著者
古賀 公也 白石 哲 内田 照章
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.31-42, 1989-07-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
25

1984年に,長崎県長崎半島の脇岬漁港周辺の丘陵地で,孵化日を知り得た4巣9羽のトビの雛の成長と発育を調べた.その結果は次の通りである.1)稠密な幼綿羽は9-12日齢,体羽は18-22日齢に出現した.雛は17-19日齢から両趾で立ち始め,27-31日齢から羽ばたきを開始し,45-47日齢で自から摂餌できるようになつた.2)ある種のワシタカ類は1羽の雛を巣立たせ(B1種),またある種のものは2羽以上の雛を育てる(B2種).調査した4巣のうち,3巣では2羽の雛が孵化し,残りの1巣では3羽の雛が孵化した.したがって,トビはB2種に属する.これらの巣のうち,1巣では年少雛は年長雛と等しい速度で成長し,他の2巣では年少雛は年長雛の成長よりも遅れ,残りの1巣では年少雛が餓死した.上記の4巣は餌の得易さに関する条件が同じであることから判断して,親鳥の採餌能力には個体差があり,それが年少雛の成長と生存に影響を及ぼすと考えられた.3) それぞれの雛の体重増加曲線をロジスチック式に当てはめた結果,成長速度係数の平均値0.133 を得た.この値は,27種のB2種における成長速度係数:および漸近体重の指数:相関式から予測された値(0.169)との間に有意差を示さなかった.4) ワシタカ類では,体羽の出現と立ち上がりの開始は,小型種よりも大型種でより早い成長段階に生じる傾向があった.トビは中型ワシタカ類に属するにもかかわらず,その発育様式は小型•中型 種よりもむしろ大型種に近かった.
著者
古賀 公也 白石 哲 内田 照章
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.57-66, 1989-09-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
19
被引用文献数
3 3

長崎半島の脇岬漁港に隣接する丘陵地において,1983-1986年の2月から7月にかけてトビMilvus migrans lineatusの繁殖生態を調べた.その結果は以下の通りである.1) 丘陵地の一部(面積0.4km2)で1985年と1986年に番い密度を調査し,それぞれの年に33番いを数えた.このような集団的営巣は,本調査地がトビにとって餌の得易い,かつ営巣可能な樹木の多い環境であることによるものと考えられた.2) 1983-86年に計32巣を対象に繁殖成功率を調べた.産卵は28巣で行われ,これらの巣における一巣卵数は平均2.2個であった.少なくとも1羽の雛が24巣で巣立った.巣立ち雛数は1巣当たり平均1.0羽であり,これは個体群を維持するの十分な雛生産率であると思われた.3) 抱卵期から家族期までの親の行動を調べた結果,雌親は家族期前期まで縄張り内に留まった.雌親は育雛期中期から巣の周辺で採餌を再開したが,ほとんどの餌は雄親によって集められた.このことから,餌の豊富な環境では雄親は単独で,雌親と雛に十分な餌を供給し得ると考えられた.4) 以上の観察から,餌と営巣樹種の豊富な環境では,トビは集団的/TV1...営巣し,かつ安定した個体群を維持するのに十分な雛を産すること,さらに雄親の十分な餌供給により雌親は抱卵期から家族期前期まで縄張り内に滞留すると思われた.
著者
藤巻 裕蔵
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.233-237, 2011 (Released:2011-10-26)
参考文献数
31
被引用文献数
2 3

The Lanceolated Grasshopper Warbler Locustella lanceolata was censused along one to three 2-km transects (a total of 989) situated in 876 quadrats (4.5×5 km), in Hokkaido from late April to late July, 1976-2010. Warblers were recorded mainly in grasslands along lower and middle reaches of rivers, and those surrounding shallow lakes in Iburi, Ishikari, Tokachi, Kushiro, Nemuro, Abashiri and Soya districts. They occurred in grasslands and agricultural lands, and did not occur in woodlands and residential areas. Occurrence rates (No. of transects of occurrence/No. of transects censused) were 24.0% for grasslands and 3.4% for agricultural lands, and changed significantly in grassland during the study period.
著者
田悟 和巳 髙橋 明寛 萩原 陽二郎 益子 理 横山 陽子 近藤 弘章 有山 義昭 樋口 広芳
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.41-61, 2020-04-23 (Released:2020-05-16)
参考文献数
59

