-25 (Released:2009-11-18)
参考文献数
22

大阪府立母子保健総合医療センターにおいて出生した超未熟児の学齢期における言語能力検査を実施した.対象児44名(男20名,女24名)の出生体重の平均は871.6g(SD 158.9),在胎週数の平均は27.2週(SD 1.9)であった.検診時の年齢は7~9歳で,合併障害をもつものが14名含まれていた.知能検査が実施できた43名の平均知能指数は94.4(SD 16.4)で正常範囲内であった.語彙指数の平均は理解86.8(SD 17.3),表出88.1(SD 16.0)で同年齢児に比べて有意に低い成績を示した.口腔器官運動は,巧緻性は低いがoral diadochokinesisは同年齢児と比べて差はなかった.構音の成熟に遅れを示したものは多かったが,特徴的な構音の誤りは認められず,構音障害の出現率は同年齢児と差がなかった.これらの結果は,過去に報告された同様の研究結果と一致するところが多かった.同時に行われた心理,耳鼻科など他領域の検診結果との関連を検討することが今後の課題である.
著者
道関 京子 門脇 大地 米本 恭三
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.147-156, 1995-12-25
参考文献数
30
被引用文献数
2

全体構造的言語治療(ヴェルボトナル体系)を概括し,これを日本語臨床に適用するため独自の方法論の展開を考察し,最後にそれを重度失語症患者に施行した結果について述べた.本法は,経験と切り離さないやり方で,つまり人間生活活動の動的な本質を取り込んだ科学的言語治療の方法論である.VTSの考え方の基本に忠実に沿って組み立てた,日本語失語症治療の一つの試みと可能性を述べ,全体構造としてしか機能しない人間に対する,言語治療研究の必要性について訴えた.
著者
大井 学
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-15, 1994

「自然な方法」による3つの言語指導法,相互作用アプローチ,伝達場面設定型の指導および環境言語指導に関連する最近の研究を展望し,それらの理論的な背景,技法,効果,今後の方向について検討した.大人との相互作用が子供の言語獲得に及ぼす影響に関する研究に基づく相互作用アプローチは,相互作用を改善し既有の伝達技能の使用を促す効果があるが,それによる新たな言語構造の獲得を示す証拠はない.また高い指示性と低い応答性という仮定の他に指導のモデルを求める必要がある.慣例化された活動が子供の伝達と言語理解を促すという研究結果を基礎としている伝達場面設定型の指導は,標的とされた伝達技能の改善に効果が認められているが,活動の選択や行動連鎖の形成方法について検討する必要がある.応用行動修正技法を基礎とする環境言語指導は,先の2つのアプローチとの交差によって,「自然な方法」による言語指導の発展に寄与することが期待される.
著者
神山 政恵 吉岡 博英
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.16-25, 1993

全国の公立学校難聴・言語障害学級の実態と担当教師のいわゆる『聴能言語士(STと略す)』の資格への意識を調査する目的で約3分の1に当たる503学級を任意に抽出し,アンケート調査を実施した.その結果は,次の通りである.<br>1) 回収率は61%であった.<br>2) 担当教官は教師歴10年以上のベテランが任命されることが多く,継続の意思を持っている者が多かったが,教室の運営面と言語障害児の指導面の両者の悩みを抱えつつ訓練を行っている様子がうかがえた.<br>3) 一人の担当者が1日に4~6人程度の言語障害児を訓練し,1~2人の職場が多かった.<br>4) 担当者の多くは小学校普通免許状のみを所有し,言語障害に関する専門教育を受けたものは少なく,ほぼ全員が専門教育の研修の必要性を認めていた.<br>5) 担当者の大多数が医療STの資格の必要性を認めていたが,教師にも同様の資格が必要かについては,約半数が必要と回答していた.
著者
原 恵子
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.10-18, 2001-04-30
被引用文献数
11

日本語の読み習得の初期段階での音韻意識(phonological awareness)の発達の様相と,それが読み習得とどのように関連するのかを検討するために,健常就学前児123人(年中,年長児),小学生98人(小1~小3)を対象に,音削除(deletion),単語逆唱(reversal),母音同定の音韻操作課題と平仮名短文の読解課題を行った.その結果,就学前の1年間に,3拍語の音削除,逆唱課題をこなす音韻操作能力が整ってくること,小学校入学後,全員が学校での平仮名指導を受けた後には,4拍語の逆唱,6拍語の音削除,CV音節中の母音同定が可能になることが明らかになった.各課題間の相関を検討すると,音削除,逆唱の能力と平仮名短文の読解との間に高い相関が認められた.今回用いられた音韻操作課題に示される音韻意識がどのように読み習得の発達を支えるのか考察で論じた.
著者
小薗 真知子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.65-71, 1997-09-30 (Released:2009-11-18)
参考文献数
12

