著者
武田 恵世
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.135-142, 2013 (Released:2013-11-21)
参考文献数
37
被引用文献数
1

風力発電機は現在世界的に鳥類への影響が問題になっており,影響が大きいという報告から,小さいという報告まである.日本での詳しい報告はまだない.そこで本研究では,風力発電機の野鳥の繁殖への影響を,51基を有する日本有数の大規模風力発電所のある三重県中部の青山高原(布引山地)において調査した.風力発電機から200 m以内の,建設時に改変を受けていない森林に調査区を設定し,青山高原内で風力発電機から可能な限り離れ,標高,植生がほぼ同じ森林に対照区を設定し,鳥類の繁殖期のテリトリー密度と種数密度をテリトリーマッピング法で調査した.調査は2007年5月下旬~6月下旬の午前中に行った.風力発電所近くの広葉樹林では,テリトリー密度で対照区(5.4±0.95テリトリー/ha)にくらべ約1/4(1.3±0.69テリトリー/ha)に有意に減少し、種数密度で対照区(3.1±0.73種/ha)にくらべ約1/3(1.2±0.45種/ha)に減少していた.また,風力発電所近くのヒノキ植林地ではテリトリー密度,種数密度共に約1/4に有意に減少していた.また風力発電所に隣接する布引の森自然保護区では風力発電機建設前(1994年)に比べ,建設から4年後の(2007年)には種数で21種から9種へと約43%に減少していた.以上により風力発電機の鳥類の繁殖期の生息密度への影響は大きいことが示唆され,その建設,立地には慎重な検討が必要であると考えられる.
著者
江口 和洋 天野 一葉
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.3-10, 2008-05-01 (Released:2008-05-21)
参考文献数
32
被引用文献数
5 4

高密度のソウシチョウの巣の存在にともなうウグイスの巣への捕食の増大という間接効果を検証するために,えびの高原(鹿児島県,宮崎県)において,ソウシチョウの巣の除去実験を行った.調査は2002年と2003年の繁殖期に,ソウシチョウの巣を繰り返し除去し,除去を行わない対照区との間で,ウグイスの巣に依存する期間の生存確率を比較した.除去の結果,2002年は巣密度の低くなった除去区では対照区より全期間生存確率は有意に高かった.2003年はウグイスの営巣数が大きく減少したため,ソウシチョウの巣を除去したにもかかわらず両地区の巣密度差が小さく,生存確率に有意差が生じなかった.本研究の結果はソウシチョウの高密度な巣の存在がウグイスの偶発的な捕食の増加を引き起こし,ウグイスの低い繁殖成功をもたらしたことを示唆している.
著者
先崎 理之
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.91-94, 2019-04-23 (Released:2019-05-14)
参考文献数
9
著者
青山 怜史 須藤 翼 柿崎 洸佑 三上 修
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.11-18, 2017 (Released:2017-05-13)
参考文献数
27
被引用文献数
2

ハシボソガラスCorvus coroneがクルミ(オニグルミJuglans mandshuricaの種子)を高い位置から投下して割って食べていることはよく知られている.ハシボソガラスが効率よくクルミを割るためには,どのくらいの重さのクルミをどれくらいの高さから何回落とすかが重要となる.そこで本研究では,ハシボソガラスのクルミ割り行動の基礎情報としてクルミの性質について理解することを目的とし,以下の3つを明らかにする実験を行った.(1)クルミはどの程度の高さから何回落とすことで割れるのか.(2)クルミの重さによって割れやすさに違いはあるのか.(3)クルミの外見の大きさ(殻の直径)およびクルミ(殻+子葉)の重さと,内部の子葉の重さに関係はあるのか.さらに簡易的に(4)ハシボソガラスは,重いクルミを選択するのかについても実験を行った.その結果,(1)落とす高さが高いほどクルミは割れやすい,(2)重さによって割れる確率に違いは見られないが,重いクルミは殻が欠けて割れ,軽いクルミは縫合線で割れる傾向がある,(3)重いあるいは大きなクルミほど可食部も重い,(4)ハシボソガラスは重いあるいは大きなクルミを選択的に持っていく,ことが明らかになった.
著者
嶋田 哲郎 溝田 智俊
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.52-62, 2011 (Released:2011-05-28)
参考文献数
60
被引用文献数
3 2

