著者
石川 俊浩 中村 登流
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.159-171, 1988-08-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
9
被引用文献数
2

1985年の春と秋の渡り期に,新潟県上越地方のいわゆる頸城平野に渡来したシギ•チドリ類の採食行動を調査した.採食行動については歩く歩数とつつく回数を記録し,これを種別,環擁別に比較した.1)シギ科はほとんど停止することなく歩きながら採食していくが,チドリ科はつい球み回数と同じくらい停止をしている.2)シギ科,.チ.ドリ科ともに科内では体の小さいもの翠ど単位時間あたり高頻度についぼんでいる傾向がみられた.3)チドリ科は春,秋ともにシギ科よりついばみ回数が少ない傾向があり,ついばみ回数種間差より歩数の種間差が大きかった.4)一方,シギ科は春,秋とおして一般にチドリ科よりもついばみ回数が多く,かつその変異は非常に大きかった.5) シギ科のハマシギとキリアイは,水の中に入るとつつき採食からさぐり採食になり,その分嘱の使用時間が増えるため歩数が減る.6)以上より,シギ科の生態的分離は嘱の使い方に重点がおかれているが,チドリ科のそれは歩幅を変えることに重点がおかれていると考えられる.
著者
松井 晋 Audrey STERNALSKI Christelle ADAM-GUILLERMIN 笠原 里恵 五十嵐 悟 横田 清美 渡辺 守 上田 恵介
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.169-174, 2015 (Released:2015-12-13)
参考文献数
21
被引用文献数
2

福島第一原子力発電所事故から1年後の2012年に東京,長野,茨城,福島を含む地上から1 mの空間線量率が0.11-21.4(μGy/h)の地点で回収したカラ類(シジュウカラParus minorもしくはヤマガラPoecile varius)の主にコケ類を用いて作られた巣材の放射性セシウム[Cs-134+Cs-137]濃度は6.6-6,128.9(Bq/g dry weight, n=14)となり,空間線量率が高い場所で採集した巣材ほど,巣材の放射性セシウム濃度が高くなる傾向があった.これらの結果は,地上1 mの空間線量率は相対的な巣材の汚染レベルの指標になりうることを示唆し,空間線量率の高い地域ほど巣材に含まれる放射性物質から繁殖期に卵,雛,親が近接的に受ける外部被曝線量率が増加すると考えられた.
著者
内田 博 高柳 茂 鈴木 伸 渡辺 孝雄 石松 康幸 田中 功 青山 信 中村 博文 納見 正明 中嶋 英明 桜井 正純
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.131-140, 2007
被引用文献数
3

1994年から2003年にかけて埼玉県中央部の丘陵地帯で,20×20 km,400 km<sup>2</sup>の調査区を設定して,オオタカの生息密度,営巣環境,繁殖成績,繁殖特性などを調査した.調査地での生息密度は1996年から2003年にかけて100 km<sup>2</sup>あたり平均12.8から14.0ペアであった.調査地内の隣接最短巣間距離は平均で1.74±0.59 km(±SD,範囲0.79−3.05 km, <i>N</i>=37)であった.営巣樹木は214例のうち,スギが54%,アカマツ30%,モミ13%と常緑針葉樹が97%を占めた.巣の高さは平均14 m,営巣木の69%の高さにあり,胸高直径は平均41 cmであった.巣は林縁から平均68 m,人家から155 m,道路から100 mの距離にあり,人の生活圏に接近していた.繁殖成功率は平均72%で,年により53~87%まで変動があった.巣立った雛は,産卵以降の全巣を対象にした場合平均1.49羽で,繁殖に成功した巣だけの場合,平均2.06羽であった.巣は前年繁殖に使用して,翌年も再使用したものが61%であった.また,9年間も同じ巣を使っているペアもいた.巣場所の再使用率は繁殖に成功した場合65%で,失敗すると50%だった.繁殖に失敗した67例の理由のほとんどは不明(61%)であったが,判明した原因は,密猟3例,人為的妨害4例,巣の落下4例,カラスなどの捕食5例,卵が孵化しなかったもの4例,枝が折れて巣を覆った1例,片親が死亡4例,近くで工事が行われたもの1例などであった.また,繁殖失敗理由が人為的か,自然由来のものであるかで,翌年の巣が移動した距離には有意差があり,人為的であればより遠くへ巣場所は移動した.
著者
嶋田 哲郎 呉地 正行 鈴木 康 宮林 泰彦 樋口 広芳
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.9-15, 2013 (Released:2013-05-28)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

