著者
福井 敏樹 安部 陽一 安田 忠司 吉鷹 寿美江
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.70-76, 2008-06-30 (Released:2012-08-20)
参考文献数
11
被引用文献数
2

目的:血圧脈波検査装置による上腕足首間脈波伝播速度(brachial-anklepulse wave velocity:baPWV)は非侵襲的な動脈硬化検査として定着してきているが,測定の問題点のひとつである血圧の影響を少なくした装置が最近開発され,その有用性を示す結果が増えてきている.今回は2つの脈波伝播速度測定装置の測定結果を比較することを目的とした.方法:対象は当院の人間ドックを受診し,オムロンコーリン社製のform ABI/PWVとフクダ電子社製のVaSeraの両者で測定した471名で,各々の測定値baPWVと心臓足首血管指数(cardio-anklevascular index:CAVI)について比較検討した.結果:血圧の影響はCAVIではbaPWVより減弱したものであったが,統計的には有意であった.動脈硬化の危険因子重積における測定値の増加はbaPWVの方が強い相関を示した.ただし動脈硬化の危険因子である肥満や喫煙の影響については両者ともその相関を示すことはできなかった.メタボリックシンドロームの該当者と非該当者での測定値の比較ではbaPWVは該当者で有意に高値を示したが,CAVIでは有意な差を認めなかった.結論:これらの結果より,baPWVもCAVIも共に血管の動脈壁硬化度を反映すると考えられるが,やはりCAVIにもbaPWVで認められた問題点は存在し,それらを把握した上で使用することが重要である.また,baPWVやCAVI値を動脈硬化の危険因子との関連から考えることの意義についてはさらに検証を必要とすると思われる.
著者
福井 敏樹
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.809-821, 2016 (Released:2016-06-28)
参考文献数
92

我々日本人の死因の1位はがんであるが,動脈硬化性疾患である心および脳血管病変を合わせると,その割合はがんに匹敵する.そのため人間ドック健診や日常診療の最大の目的はがん対策と動脈硬化対策であるといえるが,どのような検査を動脈硬化対策の基本検査として実施するべきかについてはまだ明確になってはいない.2008年に出版された健診判定ガイドライン改訂版では,動脈硬化健診のあり方についての試案を作成した.その際に,最も意図したことは,人間ドック健診の標準検査として動脈硬化検査を定着させていくことであった.エビデンスがある程度確立されていることに加えて,施設間の機器や測定手技の精度の違い,検査にかかる時間や費用なども考慮に入れ,全国の施設で取り入れ可能な検査であることを重視した. 動脈硬化対策において実施するべき検査については,自由診療という枠組みが利用できることも考慮しながら,一方で,任意型健診といえどもその大多数が自治体等の補助や企業・会社等の福利厚生のもとで実施されている現実も含めて考える必要もある. 現在有用であると考えられる検査について,血管機能や形態的変化を調べる検査法を中心に,動脈硬化リスクを評価するバイオマーカー検査もあわせて,最近の動向と我々の施設でのこれまでの検討を含めながら概説する.
著者
小坂 加麻理 小野寺 麗佳 柳田 貴子 山田 毅彦 相馬 明美 腰山 誠 田巻 健治 大澤 正樹
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.539-544, 2021 (Released:2022-03-01)
参考文献数
15

目的:日本人一般住民の年齢階級別心房細動有病率と罹患率を求めること.対象・方法:2018年に岩手県予防医学協会の健康診断で心電図検査を実施した30~89歳の岩手県内住民264,029名(男性144,434名,女性119,595名)の年齢階級別心房細動有病率を算出した.2013年に心電図検査を実施した住民242,299名のうち,心房細動を有さず,2018年までの5年間に1回以上心電図検査を実施した212,433名(男性118,181名,女性94,252名)を心房細動罹患率解析対象とした.初回の健診から最初の心房細動捕捉までの期間を観察期間として人年法を用いて年齢階級別心房細動罹患率を算出した.心房細動が捕捉されなかった対象者では,初回から最終の健診までの期間を観察期間とした.結果:心房細動有病率(%)は,男性30歳代0.06,40歳代0.23,50歳代0.99,60歳代2.97,70歳代5.61,80歳代8.10であり,女性30歳代0.01,40歳代0.02,50歳代0.08,60歳代0.44,70歳代1.31,80歳代3.52であった.新規心房細動罹患を認めたのは男性1,214名(平均観察期間4.2年),女性350名(平均観察期間4.2年).心房細動罹患率(/1,000人年)は,男性30歳代0.24,40歳代0.76,50歳代2.41,60歳代4.78,70歳代7.45,80歳代10.22であり,女性30歳代0.07,40歳代0.03,50歳代0.48,60歳代1.06,70歳代3.06,80歳代7.32であった.結論:我々は健診データを利用して30歳から89歳の日本人一般住民を対象として年齢階級別心房細動有病率と罹患率を算出した.若年者の心房細動有病率と罹患率は本報告が初めてであり,若年者から高齢者までの一般住民の心房細動有病者を健診データを用いて明らかにした.心房細動有病者への医療機関への受診勧奨により脳心血管疾患発症リスク低減を図るとともに,若年中年者でも観察された心房細動を減らすための生活改善の対策を講じる必要があると考えられた.
著者
鈴木 朋子 今井 瑞香 窪田 素子 北 嘉昭 土田 知宏
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.22-29, 2015 (Released:2015-09-29)
参考文献数
15

