著者
井上 禎男
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.155-193, 2006-06-24

フランスにおける情報公開法制と個人情報保護法制とのかかわりを整理し、2004年改正1978年法下でのフランスの個人情報保護法制につき、とくに当該分野の第三者機関であるCNIL(情報処理と自由に関する全国委員会)の実務に焦点をあてながら検証する。
著者
小島 俊樹
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.177-190, 2011-02-01

名古屋市立高校における学校納入金の未納者数は、09年度6月において前年度の5倍以上となった。この原因は不景気を背景として、高校生の世帯に貧困層が拡大しているためと推測した。子どもの貧困率として相対的貧困率がよく採用されるが、これでは高校生のように養育費がかかる年齢には低すぎる基準と思われる。むしろ、自治体が用いる基準である、給与所得控除を足し夫婦2人世帯で年収450万円(2005年)が妥当な基準と考える。これを基準とすると、高校生世帯の約30%が貧困層であると推定される。授業料減免者数の生徒総数に対する割合の推移(1996年~2006年)をみると、11年間で約3倍になっており、貧困層の拡大が急激にすすんでいる。名古屋市立の全高校を対象にした調査から、授業料減免者を普通科・職業科・定時制で分けてみると、職業科・定時制に集中していることが明らかになった。さらに、授業料減免の対象者が市民税非課税で、ほぼ相対的貧困基準に相当するため、そこから高校生世帯の貧困基準に基づき推定してみると、職業科・定時制生徒の世帯の半数前後が貧困層に該当すると考えられる。最後に、学校納入金未納者の担任への調査を通じて、高校生の貧困世帯は、今回の不景気により親の失業などで新たに貧困層へ加わる世帯と、すでに貧困世帯であったがリストラや賃下げなど今回の不景気のしわ寄せで更に貧困となった世帯、これらの2類型があると思われる。
著者
樋澤 吉彦
出版者
名古屋市立大学大学院人間文化研究科
雑誌
名古屋市立大学大学院人間文化研究科人間文化研究 = Studies in humanities and cultures (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
no.32, pp.25-40, 2019-07

本稿は、2016(平成28)年7月26日未明、神奈川県相模原市にある障害者施設「津久井やまゆり園」において発生した障害者支援施設入所者等殺傷事件(「事件」)を契機とした精神保健医療福祉の動向に関する第一報及び二報に続く第三報(最終報)として、精神保健福祉分野のソーシャルワーカー(精神保健福祉士)の職能団体である日本精神保健福祉士協会(協会)による、「事件」を経て2017(平成29)年2月8日に公表され、同28日、第193回国会に上程され結果的には継続審議の後いったん廃案となった精神保健福祉法改正法案(29年改正法案)に至るまでに発出された11の見解・要望の詳解を行うことを目的としている。29年改正法案「当初」案までの協会の一貫したスタンスは、(1)29年改正法案は「事件」の「検証」の場でなく、2013(平成25)年の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律改正(25年改正法)第41条第1項及び附則第8条に基づき2016(平成28)年1月7日に設置された「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」(あり方検討会)において議論すべき、(2)「社会防衛」、「再発防止」のための措置入院制度改革には反対、という2点に収斂させることができるが、(1)については当該スタンスを明示している見解公表より前に再開されたあり方検討会の場に、「事件」の「検証」目的のために厚生労働省内に設けられた「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」により2016(平成28)年9月14日に公表された「中間とりまとめ~事件の検証を中心として~」(「中間とりまとめ」)が資料として配布されている。また(2)のスタンスは措置入院制度の中身ではなくそれの名目上の提案趣旨(目的)のみに対するものであることが、29年改正法案「当初」案の趣旨の削除とその直後の見解によって顕在化する。29年改正法案「当初」案の提案趣旨は、参議院厚生労働委員会の場において(同様の事象の)「再発防止」に関する箇所が法案の中身の実質的な修正はなされないまま厚労相の「お詫び」とともに突如削除された。しかし法案内容自体は修正されず、当該委員会は、そもそもの根拠(立法事実)の存否をめぐって混乱し、廃案に至ることとなる。協会は以上の顛末に比して趣旨の削除プロセスに肯定的評価を示している。協会の肯定的評価の姿勢の背景には、法案における排他的職能の要望が示唆される。29年改正法案は25年改正法の附則に基づくものであるということを名目にしながら、実際は「事件」を契機として措置入院制度に焦点化されている。協会が本来この時点で行わなければならないことは、中身はそのままで外装のみ「社会復帰(の促進)」という趣旨へと転換された29年改正法案の本質的な趣旨の剔出とその批判的検証でなければならない。しかし協会は、この検証を「単なる批判」として切り捨ててしまっている。このことは29年改正法案「当初」案における本質的な趣旨―すなわち「再発防止」―を逆に補強する可能性があると考える。
著者
原口 耕一郎
出版者
名古屋市立大学大学院人間文化研究科
雑誌
名古屋市立大学大学院人間文化研究科人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
no.15, pp.232-204, 2011-06

