著者
福田 道雄 成末 雅恵 加藤 七枝
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 = Japanese journal of ornithology (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.4-11, 2002-05-31
被引用文献数
16 24

日本におけるカワウの生息状況は,非常に劇的な変化を示した.1920年以前は北海道を除く全国各地で普通に見ることができた鳥であった.ところが,明治以降から戦前までの間は,無秩序な狩猟などによって急減したとみられる.戦後は水辺汚染や開発などによって減少したと考えられ, 1971年には全国3か所のコロニーに3,000羽以下が残るのみとなった.しかしながら,その後カワウは残存したコロニーで増加し始め,それらの近隣広がった.1980年代からは愛知,岐阜,三重の各県で始まった有害鳥獣駆除の捕獲圧による移動や分散で,各地に分布を拡大していったと考えら れる.増加の主な理由は,水辺の水質浄化が進み生息環境が改善したこと,人間によるカワウへの圧迫が減少して営巣地で追い払われることが少なくなったこと,そして姿を消した場所で食料資源である魚類が回復したことなどが考えられる.2000年末現在では,50,000~60,000羽が全国各地に生息するものと推定される.
著者
高橋 晃周
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 = Japanese journal of ornithology (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.22-35, 2004-07-30
被引用文献数
3 3

海鳥類は通常,繁殖地から遠く離れた餌資源に依存し,繁殖地と採餌場所の間を繰り返し往復しながら繁殖を行っている.このような繁殖における基本的制約から,海鳥類の親の餌の選択や,採餌にかける努力量,採餌効率の個体間の違いは繁殖成績に大きく影響すると考えられる.本論文では,海鳥類の採餌行動と繁殖成績の関係を個体レベルで調べた研究について簡単にレビューした.海鳥の個体ごとの食性は,これまで伝統的に餌•ペリットのサンプリングや直接観察により調べられていたが,最近では安定同位体比を用いた解析も行われ始めた.これらの研究では,エネルギー価の高い餌を専門的または高い頻度で採餌する個体の繁殖成績が高いという傾向が見られる.しかし,食性の個体変異の研究例はカモメ類に偏っており,他の海鳥類での研究が必要である.海上での海鳥の採餌行動は,近年発達した小型の動物装着型記録計や,衛星またはVHF発信器によって追跡されてきている.このような計測器によって,親の海上での採餌努力量を定量化したペンギンにおける2つの研究では,親の採餌努力量と雛の成長速度の間に関係は見られなかった.繁殖成績に結びつく個体の採餌行動として,採餌の努力量よりも採餌効率が重要であることが示唆された.採餌効率の個体間の違いは主に,個体間の1)形態の違い,2)学習による採餌技術の違い,3)他個体との競争,によって生じると考えられる.採餌生態を個体ごとに追跡し,これが親自身のエネルギー配分プロセスを通じていかに繁殖成績に影響するか調べることは,今後,採餌戦略と生活史戦略をリンクさせる重要な研究となる.鳥類の中でも特徴的な採餌生態•生活史特性を持ち,また近年採餌行動を個体ごとに追跡する手法が整いつつある海鳥類をはじめとした魚食性鳥類での研究の発展が期待される.
著者
SODHI Navjot S. ADLARD Robert D. 永田 尚志 KARA A. U.
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.65-67, 1999
被引用文献数
5

