著者
黒岩 幸子
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.247-261, 2006-03-01

1855年の日魯通好条約で日露国境が画定し、南千島は日本領となった。明治期から定住者も増えて、北千島とは異なり、根室と有機的に結びついた経済圏が成立してゆく。漁業・水産業を中心とする内国植民地的な発展は、1945年のソ連軍侵攻とその後の日本人強制退去によって終焉し、ソ連/ロシアによる実効支配が現在まで続いている。日本は、1960年代から南千島を「北方領土」と呼び、「日本固有の領土」としてロシアに返還要求しているが、南千島90年間の日本時代の実態を知る人は少ない。本稿は、南千島における日本人社会の成立とその構造、ソ連侵攻と占領下の南千島、日本人強制退去のプロセスを、元島民の目から明らかにするものである。
著者
米地 文夫
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.133-147, 2013-05-01

宮沢賢治は石川啄木の短歌に強い影響を受けたが、啄木の北へ走る電柱列の歌も、賢治の童話「月夜のでんしんばしら」に影響を与えた。「月夜のでんしんばしら」は停車場近くの線路で電信柱の列が兵隊になり歩き出す話で、電気総長が号令をかけていた。汽車が来ると電信柱に戻る。従来は電気と鉄道の童話とされていたが、シベリア出兵の日本軍、特に花巻で演習をした盛岡駐屯の工兵隊などの出動を素材にしたことがわかった。賢治作曲の彼らの軍歌はオペラ「カルメン」の「アルカラの竜騎兵」の曲と日本陸軍のラッパの曲とを基にしている。作品に工兵のほか竜騎兵や擲弾兵など19 世紀の欧州の古風な兵種名が登場するのは、ロシアに攻め込んだナポレオン軍の敗退をシベリア出兵に重ねたからで、トルストイの小説「戦争と平和」やハイネの詩「二人の擲弾兵」などを念頭に置いている。電気総長は当時の日本陸軍の実質上の最高指揮官である上原勇作参謀総長をモデルにしている。この作品が書かれた1921 年には上原の指揮の下で日本陸軍はシベリア出兵を行っていた。既に出兵の大義は消失し、革命勢力の優勢が決定的になるにつれて撤退は必至となっていた。「月夜のでんしんばしら」は一見、幻想的な童話にみえるが、実はシベリア出兵を継続する日本軍部への批判の込められた作品だったのである。
著者
リヒタ ウヴェ 渡部 貞昭
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.255-261, 0000

2001年1月31日、ドイツ連邦政府は急進右翼のドイツ国民民主党(NPD)の禁止を連邦憲法裁判所に申し立てた。その理由は、外国人への暴行及びユダヤ人施設への冒涜・破壊行為の件数が増大したからであった。本稿はホロコーストと同胞のユダヤ人にたいする西ドイツ戦後社会の態度の考察である。
著者
島田 直明 米地 文夫
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.119-131, 2006-03-01

カラマツは宮沢賢治作品への登場頻度の高い樹木である。そのカラマツ林やその周辺の景観について賢治の描写を分析するとともに、同時代の代表的詩人北原白秋の作品と比較検討を行った。本論文では特に心象スケッチ『春と修羅』のなかの作品群に描かれたカラマツに着目した。それらの多くは岩手山麓の牧草地や放牧地の防風林としてのカラマツ林であった。賢治の作品から1920年代の岩手山麓は、草地や草地から遷移が進んだ森林、カシワ林などさまざまな植生タイプがみられ、また草地を囲むようにカラマツ林が列状に連なる景観であったと読み取れた。旧版地形図や岩手県統計書などの資料から判読した当時の景観も同様であり、賢治が『春と修羅』の作品群において正確に景観を描写していたことが検証できた。一方、北原白秋の有名な詩「落葉松」は、カラマツ林の中に歩み入り、また歩み去る己れを抒情的に詠いあげた。この詩人の絶唱ともいうべき作品ではあるが、カラマツ林の景観そのものについては全く描写していない。これに対して、賢治はカラマツ林の景観をナチュラリストの眼で観察し、心象スケッチという形で具体的に描写・記録した。彼はのち,カラマツを用いて景観を造る「装景」をも考えていたのであった。
著者
リヒタ ウヴェ 渡部 貞昭 Uwe Richter Sadaaki Watanabe
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.251-254, 2003-09-30