『古事記』『日本書紀』においては、かなり古い時代の記事から隼人は登場する。この隼人関係記事の信憑性をめぐって、大きく二つの議論がある。一つは天武朝以降の記事からならば、それなりに信を置くことができるとする理解であり、これは現在の通説になっているといえよう。もう一つは、天武朝より前の時期の記事にも史実性を認めようとする理解である。小論は、これまでの隼人研究史を回顧し、隼人概念の明確化をはかり、『記・紀』に史料批判を加え、天武朝より前の隼人関係記事については、ストレートには信を置きがたいことを論じようとするものである。つまり、可能な限り通説の擁護を目指すことが小論の目的である。まず、文献上にあらわれる隼人像を整理し、隼人概念の明確化を行う。次に考古資料と隼人概念との対比を、最近の考古学研究者の見解を踏まえながら行う。さらに畿内隼人の成立について触れる。その結果、『記・紀』編纂時における政治的状況、すなわち日本型中華思想の高まりの中で、政治的に創出された存在としての隼人の姿が明らかにされるであろう。このような、現在の隼人理解において中核的なテーゼをなす、「隼人とは政治的概念である」という主張を確認したうえで、天武朝より前の隼人関係記事は漢籍や中国思想により潤色/造作を受けていることを明らかにする。
著者
原口 耕一郎
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.232-204, 2011-06-30

『古事記』『日本書紀』においては、かなり古い時代の記事から隼人は登場する。この隼人関係記事の信憑性をめぐって、大きく二つの議論がある。一つは天武朝以降の記事からならば、それなりに信を置くことができるとする理解であり、これは現在の通説になっているといえよう。もう一つは、天武朝より前の時期の記事にも史実性を認めようとする理解である。小論は、これまでの隼人研究史を回顧し、隼人概念の明確化をはかり、『記・紀』に史料批判を加え、天武朝より前の隼人関係記事については、ストレートには信を置きがたいことを論じようとするものである。つまり、可能な限り通説の擁護を目指すことが小論の目的である。まず、文献上にあらわれる隼人像を整理し、隼人概念の明確化を行う。次に考古資料と隼人概念との対比を、最近の考古学研究者の見解を踏まえながら行う。さらに畿内隼人の成立について触れる。その結果、『記・紀』編纂時における政治的状況、すなわち日本型中華思想の高まりの中で、政治的に創出された存在としての隼人の姿が明らかにされるであろう。このような、現在の隼人理解において中核的なテーゼをなす、「隼人とは政治的概念である」という主張を確認したうえで、天武朝より前の隼人関係記事は漢籍や中国思想により潤色/造作を受けていることを明らかにする。
著者
原口 耕一郎
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.204-188, 2008-06

