著者
藤林 まど花 園田 直子 Naoko Sonoda
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 : 久留米大学文学部心理学科・大学院心理学研究科紀要 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.11, pp.61-73, 2012

本研の目的は,大学生の感情表出方略,なかでも"言語化"に注目し,その実態と体調不良につながる要因を探ることであった。対象は大学生325名であった。重回帰分析の結果,「体調不良」と「ネガティブ感情」「爆発型」との間に有意な正の関連がみられた。さらに,決定木の結果から,大学生においては,日常的なネガティブ感情の感じやすさが体調不良に大きく関連しているが,体調不良につながるうえで絶対条件ではなく,爆発型の感情表出方略や,ソーシャルサポートの低さの組み合わせで体調不良が高くなることが示唆された。
著者
伊福 麻希 徳田 智代
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.61-68, 2008-03-31

本研究では伊福・徳田(2006)の作成した青年を対象とした恋愛依存傾向尺度の再構成を行い,信頼性,妥当性についての検討を行った。本研究で再構成した恋愛依存傾向尺度は,伊福・徳田(2006)が作成した項目に,性行為や性行動を過度に重視した依存に関する項目,国内・欧米の先行研究から引用した恋愛依存症に関する項目を追加したものである。被験者は青年期の男女290名(男性129名,女性161名)で,平均年齢は20.54歳(SD=2,52)であった。因子分析の結果,「精神的支え」,「恋人優先」,「独占欲求」,「セックス依存」の4因子が抽出された。また,信頼性,妥当性について検討したところ,α係数による内的一貫性が示され,内容妥当性,基準関連妥当性,構成概念妥当性のいずれにおいても確かめられた。
著者
緒方 南奈 徳田 智代 原口 雅浩
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.9-16, 2016-03-31

本研究では,母親に対する甘えが大学生の精神的自立に及ぼす影響について,母親の養育態度を踏まえて検討する。研究 1 では,大学生と大学院生89名を対象に質問紙調査を行った。その結果,現在の「相互依存的甘え」は精神的自立の「適切な対人関係」にプラスの影響を及ぼし,現在の「屈折した甘え」は,精神的自立の 「価値判断・実行」にマイナスの影響を及ぼしていた。特に,母親に対して素直に甘えを表現し,うらみすねみといった気持ちを持たない人は,精神的自立ができることが分かった。また,母親の過保護な養育態度は,精神的自立にマイナスの影響を及ぼしていた。研究 2 では,大学生と大学院生108名を対象に,甘えと精神的自立について自由記述式の質問紙調査を行った。その結果,子どもの甘えに対して,母親が一貫して子どもの甘えを受け入れる態度をとることが,「 自立できる甘え」にとって重要であることが示唆された。
著者
尾﨑 加奈 富田 真弓
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.13-21, 2020-03-31

本研究は,大学生の悩み相談に乗った経験が獲得的レジリエンスに及ぼす影響について,相談者の立場や気持ちを想像する共感性と,悩み相談に乗った経験に対する3つの評価(ポジティブ効果感,ポジティブ成果感,ポジティブな側面への焦点付け)に着目し,階層的重回帰分析を用いて検討した。その結果,獲得的レジリエンスの3つの下位尺度のうち,問題解決志向には,「他者心理の想像」及び「ポジティブな側面への焦点付け」の主効果,自己理解には,「他者心理の想像」と「ポジティブ効果感」の交互作用,他者心理の理解には「他者心理の想像」の主効果がみられた。このことから,共感的に悩み相談に乗り,相談者の立場や気持ちを想像しながら話を聴き疑似体験することと同時に,自分が相談者のために役に立てたと評価したり,悩み相談に乗った経験を振り返り自分の成長に繋がるような学びを得たと意味づけることが獲得的レジリエンスを高めるために有効であることが明らかとなった。
著者
園田 直子 Naoko Sonoda
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.117-139, 2009-03-31

本研究の目的は, 第一にピアジェが認知発達プロセスを解明する為に創出した課題の中での代表的な課題である系列化課題に焦点を定め, その系列課題解決に必要な認知操作の発達的変化を追求していく中で, どのようのことが研究されてきているか, また研究者間でのアプローチにどのような差異がみられるかについての研究レビューを行うことである。第二の目的は, その研究レビューを踏まえて, ピアジェが主張した「真の意味での認知操作の発達」, その中でもあるステージからあるステージへと認知構造が向上していく過程は, どのような位相を辿っていくか, その詳細な変化過程を明らかにすることの重要性を指摘することである。
著者
津田 彰 堀内 聡 金 ウィ淵 鄧 科 森田 徹 岡村 尚昌 矢島 潤平 尾形 尚子 河野 愛生 田中 芳幸 外川 あゆみ 津田 茂子 Shigeko Tsuda
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.77-88, 2010-03-31

