著者
田辺 浩介 谷藤 幹子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.200-205, 2021-05-01 (Released:2021-05-01)

研究機関によって運営される研究者プロフィールサービスは,オープンサイエンスの進展に代表される研究活動の多様化や,Institutional Researchの取り組みによって,その目的が研究成果の公開から研究活動の分析のための情報基盤へと広がってきている。本稿では,今後の研究者プロフィールサービスの方向性や,その構築・運用に求められる研究機関の取り組みについて論じる。
著者
野村 紀匡
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.199, 2021-05-01 (Released:2021-05-01)

2021年5月号は「研究者情報基盤とその利活用」と題してお届けします。研究者情報基盤の重要な要素として研究者識別子があります。2009年3月にサイエンス誌は“Are You Ready to Become a Number?”という記事を公開しました1)。ここでいう“a Number”は各研究者に付与される識別子のことを指します。同記事は,全研究者が識別子を持てば文献データベースにおける著者名名寄せの手間が大幅に削減される等,様々なメリットがあると述べました。一方で同記事は,「Thomson Reuters社(現Clarivate社)が提供するResearcherIDをはじめ,研究者識別子に関するイニシアチブが複数存在するが,これらを統一すべきか,するとしたら誰がすべきか」という課題があることも指摘しました。2010年,この課題を解決する中立的なサービスの提供を目指して,ORCID, Inc.が発足しました。それから10年が経った2021年,研究者がORCIDで識別子(ORCID iD)を取得し,論文投稿時にORCID iDを入力することは当たり前のこととなりました。ORCIDは職歴や研究業績を登録・公開するサービスを提供すると同時に研究者情報基盤として,researchmap等の研究者総覧データベースや,各研究機関の学術情報システムと連携しています。各研究機関の学術情報システムは研究者の氏名等の基本情報や職歴,研究業績はもとより,産業財産権や競争的資金獲得実績等,様々な情報を必要とします。蓄積する情報の一部は,各機関の研究者総覧として公開され,外部から研究者を探す際に使用されます。また研究者情報は部局別業績分析等の内部分析や,外部向け報告書作成の際にも参照されます。さて,各研究者は各サービスや所属機関システム上の職歴や研究業績情報を最新の状態に保つ必要があります。ORCIDやresearchmapに入力する項目と所属機関システムに入力する項目は,重複するものも多くあります。研究者の研究時間割合が年々減少傾向にあることが報告される昨今2),所属機関としては研究者から重複登録の労力を省くためにも,研究者情報基盤と自機関システムとの連携は欠かせません。本特集では,この研究者情報基盤とその利活用について,様々な立場からご執筆頂きました。田辺浩介氏,谷藤幹子氏には,物質・材料研究機構のSAMURAIの事例をもとに,研究者プロフィールサービスの方向性やその構築・運用に求められる研究機関の取り組みについてご解説頂きました。さらに研究活動を可視化するためにどのような制度・システム設計をすべきかについてご提言頂きました。宮入暢子氏,森雅生氏には研究者情報基盤としてのORCIDの特徴とその提供サービスについて,利用者側である機関メンバーや各国コンソーシアムが運営に積極的に関与する実践コミュニティとしての取り組みを,各国事例も含めてご紹介頂きました。粕谷直氏には日本の研究者総覧データベースかつ研究業績管理サービスとして10年以上運用されているresearchmapについて,その概要と沿革,さらには今後の展望についてご詳説頂きました。古村隆明氏,渥美紀寿氏には京都大学におけるresearchmapとORCID及び学内情報システムとの連携事例についてご解説頂きました。各システムを連携し,研究者の入力負担軽減に最大限配慮されていることがよく分かります。村田龍太郎氏,海老澤直美氏には,日本原子力研究開発機構の研究開発成果・閲覧システムJOPSSにおける情報管理・発信について,周辺システムとの連携事例のご紹介に加え,典拠コントロールのワークフローについてもご説明頂きました。国,研究機関,機関内部局の各レベルでの業績管理・分析,研究内容発信に加えて,研究者レベルでの研究活動把握の重要性は今後ますます高まることが予想されます。一方で研究活動の種類も,原著論文や書籍,学会発表に加えて,プレプリントや研究データ公開等へ広がりを見せています。多様な研究活動内容を効率よく把握するためにも,研究者情報基盤のより一層の利活用が求められています。本特集が,研究者情報基盤と周辺サービス及びシステムについての理解を深め,今後の更なる利活用検討の際の参考となれば幸いです。(会誌編集担当委員:野村紀匡(主査),池田貴義,今満亨崇,炭山宜也,南雲修司,水野澄子)1) Enserink, M. Are You Ready to Become a Number?. Science. 2009, vol.323, no.5922, p.1662-1664. https://doi.org/10.1126/science.323.5922.1662, (accessed 2021-04-10)2) 文部科学省.概要「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」について.2019.https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/06/__icsFiles/afieldfile/2019/06/26/1418365_01_3_1.pdf, (参照2021-04-10)
著者
林 賢紀
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.242-247, 2008-05-01 (Released:2017-04-28)
参考文献数
5
被引用文献数
1