渡り鳥は,渡りのストレスで血液内寄生虫に感染しやすくなったり,越冬地でも感染する可能性があるため,留鳥よりも感染率が高いと考えられる,利根川および霞ケ浦湖岸のヨシ原において捕獲されたホオジロ,ホオアカ,カシラダカ,アオジ,シベリアジュリン,オオジュリンの6種類のホオジロ(<i>Emberiza</i>)属から血液を採取し, <i>Haemoproteus</i> spp, <i>Trypanosoma</i> spp, <i>Splendidofilaria</i> spp, <i>Plasmodium</i> spp,<i>Leucocytozoon</i> spp の5種類の血液内寄生虫(原虫)の感染率を調べた.血液を採取した352個体中,血液内寄生虫が感染していたのは,カシラダカ,アオジ,オオジュリンの各1個体であり,全体の0.8%にすぎなかった.カシラダカとオオジュリンでは配偶子母細胞や分裂前体をもった成熟した原虫が見つからなかったので種名まで同定できなかったが,アオジに感染していたのは <i>H.coatneyi</i> であった,<i>Emberiza</i> 属においては,渡りをする種が留鳥性の種より血液内寄生虫の感染率が高いという予測は支持されなかった.本研究と前報(Sodhi <i>et al</i>.1996)によって,日本に生息しているホオジロ属では血液内寄生虫の感染率が低く抑えられていることがわかった.ホオジロ属の血液内寄生虫感染率がどのようなメカニズムで低く抑えられているかはわからない.
著者
内田 博 高柳 茂 鈴木 伸 渡辺 孝雄 石松 康幸 田中 功 青山 信 中村 博文 納見 正明 中嶋 英明 桜井 正純
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.131-140, 2007-11-01 (Released:2007-11-17)
参考文献数
21
被引用文献数
3 3

1994年から2003年にかけて埼玉県中央部の丘陵地帯で,20×20 km,400 km2の調査区を設定して,オオタカの生息密度,営巣環境,繁殖成績,繁殖特性などを調査した.調査地での生息密度は1996年から2003年にかけて100 km2あたり平均12.8から14.0ペアであった.調査地内の隣接最短巣間距離は平均で1.74±0.59 km(±SD,範囲0.79−3.05 km, N=37)であった.営巣樹木は214例のうち,スギが54%,アカマツ30%,モミ13%と常緑針葉樹が97%を占めた.巣の高さは平均14 m,営巣木の69%の高さにあり,胸高直径は平均41 cmであった.巣は林縁から平均68 m,人家から155 m,道路から100 mの距離にあり,人の生活圏に接近していた.繁殖成功率は平均72%で,年により53~87%まで変動があった.巣立った雛は,産卵以降の全巣を対象にした場合平均1.49羽で,繁殖に成功した巣だけの場合,平均2.06羽であった.巣は前年繁殖に使用して,翌年も再使用したものが61%であった.また,9年間も同じ巣を使っているペアもいた.巣場所の再使用率は繁殖に成功した場合65%で,失敗すると50%だった.繁殖に失敗した67例の理由のほとんどは不明(61%)であったが,判明した原因は,密猟3例,人為的妨害4例,巣の落下4例,カラスなどの捕食5例,卵が孵化しなかったもの4例,枝が折れて巣を覆った1例,片親が死亡4例,近くで工事が行われたもの1例などであった.また,繁殖失敗理由が人為的か,自然由来のものであるかで,翌年の巣が移動した距離には有意差があり,人為的であればより遠くへ巣場所は移動した.
著者
倉沢 康大 板橋 豊 山本 麻希 綿貫 豊
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.137-141, 2012 (Released:2012-04-27)
参考文献数
26
被引用文献数
2 6

繁殖地を離れて1週間にもおよぶロングトリップ中にミズナギドリ類は餌の大部分を消化・吸収し,吸収しづらいトリアシルグリセロール(TAG)やワックスエステルを胃油として胃に蓄積する.胃油のもととなる餌生物を特定するため,胃油中のTAGの脂肪酸組成を新潟県粟島で育雛中のオオミズナギドリにおいて分析し,潜在的な餌の脂肪酸組成と比較した.胃油の脂肪酸組成は,カタクチイワシあるいはサンマに似ていたが,他の外洋性の生物を食べた可能性も完全には否定できない.この2種だけを食べたと仮定すると,その比率はオイルベースでカタクチイワシが77%,サンマが24%と推定された.
著者
平野 敏明
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.130-136, 2012 (Released:2012-04-27)
参考文献数
17