4名の失語症者に対し非言語的表現の訓練として絵を主体にした葉書(以下「絵手紙」)を描くことを指導した.4症例は非麻痺側の手を使い,十分に絵手紙を習得し,表出意欲の亢進と自発性の向上を認めた.郵送された絵手紙を受け取った患者の家族や友人等の喜びの反応が,患者の自信を増大させ,QOLを向上させたと思われた.今回の経験により,絵手紙の指導は失語症者の訓練法の一つとして有効に利用できると考えられた.
著者
斉藤 佐和子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.48-56, 1988-10-01 (Released:2009-11-18)
参考文献数
15

正常児7名を生後8ヵ月から15ヵ月まで縦断的に追跡し,言語表出の発達とUzgiris-Hunt精神発達順序尺度の発達との関係をみた.その結果,単純な表象,身近な事物の概念化,不充分な音声模倣の能力が備わると同時に始語が出現した.また,表出語数が20語を過ぎるあたりから表示機能をもつ語の比率が大幅に増加した.表出の発達の良い被験児ではUzgiris-Hunt精神発達順序尺度の下位尺度のうち,物の永続性と音声模倣の発達が良好であった.
著者
林 耕司 松本 幸子 岩立 志津夫 小島 哲也
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.58-68, 1989
被引用文献数
3 6

本研究は図形シンボルを使った人工言語システム(NSL86)による言語発達遅滞児への言語訓練の可能性を検討する目的で行なわれた.対象は訓練開始時CA9:2の精神発達遅滞のある発語困難児である.訓練前の言語評価の後,単語,2語連鎖,3語連鎖の順に訓練を開始した.理解と表出を並行して訓練した.単語訓練で学習されたシンボルは順次コミュニケーションボードに載せ,日常での会話に使用できるようにした.約15ヵ月の訓練を通して,計96語(名詞68語,動詞22語,形容詞6語)の単語と,「動作主+動作」「対象+動作」「動作主+対象+動作」の3構文の学習が成立した.全体を通して理解より表出で正答率が高い傾向が見られた.訓練室や家庭でコミュニケーションボードによる自発的で積極的な会話も可能になった.これらの結果から,言語訓練手段としてのNSL86の可能性について考察した.
著者
竹本 喜一
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.43-46, 1996-04-25
被引用文献数
1

Prader-Willi症候群(PWS)児に対する言語訓練経過をまとめ,構音の変化・特徴について検討をした.本症例では,新生児-乳児期に筋緊張の低下症状により,構音器官の運動の稚拙からくる発語の遅れや不明瞭な構音が生じた.そこで,不明瞭な構音の改善として構音器官への直接的なアプローチを含む構音訓練と言語理解面の向上を図る言語訓練を施行した.その結果,訓練20ヵ月後,不明瞭な構音に,(1)奥舌音の前舌化傾向の減少,(2)破裂音全体の明瞭化,(3)鼻音化母音の消失などの変化が現れた.また,理解面でも,概念形成の確立,理解語彙量が増加した.
著者
高泉 喜昭 石田 宏代
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.40-46, 1999-04-30 (Released:2009-11-18)
参考文献数
1

重症心身障害児施設に入所している重症心身障害児者(重症児者とする)に対し,より自発的な意思表出を目的に補助代替コミュニケーション(以下AAC)を導入した.その結果,彼らの生活やコミュニケーション行動に変化がみられ,AACは重症児者にとってQOLの視点から意義あるものと考えられた.しかしながら,AACの意義を実現していくためには重症児者個人の諸能力の検討だけでなく,援助する側のAACに対する知識,考え方など,重症児者をとりまく環境の面も含めた多角的,相互的視点に立った援助体制が必要と考えられた.特に施設という環境にあっては,重症児者のニーズをふまえ病棟職員を中心としたチームアプローチが重要な援助体制であると思われた.
著者
遠藤 邦彦
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.66-78, 1993-04-30 (Released:2009-11-18)
参考文献数
27
被引用文献数
1

