著者
ウヴェ リヒタ 大沢 久人 岩手県立大学総合政策学部 Policy Studies Association Iwate Prefectural University
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.251-256, 2000-12-31

1999年の秋、ドイツ社会民主党・経の党の赤緑連合は、トルコによる「レオパルト2」戦車1000台の輸入計画によって崩壊寸前であった。緑の党は、トルコ国内における人権侵害の故に戦車輸出に反対し、社会民主党は、軍需産業における労働者の雇用の確保、および北大西洋条約機構(NATO)加盟国トルコに対する責任を主張した。結局、危機は妥協によって回避された。トルコに試用目的の戦車を1台供与し、西暦2001年に最終的な決断を下すことになったのである。しかし、1992年にドイツ国防省が連邦議会の意に反して15台の戦車をトルコに提供したことで、当時の国防相は辞職に追いやられている。トルコヘの武器輸出は、30年来変わらぬドイツ政治の厄介な課題である。ドイツの武器輸出政策の実態と法的根拠、およびその内政上、外交上の目的についで、トルコを事例として述べる。This article is about the principles and policy of German weapon exports, the crisis inside the red-green coalition in autumn 1999 because of conflicting views concerning weapon exports, patterns of German Near-East-policy and recent changes in German foreign and security policy.
著者
伊東 栄志郎
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.437-452, 1999-12-31

ジェイムズ・ジョイスは、『ユリシーズ』に関してこう語った : 「もしダブリンが破壊されても、この小説を読めば再建が可能だ」。ブルームを乗せた葬式馬車は確かにサックヴイル通りを進んでいるのに、なぜか彼は有名な中央郵便局や賑やかな通りの様子を伝えようとしない。また、グラスネヴィン墓地での葬式参列中には、彼は土葬死体が腐乱する様子を次々と妄想していく。本稿では、この挿話に1916年の復活祭蜂起をはじめとする独立戦争の祥子(愛国主義)を読み込んでいる。
著者
窪 幸治
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.241-260, 2016-03

本件は、事業者が、クロレラを含有するいわゆる健康食品の販売のため配布するチラシに、薬効を有するかのように示す表示をしていることにつき、適格消費者団体が景品表示法10条1号(平成28年4月1日以降は30条1項1号)に基づく差止請求を提起した初めての訴訟であり、団体(京都消費者契約ネットワーク)が勝訴している(平成27年1月23日、事業者側が控訴、11月現在大阪高裁に係属中である)。本件判決は、健康食品の広告表示に関して、医薬品でないにもかかわらず薬効を示すものにつき、旧薬事法によって形成された一般消費者の医薬品への信頼をもって、実際より著しく優良であるとの誤認をもたらすと判断している点に意義を有する。この判断が維持されれば、健康食品の効能効果に付き科学的な証明が不要となり、事業者に対して合理的根拠の提出を強制する術をもたない、適格消費者団体による差止請求の可能性を広げうるものと期待されるからである。本稿では、本判決の論理を分析し、その射程を検討した。今後、保健機能を標榜する健康食品に関しては、特定保健用食品等に加え、平成27年4月1日から始まった機能性表示食品制度はその利用が容易であることに鑑みると、同制度を利用しない健康食品に関しては、本判決の論理が及ぶ可能性(機能性があるとの誤認の推認)がありうる。
著者
窪 幸治 Kohji Kubo 岩手県立大学総合政策学部
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.201-212, 2014-03-01

本件は、東日本大震災発生時のマンション内の水漏れ事故につき、居住者が区分所有者の加入する個人財産総合保険保険に付された個人賠償責任総合補償特約に基づき保険金支払を求めたところ、保険会社が地震免責条項の適用を主張したという事案である。第1 審(東京地判H23・10・20)は、他の免責条項との均衡等から、同条項にいう「地震」を通常予見しえない「巨大かつ異常な地震」に限定し、保険会社の免責を認めなかった。本判決(東京高判H24・3・19)は「地震」につき、(1)文理解釈、(2)地震保険法との均衡、(3)他の免責事由との関係、(4)保険実務への考慮等から「自然現象としての地震と相当因果関係のある損害はすべて地震免責条項の対象となるのが相当」と判示した。客観的解釈を強く要請される約款解釈からすれば、当該判示は正当である。しかし、本件は、通常の耐震性を欠くこと(「瑕疵」)を責任原因とする、保険事故たる土地工作物責任発生及び、地震免責条項適用に係る相当因果関係の検討が不十分な点で問題がある。確かに、当事者は因果関係を争っていないが、地震と瑕疵の原因競合及び割合的な処理の可能性を検討すべき事案であったといえよう。
著者
黒岩 幸子
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.27-62, 2004-09-30