渡良瀬遊水地および近隣地域の2か所の隣接する塒で,冬期のトラフズクの食性を明らかにするために,2004年から2010年の冬期間のペレット分析を行った.渡良瀬遊水地では7年間に合計142個のペレットから236個体の餌動物を,猿島郡の調査地では3年間に108個のペレットから154個体の餌動物が得られた.どちらの調査地もネズミ類が主要な餌動物であったが,ペレットの割合は,渡良瀬遊水地では猿島郡より鳥類の割合が有意に多く,年によってその割合は著しく変動した.渡良瀬遊水地では冬期に多くの鳥類が就塒するために,両調査地における餌動物に含まれる鳥類と哺乳類の割合の違いは,採餌環境の違いによるものと考えられた.
著者
金子 尚樹 中田 誠 千葉 晃 伊藤 泰夫
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 = Japanese journal of ornithology (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.100-111, 2012-04-20
被引用文献数
2

新潟市の海岸林において,秋季2シーズンにわたる標識調査で捕獲された鳥類の糞分析により,鳥類の果実利用を評価した.メジロは糞から得られた種子数,種子含有率とも最も高く,12種の比較的小型の果実を利用していた.ウグイスの糞の種子含有率は低かったが,捕獲個体数が多く,林内の下層に生育する9種の植物を利用していた.鳥類が利用していた果実は口角幅よりも有意に小さいか,または口角幅と統計的な有意差が認められない場合が多かった.果実サイズが口角幅より有意に大きい場合でも,両者の測定値の範囲には重複があった.ヒヨドリと大型ツグミ類の口角幅は,本研究で種子を得られたすべての植物の果実サイズよりも有意に大きく,海岸林内に多数生育し,比較的大型の果実を着けるタブノキ,シロダモ,モチノキなどの常緑広葉樹の果実を利用していた.しかし,口角幅の大きな鳥種が大きな果実を選好して利用する傾向は見られなかった.本調査地では,秋季には鳥種ごとの生息・採食場所において,十分な種数と量の果実資源が存在していると推測された.糞から種子が得られた植物のほとんどは,海岸林内で果実が見られるものだった.とくに,エノキのように調査地付近に多数生育し,比較的小型の果実を着ける植物が多くの鳥類により利用されていた.しかし,今後,周辺の住宅地の庭木などから新しい植物種が侵入する可能性も示唆された.
著者
鮫島 正道 大塚 閏一
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.129-144, 1987-06-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
19
被引用文献数
2 4

19目44科111属162種(亜種を含む)430個体の日本産および外国産鳥類の成鳥の晒骨標本を作成し,方骨について,形状,方骨と隣接骨との連結方法,含気孔の位置と数などを主眼として検索し た.1)方骨の形状は,鳥類分類上の目•科内ではほぼ一致した.しかし,一部の目で目内変異が認められ,カワセミ科では科内変異が顕著であった.2)方骨と隣接骨の連結方法も鳥類分類上の目内でほぼ一致したが,一部に目内変異•科内褒異が認められた.3)方骨と隣接骨との四つの関節状態はそれぞれ相関関係がみられ,一つの関節が強い関節状態を示せば他の三つの関節も強い関節を示し,弱い関節のものは,他も弱い関節を示す傾向がみられた.4)方骨の各部位の観察で変異が最も少ないのは,含気孔の位置と数の形質であった.5)方骨の形状は生活型分類での鳥類の嘴の適応諸型との関連性が強く,目の異なるカツオドリとカワセミ,フクロウ類とワシタカ類などはそれぞれ非常に類似する方骨を有した.
著者
江口 和洋
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.p141-148, 1990-03
著者
由井 正敏
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-8, 2007-05-01 (Released:2007-07-12)
参考文献数
47
被引用文献数
2