マガン個体数が回復・増加した1975年から2005年の30年間における農産業の変化とそれにともなうマガンの食物資源量の変化および農作物被害の発生とについて,日本最大の越冬地である宮城県北部における経緯について論じた.1975~2005年にかけての減反政策にともない,水田面積は30%減少した.その間,圃場整備率は30%から61%に上昇し,それにともないバインダーからより落ち籾量の多いコンバインへの置換が進んだ.落ち籾現存量は,1975年から1995年にかけて2倍に増加したが,1995年以降は頭打ちとなった.1990年代後半になると,転作作物,中でも大豆の作付面積が増加した.落ち籾現存量をあわせた食物資源量全体をみると,落ち籾現存量は1995年以降頭打ちになったものの,その分を補填する形で転作作物現存量の増加にともなって食物資源量全体は増加した.こうした農地の利用形態の変化とマガンの個体数増加は,マガンが利用する採食地分布にも変化をひきおこした.2000年以降になると麦類や野菜類などへの農作物被害が顕在化した.被害はマガン個体数増加にともない落ち籾や落ち大豆などの収穫残滓を早期に食べ尽くすようになり,選択の余地のない必然的な状態で生じていた.しかしながら,捕食圧の低い場合には農作物の生産性を高める例もあり,適切な個体数管理によって農業に利益をもたらす可能性があることを示唆している.本稿は人間社会が本種に与える影響の強さを明らかにしたものであり,人間社会をモニタリングすることが本種の保全管理の上で必要不可欠であることが示された.
著者
山田 清
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.61-75, 1994-03-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
17
被引用文献数
6 10

1990•1991の両年に新潟県中之島町のハス田と同加茂市の小河川でコサギなわばり性と採食行動について調査した.1)ハス田では移動性の低いドジョウが最も重要な餌だった(湿重量比で80.8%).2)河川では移動性の低いアメリカザリガニ•ドジョウ(40.0%),移動性の高い遊泳魚(59.5%)とも多く捕食されていて餌の構成が多様だった.3)採食方法は餌の発見方法(待ち伏せ法と歩行法)と捕獲のテクニック(追跡型と非追跡型)の2段階に分け,その組合せによって分類することができた.4)餌と用いられる採食方法は明確に対応していた.待ち伏せ法は,主に大型の遊泳魚と対応していた.歩行法のうち追跡型の方法には中型の遊泳魚が,非追跡型の方法には移動性の低いザリガニ•ドジョウまたは小型の魚類がそれぞれ対応していた.5)ハス田では,境界が明瞭な採食なわばりが特定の場所で長期に渡って維持されていた.これをハス田タイプのなわばりと呼んだ.6)河川では,待ち伏せ法で採食する個体が自分の周囲のごく狭い範囲から他個体を排除した.河川でのなわばりの範囲は採食個体の移動にともなって移動し,これを河川タイプのなわばりと呼んだ.7)2つの環境で見られた採食なわばりについて餌および採食環境と関連させて考察した.
著者
山口 恭弘 吉田 保志子 斎藤 昌幸 佐伯 緑
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.124-129, 2012 (Released:2012-04-27)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

ヒマワリは近年,バイオマスエネルギーを得るための油糧作物として注目されており,今後栽培面積の増加が予想される.しかし,栽培において大きな問題となるのが鳥害であると考えられる.つくば市の中央農業総合研究センターのヒマワリ圃場4ヶ所,計100aにおいて,キジバトStreptopelia orientalis,カワラヒワCarduelis sinica,スズメPasser montanusがヒマワリを採食しているのを確認した.27回の調査で延べ飛来個体数はそれぞれ,70羽,5,277羽,318羽,調査日あたりの出現頻度はそれぞれ,44.4%,100%,37.0%で,延べ飛来個体数,出現頻度ともカワラヒワが最も多く,最大300羽の群れで採食していた.ヒマワリの食害は花弁がまだ残っている時期から収穫時まで続き,食害を調査した2つの圃場(50aと30a)において,食害されたヒマワリの割合はそれぞれ30.8%と72.1%となり,播種日が早かった圃場で食害が大きかった.ヒマワリを栽培する際には鳥害対策を行わないと収量の大幅な低下につながる可能性が示唆された.