東日本大震災が南三陸沿岸で越冬するコクガンに与えた影響を調べるため,岩手県陸前高田市の広田湾から宮城県石巻市の北上川河口にかけて,2011-2012年の冬期に調査を行った.2011年11月下旬~12月上旬,2012年1月上旬,2月下旬の3回,コクガンの分布を調べ,3回の調査でそれぞれ291羽,380羽,403羽のコクガンが記録され,観察されたコクガンの個体数は震災前のデータと大きな違いはなかった.群れが確認された環境をみると,11月下旬~12月上旬と1月上旬では漁港で59%,海上で35-41%と同様な傾向を示した.震災前には漁港でコクガンが観察されることは稀であったが,地盤沈下した岸壁や船揚場に付着した海藻類がコクガンの食物資源となったこと,震災後の漁港への人の出入りの減少に伴いコクガンが妨害を受けずに安定的に利用できるようになったことに加え,震災前の採食場所であったワカメやカキなどの養殖筏が津波によって消失したためと考えられた.一方で,2月下旬になるとそれまでより漁港を利用したコクガンの割合は減少し,海上や砂浜を利用したコクガンの割合が増加した.ワカメやカキの養殖筏の復興,それらに付着した海藻類の生長につれてコクガンの食物資源量が増加したと考えられる.震災によってコクガンの生息環境は大きく変化したが,採食場所をシフトすることでその変化に対応していると考えられる.
著者
森 茂晃 星野 由美子 豊田 暁 田尻 浩伸
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.223-233, 2023-10-24 (Released:2023-10-31)
参考文献数
38

2020年2月に宍道湖に2万羽を超えるトモエガモAnas formosaが飛来していることが確認された.このトモエガモの集団は,朝と夕方に宍道湖を飛び立って湖外に飛行していた.飛行先を調べたところ,斐伊川中流域の丘陵林に降りていることが確認された.その丘陵林にはドングリが結実するカシ類があり,センサーカメラによってカシ類のドングリが落ちている場所で嘴を地面に向けている個体が撮影されたことからドングリを採食していたと考えられた.
著者
酒井 理佐 山田 和佳 西澤 文吾 越智 大介 新妻 靖章 綿貫 豊
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.57-66, 2023-04-25 (Released:2023-05-11)
参考文献数
45

北太平洋西部の日本列島本州沖にて2014年から2018年に混獲されたコアホウドリPhoebastria immutabilis 96個体とクロアシアホウドリP. nigripes 25個体の胃内容物を調べた.胃内にプラスチックを持っていた個体の割合はコアホウドリ(91%)の方がクロアシアホウドリ(48%)より高く,この傾向は北太平洋中央部での先行研究と同じであり,また,飲み込んでいた硬質プラスチックあるいはレジンペレット各々の重量と長さそれぞれの平均はコアホウドリ(0.073 g, 8.25 mm)の方がクロアシアホウドリ(0.031 g, 5.86 mm)より大きかった.このプラスチック負荷の種間の差が,利用海域と食性の種間差によって説明できるとする強い証拠は,本研究では得られなかった.北太平洋でのこれら2種のプラスチック負荷は,南太平洋西部で混獲された,あるいは海岸に漂着したアホウドリ科より高く,その影響が懸念される.
著者
岡ノ谷 一夫
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.79-85,100, 2000-09-10 (Released:2007-09-28)
参考文献数
25

