著者
高橋 雅雄 蛯名 純一 宮 彰男 磯貝 和秀 古山 隆 高田 哲良 堀越 雅晴 大江 千尋 叶内 拓哉
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.109-116, 2018 (Released:2018-05-11)
参考文献数
29
被引用文献数
1

シマクイナCoturnicops exquisitusの越冬生態を明らかにするため,2014-2015年・2015-2016年・2016-2017年の3冬季に,関東地方の65か所の湿性草原で,夏季の音声を用いて生息確認を実施した.その結果,18か所で延べ98個体のシマクイナを確認した.生息確認地は7地域に大別され,耕作放棄地と河川敷が特に利用されていた.また,耕作放棄地で確認個体数が多い傾向があった.さらに,シマクイナは中層ヨシ環境で主に確認され,この植生環境が本種の生息に重要であることが示唆された.
著者
樋口 亜紀 阿部 學
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 = Japanese journal of ornithology (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.25-30, 2001-02-25
被引用文献数
1

本研究では,飼育している3羽の成体フクロウ <i>Strix uralensis</i> の摂食量•排出量を測定し,餌動物と排出物のエネルギー量からフクロウのエネルギー収支を求め,飼育下のフクロウの必要餌量を明らかにした.以下に結果を示す.<br>1)3羽のフクロウの同化エネルギー(AE)は,平均 447.2±9.1kJ/dayで,単位生体重あたりの同化エネルギーは0.702±0.014kJ/dayであった.<br>2)測定期間中のフクロウの体重は0-1.4%の範囲で変化し,生産エネルギーは5.2±1.OkJ/day,維持エネルギーは442.2±9.OkJ/dayと同化エネルギーの98.8±0.2 %を維持エネルギーが占め,成体では同化したエネルギーのほとんど全てを個体の維持に費やしていた.<br>3)体重639.6gのフクロウは,1日に567.9±10.4kJ のエネルギーを摂取し,ペリットとして43.4±1.4kJ, 糞として77.3±1.2kJの,合わせて120.8±2.OkJを排出した.<br>4)排出物の単位乾燥重量あたりのエネルギー含有量は,ペリットが13.2±1.1kJ/9,糞が11.0±0.3kJ/9であった.<br>5)フクロウは1日に体重の13.2%に相当するアカネズミ2.3個体(83.9g,567kJ)を摂食し,78.5%を同化し,ペリットとして7.5%,糞として14.0%排出して体重を維持していた.
著者
葉山 雅広 由井 正敏 今井 正
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.297-310, 2014 (Released:2015-04-28)
参考文献数
55
被引用文献数
1 1

1990年から2008年にかけて山形県でクマタカ Nisaetus nipalensis の繁殖状況を調査し,ブナ Fagus crenata の種子生産の変動とクマタカの繁殖結果との相関の有無を検証した.そして,繁殖結果と環境要因(林相,林縁の複雑さ,前年の繁殖結果,降雪量など)との関係を明らかにするため一般化線形混合モデル(GLMM)を用いた.繁殖結果と環境要因との関係の解析では,ブナの結実状況の違いによって繁殖結果に影響する環境要因に違いがあるのかを検証するため,次の三通りの解析を行なった:(1)結実状況が良い場合,(2)結実状況が悪い場合,(3)結実状況による区分をしない場合.結果は,前年のブナの結実状況が良い場合には繁殖成功率が統計的に有意に高かった.しかし,繁殖結果に最も関連していた要因は前年の繁殖結果であった.天然林が占める割合が高い本調査地では,GLMMによる解析はブナの結実状況が悪い場合には繁殖結果に対し天然林面積が負に,人工林面積が正に作用する傾向を示した.繁殖結果に影響する要因は前年のブナの結実状況によって異なっており,これはクマタカが採食環境と主な食物とする種の両方かまたはどちらかをブナの種子の豊凶に応じて変化させていることを示唆している.
著者
出口 智広 広居 忠量 吉安 京子 尾崎 清明 佐藤 文男 茂田 良光 米田 重玄 仲村 昇 富田 直樹 千田 万里子
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.39-51, 2015
被引用文献数
3