2 0 0 0 書評

著者
佐藤 重穂
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.271, 2018-10-25 (Released:2018-11-14)
著者
風間 健太郎
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.3-23, 2015 (Released:2015-04-28)
参考文献数
169
被引用文献数
1 5

鳥類が担う多様な生態系機能の大部分は,生態系サービスとして人間に利益をもたらす.そのうち供給サービスや文化サービスは古くから人間に認知されてきたが,基盤サービスや調整サービスの認知度は低く,その価値評価も不十分である.鳥類は捕食,移動,および排泄を通じて,種子散布・花粉媒介,餌生物の個体数抑制,死体の分解・除去,および栄養塩類の循環などの多様な生態系機能を担う.これらは,有用植物の生産性向上,有害生物の防除,生息環境の創成・維持などの利益を人間にもたらす.近年ではこれら生態系サービスの価値を経済的に評価する試みがなされているが,その実例は少ない.主に農耕地生態系において古くから鳥類の生態系サービスを享受してきた日本においては,その理解と価値評価がとくに必要とされる.
著者
マックヴァーター ダグラスW.
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.83-84, 1988

著者は,1980年から1986年の間にフィリピンに計6回40日以上滞在し,各地で鳥類の観察をした.以下の4種の記録は分布上の新知見であろうと考えられる:アオアシシギ <i>Tringa nebularia</i> (パラワン島新記録),イワミセキレイ <i>Dendronanthus indicus</i> (ルソン島新記録),ハシブトオオヨシキリ <i>Acrocephalus aedon</i> (フィリピン新記録),サンコウチョウ <i>Terpsiphone atrocaudata</i> (ルソン島新記録).
著者
濱尾 章二 松原 始
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.85-89, 2001

京都府の木津川河川敷にある砂州で,2000年5月3-5日にウグイス <i>Cettia diphone</i> の調査を行った.ノイバラのやぶが発達した部分で4羽の巣立ち雛が発見された.これらの雛は上面がオリーブ褐色,下面がバフ黄色で,頭部に長い綿羽をもち,体には斑点がなく,口ひげもなかった.また,捕獲により性を判定し、標識して個体識別した雌雄のウグイス成鳥が餌を運んでいた.これらのことから,4羽はウグイスの雛であると判定した.雛の測定値や30-50cmしか飛ぶことができないことから,これらの雛は近隣で巣立ったものと考えられた.調査地では,他にも抱卵斑の発達した雌が3羽捕獲された.しかし,巣は発見できなかった.ウグイスは一般に山地のやぶで繁殖する.調査地は低地の砂州であるが,河川管理による洪水の減少によって1970年代後半から植生が発達し始め,現在はノイバラやヤナギ類,サワグルミが侵入している.河川管理による河川敷の林地化が,ウグイスの繁殖場所をつくり出したものと考えられる.この研究は河川生態学術研究会木津川グループ(代表:山岸哲博士)の調査研究の一環として行われた.
著者
小城 春雄 佐藤 理夫
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.101-102, 1991-05-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
6

Observations of birds on Oshima Ooshima Island, 55 km west of Era, southern Hokkaido, was done during the period from 8 to 10 October 1990. A total of 1, 235 birds consisting of 36 species were observed. The most abundant bird was the Siskin Carduelis spinus (n=435, 35.2%). Other main species in order of decreasing were: Great Tits Parus major (n=130, 14.7%), Oriental Greenfinches Carduelis sinica (n=106, 8.6%), Rustic Buntings Emberiza rustica (n=34, 2.7%), Jungle Crows Corvus macrorhynchos (n=35, 2.8%), Temminck's Cormoramts Phalacrocorax capillatus (n=29, 2.3%), Bullfinches Pyrrhula pyrrhula (n=20, 1.6%), and Peregrine Falcons Falco peregrinus (n=18, 1.5%). As the rare bird species on this island, 16 Mandarin Ducks Aix galericulata, one Tengmalm's Owl Aegolius funereus, and one Pine Bunting Emberiza leucocephala were observed.
著者
藤巻 裕蔵
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.74-86, 2002 (Released:2007-09-28)
参考文献数
47
被引用文献数
1 1

The Hazel Grouse (Bonasa bonasia) is a small forest grouse occurring in temperate and boreal forests from Scandinavia to the Far East. The species is assumed to have reached Hokkaido, northern Japan, via Sakhalin Island, during the last ice age about 40, 000 years ago. The subspecies occurring in Hokkaido is now recognisably distinct as B. b. vicinitas. Pairs are formed from late March to early May. During this period males whistle actively. Six to ten eggs are laid in early or mid-May and hatch in early June after incubation of 23 to 25 days. Young attain adult size by late August and have adult plumage by mid-September. The main diet consists of the leaves and seeds of herbaceous plants and trees and arthropods during late spring and summer, the buds of broad-leaved trees and vine fruits during autumn and winter, and buds and catkins in early spring. The Hazel Grouse has two large caeca supporting effective digestion of the plant fibers comprising their main diet. Hazel Grouse prefer broad-leaved and mixed forests with relatively dense undergrowth, and they avoid larch plantations in Hokkaido. Recently, the Hazel Grouse population has decreased in Hokkaido, the main cause of which is considered to be predation by the red fox (Vulpes vulpes), which increased in numbers from the early 1970s until the 1990s. Brood sizes were smaller during low population periods than during normal population periods. In order to maintain, or increase, Hazel Grouse population levels, habitat management and predator control is considered necessary.
著者
平井 克亥 柳川 久
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.142-147, 2012 (Released:2012-04-27)
参考文献数
23
被引用文献数
1