1955-56年の日ソ交渉を契機として、日本政府は、サンフランシスコ平和条約で日本が放棄した千島列島に南千島(択捉・国後)は含まれないとの立場をとり始め、それ以降、択捉、国後、色丹、歯舞は「北方領土」と呼ばれるようになった。「北方領土」が四島を指す固有名詞として定着すると同時に、千島列島は切断され、カムチャッカと道東を結ぶステッピング・ストーン(踏み石)としての役割も、かつて列島全体に居住していた先住民の歴史も捨象されてしまった。千島列島には、先史時代から現在までに、先住民共同体・日本人社会・ロシア人社会という三つのトポス(場所)が生成している。本稿は、日本とロシアという近代国家の邂逅と国境画定のプロセスの中で崩壊していった千島の第一のトポス、主にアイヌ共同体の盛衰をたどることによって、北方領土問題の歴史的側面を明らかにするものである。
著者
米地 文夫 佐野 嘉彦
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.63-75, 2004-09-30

宮沢質治の作品に頻出する「スケッチ」という語について、自然科学の立場から検討を加えた。賢治にとって「スケッチ」とは、自然科学におけるフィールドワークの「スケッチ」に類するものであった。一般には詩と呼ばれている賢治の「心象スケッチ」は、彼自身は詩ではなく、科学的な「スケッチ」であり、彼の心象に映じた心理学的世界像を科学的に記載し、後日の分析のための論料(証拠)としようとするものであった。賢治の「スケッチ」が描く世界は、現実の世界から彼の心象に投影されたものであり、賢治にとっては、真の世界像を構築するための論料(証拠)であった。 特に「心象スケッチ」の名のもとに書かれた作品における天空の表現を例にとりあげ、すなわち、賢治の「スケッチ」の特性の一端を明らかにした。すなわち、空や雲の色を、鉱物、特に宝石、貴石を比喩に用いて描写し、それによって色相のみならず、彩度や明度まで的確に表現しようとしたのである。そのような比喩は、一般の読者には難解で衒学的と受け取られがちである。しかしながら、賢治にとって、宝石、貴石などの名称を絵の具のように選んで用いるのは、科学的に最も的確に表現するために必要なスケッチ技法として、当然のことなのであった。
著者
佐藤 智子 岩手県国際交流協会
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.115-131, 2013-05

2011 年3 月11 日の東日本大震災以降、254 の国・地域・国際機関(2011 年5 月2 日現在)から人的、物的、精神的な支援が日本に寄せられた。これまで幾十年に渡り外国の特定の都市と交流を続けてきた自治体にも、相手の都市から見舞の手紙や義援金・寄付金等が届けられた。震災から7ヵ月後に岩手県の各市町村を対象にして実施したアンケート調査をもとに、海外からの支援の詳細を明らかにするとともに、支援によって住民の国際交流に関する意識がどのように変容したかを考察した。
著者
三浦 修
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.115-136, 2011-07

宮沢賢治の作品研究や読解には、岩手県の風土の研究や理解が不可欠といわれる。童話「虔十公園林」は、この風土を主要な舞台とし、当時の都市公園の景観が背景に描かれている。風土は自然環境と社会環境で捉えられる。ここでの論考は、次の3点にまとめられる。1)この短篇に出現した人口林の種スギと自然林の種ブナについて、作品にどのように描かれているかを分析し自然景観の植生景観を復元した。ここで復元されたスギ優占の屋敷林、社寺林などは、地域の人々が生産や生活のために造った、人文景観の集落景観でもあった。一方、宮沢賢治が、自然林のブナをどのような生態学的特性をもつ植物と捉えていたかは解明できなかった。2)短篇の題名にもなった術語「公園林」は、1912年に出版された林学者本多静六著『造林學本論』に由来し、農村のスギ植栽林を都市の児童公園の緑地に変換するこの物語において、重要な役割を果たす科学的内容をもっていた。しかしながら、その概念を作品に適用した宮沢賢治には、科学的中身の吟味や用法の適否を検討することなどの関心が薄かった。3)「虔十公園林」は児童公園の機能を付与されている。このアイディアは、日本の都市公園成立に関わる文献と報道情報や、東京などの都市公園から構築された。とくに、1924年の関東大震災復興事業案に提示された小公園は、この短篇成立に重要な役割を果たした。
著者
米地 文夫 木村 清且 Fumio YONECHI Kiyokatsu KIMURA ハーナムキヤ景観研究所 岩手県立大学大学院総合政策研究科
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.29-44, 2006-12-01