一般に,鳥の歌にはなわばりの防衛とつがい相手の誘引の2つの機能がある.後者の機能に重点をおいて歌をつかう種においては,歌は異性間淘汰により進化してきたと考えられる.このレビューでは,複雑な歌の性淘汰が鳥の脳の構造を変化させたかどうかを検討する.複雑な歌をうたうには,それを可能にする脳のコストがあるはずである.また,複雑な歌をきいてそれにもとづきつがい相手を選択するのにも,選択に要する認知機能が脳のコストとして存在するはずである.頭蓋の容量は成熟後は変化しないから,脳のコストは端的に頭蓋内でどのくらい容量を占めるかで比較できるであろう.したがって,歌に関わる特定の機能に特化した脳部位の体積を測定した研究を検討してみよう.鳴禽類における歌制御回路は図1のとおりである.歌の実時間産出は直接制御系と呼ばれる回路(神経核 HVc,RA)で行われる.一方,迂同投射系と呼ばれる回路(神経核Area X, DLM,LMAN)は歌の学習と知覚に関連するとされている.直接制御系の神経核の体積には性的2型があり,歌行動の性的2型と対応しているが,迂回投射系ではそのような対応は見られない.Area X はメスでは全く同定できないが,LMAN はメスでもオスと同じくらいの体積をもつ.これらのデータから,迂回投射系は歌の学習と知覚に,直接制御系は歌の実時間制御に関係すると仮定されている.直接制御系:直接制御系の神経核の体積は種レベルでみれば歌の複雑さと関係するが,同一種内では関係は明白ではなく,むしろ全く関係がないことを示したデータもある.種間比較では,歌の複雑さの指標も100倍からの違いが得られるが,同一種内の比較ではせいぜい4倍程度である.おそらくこれが,種内比較で肯定的な結果が出ない理由であろう.メスの歌選択性は,歌のプレイバックに対してどのくらい交尾誘発姿勢(CSD)が誘発されるかを指標とすることが多い.カナリアでは,HVc の破壊により CSD の選択性がなくなったという報告があるが,キンカチョウでは HVc の破壊による影響はなかった.これが種差と考えられるべきかどうかは不明である.迂同投射系:歌の複雑性と迂回投射系の関係を研究した報告は少ない.キンカチョウでは,LMAN の体積と歌の複雑さが逆相関したという報告がある.また,コウウチョウではAreaXの体積と歌の誘引力が逆相関したことを示す研究がある.歌の誘引力と複雑さの関係については不明である.一方,そのような関係は全くないという報告もある.キンカチョウでは,オスのAreaXを破壊することで,オペラント条件付けにより測定された歌の識別能力が低下した.また,同様な研究で,カナリアのメスの LMAN を破壊すると歌の識別に影響があるという.ムシクイに属する種では,メスの LMAN の体積がその種のオスの歌の複雑さに関係するらしい.コウウチョウではLMANの体積とメスが選り好みする程度が相関した.その他の脳構造:伝統的に考えられている歌制御系とはまったく別の部位であるが,NCM と呼ばれる部位では新奇な歌を聴くことで遺伝子発現が見られる.この部位の神経細胞も,新奇な歌にのみ反応することがわかっている,メスのホシムクドリでは,オスの歌の長さに応じて NCM の異なる部分で遺伝子発現が見られたと報告されている.ハトでは,視床下部の神経細胞がメスの特定の鳴き声に反応する.もし鳴禽でも同様な細胞が発見されれば,歌を分析するのは何も大脳だけではないということになろう.結論:メスの歌知覚と脳構造の研究はデータそのものがほとんどない.しかし,これはたいへん重要な分野であり,今後の展開が期待される.メスの歌知覚には迂回投射系が関わっていることは間違いないであろう.オスもメスも迂回投射系の破壊により歌の弁別力が下がるという報告は一致しているが,メスはLMANが大きい方が選択性が高く,オスは LMAN が小さいほうが誘引効果の高い歌をうたう.こうした一見矛盾したデータから LMAN の働きを洞察することが可能ではないだろうか.歌の複雑さと脳構造の関係は,種間比較では検出できるが,同一種内の個体比較では検出されていない.しかし,性淘汰により歌と脳が変化したことを示すためには,同一種内のデータがぜひとも欲しいところである.問題は脳にかかるコストを定量するための解剖学の技術と,歌の複雑さをどう定義するかにある.これからの研究では,脳の体積をはかるだけではなく,神経細胞の活性の度合いも定量化するような方法が必要である.また,歌の「複雑さ」とはいえ,要素のタイプ数のみが問題にされてきたが,要素配列規則も含んで複雑さを議論する必要があろう.
著者
成末 雅恵 須川 恒
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-3, 2002 (Released:2007-09-28)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