本稿では,Web上の検索エンジンについて標準的な検索手法になりつつあるOpenSearchについて概説するほか,1)OPACを題材として,図書館システムに標準で用意された検索ページを解析し,タイトル検索のみ可能なシンプルな検索ページへ再構成を図ることで検索に必要な最小限の要素の把握,2)OpenSearch Descriptionファイルを作成し,Firefox上から直接OPACを検索するプラグインの作成,3)作成した検索プラグインの設置とインストール方法について解説する。
著者
海老澤 直美
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.93, 2021

<p>2021年3月号の特集は「色彩による情報提供」です。</p><p>数多あふれる情報から欲しい情報を瞬時に得ようとする時,まずは目に入る情報のうち文字ではなく色で判断していることが多いのではないでしょうか。例えば,トイレの入口のマークで男性が青,女性が赤という色がもし逆だとしたら間違える確率は高くなるのではないでしょうか。図書館などの現場においても,利用者に情報を的確にわかりやすく提供するにあたり,案内表示,オンライン蔵書目録のインターフェース,什器類の空間デザインなど,あらゆる所で色彩が関係しています。</p><p>また,プレゼン資料やデータ分析における可視化など情報を視覚的に分かりやすく伝える手段としても色彩は用いられています。さらに,色覚バリアフリーという言葉があるように,色の識別に困難を持つ人もおり,色使いには配慮が必要です。</p><p>そこで今回の特集では,情報提供を的確に行うために,色彩がどのように活用できるか,基礎知識や注意点を解説するとともに活用事例を紹介します。</p><p>まず初めに,篠田博之氏(立命館大学)からは,色とは何か,そのメカニズムなど色彩の基礎知識を解説いただき,さらに応用技術やアイディアを紹介いただきました。続いて,日髙杏子氏(芝浦工業大学)からは,色彩という情報のコミュニケーションを取るために編み出された,色の表現方法のひとつである色彩を体系的にした表色系について解説していただきました。</p><p>そして,山本早里氏(筑波大学)からは,実際に手掛けられた教育施設の建築物・インテリアの色彩計画の事例を紹介いただき,色彩の持つ効果と重要性を解説いただきました。三浦まゆみ氏(インリビングカラー)からは,資料作成における誰もがわかりやすく見やすいユニバーサルデザインの基本を解説いただき,対象者や目的別の資料作りを効率よく作成する色使いのポイントを具体的に紹介いただきました。最後に,伊賀公一氏(NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構)からは,色識別に困難を持つ人は色がどう見えるのか。そして,色で情報を目的どおりに伝えるためにはどのようにすべきかを当事者としての視点からも解説いただきました。</p><p>本特集が,読者の皆様のお仕事などにおいて,色彩の重要性を把握し,色彩を活用して情報を的確に伝える一助となれば幸いです。</p><p>(会誌編集担当委員:海老澤直美(主査),南山泰之,南雲修司,長谷川幸代)</p>
著者
前岩 幸 斉藤 美貴子
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.181-186, 2021-04-01 (Released:2021-04-01)

企業の調査部門は,事業部門から依頼を受け,情報を収集することがある。そして収集した情報を整理し,可視化して依頼者へ提供する。そこで,依頼者(事業部門)が新しい事業を探索すると仮定し,そのための事前調査として,調査部門が新事業の未来を予想し,事業化における課題を可視化する手法を模索した。
著者
時実 象一
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.171-176, 2021-04-01 (Released:2021-04-01)

JATSは学術記事のデータを要素化・構造化するためのXMLである。JATSの歴史,現状,多言語化の支援など,日本のグループの貢献と学術情報XML推進協議会(XSPA)の活動について紹介し,JATSの可能性,利用の方法などについて解説した。
著者
大向 一輝 飯野 勝則 片岡 真 塩崎 亮 村上 遥
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.152-158, 2021-04-01 (Released:2021-04-01)

学術情報流通はその性質上,複数の機関による連携を必要とするため,これを支える情報システムは,相互運用性を高めるべく策定された技術標準を参照して開発されている。また学術情報流通に関する業務は多岐に渡ることから,包括的な単一の標準ではなく,役割や機能に応じて関連するコミュニティが主導する形でさまざまな標準が作られてきた。本稿では,図書館の業務・サービスに関連する技術標準を,書誌情報,相互貸借と貸出管理,検索とデータ連携,利用統計とユーザ認証に分類して概説する。
著者
吉本 龍司
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.148-151, 2021-04-01 (Released:2021-04-01)