ストレスへの対応といった受身的な対策を越えて,よりよく生きるための健康開発につながる効果的なストレスマネジメント行動変容を促すプログラムが求められている。とくに対費用効果を考えた場合には,集団戦略として,大勢の人たちを対象にしながら個々人の行動変容に対する準備性に応じたアプローチが必要となる。これらのニーズに応える行動科学的視点に立つ理論と実践モデルとして,行動変容ステージ別に行動変容のためのやり方(変容のプロセスと称する)を教示し,動機づけを高める意思決定のバランスに働きかけながら,行動変容に対する自己効力感を高め,行動変容のステージを上げていく多理論統合モデル(transtheoretical model, TTM)にもとづくアプローチが注目されている。筆者らは,TTM にもとづくインターネットによるストレスマネジメント行動変容の介入研究において,対象者が自ら効果的なストレスマネジメント行動に取り組むためのセルフヘルプ型のワークブックを作成し,その有効性を検証している。本稿では,効果的なストレスマネジメント行動を促すために,これらのワークブックをより有効に活用するための実践ガイドについて解説を加える。
著者
今村 義臣 木藤 恒夫 Yoshiomi Imamura
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.16-23, 2010-03-31

3名の女性共感覚者(F,K,Y)について,現象学的な調査と心理物理学的な実験を行った。3名に共通するのは,特定の数字や文字を見ることによって色の知覚が生じるという書記素・色共感覚である。ただし,3名には現象学的な違いがある。内省報告によれば,Fは「実際に色がついて見える」であり,Kは「頭に色のイメージが浮かぶ」であるという。心理物理学的な実験としては,ストループ課題とRamachandran & Hubbardが用いたポップアウト課題を実施し,一般の知覚者と比較した。ストループ課題では,FとYは逆ストループ干渉において,Kはストループ干渉において対照群との違いが見られた。ポップアウト課題では,共感覚者の正答率は一般知覚者のものより有意に高かった。これら2つの課題のパフォーマンスにより,両者における共感覚的な知覚が実証された。
著者
木藤 恒夫 児玉 千絵
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.37-48, 2003-03-31

本研究では,嘘の漏洩と非言語的手がかりとの関連を3つの実験で検討した。実験刺激として,男女各5名の自己プロフィル(氏名,家族構成,趣味等の10項目)に関する真と偽のビデオ映像(計20本)を用いた。「真」の映像ではすべての項目が事実そのままで,「偽」の映像では,10項目中の3項目が実験者によって偽に変えられた内容が述べられた。映像の長さはいずれも2分間弱であった。いずれの実験においても,被験者の「真偽判断」および「判断の確信度」と「利用した手がかり」が調べられた。実験1では,各被写体の真か偽のどちらか一方の映像(真と偽各5本の計10本)を98名の被験者に提示した。その結果,平均の正解数はほぼチャンスレベルにとどまった(平均4.9,標準偏差1.52)。ただし,個別刺激の正解率は14.3%〜85.7%の広い範囲にわたり,10人の被写体のうち8人において,真と偽の正解率に有意差が認められた。実験2では,各被写体の真と偽の映像(計20本)を被写体ごとに対にして15名の被験者に提示した。その結果,平均正解数は3.9,標準偏差は1.61であり,課題の困難度が増大した。実験3では,実験1の結果をふまえ,正解率が高い,チャンスレベル,あるいは低い映像(計9本)を用いて,32名の被験者に音声を消した視覚情報のみの条件で提示した。実験1の音声あり条件の結果と比較すると,高群では正解率が低下し,低群では正解率が上昇した。これらの結果から,総体的に見ると,チャンスレベル以上に真実と嘘を見分けることが難しいと同時に,嘘の非言語的漏洩の表出には個人差が見られること,さらに周辺言語を含めた聴覚情報が嘘の検出で果たす役割の重要性が示唆された。
著者
緒方 南奈 徳田 智代 原口 雅浩
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 : 久留米大学文学部心理学科・大学院心理学研究科紀要 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.15, pp.9-16, 2016