2002年1月21日、連邦憲法裁判所(BVG)は、連邦政府、連邦参議院、連邦議会が前年に提出した極右政党ドイツ国民民主党の禁止の申請に関する、2002年2月に定められた口頭弁論の日程をすべて中止した。理由は、申請側の全部で14名におよぶ証人のうちの1名が、憲法擁護機関がNPDの内部に保持した長年のスパイであったことであった。この政治的スキャンダルで、今やNPDの禁止ではなく、ドイツの情報機関、およびその極右政党内部に存するスパイの役割が問われることになった。Am 31.1.2002 kippte das Bundesverfassungsgericht (BVG) uberraschend alle fur Februar 2002 angesetzten mundlichen Verhandlungstermine uber den ein Jahr zuvor von Bundesregierung, Bundesrat und Bundestag eingereichten Antrag auf ein Verbot der rechtsradikalen Nationaldemokratischen Partei Deutschlands (NPD). Der Grund : einer der insgesamt 14 Zeugen der Antragsteller war gleichzeitig ein langjahriger Spitzel des Verfassungsschutzes innerhalb der NPD. Der politische Skandal war da : statt dem NPD-Verbot standen nun die deutschen Geheimdienste auf dem Prufstand und die Rolle ihrer Agenten innerhalb der rechtsradikalen Partei
著者
阿部 未幸
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.161-180, 2014-03

東日本大震災からの地域コミュニティの再建に欠かせないもののひとつとして、郷土芸能の重要性はしばしば指摘されてきた。本稿では、岩手県岩泉町小本地区において伝承される中野七頭舞に着目し、1976年に小本地区で「中野七頭舞保存会」が結成されてから、東日本大震災に直面するまでの過程を明らかにする。中野七頭舞保存会は、自らの伝承・公演活動に加え、小本小学校の「民舞クラブ」設立をきっかけに同校で中野七頭舞の指導を始め、地区出身者の舞い手を育成している。現在の保存会メンバーの多くは、小本小学校で中野七頭舞を学んだ卒業生であり、彼らは進学や就職で小本地区を離れても、公演や講習会のために郷土へ戻ってくる。保存会は、県外の民族舞踊愛好者や教員たちに積極的に講習を行い、現在では、数多くの学校やサークルなどで中野七頭舞が取り組まれている。中野七頭舞は多様な担い手によって構成されており、こうした地域内外のネットワークが、地域コミュニティの維持や東日本大震災発生からの復興支援に機能したことを明らかにした。
著者
三浦 修
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.127-149, 2010-05

岩手県の自生種のシラカンバ(カバノキ属)、導入種のドイツトウヒ(トウヒ属)、導入種のポプラ(ヤマナラシ属)の植栽によって、当時の農村景観を改善できると賢治は考えた。現在の農村景観計画に相当するこのアイディアは、田村(1918)が提唱した装景に由来する。ここでは、3属の樹木を賢治の「装景樹」と呼び、どのように作品に描かれたかを詳細に記載した。賢治が実際につくった景観計画案やその実践のプロセスをも明らかにした。作品描写の分析によって、賢治の科学(植物生態学など)的リテラシーを考察した。さらに、装景樹の着想について、当時の林学や植物学において、樹木や森林の美が研究されたことや、造園学とその実践学が確立したことなどの学問的な時代背景を考察した。
著者
米地 文夫
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.145-152, 2000-11-01

西川如見(1648-1734)は長崎の人で天文学者・地理学者である。彼は地形を科学的に観た最初の日本人学者である。なぜならば彼は著書『怪異辨断』(1715)において,天文と地文(自然地理)に関係した諸現象について科学的に論じている。彼は当時,西洋の地球球体説を理解していた数少ない日本人学者の一人であり,同書において,地球が丸いことを科学的に解説している。如見はまた,『怪異辨断』において多くの自然地理ないし地形学的現象について論じ,それらは怪異ではなく,科学的合理的に説明できる自然現象であることを説いた。例えば彼は,地すべりを,その土地の地質・地形的な性質と結び付け,一種の簡易な実験を用いて説明した。彼はまた,世界各地の自然地理〜環境に関する情報,例えばイタリアの火山やアラビアの沙漠などに関する情報も紹介している。
著者
信夫 隆司
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.43-90, 2001-07-01