左頭頂葉急性硬膜外血腫除去術後,複数の感覚系にまたがる感覚限局性失語を生じた1症例,および左被殻出血吸引術後,失語症と意味記憶障害を生じた1症例をもとに,物品呼称の神経機構を検討した.感覚連合野で分析された物品の形態,素材等の情報が下側頭回の意味記憶と照合され,それが何であるか認知され,意味記憶からの情報は語彙系を通して音韻像に変換され,左上側頭回に音韻像が把持され,その音を構音するための運動記憶が左下頭頂小葉から呼び出され,それに照らし合わせて左運動皮質が構音器官に指令を送ると考えられる.この情報処理過程の損傷部位に対応して物品の失認(感覚連合野と意味記憶系の離断),感覚限局性失語(認知系と言語系の離断),意味記憶障害(意味記憶自体の損傷),失語症(語彙・音韻系の障害)による呼称障害を生じると考えられた.これらの病態は病巣の広がりに対応して合併して生じうる.
著者
北野 市子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.120-124, 1998-12-25 (Released:2009-11-18)
参考文献数
4

「カ行の発音がおかしい」と訴えて来談した成人男性(以下クライエント)との面接事例を報告する.このクライエントには構音障害が認められなかったが,本人は仕事に支障をきたすほどの苦痛を感じており,心理的問題が疑われた.2回めの面接で筆者はクライエントに対して心理的問題の存在を指摘した.その後,クライエントは精神科を受診し,境界性人格障害(borderline personality disorder)の診断を受けた.今後,こうした心理的問題が言語障害の訴えとなって来談するケースが増える可能性がある.こうした事例にどのように対処するのか,ことばの問題がはらむ心理的諸問題に関し,STが臨床心理学的視点をもつ有用性について考察した.
著者
崎原 秀樹 綾部 泰雄
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.12-17, 2000-04-30 (Released:2009-11-18)
参考文献数
12

東京都吃音者講習会が吃音とどのように取り組んできたかについて検討した.この講習会は,東京言友会が東京都の委託を受けて1972年から始められた.講習会は,吃音問題を(1)生きる姿勢への取り組み,(2)話し方の工夫,の2つの視点から扱ってきた.またそのプログラムは全員被助言者・全員助言者の原則により進められた.言語や心理の臨床家として,このような取り組みに対してどう協力ができるのかについて考察した.
著者
横張 琴子
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-11, 1996-04-25
参考文献数
34
被引用文献数
1

失語症のグループ訓練は,心理的改善や社会性の向上,コミュニケーションの活発化に寄与する補助的訓練として,個人訓練終了後に実施されることが多く,個人訓練に代りうるものではないといわれてきた.筆者らは,障害のタイプと重症度を同質にしたグループを編成し,言語機能改善をもめざしたグループ訓練を,可能な限り発病初期から実施してきた.(1)仲間作りや社会性の向上をめざした談話,(2)刺激-反応タイプや,(3)ゲーム形態の言語訓練,(4)リズム体操と斉唱,(5)書道,絵画の実技指導を含むさまざまな趣味育成,(6)患者,家族の生活活性化,(7)個別のテキストを用いた家庭学習指導,(8)ステップ別カードによる日記指導などを取り入れた多面的指導を継続した結果,QOLの向上とともに,狭義の言語機能改善も得られた.グループ訓練は失語症治療において,有効性の高い手段と考える.
著者
大澤 富美子
出版者
Japanese Association of Communication Disorders
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.55-60, 1999-04-30
被引用文献数
1

進行性神経筋疾患者に対する補助代替コミュニケーション(AAC)アプローチを開発するため,日本ALS(筋萎縮性側索硬化症)協会近畿ブロックが1996年12月に実施した実態調査の159名の結果を考察した.それにより,使用しているAAC手段の種類が少なく使用頻度も低いことと,本格的な使用開始時期が人工呼吸器の装着などにより発話不能になった後と遅い,つまり,音声言語との併用期間が短いことが推測された.また,パソコン機器(意志伝達装置)の使用頻度が低いことから,機器操作訓練や運動機能低下に伴ったスイッチ更新が適切に行われていないことと,操作の一部に介助が必要となっていることが,機器使用の阻害要因として考えられた.以上のことから,早期からの非機器・機器的AAC手段の段階的導入に伴った評価・訓練と,導入後の維持支援プログラムを検討した.