本研究では,母親に対する甘えが大学生の精神的自立に及ぼす影響について,母親の養育態度を踏まえて検討する。研究 1 では,大学生と大学院生89名を対象に質問紙調査を行った。その結果,現在の「相互依存的甘え」は精神的自立の「適切な対人関係」にプラスの影響を及ぼし,現在の「屈折した甘え」は,精神的自立の 「価値判断・実行」にマイナスの影響を及ぼしていた。特に,母親に対して素直に甘えを表現し,うらみすねみといった気持ちを持たない人は,精神的自立ができることが分かった。また,母親の過保護な養育態度は,精神的自立にマイナスの影響を及ぼしていた。研究 2 では,大学生と大学院生108名を対象に,甘えと精神的自立について自由記述式の質問紙調査を行った。その結果,子どもの甘えに対して,母親が一貫して子どもの甘えを受け入れる態度をとることが,「 自立できる甘え」にとって重要であることが示唆された。This study will examine how university students' Amae toward their mothers affect their psychological independence, based on the mothers' bonding. In Study 1, a questionnaire survey was administered to 89 undergraduate and graduate school students. As a result, we found that current" mutually-dependent Amae" has a positive effect on the "appropriate interpersonal relationships" factor of psychological independence. However, "distorted Amae"was found to have a negative effect on the "value judgment and execution" factor of psychological independence. In particular, people who honestly express Amae toward their mother without feelings of resentment or peevishness are able to be psychologically independent. In addition, overprotective bonding by the mother was found to have a negative effect on psychological independence. In Study 2, an open-ended questionnaire survey on Amae and psychological independence was administered to 108 undergraduate and graduate school students. The results suggested that it is critical for mothers to provide a consistent positive response to their child's Amae for the child to develop "independent Amae."
著者
山本 眞利子
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.29-34, 2008

本実験では,大学生,大学院生の48名の被験者をカウンセラー役24名とクライエント役24名に分け,2名1組でリフレイミングを行いその効果を検証した。被験者は,カウンセラー役とクライエント役のいずれかになった。まず,クライエント役の者が最近,後悔したことや嫌だと思ったことを想起した。その後,カウンセラーがその内容をリフレイミングし記述した。カウンセラーがリフレイミングの内容をクライエントに伝えた。クライエントはリフレイミングによってどのように思ったかをカウンセラーにフィードバックした。事前と事後の否定的感情得点と肯定的感情得点をカウンセラーとクライエントで比較した。その結果,カウンセラーでは,事前と事後で肯定的感情得点で差がなかったが,クライエントは事前より事後で有意に高くなった。
著者
羽山 順子 津田 彰
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.10, pp.150-158, 2011

5歳以下の小児において,就眠に不適切な条件や不適切なしつけの結果として維持される寝渋り,夜泣きのような睡眠問題は,小児の行動性不眠症と呼ばれる。小児の行動性不眠症にはオペラント条件づけを基礎理論とする行動科学的なアプローチが有効であると,多くの臨床試験から確認されている。本稿では,1)小児の行動性不眠症に対する行動科学的アプローチに関する理論とそれらの技法の効果と課題,2)日本の小児の睡眠研究の現況,について概説した。行動科学的なアプローチのうち,寝渋り,夜泣きを意図的に無視する消去法と,出産後6カ月以内に適切な対応の方法を養育者に教育する睡眠の予防的親教育は,小児の行動性不眠症に対する効果が確実であると示唆された。さらに,小児の行動性不眠症の改善は,母子の睡眠と精神保健にも寄与していた。一方,日本の小児の睡眠研究は,その多くが調査研究であり臨床試験の数は限られていた。本邦における行動科学的アプローチの導入は,母子の睡眠と精神保健の向上に寄与する可能性があると考えられた。
著者
羽山 順子 津田 彰 Junko Hayama
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.10, pp.150-158, 2011

5歳以下の小児において,就眠に不適切な条件や不適切なしつけの結果として維持される寝渋り,夜泣きのような睡眠問題は,小児の行動性不眠症と呼ばれる。小児の行動性不眠症にはオペラント条件づけを基礎理論とする行動科学的なアプローチが有効であると,多くの臨床試験から確認されている。本稿では,1)小児の行動性不眠症に対する行動科学的アプローチに関する理論とそれらの技法の効果と課題,2)日本の小児の睡眠研究の現況,について概説した。行動科学的なアプローチのうち,寝渋り,夜泣きを意図的に無視する消去法と,出産後6カ月以内に適切な対応の方法を養育者に教育する睡眠の予防的親教育は,小児の行動性不眠症に対する効果が確実であると示唆された。さらに,小児の行動性不眠症の改善は,母子の睡眠と精神保健にも寄与していた。一方,日本の小児の睡眠研究は,その多くが調査研究であり臨床試験の数は限られていた。本邦における行動科学的アプローチの導入は,母子の睡眠と精神保健の向上に寄与する可能性があると考えられた。
著者
岡村 尚昌 津田 彰 石井 洋平 矢島 潤平
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.105-114, 2006