北海道十勝平野の農耕地景観に営巣するハイタカAccipiter nisusの営巣木および営巣林分の特徴を調べた.調査は2007年~2010年の間に確認した31の営巣木および営巣林分(営巣木を中心とした0.1 haプロット)と営巣に利用されなかった37の林分(非営巣林分)を比較した.その結果,ハイタカが営巣木および営巣林分の樹種にもっとも多く利用したのはカラマツLarix kaempferiであった.しかし,営巣林分と非営巣林分との比較では,常緑針葉樹への選好性が示された.営巣した林分と非営巣林分の植生構造の比較の結果,ハイタカの林分は胸高直径および樹高ともにより小さく,低い下枝高,胸高断面積および立木密度は高い値を示し,ハイタカは構造的に林内空間の閉じた若齢林を選択していた.この常緑樹の若齢林へ選好性は,同所的に生息する捕食者のオオタカA. gentilisによる捕食リスクを低減するための選択の可能性,または採餌環境として適しているためかもしれない.
著者
正富 宏之
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.69-71, 1999-01-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
11

マナヅル Grus vipio は,アムール川流域の中国とロシアで繁殖し,長江流域や朝鮮半島のほか,九州の出水でナベヅル G.monacha などと共に越冬する.江戸時代までマナヅルは日本各地で見られたが,昨今は出水を除き散発的に現れるに過ぎない.日本でこれまで本種の営巣確認例はなかったが,1985年に北海道中央部の長沼町舞鶴地区の水田あぜ道で産卵したとの情報を,1997年11月になって入手した.その後1998年6月までに現地調査を数回行い,繁殖は成功しなかったものの1番いが2卵を産み,1羽(性別不明)が6月28日に死亡(おそらく農薬の影響)したのを確認した.巣は極めて粗雑で,イネ科草本(Poa spp.)の叢上にわずかな枯れ草を置いた程度とのことであった.今回の営巣地域はかつて広大な湿地で,タンチョウ G.japonesis も繁殖していたが,今は干拓され営巣適地はない.現在道東で繁殖しているタンチョウも,人の活動領域近くで貧弱な巣作りと産卵を行うことがある.本例も,マナヅル本来の繁殖環境と異なるところでのやや異常な営巣ながら,日本における本種の営巣初確認例である.
著者
和田 岳
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.41-51,77, 1994-03-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
17