渡り鳥の多くは夜間に渡りを行っていることが知られている.しかし,夜間における渡りの動向を調査する方法は限られているため,日本ではその実態はほとんどわかっていない.そこで,北海道から九州の140地点で船舶レーダーを用いた夜間の渡り鳥の調査を実施した.レーダー調査では種の同定はできないものの,夜間でも鳥類の飛跡数を定量的に調査でき,飛翔高度等が把握できるという利点がある.調査は各地点とも秋・春2回ずつ,日没時刻から日出時刻後3時間まで行い,幅2 kmの範囲の上空を飛翔する渡り鳥の飛跡数を計測した.560地点の飛跡数の平均は秋季14,415,春季4,388で,最大は109,693飛跡であった.飛跡数と環境条件との関係について一般化線形混合モデルにより解析した.応答変数は飛跡数,説明変数は調査地点の緯度,経度,調査時期,標高,地形,レーダー画像取得時間の割合,調査開始時の雲量とした.飛跡数に関係する要因として重要なのは,調査開始時の雲量であった.飛翔高度は対地高度300–400 mを頂点とする一山型を示した.飛翔時間は,日の入り時刻後80分から140分後頃に最大値を迎え,その後,徐々に減少した.本調査により推定された渡りのルートの多くが,既存の調査により既に知られており,このことは,本研究の結果の有効性を示唆するとともに,上昇気流を利用して日中に渡りを行う種と夜間に渡りを行う種の渡りルートは類似していることを示唆していた.このように船舶レーダーを用いた手法は,夜間を含む渡り鳥の動向を調査する方法として,優れた手法であることが明らかになった.
著者
梶田 学
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.5-45, 1999-05-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
199
被引用文献数
7 5

DNAを用いた鳥類の系統解析は近年急速に発達し,現在では多くの研究例が知られている.DNAの中でもmtDNAは近縁な分類群の系統解析に適した性質を多く持つ.ただし,mtDNAのみを解析に使用した場合には,異種間浸透などによって誤った系統を推定する可能性も知られている.DNAを採取するためのサンプルとしては血液,組織,羽毛などが利用可能で,標本からのDNA採取も可能である.分析はDNA抽出,増幅,塩基配列決定の順で行われる.得られた塩基配列データから,系統推定法によって分類群の系統関係が推定される.得られた系統樹についてはその信頼性を統計的処理によって判断することが可能である.日本周辺には,鳥類の系統や進化に関する研究課題が山積されており,これらの課題を解明するには分子系統学的側面からの研究が不可欠である.今のところDNAの塩基配列データのみを利用して種•亜種の境界を決めることは困難であるが,鳥類の分類を再検討する上での非常に重要な情報となる可能性が高い.DNAの塩基配列データを用いた系統解析が,鳥類の進化を明らかにする上で大きな役割を担う手法となることは間違いなく,この分野の国内での早期の発展が望まれる.

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著者
江口 和洋
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.193-194, 2016 (Released:2016-11-22)
著者
水田 拓 鳥飼 久裕 石田 健
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.91-97, 2009-05-01 (Released:2009-05-20)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

奄美大島の龍郷町市里原地区においてアマミヤマシギの夜間センサスを一年間行い,道路に出現する個体の数に影響を与える要因を調査した.本種の出現個体数は,繁殖期(2~8月)に多く,非繁殖期(9~1月)には少なかった.それぞれの時期において,月の明るさ,雲量,風速,気温,調査時間帯のうち,どの要因が出現個体数に影響を与えているかについて一般化線形モデルとモデル選択を用いて解析した.その結果,繁殖期,非繁殖期とも,月の明るい(月齢が15に近い)夜に本種が多く道路上に出現しているということがわかった.これは,本種が道路上で視覚を用いた活動をしているためではないかと推察される.本研究により,夜の道路に出現するアマミヤマシギの個体数から好適生息環境や個体数の推移などを調べる場合は,月齢や天候を考慮する必要があることが示唆された.
著者
水野 歩 丸山 温 相馬 雅代
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.67-71, 2019-04-23 (Released:2019-05-14)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