湿地生態系の高次消費者であり,人間との関わりの深い集団繁殖性鳥類であるカワウの分布や個体数の変動は,カワウと人とのかかわりの変化や,湿地生態系の変化をもたらしている.カワウは戦前には国内に広く分布していたが,戦後減少し1970年頃には絶滅に瀕した.しかし,その後個体数は徐々に増加をはじめ,1990年代以降は急激に分布を拡大し個体数を増加させ,各地で営巣する森林への被害や内水面漁業への被害問題を引き起こしている.このような問題の現況を把握し,問題の解決に向かうために,カワウに関わる研究者が中心となって,1998年から2001年の日本鳥学会大会における4回の自由集会で,野生動物と共存していくための道を探った.

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出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.249-253, 2020-10-26 (Released:2020-11-20)
著者
松井 うみ 三上 修
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.327-333, 2019-10-25 (Released:2019-11-13)
参考文献数
14

スズメPasser montanusがサクラPrunus sp.の花を盗蜜する際,花托筒を噛み切る.その結果,花が地面に落ち花見に影響する可能性がある.そこで本研究では,花見の名所である北海道函館市五稜郭公園において,花見期間中スズメの盗蜜によってどれだけのサクラの花が落とされているのかを定量化する調査を行った.調査の結果,公園内全体の花の少なくとも0.19%,多くとも0.49%が落とされていると推定され,被害はそれほど大きいとは言えないことが明らかになった.
著者
千葉 夕佳
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.75-90, 2020-04-23 (Released:2020-05-16)
参考文献数
51
被引用文献数
2 2

小笠原諸島に生息するノスリの1亜種であるオガサワラノスリButeo buteo toyoshimaiは,極めて個体数が少なく,絶滅危惧種に指定されている.近年,オガサワラノスリは外来クマネズミRattus rattusに餌を依存している.このため,在来生物相の保全を目的とした外来ネズミ駆除は,オガサワラノスリに餌不足をもたらすかもしれない.本研究は,外来ネズミ駆除後の代替餌資源となりうる在来海鳥類を取り上げ,被食海鳥の種類,繁殖ステージ,捕食方法を明らかにすることを目的とした.父島列島の南島において,海鳥の被食痕を探索し,オガサワラノスリによる海鳥捕食行動を観察した.発見した86の食痕のうち,66がオナガミズナギドリPuffinus pacificus,16がアナドリBulweria bulweriiで,両種が全体の95.3%を占めた.オナガミズナギドリ成鳥の被食痕は4–6月,アナドリ成鳥は6,7月,アナドリ幼鳥は9,10月,オナガミズナギドリ幼鳥は9–1月に発見され,産卵から抱雛期の両種の成鳥と,ある程度成長した巣内雛が捕食されることが明らかになった.カツオドリSula leucogasterは,通常の捕食対象とは考えにくかった.オガサワラノスリは,海鳥の営巣地上を飛翔もしくは歩いて探餌し,発見したアナドリを岩陰から脚で引き出した.オガサワラノスリは,オナガミズナギドリを自身の巣から遠い場所で捕えても巣までの運搬が困難であるかもしれず,アナドリは営巣開始時期が遅いために巣内雛の餌資源になりにくいかもしれない.海鳥類がネズミ駆除後の代替餌として十分機能するには,オナガミズナギドリとアナドリの営巣地の拡大と,両種の不在を補う繁殖期の異なる小型海鳥の増殖が必要である.
著者
中村 浩志
出版者
The Ornithological Society of Japan
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-18, 1990-08-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
40
被引用文献数
44 45

