- 著者
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青野 正太
- 出版者
- 一般社団法人 情報科学技術協会
- 雑誌
- 情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
- 巻号頁・発行日
- vol.71, no.10, pp.421, 2021-10-01 (Released:2021-10-01)
今月号は,「起業支援における情報提供」と題してお届けします。起業の促進は雇用創出や地域経済活性化という点で効果があるとされ,重要であると考えられています。しかし,世界各国の起業活動を比較したGlobal Entrepreneurship Monitor(GEM)調査によれば,日本の起業活動は先進国の中でも低水準であると言われています1)。そうした状況を改善すべく,国・自治体や商工会議所といった様々な団体により,起業の支援が行われています。特に,近年の起業支援の特徴は情報提供をはじめとするソフト支援にあると言われています2)。そこで本特集では,起業支援における情報提供をテーマとして扱うことにしました。起業支援の現状や,起業希望者が求めている支援を明らかにした上で,起業支援において情報提供を担っている機関が,各々の強みを生かしてどのような支援を行っているかをお伝えします。まず,総論として,東洋大学経済学部の安田武彦様には,日本における起業支援策の展開と今後の動向についてご解説いただきました。現代に至るまで日本はどのように起業支援策を展開してきたかを時系列で,生じた課題等を踏まえながら述べていただいています。次に,神戸大学大学院経営学研究科の内田浩史様,帝塚山大学経済経営学部の郭チャリ様には,起業者を対象とするアンケート調査から得られた5つの起業者のサンプルを比較分析し得られた起業者の属性や傾向について,ご解説いただきました。特に,起業において大きな課題となりうる資金調達について,述べていただいています。さらに,起業支援において情報提供を担っている機関として,図書館,大学,金融機関の3機関に事例をご解説いただいています。安城市アンフォーレ課の市川祐子様には,公共図書館における起業支援の事例として,安城市図書情報館におけるビジネス支援サービスについてご紹介いただきました。記事中では,館内に併設されている産業支援センターである「ABC(安城ビジネスコンシェルジュ)」との連携についてもご解説いただいています。京都大学産官学連携本部の室田浩司様には,大学における起業支援の事例として,文部科学省と主要国立4大学による「官民イノベーションプログラム」についてご紹介いただきました。特に,基礎研究を事業化するための資金助成制度である「POCファンド事業」と,大学発ベンチャーに対して株式投資を行う「国立4大学ベンチャー投資事業」の取組を中心にご解説いただいています。多摩大学経営情報学部の長島剛様には,地域金融機関における起業支援の事例として,多摩信用金庫における起業支援をご紹介いただきました。当該金融機関の所在する多摩地域や,地域金融機関を取り巻く状況を踏まえ,取組内容を詳しくご解説いただいています。読者の皆様におかれましては,起業支援における現状,課題を把握していただくとともに,自らの組織の強みをいかして支援を行っている事例を学んでいただければと思います。本特集記事を通して,ご所属の組織においてどのように起業支援に係る情報提供を行うのか,考えるきっかけとしていただければ幸いです。(会誌編集担当委員:青野正太(主査),海老澤直美,炭山宜也,水野澄子)1) 岡田悟.我が国における起業活動の現状と政策対応.レファレンス.2013,no.744,p.29-51.2) 金恵成.日本の起業の特性と支援課題.大阪観光大学紀要.2013,no.13,p.37-44.