生態系サービスの持続的利用を考える上で,生物がどのようなサービスを人間に提供するかだけでなく,このサービスを提供する生物が環境変化によってどのような影響を受けているかの双方の理解が不可欠である.本研究では,東南アジアから繁殖のために日本に渡ってくる夏鳥の中から,気象庁生物季節観測(1953~2008年)および標識調査(1961~1971年,1982~2011年)で情報が多く得られているツバメ,カッコウ,オオヨシキリ,コムクドリを選び,成鳥および巣内雛の出現時期の長期変化,両時期と前冬および当春の気温との関係,および植物,昆虫の春期初認日との関係について調べた.その結果,ツバメ,オオヨシキリ,コムクドリの成鳥および巣内雛は,出現時期が早期化する傾向が見られたが,カッコウだけは出現時期が近年晩期化する傾向が見られた.ツバメ,オオヨシキリの成鳥および巣内雛の出現時期は,気温が高い年ほど早期化する傾向が見られたが,カッコウの出現時期は気温が高い年ほど晩期化する傾向が見られた.これらの長期変化の速度は,一部を除いて,欧米の先行研究の結果からの大きな逸脱は見られなかった.また,これら鳥類と植物および昆虫の出現時期とのずれは一定で推移しているとは言えなかったが,早期化あるいは晩期化する鳥類を隔てる要因や,フェノロジカルミスマッチをもたらす要因について明らかにすることはできなかった.今後フェノロジカルミスマッチに注目した研究を進める際には地域差を考慮した解析が必要である.
著者
新妻 靖章 高橋 晃周 黒木 麻希 綿貫 豊
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.145-150,165, 1999-10-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
21
被引用文献数
14 14

野外調査において対象としている鳥種の性を判別することは重要である.しかし,ウミスズメ類は明らかな性的二型を外部形態に,またどちらかの性のみによる繁殖ディスプレイを示さないため,外見から性を判別することは難しい.北海道北西部,日本海に浮かぶ天売島に繁殖するウトウ,73羽(雄34羽雌39羽)の外部形態を計測した後,内部生殖器によって性を判別した.嘴高,頭長とフショ長において,雄の方が有意に大きいという性的二型が認められたため,増加ステップワイズによる判別分析を試みた.その結果,以下の式が得られた.D=114.22-3.25BD-0.64HL(F2.70=71.96,p<0.001,BD:嘴高,HL:頭長)判別式が,D<0のとき雄,D>0のとき雌とウトウは性別され,雄,雌の判別率はそれぞれ91.2%と100%であった.しかし,外部形態は同一種であっても繁殖地間で異なることが知られているので,天売島以外で繁殖する個体にこの判別式を適用するには注意する必要がある.外部形態から性を判別することの利点は,野外調査において,その場で性を判別し実験操作を可能とするところである.
著者
井関 直政 長谷川 淳 羽山 伸一 益永 茂樹
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.37-55, 2002 (Released:2007-09-28)
参考文献数
66
被引用文献数
4 4

化学物質による野生鳥類の研究史についてわが国の取り組みを紹介した.ダイオキシン類の汚染が大きな注目を浴びた近年,それらの問題に向けた対策や技術は大きな社会現象にもなった.わが国における化学物質による野生動物への影響に関する研究は,未だ少ないのが現状である.著者らは,魚食性鳥類であるカワウに着目し,ダイオキシン類の体内残留レベルを明らかにすると共に,既報の日本産鳥類のデータと比較した.その結果,カワウは最も高濃度に蓄積する鳥種であった.またPCDD/Fs の残留パターンは, 2,3,7,8-置換体PCDD/Fsが優占し,WHO-TEF (birds) を用いた毒性値への寄与には,1,2,3,7,8-PeCDDや2,3,4,7,8-PeCDF,CB126が大きな寄与を示した.肝臓におけるこれらのコンジェナーは,筋肉や卵よりも特異に蓄積していた.カワウにおけるダイオキシン類の半減期を算出し,環境濃度から卵への濃度を予測した結果,孵化率への影響は1970 年代をピークに減少傾向であることが推察された.現在のダイオキシン類の曝露による未孵化率は27%と見積もられ,個体群の減少には影響しないことが結論づけられた.しかしながら,別のエンドポイントや免疫などの調査の必要性が考えられ,これらを遂行するための非捕殺的モニタリング手法など,カワウ個体群をリスク管理するための新たな取り組みが期待された.
著者
徐 章拓 竹田 努 青山 真人 杉田 昭栄
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.289-296, 2014 (Released:2015-04-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

