著者
庄野 浩資 芹沢 和洋 山口 香子 牛草 貴行 松嶋 卯月 小出 章二 立澤 文見 武田 純一
出版者
Japanese Society of Agricultural Informatics
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.95-105, 2012

岩手県における主要花卉作物である切り花リンドウは,劣化すると茶褐色の"老花"となって商品価値を大きく損ねる.このため,これまで切り花の生育レベル,特に若花と変色前の早期老花を"色彩情報"に基づいて判別する技術の研究が進められてきた.本研究の特徴は,判別に利用する情報として,リンドウ花冠の"光沢"に関連する情報に注目した点にあり,今回はその定量化の方法の開発と生育レベルとの関係性を検討した.具体的には,まず2つの偏光フィルタを用いて,花冠の光沢と散乱光を含む画像,さらには,散乱光のみを含む画像それぞれの撮影を実現する低コストな画像撮影装置を開発した(ダブル偏光フィルタ法).次に,得られた画像から平滑度指標などの光沢に関連する情報を求め,これらと生育レベル間の関連性を検討し,同情報に基づく生育レベル判定の可能性を検討した.この結果,エゾリンドウ系統2品種において,平滑度指標に基づいて若花と早期老花を良好な正解率で判別可能であることを確認した.以上から,本研究におけるダブル偏光フィルタ法による光沢の定量化は,切り花リンドウの生育レベルの低コストな非破壊・非接触的測定手法の実現に十分寄与すると考えられる.<br>
著者
南石 晃明 竹内 重吉 篠崎 悠里
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.159-173, 2013 (Released:2013-10-01)
参考文献数
9
被引用文献数
11

本稿では,全国アンケート調査に基づいて,農業法人経営における事業展開,人材育成およびICT活用の最新動向とその関連を明らかにした.まず第1に,経営規模拡大(売上高や従事者数の増加)の実態を明らかにした.第2に,売上高が増加すると経常利益が黒字の経営が増加することを明らかにした.第3に,経営規模拡大の重要戦略である事業多角化の主要共通課題が,「人員・人材確保」,「技術・ノウハウ」,「従業員育成」などの人材確保・育成と,「販路の開拓」や「情報の発信方法」などのマーケティングであることを明らかにした.第4に,経営規模拡大(従事者数)により,「作業マニュアルの作成」などの人材育成項目に取組む経営が増加することを明らかにした.第5に,ICTの活用動向および人材育成との関連について明らかにした.具体的には農業法人経営のほとんどはパソコンや携帯電話などを業務で利用しており,1~2割は各種センサー類を利用している.経営規模の大小を問わず経営のほとんどは,「財務管理」にICTを活用しているが,経営規模によってセンサー類による「情報の計測」や「自動制御」の活用割合は異なる.経営規模(従事者数)が増加するとほとんどの項目で活用割合が増加する.さらに,ICTを活用した人材育成・能力向上の取組では,「情報の整理・共有化」の取組割合は,経営規模(従業員数)に比例的に増加するが,「作業支援・判断支援」は,経営規模(従業員数)が一定の規模を超えると急増する.
著者
庄野 浩資 関 朝美 山口 香子 松嶋 卯月 小出 章二 武田 純一
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.122-129, 2009 (Released:2009-10-01)
参考文献数
8
被引用文献数
2

岩手県における重要な花卉作物の一つである切り花リンドウの収穫後の商品価値を長く保つためには,鮮度を長く維持し得る生育ステージの個体を選別・収穫することが有効と考えられるが,現状では,生育ステージの非破壊・非接触的な判定手法は開発されていない.ここで,庄野・関ら(2007)は,花冠の波長域700~900 nmにおける分光情報の生育ステージ判定における有効性を指摘したが,波長域400 nm以下のいわゆる紫外線領域に関しては未検討である.そこで本研究では,リンドウ花を紫外線領域(UVA)で撮影した画像の画素値に基づく生育ステージの判定手法の可能性を検討した.その結果,特定の一品種において同画像の花の画素値は,花粉が成熟して飛散を始めるとほぼ同時期に顕著に上昇した.ここで,花粉はミツバチなどの花を痛める昆虫を内部に誘引する要因の一つである.このため,同画素値は,これらの有害な昆虫の飛来時期を推定し,最適な収穫時期を決定する上でも有用な情報と期待される.以上の結果から,リンドウの生育ステージの非破壊・非接触的判定システムの実現において紫外線画像が果たす役割は大きいと期待できる.
著者
大石 亘
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.319-330, 2006 (Released:2007-05-11)
参考文献数
17
被引用文献数
3 4