賢治寓話「黒ぶだう」は,仔牛が赤狐に誘われ,ベチュラ公爵別荘にわき玄関から入り,二階で黒ブドウを食べる。狐はブドウの汁を吸って他は吐き出し,仔牛は種まで噛む。公爵たちが帰ってきて,狐は逃げ,残された仔牛はリボンを貰う。この話の公爵別荘のモデルは花巻市街に現存する菊池捍(きくちまもる)邸であることが明らかとなった。菊池邸は1926年に建てられ,外見は洋館,中が畳敷きの和室で,花巻出身で北海道清水町の明治製糖工場長であった捍氏が建主である。北海道の洋館建築の様式をとり入れつつも,武家住宅の伝統を受け継ぎ,洋館には無いはずの本玄関と脇玄関を付けた。賢治が仔牛たちは「わき玄関」から入ったと書いているのが菊池邸をモデルとした証拠である。この建物は他にも「黒ぶだう」の別荘と合う点が多い。菊池捍邸が賢治作品の創作の秘密を解く鍵として極めて重要なことがわかったが,建物自体も大正期の洋風建築として価値の高いものであり,保存保全が望ましい。In Kenji Miyazawa's fairy tale "Black Grapes, " a calf, entitled by a red fox from a pasture, entered the villa of Duke Betula through the side entrance and ate black grapes on the second floor. The fox sucked the juice of the grapes and spit out the residue, while the calf chewed the grapes and the seeds as well. When the duke and his entourage returned home, the fox ran away. The calf was left there, but was given a ribbon by the duke. It was revealed that the model of the duke's villa is the residence of Mamoru Kikuchi, that still exists in the city of Hanamaki today. Built in 1926 by Mamoru Kikuchi, from Hanamaki and manager of Meiji Seito's sugar-making factory in Shimizu town, Hokkaido, the Kikuchi Residence has a Western appearance and tatami-matted rooms inside. Although the building was designed after the style of Hokkaido Western architecture, it followed the tradition of the samurai house and has both a main entrance and a side entrance, which don't exist in an ordinary Western-style house. The evidence that this is the model is that, as Kenji wrote, the calf and the red fox entered the villa through the "side entrance." There are many elements this building has that agree with the descriptions of the Black Grapes villa. Although the Kikuchi Residence is extremely important as a key to unravel the secrets of Kenji's creation in his works, the building itself is of high value as an example of Taisho Era western architecture, which is why its total preservation is desired.
著者
アーメド M.ファリドウヂン ラハマン S.M.ルトフォル アーメド A.S.M.メスバーウヂン アリ M.エムラン
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.239-250, 0000
被引用文献数
1