松尾鉱山は、かつて、東洋一の硫黄鉱山であるとか、「雲上の楽園」と言われた。閉山からすでに30年以上が経過し、松尾鉱山の栄華を知る人も数少なくなってきている。今日では、松尾鉱山から出る強酸性の坑廃水の処理問題だけに関心が行き勝ちである。しかし、この問題が登場する背景をわれわれはきちんと理解しておく必要がある。そのため、本稿では、1914(大正3)年に松尾鉱業が創立される由来にまで遡り、松尾鉱山の歴史を紐解いてみた。また、松尾鉱山の生みの親である松尾鉱業初代社長中村房次郎の事跡をたどりながら、第2次世界大戦までの30年あまりにわたる松尾鉱山の歩みを跡づけた。
著者
米地 文夫
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.17-34, 2007-12-01

宮沢賢治の短編「猫の事務所」は,事務所の末席の書記かま猫に対する「いじめ」の問題を取り上げた作品として近年注目されているが,結末では訪れた獅子によって解散を命じられ,廃止となる。本論文はこの作品が実は政治的世界・民俗的世界・賢治の内面世界の三者が重層的に組み込まれたものであることを明らかにするものである。組み込まれた政治的テーマは郡役所廃止問題で,「猫の事務所」の位置や役割,事務室の人員構成などの描写から稗貫郡役所がモデルであり, 1926(大正15)年6月30日に閉鎖になる。「猫の事務所」はこの年の3月に発表されている。郡役所の廃止は既定のことではあったが遅延していたのを,浜口雄幸蔵相の緊縮財政のもと廃止が確定し,浜口が内相の時,廃止される。獅子はライオンとあだ名された浜口なのである。この物語の民俗的な背景は,竈の煤で黒く汚れた猫をかま猫と呼ぶことと,獅子舞が火伏せの竈祓いに訪れることなどである。獅子はかま猫の守護神のような存在なのである。さらに,同僚に対する態度を自省する賢治自身の心境も反映したものである。すなわち「猫の事務所」の獅子による解散は郡役所廃止と浜口雄幸の決断とをカリカチュア化したものであり,主人公かま猫と巡回してきた獅子というキャラクターは,竈をめぐる民俗から生み出され,職場の同僚による「いじめ」は賢治自身の職場体験によるものであった。
著者
佐藤 智子
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.127-146, 2014-03-01

2011年3月11日東日本を襲った地震と津波による被災以降、254 の国・地域・国際機関(2011 年5 月2 日現在)から人的、物的支援のみならず、見舞いの手紙など精神的な支援が日本に寄せられた。これまで長期に渡り外国の特定の都市と交流を続けてきた自治体にも、相手の都市から義援金・寄付金や千羽鶴等が届けられた。震災から7 カ月後に宮城県の全ての市町村を対象にして実施したアンケート調査をもとに、海外からの支援の詳細を明らかにするとともに、支援によって住民の国際交流に関する意識がどのように変容したかを考察した。先行研究の岩手県と比較した結果、相手都市との関係の深化や相互扶助精神の確立など共通点が見られた。This article focuses on the significance of international relationships following a disaster and subsequent reconstruction. Surveys were conducted on local governments in Miyagi Prefecture seven months after the Great East Japan Earthquake and the resulting tsunami. The results indicate that many of the cities which have international relationships with foreign cities have received donations, consolations and prayers from them. The results also signify that mutual assistance has been established between the two cities, because all of the cities that sent contributions to their foreign sister cities when their counterparts were faced with disasters, such as inundation and hurricanes, have in return received support and services from them. The article showcases the sister-city relationship between Shichigahama and Plymouth, Massachusetts. The citizens of Plymouth town raised not only funds but also hope and community spirits through a telethon to help Shichigahama when their sister city was dramatically affected by natural calamities causing devastation and loss of life.
著者
伊東 栄志郎
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.123-137, 2001-12-31