線形計画法は営農計画の作成や農業技術の経営的評価などに活用されているが, Windowsで動作し手軽に線形計画法を活用することができる計算プログラムXLPを開発した. XLPはExcel用のアドインで, 起動時にExcelのメニューバーにメニュー [XLP] を作成する. 利用方法は, まずメニュー [XLP] - [新規ブック] でモデル記述シートを表示させ, 所定の形式で営農計画モデルを記述する. メニュー [XLP] - [LP計算] 等の計算メニューを選択すると, 最適解が整理されて計算結果シートに表示される. 計画モデルの記述は, 単体表による形式のほかに, 線形計画モデルの本来の記述形式である数式を利用できる. また, 単体表による形式では, 任意の列で折り返すことができるので, プロセス数がExcelの最大列数を超える計画モデルや, 営農部門ごとに折り返すなどの読みやすい計画モデルの記述が可能である. 基本的な営農計画モデルのサンプルデータが用意されており, メニュー [XLP] - [XLP_try] では線形計画法や営農計画モデルの作成方法の学習機能を提供している. このように, XLPは営農計画モデルを活用する際に手軽に線形計画法を利用できるツールに仕上がっている.
著者
大澤 剛士 神山 和則 桑形 恒男 須藤 重人
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1-10, 2012 (Released:2012-03-28)
参考文献数
13
被引用文献数
1

本稿は,複数の独立したデータベースの横断的な利用を促進する方法として,データベースそれぞれに格納データを配信するWeb API(Web Application Program Interface)を設置し,由来の異なるデータをWeb上で統合する『マッシュアップ』によって仮想的にデータベースを統合することを提案する.すなわち,実際に全てのデータを格納する巨大データベースを新規に構築するのではなく,基本的に既存データベースは独立させたままデータのみをインターネット上に配信させ,それらをインターネット上で集約することで,仮想的な統合を実現する.このアーキテクチャによって,ユーザはあたかも巨大な1つのデータベースが存在するかのように,複数のデータベース由来のデータを利用することが可能になる.筆者らはケーススタディとして,気象,土壌,農地利用,温室効果ガスに関する情報をまとめて取得できるWebシステムを構築した.しかし,システム構築の過程で課題や問題点も明らかになった.本稿は,システム開発における上述アーキテクチャの実現方法,データベースに実装するWeb APIの内容,実装内容および設計における留意点,明らかになった課題を記し,さらにはWeb APIを利用したデータシステムの可能性を論じた.
著者
竹 あかね 斉藤 三行 岡辺 明子
出版者
Japanese Society of Agricultural Informatics
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.42-49, 2008
被引用文献数
4

農林水産関連情報の検索効率化に資する言語資源を開発したので,その概要を報告する.筑波事務所は,国際連合食糧農業機関(FAO)が欧州共同体委員会と共同開発した多言語シソーラス(AGROVOC)の収録用語(約27,300語)を2002年に日本語へ翻訳した.AGROVOCの収録分野は農林水産業,食品およびその関連分野であり,日本語翻訳した用語は,英語・フランス語・スペイン語・中国語・アラビア語,チェコ語・ポルトガル語・日本語・タイ語・スロバキア語・ドイツ語の11言語で利用できる.AGROVOCには日本固有の農林水産関連用語が不足していたため,2004年にAGROVOCに用語を追加した農林水産技術用語集の作成を行った.用語集は,約35,000用語を収録し,各用語は日本語・英語で表記される.追加した用語は,用語間の関連性を新たに構築し,階層関係・等価関係の情報を収録した.また,この用語集をもとに農林水産関連文献からの索引語抽出に利用できる形態素解析辞書を作成した.この辞書には,日本語で表記された用語,および表記揺れ情報を収録した.<br>
著者
合崎 英男 中嶋 康博 氏家 清和 竹下 広宣 田原 健吾
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.32-40, 2009 (Released:2009-04-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1

携帯電話を通じてアクセスする食品リスク・コミュニケーション・システムを開発し,質問紙調査によってその有効性と改善方向を検討した.回答者は当該システムを通じて農薬に関する情報を得て,その評価結果を質問紙に回答するよう求められた.提供情報に対する閲覧者の理解度はおおむね高く,本システムの有効性を支持する結果が得られた.しかし,調査結果からはWeb情報の閲覧には金銭的なコスト意識も含めた心理的障壁の存在が明らかにされた.心理的障壁を乗り越えるためのインセンティブの程度についてはさらなる検討が必要である.
著者
菅原 幸治 田中 慶 大塚 彰 南石 晃明
出版者
Japanese Society of Agricultural Informatics
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.381-393, 2006
被引用文献数
1 1