ハシブトガラス Corvus macrorhynchosはヒトにとって身近で馴染み深い存在にも関わらず,その生活史や行動,認知について未解明な部分が多い.本研究では,ハシブトガラスの貯食行動における貯食場所の選好性に焦点を当て観察した.その結果,ハシブトガラスは貯食場所として樹高の高い常緑針葉樹の樹冠部を好むことが明らかになった.このことは,ハシブトガラスが貯食時にエサを隠すのにより有利な場所を選択していることを示唆している.

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出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.57-67, 2022-04-22 (Released:2022-05-11)
著者
平田 令子 畑 邦彦 曽根 晃一
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.187-191, 2009-10-24 (Released:2009-11-01)
参考文献数
21
被引用文献数
6 2

針葉樹人工林への広葉樹や草本植物の侵入に種子散布者として関わる鳥類を明らかにするために,スギ人工林内とその周辺で鳥類を捕獲し糞を採取した.秋~冬季には5種9個体の糞から無傷の種子が出現し,ルリビタキErithacus cyanurusの糞からイズセンリョウMaesa japonicaとフユイチゴRubus buergeriの種子,シロハラTurudus pallidusからヒサカキEurya japonicaとムラサキシキブCallicarpa japonica, ハダカホオズキTubocapsicum anomalum,ソウシチョウLeiothrix luteaからヒサカキ,ウグイスCettia diphoneからフユイチゴ,メジロZosterops japonicusからツルウメモドキCelastrus orbiculatusの種子が出現した.春~夏季にはカケスGarrulus glandariusからナガバモミジイチゴRubus palmatus var. palmatusの種子が出現した.これらのことから,これら6種は針葉樹人工林において種子散布者としての役割を持つと考えられた.
著者
江田 真毅
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.289-306, 2019

<p>日本において動物考古学は,遺跡から出土する動物遺体を資料として人類の過去を研究する考古学の一分野である.一方,動物遺体の分析からは,動物の過去の生態も復元できる.日本でも遺跡から出土した哺乳類の骨からその分布や大きさの時代的変化を復元する考古動物学的研究の例がいくつかある.しかし,小論で「考古鳥類学」的研究と呼ぶ遺跡から出土する鳥骨に着目して,動物側の視点からその過去の様相を調べる研究はほとんどなかった.日本には600種を超える鳥類が分布しており,その生態は多様である.歴史的な環境の変化に対する各種の応答も様々であったと考えられるため,哺乳類とは異なる生態変化の様相を検出できる可能性がある.遺跡から出土した骨を同定し,さらに骨の形態やDNA,組織,安定同位体比などを調べることで,分布や形態,集団構造,遺伝的多様性,食性など当時の鳥類の生態を復元できる.筆者らがこれまで取り組んできたアホウドリ<i>Phoebastria albatrus</i>の研究では,この種がかつては日本海北部やオホーツク海南部にも分布していたことが分かった.また約1,000年前のアホウドリには体サイズと食性の異なる2つの集団があり,さらに2つの集団の子孫は現在鳥島と尖閣諸島に生息していることも明らかになった.これらの知見は,実際には2種からなる可能性があるこの危急種の保全の方向性を決定づける重要なものである.今後,次世代シーケンサーによるゲノムの比較や,コラーゲンタンパク分析が遺跡出土の鳥骨に応用されることで,考古鳥類学の発展が期待される.これまで鳥類の研究は主に進化的時間スケールと生態的時間スケールで進められてきた.考古鳥類学的研究から得られる情報は,これらの時間スケールの間を埋めるものであり,日本においても今後さらなる研究の発展が期待される.</p>
著者
浜口 寛 石川 正道 小西 恭子 永井 敏和 大鹿 裕幸 川上 和人
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.33-41, 2014 (Released:2014-05-09)
参考文献数
25
被引用文献数
2 2