ハシブトガラスCorvus macrorhynchos とハシボソガラスC. coroneの2種類のカラスを用いて,腺胃および筋胃の組織形態を中心に比較形態学的検討を行った.ハシブトガラスの腺胃内表面の面積はハシボソガラスのそれより大きかった.腺胃壁の厚さについて,種差はなかったが,全体に占める腺胃腺層の厚さの割合(相対値)はハシブトガラスの方が大きく,一方,筋層の相対値はハシボソガラスの方が大きかった.ハシボソガラスの筋胃壁はハシブトガラスのそれより厚かった.さらに,ハシボソガラスの筋胃は筋層の厚さの相対値がハシブトガラスより大きかった.両種は共に雑食であるが,胃の形態・組織学的特徴に見られた相違点は,両種の食性の相違を反映しているように思われる.
著者
吉田 保志子 百瀬 浩 山口 恭弘
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.56-66, 2006 (Released:2007-07-06)
参考文献数
32
被引用文献数
2 2

茨城県南部の農村地域において, 繁殖に成功した場合の平均巣立ち雛数はハシボソガラスで2.37羽, ハシブトガラスで2.62羽であった. 繁殖成否不明のつがいを除外して算出した, 繁殖に成功したつがいの割合はハシボソガラスで76%, ハシブトガラスで87%であった. 両種とも季節が遅いほど1巣あたりの巣立ち雛数が少なかった. 巣周辺の植生・土地利用および他のつがいの存在が巣立ち雛数に及ぼす影響を一般化線型モデルによって解析したところ, ハシボソガラスでは隣のハシブトガラス巣との巣間距離が長く, 巣周辺の採餌環境の面積割合が高く, 隣のハシボソガラス巣との巣間距離が短い場合に巣立ち雛数が多かった. 一方ハシブトガラスでは, 今回の解析からは巣立ち雛数を説明する有効なモデルは構築できなかった. 異種間の平均巣間距離361mは, ハシボソガラス間の410mとハシブトガラス間の451mのいずれと比べても短かった. これはハシブトガラスでは隣接する場所に営巣するハシボソガラスの存在が繁殖に大きな影響とならず, 繁殖開始時期が遅いために, 既に営巣しているハシボソガラスの位置に構わずに巣を作ることが理由である可能性がある.
著者
安藤 義範
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.29-38, 1993-05-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

1990年に島根県松江市のコロニーにおいて,サギ類6種の営巣場所選択について調査した.コロニーは低い丘の傾斜地にあり,その植生はスギ,クリ,アカマツの3樹種が優占していた.調査区内の営巣数はゴイサギが半数を占め,ダイサギ,アオサギの営巣数は非常に少なかった.ダイサギ,アオサギは調査区東側に集中しており,主にアカマツの高木の樹頂部を営巣場所として選択していた. ゴイサギ,コサギ,チュウサギ,アマサギはダイサギ,アオサギと比べて,多くの樹種を選択した. コサギ,チュウサギ,アマサギは調査区西側に集中しており,主に亜高木を利用していたが,コサギは樹冠内部を,チュウサギ,アマサギは樹頂部付近を選択する傾向がみられた.ゴイサギは調査区全体に広く分布しており,高木の樹頂部付近に多く営巣していた.サブプロット毎の営巣数を用いて, Spearmanの順位相関係数を算出すると,ダイサギ,アオサギの2種間,アマサギ,コサギ,チュウサギの3種間で生の相関がみられた.どの種間にも負の相関はみられなかった.
著者
高木 昌興
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.61-81, 1999-05-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
75