農薬適正使用ナビゲーションシステム (農薬ナビ) の研究開発にもとづき, 農薬使用の事前判定・履歴記帳を携帯電話単独でインターネット接続せずに可能にするべく, NTTドコモの携帯電話FOMA端末上で作動するアプリケーション (iアプリ) として「農薬ナビ誤用防止君」 (以下, 誤用防止アプリ) を開発した. 全体的なアプリケーション構成はクライアント・サーバ型システムであり, クライアント側アプリケーションである誤用防止アプリと, 作物・品種, 農薬使用基準等のマスタデータと農薬使用履歴データを管理するサーバ側アプリケーション (以下, サーバアプリ) からなる. これにより, 個々の生産者が携帯電話上で使用する誤用防止アプリでは農薬使用の適正判定・履歴入力を行い, サーバアプリではマスタデータの送信および農薬使用履歴データの受信・表示を一括して行うことができる. 生産者が誤用防止アプリを利用するには, その栽培作物や使用農薬にあわせて, サーバアプリのデータベースにおけるマスタデータ, 特に農薬使用基準を事前に登録する必要がある.<br>長野県JA長野八ヶ岳野辺山営農センターとその管内の野菜生産者5名の協力により, 本アプリケーションによる農薬使用の適正判定・履歴入力および履歴データ収集の評価試験を2005年6~10月に実施した. 営農センター職員からは, サーバアプリの農薬使用履歴表示機能について, 生産者および圃場作付け区画ごとの収穫可能日が事前に確認できる点でプラスの評価が得られた. 一方, 誤用防止アプリを使用した生産者からは, 利点を感じない旨の意見もあったが, 農薬使用に慣れていない者には有用かもしれないとの評価が得られた. 誤用防止アプリについては, 操作がやや面倒であることのほか, 収穫予定日が変更になる際に随時その修正を行う必要がある点が指摘された. また, 改良要望として, 区画や農薬の選択入力の際にそれぞれの収穫予定日や収穫前日数を表示すること, 農薬使用履歴の表示をより見やすくすること, 生産者ごとに使用農薬をマスタデータに登録することなどが挙げられた.
著者
吉田 智一 高橋 英博 寺元 郁博
出版者
Japanese Society of Agricultural Informatics
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.187-198, 2009
被引用文献数
2 4

多数の圃場を管理する地域農業の担い手が直面している栽培管理事務作業を効率化し負担を軽減する目的で,GIS互換の圃場地図を使用した作業計画管理ソフトを開発している.このソフトは作物生産に関係する圃場や作付から一連の栽培作業,収穫後の調製・出荷に至るまでの様々な生産過程で発生する情報をデータベース化して管理することを基本とし,そのユーザインタフェイスにGIS互換の圃場地図を使用して直感的に分かりやすい視覚的なデータ入力および表示を実現しているところに一つの特長がある.同様の機能は市販のGISソフトを用いても構築可能であるが,本ソフトではデータベースエンジンやマップ表示にランタイムライセンスフリーのコンポーネントを使用し,その上に圃場管理や農作業管理に必要なユーザインタフェイスを実装していることから,無償配布可能となっていることにもう一つの特長がある.本ソフトはWeb公開による利用者からのフィードバックに基づき機能を改良・拡充しながら,現場農業者への普及を進めている.<br>
著者
野口 良造 小山 瑞樹
出版者
農業情報学会
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.142-151, 2009 (Released:2009-10-01)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

地域社会を対象にした,バイオマスエネルギーによる自動車用エネルギー代替の可能性を明らかにするために,複数のバイオマスやエネルギーを取り扱い,システムダイナミックスのプログラムへ応用可能な,エネルギーフローモデルを提案した.つぎに,栃木県を対象として,耕作放棄地を利用したバイオマス生産とEV(電気自動車)の普及を前提に,6つのシナリオを設定し,システムダイナミックスを用いたシミュレーションを行った.その結果,EVの普及率:5% / 年,EVとGV (ガソリン自動車)の燃費性能の向上:2.9% / 年,耕作放棄地の拡大:4.2% / 年,飼料米ふくひびきの生産によって,27年後に自動車用エネルギーを自給できる可能性を明らかにした.また,EVの燃費性能の向上,および新車販売台数のなかでEVの占める割合の増加が,栃木県での自動車用エネルギー自給の可能性に大きく影響を与えることが明らかとなった.
著者
小平 正和 澁澤 栄 二宮 和則 加藤 祐子
出版者
Japanese Society of Agricultural Informatics
雑誌
農業情報研究 (ISSN:09169482)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.110-121, 2009
被引用文献数
2

リアルタイム土壌センサ(RTSS)を用いて大規模畑作地の効率的な圃場マッピング手法の開発を行った.</br>具体的には,土壌観測ラインと圃場マップの表示に注目した.一筆管理は慣行法の対角線とし,局所管理は定幅散布機の走行間隔として圃場全面を観測した.圃場マップは,営農者が理解し易いグリッドマップとした.グリッドマップの特徴は,グリッド内に平均値と最大値および最小値を表示した.</br>RTSSの主な改良点は,土壌観測速度を慣行の2倍(0.56 m/s)にした.高速化による検量線の感度変化をPLS回帰分析により解析した.得られた決定係数(R <sup>2</sup>)は,土壌水分(0.77),有機物含有量(0.49),pH(0.53),硝酸態窒素(0.09),全窒素(0.86)および全炭素(0.95)であった.硝酸態窒素は,分析ミスにより土壌試料数が減ってしまったので,参考として記載した.</br>RTSSの高速化により,4圃場で11 haの大規模畑作地に対して1 ha約1時間の観測作業速度を得た.</br>本研究の最大の成果は,営農者が過去の経験として圃場内にライムケーキを多量に溢した場所があることを,圃場マップから正確な位置情報として,確認できたことである.そして,RTSSが意思決定支援の1つとして,営農者に認められたことである.<br>