文献調査および野外調査により,日本でカッコウに托卵された記録のある宿主,本州中部におけるカッコウの托卵率,および新しい宿主オナガとの托卵関係成立過程についての調査を行った.1)日本ではこれまでにカッコウの宿主は計28種記録されている.宿主の数は,本州中部が20種と最も多かった.2)本州中部の長野県では,主要宿主6種の托卵率はいずれも10%以上であった.最も高い托卵率は,新しい宿主オナガの79.6%であった.3)カッコウ宿主との托卵関係は,過去60年間に大きな変化がみられた.本州中部ではカッコウは約15年前からオナガに托卵を開始したが,托卵率は急速に高まり,現在ではオナガの繁殖分布域のほぼ全域にカッコウの托卵が広がった.逆に,今から60年前の主要宿主であったホオジロは,現在ではまれな宿主に変った.4)新しい宿主オナガへのカッコウの托卵は,最近両者が分布を拡大し,分布が重った結果開始された.カッコウの托卵は,分布が重なってすぐに開始されたのではなく,多くの地域では本格的に開始されるまでには10年から15年かかっていた.5)長野県におけるカッコウの托卵にみられる特徴と新しい宿主オナガとの托卵関係成立過程についての論議を行った.
著者
江口 和洋
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.249-265, 2014 (Released:2015-04-28)
参考文献数
79
被引用文献数
1 1

鳥類の社会形態は多様な進化を遂げており,種間の変異が非常に大きい.社会行動の個体間,個体群間,近縁種間の変異に注目した多くの研究が,変異に連関した生態的要因を明らかにして来た.現在では,多くの野外研究の蓄積と分子系統学の進展により,多岐の分類群にまたがった系統比較が可能となった.しかし,生態的要因だけでは社会形態の多様性を説明できず,その変異の基盤には生活史要因が関与していることが指摘されるようになった.そのための重要なアプローチとして,異なる分類群レベルを対象とした階層的な系統比較法が適用され,どのような生態的要因,生活史要因,環境要因が社会行動の変異と連関しているかを明らかにしつつある.本論文では,鳥類の配偶様式,つがい外父性,種内托卵,協同繁殖,家族形成などの社会的諸現象の出現の変異に関する比較研究の成果を紹介し,鳥類の社会形態への生活史要因の関与についてまとめた.生活史要因は高次分類群間の変異に関与し,一方,生態的要因や環境要因は低次分類群間の変異に関与している.これは,生活史要因は特定の社会現象や行動の出現の素因を与え,その素因を持つ分類群で実際にそれらの形質が出現するかどうかは生態的要因や環境要因が決定するという,階層的な進化過程の理解である.
著者
鈴木 美穂 斎藤 亜緒衣 三上 修
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.179-184, 2022-10-24 (Released:2022-10-31)
参考文献数
18

ハシボソガラスCorvus coroneは,オニグルミの内部の可食部を食べるために,落とすか,車に轢かせて割る行動をとる.どちらの行動をとるかの意思決定において,クルミの割れやすさは重要な要素だろう.これまでクルミの割れやすさを調べた実験はあったが,10月に実施されたものであった.本研究では,10月と12月にクルミの投下実験を行い割れやすさを比較した.その結果,12月のほうが割れやすいことが明らかになった.
著者
井口 学
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.19-36, 2021-04-23 (Released:2021-05-14)
参考文献数
62

カイツブリTachybaptus ruficollisの質量,標準代謝速度,一回換気量,分時換気量,強制対流熱伝達損失ならびに浮力と流動抵抗に関する損失を基にして,カイツブリの水面滞在時間Tp,潜水時間Tdおよび最大潜水時間Tdmaxに対する簡便な予測法を提案した.カイツブリの質量の関数として求めた予測式は本研究で観察したTp,Td,およびTdmaxの値をそれぞれ15.6%,-7.2%,3.7%の偏差で近似することができた.また,ノドグロカイツブリT. novaehollandiae,シラガカイツブリPoliocephalus poliocephalus,ハジロカイツブリPodiceps nigricollisのTp,Tdについてもカイツブリと同程度の予測精度が得られた.Tdmaxの予測式は回帰分析によって得られた既存の式にほぼ一致することが分かった.