本論は、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』の主人公レオポルド・ブルームがフリーメイソンの会員であると人々から噂されていることの真偽とその意義について論じたものである。第8挿話で、ノーズィ・フリンがデイヴィ・バーンのパブでブルームがフリーメイソンであると噂し、第12挿話では「市民」がやはりブルームがフリーメイソンであると示唆する。第18挿話では、彼の妻モリーでさえも自分の夫がフリーメイソンであったと考えている。ブルーム自身はそのことは決して口外しないのだが、彼の無意識を映し出す心理劇となる第15挿話では、彼は見事にフリーメイソンのマスターを演じている。彼がフリーメイソンだとすれば、それは何を意味するのか?実は、このことはブルームがユダヤ系であることと深く関わっている。帝政ロシアはじめヨーロッパ各地での排斥運動を受けて、1904年前後に急激にユダヤ人がアイルランドに流人してきたことで、当時のアイルランドではユダヤ人排斥運動が小規模ながらリマリックやコークで起こりつつあったのである。一方、フリーメイソンはユダヤ教を認知しており、ユダヤ系2世であるブルームがフリーメイソンに入会してもおかしくない当時の社会状況が背景にあった。ブルームが本当にフリーメイソンなのかどうかは定かではない。だが、ブルームがフリーメイソンかもしれないという噂が小説内で戦略的に流されているのは、当時の世相を反映した社会風刺なのである。
著者
佐藤 智子
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.125-138, 2015-03

アメリカ合衆国マサチューセッツ州プリマス町は、宮城県七ヶ浜町と20 余年に及ぶ姉妹都市交流を続けている。2011 年3 月11 日に七ヶ浜町が地震と津波により壊滅的な被害に見舞われたという一報が入るや、いち早くプリマス町は支援に乗り出した。最も大きな取り組みは、町議会、プリマスロータリークラブ、そしてプリマス町周辺を拠点とするテレビ局が連携して行った募金活動のテレソンであった。町民が一丸となって取り組んだこのプログラムは、想像以上の成果を上げた。 本論では、テレソンというこのコミュニティ・プロジェクトの成功の要因を、直接的そして物理的な面と、プリマス町そのものの特性という間接的な面から考察した。第一義的には、両町の強固な関係、七ヶ浜町の甚大な被害に寄せるプリマス町民の共感、前述の三機関の精力的、そして広範囲にわたる働きかけなどを指摘することができる。さらに、もっと本質的な要因(遠因)として挙げることができるのは、プリマス町には日頃からボランティア活動などに励む人々が多く、互酬性と信頼性の社会関係資本が十分に蓄積されていたことである。この「資本」が募金活動の成功に大きく寄与している。
著者
佐藤 智子
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.31-64, 2005-10-31

今から362年前の1643年6月10日、そして再度の7月28日、鎖国時代の日本であったが、1隻のオランダ船ブレスケンス号が、水と食料を求めて山田湾に姿を現した。記録によると、異国船の入港に地元の人々は驚愕を隠せなかったが、乗組員を温かくもてなした。この史実をもとに山田町は、1960年代にブレスケンス号の母港であるオーストブルフ市へ姉妹都市締結の打診をしたが、実現には至らなかった。その後オランダ王室私設顧問からクリステリック・カレッジ・ザイスト校を紹介され、1996年国際理解教育を目的にして同校へ最初の中学生を派遣した。ザイスト市表敬訪問も含むこのプログラムは継続して実施され、両市町の絆が強固になっていった。そして日蘭交流400周年記念の2000年に、山田町はザイスト市と念願の友好都市締結を果たした。提携から今年で5年が経過したことになるが、継続性をみている青少年派遣事業に焦点を当てて交流の内容を検証した。また何故1960年代に山田町が望んだ姉妹都市締結が実現しなかったのか、日蘭関係の歴史を紐解きながら考察した。
著者
由井 正敏 工藤 琢磨 藤岡 浩 柳谷 新一
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-9, 2001-07
被引用文献数
4

わが国のイヌワシの繁殖成功率は近年低下しており、その原因としてうっぺいした森林の増加が推測される。イヌワシは疎開地や森林内のギャップで狩りを行うため、うっぺいした森林は不適である。このため、秋田県田沢湖町のイヌワシ営巣地を囲む二次林地帯に1-2haの小規模疎開地6ヵ所を伐採造成し、非営巣期のイヌワシの採餌行動の変化を調査した。その結果、造成疎開地における採餌行動頻度は対照区に比べ有意に増加し、その有効性が確かめられた。