学術情報や図書館を取り巻く情報環境は,もはやインターネットとの接続が前提となり,組織内や図書館内に存在する情報のみならず,世界中の情報を扱うことが当然となった。学術情報流通システムにおいては,各組織が保有する情報資源を相互に共有する必要があるため,効率化の観点からも技術の標準化は欠かせない。本稿では,図書館の蔵書検索サイト「カーリル」を開発する筆者の経験から,ウェブサービスを中心として情報システムを開発する際に,標準化された技術を取り入れることのメリットとデメリット(注意するべき点)を整理する。また,いくつかの標準化技術を紹介しながら,インフォプロにとっての標準化を提案する。
著者
今満 亨崇
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.147, 2021-04-01 (Released:2021-04-01)

私達は普段,様々なシステムを利用しながら業務を行っています。これらシステムは単体で動作するものも多いですが,システム間で連携するものや,データの再利用を前提としたものも一般的になってきました。学術情報の業界を考えてみると,論文を始めとする様々な知識・情報を効率よく,それも世界中に流通させることが大きな課題の一つです。昔から多くの取り組みが行われており,例えば図書館ではカード目録を整備したり,図書館間の協力関係を強化したりしてきました。とくに最近では,先述の背景もありwebベースのシステムを用いた取り組みが加速しています。効率よく情報を流通させるためには,標準的な技術の利用が欠かせません。開発者が別々の仕様でシステムを構築し,運用者がバラバラのルールでデータを整備している状況での不利益を想像してみてください。例えば図書館員の立場では,コピーカタロギングのようなデータの再利用には個々のサービスのデータ構造を理解する必要があります。webサービス提供側の立場では,データの再利用を促すための緻密なドキュメント整備が必要です。開発者の立場では,要件をゼロから考える必要があるため開発効率が上がらず,開発したものが顧客の要求とどれほど合致するかは開発が進まないと確定しません。本特集では,現在一般的に使用されている,もしくは利用が見込まれる,学術情報流通システムの標準化技術を主に紹介しています。まずは吉本龍司氏に本特集の総論として,標準化技術をどのように捉えているかシステム開発者の目線でご執筆いただくとともに,webの一般的な技術を広く紹介していただきました。そのうえで具体的なシステムを個別に見ていく構成としております。主に図書館情報システムで用いられる標準化技術については大向一輝氏,飯野勝則氏,片岡真氏,塩崎亮氏,村上遥氏にご執筆頂きました。耳馴染みのある技術も多いですが,海外の状況や学術情報流に親和性の高い一般的な技術も合わせて広くご紹介頂いております。機関リポジトリシステムで用いられる標準化技術については林正治氏にご執筆頂きました。ユースケースを交えて非常にイメージしやすくご紹介頂いております。また,機関リポジトリへデータ登録する際の“SWORD”の日本語解説は,他誌やインターネット上でもあまり無く,大変参考になります。デジタルアーカイブ関連では,近年話題のIIIFだけでなく,UnicodeやTEIについて永崎研宣氏にご執筆いただきました。また,時実象一氏には論文出版システムの標準化技術としてJATSを中心にご紹介頂いております。これらの2記事は標準化技術の紹介はもちろんですが,国際的な標準化技術の改善に貢献したり,日本独自の要件を追加したりすることの重要性も,経験を交えてご執筆頂けております。学術情報流通システムは,様々な技術の連携によって構成されています。単体のシステムに留まらないこの複雑さは,学術情報流通システム全体への理解を妨げる要因であり,一方で多くの理想を実現するための興味深い技術でもあります。本特集が,学術情報流通を支えるシステムへの理解を深め,仕様を策定する際の参考資料としてや,4月からシステムを担当される方の入門書としてご活用いただけますと幸いです。(会誌編集担当委員:今満亨崇(主査),光森奈美子,中川紗央里,野村紀匡,李東真)
著者
永田 治樹
出版者
社団法人情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.54-59, 2016

社会発展や,情報技術の急速な進展によって,図書館の価値がこれまでのように自明とはみなされず,その果たす役割が問われるようになった。本論は最初に,図書館のインパクトを紹介した国際規格ISO 16439:2014(図書館インパクト評価のための方法と手順)を取り上げる。次いで,学生の学習成果に関する分析事例を検討し,図書館の意義を実証するためのインパクト評価に,これまでのメトリクスだけでなく,種々の外部データを取り込んでデータにおける意味のあるパターンを発見・提示するというアナリティクスの適用を示唆する。