岩手県内の北上高地には約30つがいのイヌワシが生息しているが,近年の繁殖成功率は急激に低下している.この原因として,イヌワシの好適な餌狩り場の減少が関与していることが明らかにされている.イヌワシの繁殖成功率を改善し個体群を安定させるためには,繁殖成功率が0.282以上になることが必要であると推定された.そのために必要な餌狩り場の暫定行動圏内(半径6.4 km)における面積を由井ら(2005)の重回帰式によって計算した.10年生までの幼令人工林のみでは560 ha(440~790 ha),放牧採草地や5年生までの伐採放棄地のみでは1,020 ha(670~2,120 ha),101年生以上の落葉広葉樹のみでは770 ha(560~1,240 ha)が必要であった.幼令人工林を必要量供給するためには,行動圏内の人工林を平均して67 haずつ76年に1回伐採して造林することで充足される.また,イヌワシの餌資源確保及び餌狩り場確保の点で列状間伐が有効と考えられた.人工林の伐採利用や間伐によって森林が明るくなることで,生物多様性が向上する可能性を指摘した.
著者
由井 正敏 関山 房兵 根本 理 小原 徳応 田村 剛 青山 一郎 荒木田 直也
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.67-78, 2005 (Released:2007-09-28)
参考文献数
43
被引用文献数
2 5

北上高地に生息するイヌワシ個体群の繁殖成功率は,国内他地域と同様に近年急激に悪化している.本地域の長期の調査結果のうち,1979~1988年(前期)及び1995~2001年(後期)の2期間のデータを用い,繁殖成功率と巣からの半径6.4km圏内の各植生構成との関係を分析した.巣のオーバーハングの状態,巣の標高,行動圏の重複状況,気象条件,及び巣への直接的な人為が繁殖成功率に及ぼす影響も同時に分析した.全期間にわたり詳しく調査した7つがいの繁殖成功率は前期の67%から後期の27%に低下した.直接的な人為影響によって繁殖失敗した巣の割合は前期6%,後期19%程度と推定された.前期から後期にかけてイヌワシの採餌に適した幼令人工林は77%,低木草地は43%減少した.人為影響による繁殖失敗を除いたデータによる重回帰分析の結果,101年生以上の落葉広葉樹老令林,10年生以下の幼令人工林,5年生以下の広葉樹林や放牧採草地を含む低木草地の各面積が広いと繁殖成功率は高くなった.劣悪な巣の状態及び巣の標高が高い場合には繁殖成功率は低下した.造巣•繁殖期の気温,香雨量は繁殖成功率に影響しなかった.結局,最近の繁殖成功率の顕著な低下は,イヌワシの好適な採餌環境の減少で部分的に説明できると考えられる.繁殖成功率の向上のためには,条件の良い営巣地の確保,人為影響の排除に加えて採餌適地の維持造成あるいは再生が必要である
著者
笠原 里恵 神山 和夫
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 = Japanese journal of ornithology (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.35-51, 2011-04-28

環境省の行っているガンカモ類の生息調査で得られた数値データとモニタリングデータを解析するソフトウェアであるTRIMを用いて,日本で越冬するカモ類13種における1996年から2009年までの個体数の増減を日本の8地方区分による地方別,また都道府県別に解析した.結果として,分析期間中,マガモ <i>Anas platyrhynchos</i> とコガモ <i>Anas crecca</i> は全国的に減少傾向にあった一方でキンクハジロ <i>Aythya fuligula</i> やスズガモ <i>Aythya marila</i> は全国的に増加傾向にあった.ヒドリガモ <i>Anas penelope</i> では地方による個体数の増減は少なかった.多くの種において個体数の変化傾向は県や地方によって異なっていたが,13種中9種が関東地方で,8種が中部地方で減少傾向を示し,8種が近畿地方で,5種が中国もしくは四国地方で増加傾向を示した.この結果は調査が行われている1月中旬において,多くのカモ類の分布が変化していることを示唆している.カモ類の個体数に影響を及ぼし得る要因として,繁殖地や越冬地の環境変化,餌付け状況や地球温暖化による移動距離もしくは渡りの時期の変化等が考えられるが,今後のさらなる研究が望まれる.
著者
笠原 里恵 神山 和夫
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.35-51, 2011 (Released:2011-05-28)
参考文献数
25