『古事記』『日本書紀』においては、かなり古い時代の記事から隼人は登場する。この隼人関係記事の信憑性をめぐって、大きく二つの議論がある。一つは天武朝以降の記事からならば、それなりに信を置くことができるとする理解であり、これは現在の通説になっているといえよう。もう一つは、天武朝より前の時期の記事にも史実性を認めようとする理解である。小論は、これまでの隼人研究史を回顧し、隼人概念の明確化をはかり、『記・紀』に史料批判を加え、天武朝より前の隼人関係記事については、ストレートには信を置きがたいことを論じようとするものである。つまり、可能な限り通説の擁護を目指すことが小論の目的である。まず、文献上にあらわれる隼人様を整理し、隼人概念の明確化を行う。次に考古資料と隼人概念との対比を、最近の考古学研究者の見解を踏まえながら行う。さらに畿内隼人の成立について触れる。その結果、『記・紀』編纂時における政治的状況、すなわち日本型中華思想の高まりの中で、政治的に創出された存在としての隼人の姿が明らかにされるであろう。このような、現在の隼人理解において中核的なテーゼをなす、「隼人とは政治的概念である」という主張を確認したうえで、天武朝より前の隼人関係記事は漢籍や中国思想により潤色/造作を受けていることを明らかにする。
著者
原口 耕一郎
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.2-18, 2015-03-30
著者
吉田 一彦
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.368-356, 2008-12-23
著者
久田 健吉
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.83-97, 2004-01-10

ヘーゲルの国家論の特徴は、国家は人倫を大切にする国家でなければならないとした点にある。人倫を大切にする国家、つまり人倫の国家とは絶対的人倫の理念の認識に基づく諸個人の共存の国家であって、個人が己の個別的意志を普遍的意志へと陶冶していくことにおいて成り立つ国家である。しかし、同時にその国家はその個人を陶冶させる国家でもなければならない。それゆえ国家はこの人倫を発展させる知恵を、制度の知恵としてもつのでなければならない。そうしなければ国家は真の国家とはならない。ヘーゲルはこう考えていたのである。人倫の心とは信頼と尊敬の心。私の終生のテーマとの関連で言えば、隣人愛や慈悲や恕の心となろう。この心の源は市民生活の中にある。法的権利は守られてはいるが、ある意味で弱肉強食の世界になっている市民社会。この市民社会の中にあって、共生の生活をし、互助組織をつくってこの心を育んでいる市民たち。ヘーゲルはこの心ほど大切なものはなく、この心を育てる国家こそ真の国家、こういう国家になってはじめて市民が思いを寄せる国家になることができる。バラバラな「ドイツ的自由」の国家でなく、強固な国家権力をもつ国家を実現することができる。宥和の国家を実現することができる。ヘーゲルはこう考えていたのである。
著者
佐久間 悠太
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
no.20, pp.135-158, 2014-02-28
著者
樋澤 吉彦
雑誌
人間文化研究 = Studies in Humanities and Cultures (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.45-57, 2020-07-31

