著者
橋本 忠和
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 教育科学編 (ISSN:13442554)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.321-332, 2020-02

本研究は筆者の「ごっこ遊び」と社会情動的スキルとの関連性に基づく研究を基礎に,幼児教育現場で様々な機会に活用され,幼児の豊かな想像性や言語に関する感覚等を育成する手立てとして位置づけられている「絵本」に着目し,保護者と連携した「絵本」の読み聞かせの実践が5歳児の社会情動的スキルを育む上でどのような可能性を有しているのか考察することを目的としている。研究手法としては,絵本「ないた:中川 ひろたか:作」を教材として使用し,主人公の顔を見て母親が涙を流す理由を幼児と保護者が対話を通して考える場面の幼児の発言及び保護者,保育者の反応等を「社会情動的スキル(目標の達成・他者との協働・情動の抑制)」の分類を観点として分析し,絵本の読み聞かせと社会情動的スキルとの接点を考察した。すると,絵本の読み聞かせが幼児の社会情動的スキルの分類の各要素を育成する可能性を見出すことができた。
著者
渡部 謙一
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 教育科学編 (ISSN:13442554)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.315-325, 2020-08

現代日本において吹奏楽という音楽ジャンルは,数十年前「ブラスバンド」と呼ばれていた時代から比べ隔世の感を禁じ得ないほど発展し,一文化として定着していると言っても過言ではないと思われる。全日本吹奏楽連盟の加盟団体数は14000団体を超え,学校部活動を始め,生涯教育としても非常に数多くの人々によって愛好されている。また様々な楽譜や音源・映像等の出版物も流布されて多彩な活動が展開されている。しかしながら,演奏のためのメソードにおいて,多くの教則本が出されてはいるがそのほとんどは,観念的でイメージを優先した著述のものばかりで,必ずしもプリンシプルとして根源的な論述まで至っているものは,残念ながら,無い。中には科学的な根拠の不確かな「言い伝え」にも似たものも多く,学術的科学的根拠に基づいたものを見つけるのが難しいという現状である。本研究は,そういった楽器演奏のためのメソード,特に金管楽器の技術的根本に目を当て,演奏者の主観やイメージといったものが介在する以前の,どんな演奏者にとっても普遍的で重要な基本的な諸要素〜発音原理や呼吸法〜について論じるものである。
著者
林 美都子
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 教育科学編 (ISSN:13442554)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.25-32, 2020-08

国際化やIT化が推進される現代社会においては,西暦の利便性が高く,元号の不自由さが強調されることもあるが,元号にどのような心理的機能があるのかについては十分な検討が行われていない。本研究では,林(2020)にて平成生まれの大学生64名を対象に行ったのと同じ,大正,昭和,平成,令和の元号イメージに関する調査を,昭和生まれの社会人24名を対象に,潜在的な好感度を測定するIATと人名に関する好感度アンケートとを用いて行った。本調査の結果,昭和生まれの社会人においても平成生まれの大学生同様(林,2020),自分の生まれた元号は内心特別に好まれ,また,元号によって主観的に「時代」に意味づけやイメージづけがなされており,元号の心理的機能は昭和世代においても健在であることが示唆された。さらに,調査時点で最新の元号である令和に対するIAT値がもっとも高かったことから,「元号には,赤子が生まれたときに名前をつけ,その健やかな成長と未来を願うのと類似の心理的な機能が含まれている」(林,2020)ことがより明確に支持されたと考えられる。
著者
中山 雅茂
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 教育科学編 (ISSN:13442554)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.199-205, 2020-02

月の満ち欠けに関する学習は小学校第6学年と中学校第3学年で扱われ,小学校では地球視点,中学校では宇宙視点で月と太陽,地球の位置の違いと月の満ち欠けの関係を学習する。本報は,月の満ち欠けのモデル実験において,地球視点から宇宙視点への視点移動を容易にすることを目的として開発した実験装置を詳細に報告する。一つの実験装置で,地球視点と宇宙視点について同時に学習できる実験装置であり,中学校の学習において地球視点と宇宙視点での思考を支援する教材として提案する。また,日食・月食・金星の満ち欠けの実験も行える実験装置としての使用方法を示すことで,中学校で扱う月と金星の満ち欠けの学習全体で活用できる実験装置として提案する。
著者
益子 洋人
出版者
北海道教育大学
雑誌
北海道教育大学紀要. 教育科学編 (ISSN:13442554)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.125-132, 2020-08

本研究の目的は,援助要請における利益・コストの予期がその意図におよぼす影響を,過剰適応傾向の調整効果を確認するという観点から再検討することであった。大学生179名の回答を分析の対象として,「援助要請意図」の3因子を目的変数,援助要請における利益・コストの予期と過剰適応傾向の各因子を説明変数とする階層的重回帰分析を行った。その結果,「心理・対人関係に関する悩み」や「学業の悩み」を相談しようとする意図には「ポジティブな結果」の予期のみが有意な関連を示すことが示された。また,「健康の悩み」を相談しようとする意図には「ポジティブな結果」の予期だけではなく,「友人への他者志向性」と「友人への自己抑制」の交互作用項が有意な関連を示すことが示された。援助要請の利益・コストの予期と援助要請意図の間の関連の再現性が示され,相談相手と文脈を共有できるかどうかが明白ではない場面では,過剰適応傾向が一定の調整効果を持つ可能性が示唆された。