京都大学構内の6.1haの調査地において,キジバト(Streptopelia ortentalis)の繁殖に関する観察を行なった.キジバトは京都では一年中観察することができ,京都大学構内でも樹木に巣をかけて繁殖している.鳥類において,繁殖に古巣を利用する例は多く知られている.そのうち樹洞で繁殖を行なう種や猛禽類のなかには,新しく巣を造るという選択ができずに古巣を利用していると考えられるものもある.一方で新しく巣を造ることができ,また事実新しく巣を造ることがあるにも関わらず,古巣を利用する種もある.このような種の古巣利用に影響を与える要因としては,繁殖期の初期には古巣利用の頻度が高いこと,また存在している古巣が多いほど古巣利用の頻度が高いことが指摘されている.キジバトは,新しく巣を造って繁殖するだけでなく,頻繁に古巣を利用して繁殖する.また古巣利用には,過去に自分が利用した巣を再び利用する場合と,他個体によって造られ自分は一度も利用したことのない古巣を利用する場合を区別することができる.そこで本稿では,以前に利用したことがある古巣と一度も利用したことのない古巣とを区別して,どのような要因が古巣利用に影響を与えているかについて分析を行なった.すべての繁殖のうち,47.4%で新しい巣を利用し,14.1%で利用経験のある古巣を,10.9%で利用経験のない古巣をそれぞれ利用した(n=192).新しい巣と古巣,利用経験のある古巣と利用経験のない古巣,いずれの間でも繁殖結果に有意な違いは認められなかった.京都ではキジバトは一年中繁殖を行ない,繁殖のピークは8月から10月であり,12月から3月の間は繁殖はほとんど記録されなかった.新しい巣を利用した繁殖と古巣を利用した繁殖の割合を比較すると,4月から6月には新しい巣が利用される割合が高く,古巣の利用される割合は10月から3月に高かった.一つの巣が繁殖に利用される回数は平均1.56回であり,最大では7回利用された巣もあった(n=123).巣が利用される回数に影響を与える要因について検討すると,巣が長い間存在しているほど,また巣が樹の中で低い位置にあるほど,利用される回数が多いという結果が得られた.キジバトの古巣利用に関わる要因を,周囲に存在する古巣の数や直前の繁殖経験などを考慮して分析した結果,周囲に存在する古巣の数の有意な影響は認められなかった.その一方で,直前の繁殖経験は古巣の利用に有意の影響を与えるという結果が得られた.すなわち,キジバトは新しい巣で繁殖したあと古巣で,古巣で繁殖したあと新しい巣で繁殖する傾向があった,また前回の巣場所から離れた場所で繁殖する場合,利用経験のない古巣を選ぶ傾向があった.前回の巣場所から次の巣場所までの距離は,繁殖に失敗したあとの方が,成功したあとよりも大きくなる傾向があった.しかし前回の巣場所から次の巣場所までの距離と,次の繁殖の結果との間に特に関係は認められなかった.2回以上利用された巣において,その利用者がかわったのは37.7%であり,34.8%の場合において利用者はかわらず,残りの例では判断を下すことができなかった(n=69).あるつがいが以前に利用したことのある巣を再び利用する場合,27例のうち26例において,その巣の直前の利用者もまた同じつがいであった(すなわち巣の側から考えると,利用者はかわらなかった).巣の利用者がかわった場合の直前の繁殖成効率は,かわらなかった場合に比べて有意に低かった.しかし利用者がかわった直後の繁殖結果は,かわらなかった場合と比べても有意な差は認められなかった.古巣が利用される割合に季節的な傾向が認められたが,キジバトは一年を通じて繁殖し繁殖期がはっきりしないため,繁殖期の初期に古巣利用の頻度が高いかどうかを充分に検討することはできなかった,周囲に存在している古巣の数はキジバトにおいては古巣利用に影響を与えておらず,単なる古巣の存在が古巣利用を促しているわけではないと考えられる.キジバトの新しく巣を造るか古巣を利用するかという選択に,その前の繁殖経験が影響を与えることがいくつかの分析の結果から示された.また古巣を利用する時,利用経験のある古巣を再び利用するか,それとも利用経験のない古巣を利用するかという選択にも繁殖経験が影響を与えていた.このことは,キジバトが古巣を選ぶ際にこの二種類の古巣を区別していることを示唆していると考えられる.
著者
岡 奈理子 土屋 光太郎 河野 博 菊池 知彦 丸山 隆
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 = Japanese journal of ornithology (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.52-56, 2013-04-23

伊豆諸島鳥島(北緯30°29′02″東経140°18′11″)で,2000年5月中旬,巣立ち期に近いクロアシアホウドリ<i>Phoebastria nigripes</i>(Audubon 1849)のヒナが吐出した胃内容物を採取し同定した.4羽すべてが中深層性の遊泳動物を吐出した.このうちイカ類はアカイカ科トビイカ属トビイカ<i>Sthenoteuthis oualaniensis</i>,ダイオウイカ科ダイオウイカ属,サメハダホオズキイカ科オオホオズキイカ属,ユウレイイカ科ユウレイイカ属,魚類はクロボウズギス科,エビ類はヒオドシエビ科アタマエビ属アタマエビ<i>Notostomus japonicus</i>の成体であった.クロボウズギス科はクロアシアホウドリの胃内容物から初めて出現した.クロアシアホウドリの親鳥自らがこれらの中深層性の遊泳動物を自力で捕獲したとみるより,人間活動により投棄されたり,餌動物自らが潜水遊泳に長けた高次捕食者の採食活動や他の理由で死んで浮上したものを,採食した可能性が高いと考えられた.クロアシアホウドリが本来は採食機会がない中深層性の遊泳動物を採食していたことは,彼らが海洋のスカベンジャー,もしくは人間活動や他の高次捕食者の採食活動などに依存した採食ニッチを持つことを示す.