本研究はバングラデシュ、Gazipur地域(以前はDhaka地域と称していた)の最小行政地区(uapzmas)としてのGazipur,Kapasia,Kaliakairを対象とし、各地区から30戸の農家を選定して調査したものである。調査にあたり、農家菜園の構造、作物構成、作物の多様性、農家の食糧確保に対する貢献、作物種類の維持、作物の生産性の制約、社会経済的な農業森林体系維持上の重要性に着目した。農家菜園の平均規模は8アールで、農家規模が大きくなると菜園も大きくなる傾向が認められた。土地なし農家と小規模農家の菜園では、樹木並びに疎林は狭小である。調査地域平均では、43種類の有用樹木(果樹並びに木材用樹木)が確認された。すべての農家で果樹が最重要であり(Shanonの多様性指数はH=7.25)、ついで木材用樹種となる(H=4.83)。全43樹種のうち28種は園芸用であり、15種は用材、燃料用である。農家経営規模が大きくなると農家所得も多くなる。調査地域では多岐にわたる野菜(32種)が生産されているが、多くは自家消費むけである。ジャックフルーツ、マンゴー、ナツメヤシ、ライチ、マホガニー、ナンバンサイカチの下作としてアマランサス、インド・ホウレン草、アロイド、カボチャ、唐辛子、パイナップル、ウコン、豆類、蕪などが栽培されている。まだカントリー・ビーン、苦ひょうたん、スポンジひょうたん、ささげ、しょうがなどはジャックフルーツ、マンゴー、ライチ、マホガニー、ナンバンサイカチに這わせて栽培している。農家は菜園で生産した樹木、果物、野菜の一部を販売して所得を得ている。大規模農家では樹木からの所得が大きく、この5年間の平均で22,458カタ(バングラデシュ通貨単位:1タカは約2円に相当)に達し、ランドレス・ファーマーでは6,150タカにとどまる。総所得も農業経営規模が大きくなるにつれて多くなる。ジャックフルーツはとりわけ収益性の大きい樹種である。多くの農家は用材、燃料材より果樹を好んで栽培する。樹木の栽植にあたって問題となるのは獣害であり、調査農家の68%に及んでいる。虫害も多く、27%がその被害を報告している。菜園は、より適切な管理、調査、協力体制の整備と普及によって改善の余地がある。また、低生産性の作物を生産性の高い作目に転換することにより改善できる。
著者
伊東 栄志郎
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.277-288, 2006-03-01

多くの批評家たちが論じてきたように、オットー・ヴァイニンガーの『性と性格』(1903)は、ジェイムズ・ジョイスに『ユリシーズ』を書く刺激を与えたようである。ヴァイニンガーの見解は、マリリン・ライツバウムにより、次のように要約される:「ヴァイニンガーによれば、あらゆる人間存在にあって、女性が負の勢力であるように、ユダヤ人もそうである」。本稿は、ヴァイニンガーの視点より、『ジアコモ・ジョイス』における反ユダヤ主義および反フェミニズムを論じたものである。ジョイスがトリエステでおそらく1912年から1914年の間に書いた『ジアコモ・ジョイス』は、ユダヤ的要素への言及がほとんど見られない『若い芸術家の肖像』と、ユダヤ人の名前やユダヤ的要素への言及が満載の『ユリシーズ』を結ぶ習作に位置づけられる。トリエステは、ジョイスの時代には、西欧と東欧の境界に位置していた。エドワード・サイードの「オリエント」の定義を適用すれば、ジョイスに馴染みのあるヨーロッパと、馴染みのない「オリエント」の間にトリエステはあったのである。『ジアコモ・ジョイス』は、官能的な空想を描いたスケッチブックで、ジアコモは「謎の女性」に対する自分の欲望をたどる。作品には、性的な、あるいは反フェミニズム的な含蓄が響きわたるが、「意図的な」反ユダヤ主義的・反フェミニズム的調子ではない。ジアコモあるいはジョイスにとって、その生徒は魅力的でエキゾチックな女性なのだが、たまたま彼女がユダヤ人だというにすぎないのである。この心象スケッチを描きながら、ジョイスはユダヤ的視点から書くことを学んでいたはずである。かくして、ジョイスは、2つの作品、『ジアコモ・ジョイス』と『ユリシーズ』の創作のためにヴァイニンガーから2つの概念、「女性的なユダヤ人男性」と「自己嫌悪に陥ったユダヤ人」を借り受けたのである。
著者
米地 文夫
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.25-42, 2001-07

磐梯山1888(明治21)年噴火は,水蒸気爆発とそれに伴う岩屑なだれによる大災害であったが,噴火地点に近い磐梯温泉,中の湯の滞在客鶴巻良尊は奇跡的に助かり,詳細な手記を書簡として残した。この鶴巻の証言には噴火直後の噴石による被災の状況と,その後の避難行動が記されており,岩屑なだれを起こしたと思われる"破裂"が3度にわたり発生したことなども記載されていて,きわめて重要なものである。にもかかわらず,この噴火の学術的報告として研究者に引用されている関谷・菊池両氏の論文等は,この書簡を掲載した点は評価できるものの,証言の内容自体は黙殺したり改変したりして十分に活かしているとは言い難い。この論文では鶴巻証言から,噴石による災害は喧伝されたほど劇甚ではなかったこと,岩屑なだれ発生は山体の多段階崩壊によるものと推定できること,などを読み取り,同種災害時の避難行動に役立てようとしたものである。
著者
米地 文夫一 一ノ倉 俊一 神田 雅章
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.49-63, 2013-11