本研究では,絶滅危惧種ミゾゴイの生息に適する環境条件を明らかにすることを目的として,愛知県西三河地域におけるミゾゴイの生息環境モデルを作成した.我々は,調査地の範囲から3次メッシュ100個を選定し,鳴き声調査から得られた在・不在データを目的変数,生息に影響を及ぼすと考えられる環境条件を説明変数とする一般化線形モデルを用いて行い,各モデルのAICの比較によりモデル選択を行った.最良モデルに用いられた環境条件から,ミゾゴイの生息には降水量が多く,谷津田跡長が長く,植林面積が少ない環境が適すると考えられた.また,モデル予測値(生息確率)が大きい階級区分に該当するメッシュほど,鳴き声調査で実際に観察された生息率(該当メッシュ数に対する在メッシュ数の割合)も高くなっており,モデルの妥当性が高いと考えられた.ミゾゴイの主要食物である土壌動物は,湿潤環境において豊富であることや,営巣木として広葉樹を好むことが,このような環境が選択された要因と考えられる.本モデルを応用することで,ミゾゴイの潜在的な生息地を明らかにすることができると考えられる.
著者
手井 修三
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.335-341, 2019-10-25 (Released:2019-11-13)
参考文献数
7

石川県金沢市の住宅地において,鳥類の水浴び,砂浴び,飲水ののべ個体数を2010–2017年に記録した.スズメPasser montanus(3,875羽)の各行動の年別のもっとも多いピークは,季節変化では水浴び9月,砂浴び8月,飲水6月.日周変化では水浴び14時台,砂浴び18時台,飲水18時台であった.
著者
福居 信幸 上田 恵介
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.121-124, 1999-02-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
10
被引用文献数
9 6

Fruit of the Chinese tallow-tree Sapium sebiferum have white sarcocarp and dehiscence in autumn. The sarcocarp dries on the branch soon after the dehiscence. We observed eight bird species eating the fruit of S. sebiferum. Two species of crows Corvus corone and C. macrorhynchos, the Grey Starling Sturnus cineraceus and the Brown-eared Bulbul Hypsipetes amaurotis swallowed the fruit and excreted the seeds. The Tree Sparrow Passer montanus, the Great Tit Parus major and the Oriental Greenfinch Carduelis sinica took only a small part of the sarcocarp and left the seeds on the branch.The Turtle Dove Streptopelia orientalis took a lot of fruits and digested the seeds.The Tree Sparrow, the Great Tit, the Oriental Greenfinch, and the Turtle Dove are not seed dispersers, but a kind of seed parasite or predator.
著者
内田 博
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.111-122, 2017

コサギは1970年代には埼玉県の東松山市周辺の地域では普通にいた種であったが,最近になり急激に個体数が減少した.減少は1990年の中頃から始まり,2004年には稀になるほど個体数は減少し,2015年現在も回復していない.そこで,他のサギ類の個体数,餌動物であるエビ類や魚類の生息数,コサギの捕食者と考えられるオオタカの繁殖個体数を調べた.調査地のサギ類はコサギが激減したが,大型種であるダイサギ,アオサギは個体数が増加していた.しかし,エビ類や魚類は生息していて,餌動物の枯渇によるものではなかった.一方1970年代にはいなかった鳥類の捕食者であるオオタカは1980年代から急激に増加した.オオタカはサギを捕食することがあり,ダイサギの捕食もする.コサギは冬期には単独で広い水田や,谷津環境の湿地で採食するので,オオタカによる捕食で,犠牲になったコサギの被食痕も見られた.これらのことから,コサギの減少要因としてオオタカによる越冬個体の捕食が考えられたが,同時期に起こった,餌動物が競合するカワウの増加の影響や,オオクチバスなどによる小型魚の食害などの影響の可能性もあり,これらの要因がどのように関連しているのかも明確にする必要がある.