本研究では,参加の同意の得られた健康な大学生94名(男性53名,女性41名,平均年齢18.6±1.0歳)を対象に,気分プロフィール検査(POMS),日本版状態一特性不安尺度(STAI)そして日本版精神健康調査票(GHQ-28)を用いて日常生活における気分の質や強度と,唾液から定量した唾液精神神経内分泌免疫学的(PNEI)反応[3-methoxy-4-hydroxyphenylglychol(MHPG)含有量,コルチゾール分泌量および免疫グロブリン(lg)A抗体産生量〕との関連性について検討した。PNEI反応と自記式質問紙によって評価した気分との相関分析を行った結果,男性の唾液free-MHPGは,不安・緊張,抑うつなどのネガティブな気分と関連が認められたが,女性では関連が認められなかった。唾液s-IgAに関しては,男女いずれの不安に関する項目と関連が認められた。唾液コルチゾールでは,男女ともに敵意一怒りや不安に関する項目と関連が認められた。また,PNEI指標を目的変数気分の下位尺度項目を説明変数とした重回帰分析の結果,free-MHPG,コルチゾール及びs-IgAが日常生活の気分の中でも特に不安,緊張状態を反映する客観的指標として有用であることが明らかとなった。以上の結果は,日常生活場面におけるネガティブ気分や心身の不定愁訴の自覚が唾液中のPNEI反応に反映されてくることを明らかにした。また,唾液のPNEI指標の反応を分析する際には,性差を考慮することの必要性も明らかにした。
著者
江田 早紀 日高 三喜夫
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.43-50, 2007
被引用文献数
2

本研究の目的は,対人感受性尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検討することである。大学生338名を対象に仮尺度について因子分析を行った結果,第1因子「否定的感受性」因子(27項目,α=0.94),第2因子「肯定的感受性」因子(12項目,α=0.91)の2因子39項目を抽出した(累積説明率42.8%)。さらに,再テスト法により,相関係数を算出した結果,第1因子「否定的感受性」因子はr=0.83,第2因子「肯定的感受性」因子はr=0.70とそれぞれ強い正の相関が見られた。また,日本語版社会的スキル尺度(榧野,1988)を用いて,作成した尺度の併存的妥当性を検討した結果,情緒的感受性尺度との相関係数がr=0.44,社会的感受性尺度との相関係数がr=0.54であり,いずれも中程度の相関が見られた。今後の課題としては,被検者を増やし,様々な年齢層を対象に調査を行うことにより,本尺度の信頼性および妥当性をさらに高めること,尺度の得点範囲について厳密な範囲設定を行うことなどが挙げられる。
著者
稲谷 ふみ枝 津田 彰 村田 伸 神薗 紀幸
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.7, pp.35-40, 2008
被引用文献数
1

本研究の目的は,高齢者介護施設職員の精神的健康度に対するワークストレスとその認知的評価の影響を検討することである。対象は,特別養護老人ホームとグループホームに勤務する46名(男性8名,女性38名),平均年齢43.1歳±11.8,平均勤続年数4.4年±2。7である。指標は,(1)GHQ28,(2)離職状況,(3)Zarit介護負担感尺度の改訂版,(4)介護ストレス認知評価尺度・身体的消耗感,(5)仕事の魅力・コントロール・介護信念評価尺度等。対象者のGHQの平均得点は7.6(GHQ法)で全体的に健康度が低く,GHQのハイリスク群の特徴として,年齢が若く主観的健康状態が不良で,仕事以外の心配事を抱えていた。精神的健康度の影響要因として,身体的消耗感,介護負担感の個人負担因子が抽出された。またFollow-up期間中に離職した8名全員が,第1回目調査時のハイリスク群に属していたことが明らかとなった。
著者
稲谷 ふみ枝 津田 彰
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.5, pp.81-90, 2006

本研究の目的は,高齢者デイケアにおける,老年期うつ病(回復期)の不眠や不安,抑うつ感情を主訴とする高齢女性に対するライフレビューを中心とする個人心理療法および施設で暮らすクライエントの環境調整の適用について,事例から検討するものである。利用者に対する心理アセスメント及び心理面接の経過を生涯発達的視点から分析し,高齢者施設における利用者のQOLを高める包括的アプローチの在り方を考察した。方法として(1)傾聴とライフレビュー,(2)薬物療法の自己管理に向けた支援を中心に,クライエントの不眠と不安状態の改善を目的とした弛緩法を取り入れ,(3)日常のなかでクライエントの心理的適応と活動性を向上させるための環境調整を行った。その結果,ライフレビューによる心理的変化として,高齢者の心理的安寧につながる家族(娘)との心の絆の再確認が示される一方,クライエントのうつ状態の背景となる心理的要因として「信仰と罪悪感」「居場所(心の安住)の模索と見捨てられ感」が示され,それらがクライエントの関係性を改善するためのポイントとなった。高齢者ケアの現場では,高齢者のこころの問題への接近のなかで統合的に関わることや,そのために他職種との連携をとること,さらにクライエントの心理的適応を促すための環境調整を図るなどの包括的心理的援助の重要性が示された。