本稿は、日本精神保健福祉士協会(協会)より提案されている“Psychiatric Social Worker”(PSW)から“Mental Health Social worker”(MHSW)への名称変更の妥当性について、「社会福祉士」とは別建てで制度化した精神保健福祉士法(P法)制定時の根拠に焦点化したうえで、ごく基本的な事項の整理検討を行うことを目的としている。名称変更についてはむろん様々な意見があるものの、その契機として総じていえることはすなわちPSW の活動領域が「メンタルヘルス」領域全般に拡大しているという点である。この点は名称変更に対する是非とは別に概ね肯定的に了解されていた。この点をふまえたうえで、P法制定の経緯、及びその根拠について当時の厚生省の見解をもとに整理を行った。P法制定議論のなかで「求められていた人材」とはすなわち「医師、看護婦等の医療関係の有資格者」しかいない精神病院において「病棟を離れて病院内外を行き来するパイプ役として精神障害者の社会復帰を支える専門職種」、「精神障害者の社会復帰のために必要な医療的なケア以外の支援を行う人材」であった。またその「対象」は、「社会福祉士」との「住み分け」を意識されたうえでの、主に精神科病院に入院しているか、あるいは地域において生活しているかに関わらず「社会復帰の途上」(社会復帰を遂げていない)にある精神障害者であった。さらにその「業務の範囲」は、あくまで「社会復帰の途上」にある精神障害者が主として治療/支援を受けていることが想定される精神科病院、社会復帰施設、そして保健所等の行政機関が想定されていた。協会によるMHSW への名称変更の根拠の一つとして、精神保健福祉士の業務が「医療的支援」及び「メンタルヘルス課題をもつ国民」全般に対する領域にまで「拡大」してきている点があげられているが、当時の厚生省が明言しているように、少なくともP法制定時の議論ではメンタルヘルスは国家資格としての「精神保健福祉士」の活動領域としては想定されていなかった。その後、2010(平成22)年の障害者自立支援法改正の一つとしてP法改正がなされたが、本改正に至るP法改正検討会では精神保健福祉士の領域拡大がうたわれており、結果的に従来役割に「精神障害者の地域生活を支援する役割」が加えられる方向で改正が行われた。すなわち「社会福祉士」とは別建てで必要とされた精神保健福祉士は端的に「メンタルヘルス」領域における「ソーシャルワーカー」となったのである。P法制定時の経緯とともに「社会福祉士」との「住み分け」の課題を棚上げしたうえで、現時点におけるPSW の活動をそのまま表すのであれば、「MHSW」の略称は正しいという結論となる。
著者
谷口 幸代
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.354-340, 2008-12-23

大正七年自費出版の『愛の詩集』、『抒情小曲集』が認められ、室生犀星は詩壇に登場した。そして長い放浪生活から抜け出て、東京に居を構える。新進詩人はその翌年に「中央公論」に投稿した『幼年時代』など三作が認められ、一躍、文壇に登場した。以後、詩、俳句、短歌、小説、随筆、童話と、多岐にわたる足跡を残すことになる。その犀星の十五冊の日記は現在、新潮社版の全集別巻一、二に収められている。日記には原稿料や印税がそのつど丹念に書き込まれており、昭和時代の一部には原稿料を受取るまでの経過や交渉の事情まで書き留めているものもある。この原稿料授受の記録を注解しながら、筆一本の売文生活の実態と文士気質を明らかにすることが、小稿の目的である。犀星が文壇に登場した大正時代は、新聞の発行部数が飛躍的に増え、雑誌界では各種の女性誌が次々に創刊され、原稿料が飛躍的に上がった時である。総合雑誌の「中央公論」と「改造」というライバル雑誌での犀星の評価は原稿料ではかることができるほどである。昭和時代は円本ブームで始まり、戦時中に戦費調達のため源泉徴収制度が施行され、昭和二十年代は、敗戦直後の物資不足と激しいインフレによる原稿料の急騰、新円発行の金融緊急措置令による不況のため、支払の遅延や未払いの様が書き込まれている。昭和三十年代の週刊誌ブームの頃、創刊間もない「週刊新潮」の目玉だった谷崎潤一郎『鴨東綺譚』がモデル問題で中絶したとき、ピンチヒッターとして立ったのが犀星だった。円地文子は「原稿を書くことは文学者の生命なのだから、それによつて得る報酬もなおざりに考えてはいけないというお考えだつた」と回想する。

3 0 0 0 OA 私の障害学

著者
石川 洋明
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.191-202, 2014-12-30
著者
牧野 由佳
雑誌
人間文化研究 = Studies in Humanities and Cultures (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.59-69, 2018-07-14