筆者等は「北上平野にとって、南部北上山地西縁は東方の異界との境界として生き続けてきたという時空間認識」を賢治が持っていた、という仮説を立て検証を行なった。賢治が北上平野に対する南部北上山地を、中国の平野に対するチベット高原(賢治のトランスヒマラヤ高原)に見立てたその背景には、この地域がかつて大和朝廷勢力軍事首長下の西の平野、奥六郡に、東のエミシの地、閉伊が対峙した時代があり、アテルイや安倍貞任などの伝説や、様々な郷土芸能、祭礼などにその歴史が変容し伝承されてきたことがある。たとえば、南部北上山地西縁部に位置する兜跋毘沙門天像を祀る寺社の配列は東方に対する結界であり、その西方は谷権現(丹内社)信仰などを持つ異界となる。しかし西側が設けたこの結界はむしろ、後々東側の西に対する結界となった。賢治もその結界は中立的な境界線というより、むしろ異界の始まりであると感じていた。
著者
山谷 清志
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.155-172, 1999-07-31

地方分権が進む中、理論的には自治体政策の形成と立案、そして決定において地方議会の役割が非常に期待されている。しかし、現実には地方議会不要論、それをトーンダウンした形の「議員定数削減」論、あるいは直接民主主義的な住民投票条例制定を求める運動が、各地に出てきている。それは地域における代議制デモクラシーの機能不全に失望したからである。しかし、地域から代議制デモクラシーを無くすることは不可能であり、また望ましくもない。ここに求められるのは、地方議会の改革である。そして、それは地方議会が実現すべき三つの価値、すなわち議会のアカウンタビリティ、レスポンシビリティ、レスポンシヴネスの価値を実現する方向の改革になるはずである。In Japan, municipal and prefecturel assemblies have been weak (since 1947),while governors and mayors have been strong. First, assemblies are not able tomake and evaluate policy, because of poor knowledge of skills and the policies themselves. Second, most assemblymen/women believe that their elections is only an advertisement of their personal character, not policy. As a result, the elections of local assemblies become noisy shows or 'popularity votes'. Citizens can't chose the policy programs that they need. Maybe decentralization in Japan means that local governments should make, implement and evaluate policies and programs. The key to decentralization is how assemblies get the abilities and possibilities for policy making and evaluation capabilities.
著者
佐藤 智子
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.125-138, 2015-03-01

アメリカ合衆国マサチューセッツ州プリマス町は、宮城県七ヶ浜町と20 余年に及ぶ姉妹都市交流を続けている。2011 年3 月11 日に七ヶ浜町が地震と津波により壊滅的な被害に見舞われたという一報が入るや、いち早くプリマス町は支援に乗り出した。最も大きな取り組みは、町議会、プリマスロータリークラブ、そしてプリマス町周辺を拠点とするテレビ局が連携して行った募金活動のテレソンであった。町民が一丸となって取り組んだこのプログラムは、想像以上の成果を上げた。 本論では、テレソンというこのコミュニティ・プロジェクトの成功の要因を、直接的そして物理的な面と、プリマス町そのものの特性という間接的な面から考察した。第一義的には、両町の強固な関係、七ヶ浜町の甚大な被害に寄せるプリマス町民の共感、前述の三機関の精力的、そして広範囲にわたる働きかけなどを指摘することができる。さらに、もっと本質的な要因(遠因)として挙げることができるのは、プリマス町には日頃からボランティア活動などに励む人々が多く、互酬性と信頼性の社会関係資本が十分に蓄積されていたことである。この「資本」が募金活動の成功に大きく寄与している。
著者
米地 文夫
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.109-125, 2010-05

宮沢賢治の未完の作品「銀河鉄道の夜」の多くの登場人物のうち、燈台守は最も印象的なキャラクターの一人である。この燈台守はヘルクレス座の近くで銀河鉄道の客室内に現れる。彼は黄金のリンゴを持ってくるヘラクレスであるとともに、賢治と同郷の花巻出身の農業技術者・島善鄰博士でもあり、なおかつ北上河畔に一人立つ賢治自身でもあった。ヘルクレス座には燈台のような変光星もあり、島博士はゴールデンデリシャスを北国から日本に初めて導入している。この燈台守挿話は賢治作品における重層的世界の典型例の一つなのである。