野生鳥獣の生息地の減少や分断化は個体の移動分散を妨げ,近親交配が起きる確率を高くする.小さな個体群では遺伝的浮動が強く働き,配偶相手が近縁である可能性が必然的に高くなる.個体数が激減し,近親交配によって地域的な個体群の絶滅が加速されると危惧される一方で,近親交配の回避が困難と思われる少数個体から個体数が回復した個体群,また近年になって確立した大洋島の個体群が存在する.実際,近親交配が繁殖能力や生存に関係する代謝能力などの形質値の平均を低下させることは実験動物や家畜の研究から古くから指摘されている.野外鳥類でも個体識別した個体群を用いて,長期的に家系が明らかされ,近親交配が検出されてきた.その結果,野外鳥類の近親交配は孵化率を低下させることがわかった.また,DNAを用いた研究では近親交配の指標として利用することができるヘテロ接合度と繁殖や生存に関係する変数との間に負の相関関係が認められている.しかし,近交弱勢を伴わない場合や近親交配によってできた子供が高い生産性を持つ場合があることもわかった.さらに,個体群のおかれている地理的状況や人口統計学的要因によっては,近親交配を回避するよりも近親交配を選択した方が適応的な場合もあり得ることが示唆された.今後は,人為的に個体群を創設するか,定着の歴史が異なる同種個体群を見つけだし,人口統計学的データ,個体,および個体群の両方のレベルで対立遺伝子数やヘテロ接合度などの遺伝的構造に関する変数,さらに繁殖成績に関する変数をモニターすることが必要である.そして,それらの関係を詳細に解析することで,近親交配が個体群の遺伝的構造や生活史形質に与える影響を明らかにできるであろう.
著者
堀田 昌伸 江崎 保男
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.145-157, 2001-08-31 (Released:2007-09-28)
参考文献数
48
被引用文献数
3 2

樹洞営巣性鳥類の樹洞をめぐる種内•種間の相互関係について,自然樹洞の研究を中心にレビューした.樹洞営巣性鳥類の研究では巣箱が積極的に使われてきた.巣箱を利用することには,巣箱の中を容易に観察できるために繁殖成功を正確に測ることができる点や巣箱とその中身の追加•除去などにより操作実験が可能となる点など幾つかの利点がある.しかし,繁殖密度や種構成などが容易に変化してしまうなど不利な点もある.van Balen et al. (1982)以降,自然樹洞での樹洞営巣性鳥類に関する研究が少なからず行われるようになってきた.そこで,自然樹洞に関する研究について,利用可能な樹洞数と樹洞営巣性鳥類の占有率,頻繁な樹洞の再利用,営巣場所選択における競争と捕食の重要性を概説した.最後に,森林管理や保全の観点から興味深い "Nest Webs" の考え方について簡単に紹介した.
著者
堀江 明香
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.197-233, 2014 (Released:2015-04-28)
参考文献数
351
被引用文献数
3

鳥類は生活史進化の研究において最も古い研究対象であるが,今なおその進化機構の解明には議論が続いている.Ricklefs(2000a)は生活史進化の研究史を2つに分けた.第1期はLackを初めとする鳥類学者が生活史を自然選択の枠組みで捉え,その進化について議論を開始した時期,第2期は生活史理論が成熟してその進化機構を実証しようと研究が進められてきた時期である.この第2期の流れは現在も続いているが,2000年前後を境に生活史進化の分野には新たな視点が加わり,研究は次のステージに入ったと考えられる.つまり,一腹卵数以外の生活史形質への研究拡大,餌資源の制約や捕食以外の新たな選択圧の探索,そして生活史を規定する内的機構の解明といった視点である.これらの研究によって,生活史進化を複合的・総合的に説明する土台が築かれつつある.本稿では,このような研究の転換から10-15年経った現時点において,新旧の選択圧が生活史に与える影響はどの程度検証されているか整理した.それぞれの選択圧についての検討には,個体や個体群内での影響を評価した可塑的なものと,種間比較や個体群間比較などから進化的な影響を推察したものがあったが,後者については検証が不十分なものが多かった.これらの問題点を含めて鳥類における生活史進化の現状と課題を議論し,日本における生活史研究の方向性について述べる.