環境省の行っているガンカモ類の生息調査で得られた数値データとモニタリングデータを解析するソフトウェアであるTRIMを用いて,日本で越冬するカモ類13種における1996年から2009年までの個体数の増減を日本の8地方区分による地方別,また都道府県別に解析した.結果として,分析期間中,マガモ Anas platyrhynchos とコガモ Anas crecca は全国的に減少傾向にあった一方でキンクハジロ Aythya fuligula やスズガモ Aythya marila は全国的に増加傾向にあった.ヒドリガモ Anas penelope では地方による個体数の増減は少なかった.多くの種において個体数の変化傾向は県や地方によって異なっていたが,13種中9種が関東地方で,8種が中部地方で減少傾向を示し,8種が近畿地方で,5種が中国もしくは四国地方で増加傾向を示した.この結果は調査が行われている1月中旬において,多くのカモ類の分布が変化していることを示唆している.カモ類の個体数に影響を及ぼし得る要因として,繁殖地や越冬地の環境変化,餌付け状況や地球温暖化による移動距離もしくは渡りの時期の変化等が考えられるが,今後のさらなる研究が望まれる.
著者
上野 吉雄 佐藤 英樹
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.71-84, 2001-05-31 (Released:2007-09-28)
参考文献数
15
被引用文献数
3 3

広島県沿岸部において1988年11月から1990年7月にかけて,のべ406個体(うち,巣内雛に117個体)のエナガに標識してつがい形成および繁殖生態について調査した.1)調査地は森林•宅地•農耕地などが複雑に入りくんだ林縁部で,11月から翌年の2月にかけてみられる冬季群のメンバーは安定しており,それらの行動圏も決まっていた.2)成鳥が繁殖期の前に移動し,群れ間でのつがい形成が普通に起こることが明らかになった.3)冬季群は繁殖期に解消され,繁殖期には群れそのものが存在しないことが明らかになった.4)繁殖終了後,冬季群形成前に多くの個体が消失する一方,調査地外から移入してくる個体がいることが明らかになった.5)冬季群のメンバーは,前年と同じ群れに残っていた成鳥,調査地内で出生した幼鳥からなる標識個体,調査地外から移入してきた幼鳥を含む未標識個体で形成されたが,移入個体が半数近くを占あたので,林縁部のエナガの冬季群が血縁集団である可能性はうすいと考えられる.6)ヒナが孵化した巣では高い割合でヘルパーが現れたが,中でもオス親がヒナの孵化以前に消失した巣にヘルパーが現れる率は非常に高かった.7)履歴の確認できたヘルパーはいずれも繁殖に失敗し配偶者が消失したオスであった.
著者
クールマン フランク
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2-3, pp.79-86, 1987-12-25 (Released:2007-09-28)
参考文献数
8

1975年春から1987年初夏(1980年と1984年の春は除く)にかけて,神戸市中央区の住宅地に接する木の茂った傾斜地で,トビの個体群調査を行なった.調査地は約4km×2kmの広さで,市街とその先の海へ向かいほぼ北西-南東方向に走る多くの沢がある.10月から2月までの非繁殖期は,日没ごろにここへ集まるトビの数は一定していなかった.主なねぐらの位置が西へ移ったのはカラス,とくにハシブトガラスとのねぐらを巡る争いが関係しているかもしれない.番いのトビは65本(うち針葉樹が29本)の木に巣を掛け,高さは平均地上10mであった.いくつかの巣は2-4回再利用されたので,計94の巣について調査したことになる.1978年の最大15から巣数はしだいに減少し,1987年はわずか3となった.最近5年間の調査では34巣のうち少なくも18巣から卵が消失し,1巣からは半分喰べられたひな1羽がみつかった.トビの営巣失敗と個体数の減少は,ハシブトガラスの捕食によることが大きいと思われる.34巣からはせいぜい4羽のひなが巣立ったにすぎない.