現在、多くの祭りや民俗芸能の現場においては、少子化や過疎化、さらに若者の関心がそれらに向かないことによる担い手不足が起こっている。氏神の祭祀や民俗芸能は、以前は若衆組や青年団といった青年組織が担う場合が多かったが、現在は高齢者が祭りを運営したり、子ども会との連携によって担い手を維持する地域が増えてきている。そのような中、愛知県知多市で継承される「朝倉の梯子獅子」は、現在も青年組織が演技等の担い手の中心として活動をしている。だが、朝倉の青年組織の形態はこれまで変化せず維持されてきたのではなく、社会情勢等に影響を受けつつ、柔軟に対応し、組織を再構成しながら現在に至っている。本稿は、その朝倉の青年組織の再構成の様相を示し、形態的特徴を明らかにしようとしたものである。
著者
古山 萌衣
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.69-84, 2011-12-30

本稿では、戦後教育改革のなかで障害児教育が「特殊教育」として整備されていった発展過程について分析している。そのなかで1979(昭和54)年の養護学校義務制実施をめぐって展開された議論についてその論点を整理すると同時に、特殊教育政策の振興において、養護学校義務制に期待された本来の役割と実際の施策の矛盾について指摘するものである。具体的には、養護学校義務制の実施は、それまで「就学猶予・免除」として就学の機会が保障されず、福祉が代替として担わざるを得なかった重度障害児の教育について、等しく学校教育において保障することにつながったことは積極的に評価できるものであった。しかし一方で、就学指導体制における判別の強化にみられるように、教育改革における効率化・合理化の論理を背景とした特殊教育政策の振興は、結果として別学教育を推し進めたという点に、施策としての問題が存在したということが指摘できる。またここに、インクルーシブ教育において、特別な教育的ニーズに対応する「教育の場」としての特別支援学校(養護学校)の在り方をめぐる議論につながる要因があることが主張できる。
著者
滝村 雅人
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.67-82, 2006-06-24

「発達障害者支援法」は2004年11月に制定されたが、その背景には戦後のわが国の障害者福祉・障害児教育をめぐる様々な変遷があった。その意味でも遅きに失した感があり、その内容からも「理念法」的な性格が見られる。しかしながら、「発達障害」という障害に焦点を当て、その存在と対応の必要性を提起した点では、重要な意味を持っているといえる。その内容の柱は、発達障害の早期発見・早期対応、学校教育における支援、就労の支援と自立及び社会参加のための生活全般にわたる支援にある。分野としては、保健・医療、教育、労働、社会福祉にわたる総合的対応策を講じることを目的としている。拙論は、これらの各分野ごとに関係条文を整理しながらそれぞれの課題を整理したものである。いずれの分野においても重要な課題は、専門家の養成と専門機関・施設の整備であり、またそれを利用するための経済的保障である。その意味でも、今後の実践を踏まえた制度の再構築が重要課題といえる。
著者
太田 昌孝
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.57-69, 2005-01-14

本論は、1、詩「白い鳥」に見られる宮沢賢治の宗教観について、と、2、宮沢賢治作品の原風景としての安倍氏の興亡(白鳥伝説)とに分けられる。1においては大正11年11月の、妹宮沢トシの死を契機に賢治の宗教観(死後観)が如何に推移したかを、詩「白い鳥」の作品分析を行うことにより明らかにした。それによると、「白い鳥」制作時(大正12年6月)における賢治は未だトシの死がもたらした喪失感から抜け出す気配はなく、『古事記』に描かれている倭建命の死後の姿に仮託する形でトシの死を受け止め、やがて賢治が立ち向かうことになる、「青森挽歌」での、トシの死の意味づけとは遠い境地にあることを考察した。また、2においては、岩手に生まれ、岩手に生きた宮沢賢治の意識の原風景の中に刷り込まれていると考えられる、前九年の役における安倍一族の興亡の現実と賢治の作品への影響を、具体的な作品を提示することにより論考した。宮沢賢治の作品(詩)に前九年の役(安倍氏の興亡)を明らかに表しているものは発見できなかったが、それをイメージの源泉にしていると考えられる作品は幾つか提示した。加えて、前九年の役に内包されている〈白鳥伝説〉と賢治詩との相関についても若干の考察を試みた。