目的:腫瘍マーカーは早期がんでは上昇しにくい,偽陽性が多いなどの理由から,スクリーニングには不適格と考えられている.今回CA19-9について,受診者への適切な情報提供・精査への案内に役立てるデータを得るために,当センターでのCA19-9陽性的中率と高値例の傾向を検討した.対象:2006年1月から2013年6月までに,当センター人間ドックでCA19-9を測定した延べ32,508例中,高値(>37.0U/mL)を呈した延べ790例のうち,人間ドック高値後に計2回以上,当院(病院もしくは当センター)でCA19-9の再検を施行した320例を検討対象とした.方法:CA19-9はARCHITECT® アナライザー i 2000SR(アボット,東京)CLIA法にて測定し,正常値:0.0~37.0U/mLとした.結果:8症例にがんを認めた.内訳は膵臓がん4例,胆嚢管がん1例,十二指腸がん2例,大腸がん1例だった.8症例のがん診断時のCA19-9値の中央値は,198.2(46.4~2,968)U/mLだった.うち5例には過去に正常値の記録があり,残る3例は初回指摘だった.陽性的中率は2.5%だった.結論:CA19-9陽性的中率は2.5%と低率のため,CA19-9高値例を全例精査するのは非効率的だが,CA19-9高値とその推移だけで要精査群の抽出は困難と思われた.今後,臓器特異性の高いmicroRNAとの併用など,より効果的ながんスクリーニングの選択肢が増えることを期待する.
著者
池谷 佳世 武藤 繁貴 若杉 早苗 池田 孝行 平野 尚美
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.66-73, 2022 (Released:2022-09-15)
参考文献数
20

目的:当センターの人間ドック食は,「おいしく楽しく学べる食育レストラン」をコンセプトに提供している.フレイル認知度向上を目指し,看護大学と人間ドック食を共同開発した活動報告と,フレイル予防食の実行実現性について探ることを目的とした.方法:2021年3月からの1ヵ月間人間ドック食を喫食した1,422名のうち,1,242名(有効回答率87.3%)を調査対象とした.フレイル予防に関する10食品群を含んだ人間ドック食を看護学生とともに考案し,対象者に食生活改善項目や,考案者の想いが伝わるよう学生の写真が掲載された「メニュー表」を配布した.人間ドック食喫食時に,フレイルの認知度および予防食の実行実現性に関するアンケート調査を行った.食事アンケートは,男女別および60歳以上,未満で比較した.結果:フレイルの認知度は約15%で,男性では女性より有意に低かった.男女ともに60歳未満,以上での差はほぼみられなかった.フレイル予防の食事の実行実現性は,「一日3食食べる」や「よく噛む」は80%程度と高かったものの,「予防の10食品群を意識する」は27.4%と低かった.フレイル予防食の満足度は90%以上と高かった.結論:人間ドック利用者のフレイルの認知度は低かったが,人間ドック食が理解度の向上や栄養改善の契機となることが示唆された.今後,全年代における認知度を上げる介入と,10食品群を意識できる保健指導の構築が課題である.
著者
加藤 大地 馬嶋 健一郎 金山 美紀 抱井 昌夫 篠田 誠 村木 洋介
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.421-425, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
3

目的:海外からの人間ドック受診者が増加している一方,その後の精検受診結果が把握しにくく,全体の精検受診率にもマイナスの影響を及ぼす懸念がある.精検受診率向上は,人間ドックの精度管理において重要な要素である.本研究は,外国人の精検受診が未把握となっている現状を分析し,受診率向上の対策を考える際の基礎資料とするため,海外からの受診者が精検受診率にどのくらいの影響があるかについて調査した.方法:2018年度1年間に人間ドックを受診した8,504名(うち外国人受診者2.5%,210名)を対象とし,検査数や要精検者における外国人割合や精検受診率において外国人の受診未把握がどのように影響しているかを調査した.本検討における外国人の定義は,日本国籍を有しない者かつ海外に居住している者とした.結果:要精検者のうち外国人の割合が高かった上位3つの検査について,全受診者の外国人割合,要精検者の外国人割合を示すと,大腸内視鏡検査で6.3%(106/1,686),7.1%(12/170,要治療者含む),乳がん検査で2.8%(68/2,414),6.5%(3/46),PSA検査では6.1%(114/1,881),4.7%(5/107)であった.精検受診率を日本人,外国人,両方合わせた全体で示すと大腸内視鏡検査で91.8%(145/158),16.7%(2/12),86.5%(147/170),乳がん検査で93.0%(40/43),0.0%(0/3),全体87.0%(40/46),PSA検査では78.4%(80/102),0.0%(0/5),74.8%(80/107)であり,3つの検査すべてにおいて日本人と外国人で有意差を認めた(p<0.001,p=0.01,p<0.001).精検受診にカウントできない者における外国人割合は大腸内視鏡検査で43.5%(10/23),乳がん検査で50.0%(3/6),PSA検査で18.5%(5/27)に及んだ.結論:外国人の精検受診状況が追跡できていないことによる未把握分が,全体の精検受診率低下に影響することが明らかとなった.外国人の精検受診を把握するためのフォローアップ方法について対策を立てる必要がある.
著者
齋藤 良範 柴田 香緒里 安達 美穂 後藤 明美 阿部 明子 庄司 久美 正野 宏樹 荒木 隆夫 齋藤 幹郎 横山 紘一 後藤 敏和 菊地 惇
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.47-53, 2020 (Released:2020-10-07)
参考文献数
10

目的:心房細動(atrial fibrillation: AF)は,血栓性脳塞栓症の原因疾患であり予防には抗凝固療法が有用である.高齢者ほど有病率は増加するとされることから,健康診断受診者における有病率および治療の現状を把握し経年推移を検討した.方法:2017年度の受診者175,462(男性86,923,女性88,539)名の12誘導心電図(心電図)所見から,性・年代別のAF有病率および問診票より治療率を算出した.また,2013年から2017年度まで5年間のAF有病率の推移を検討した.結果:AF有病率は1.13(男性1.81,女性0.47)%で,加齢に伴い増加し各年代とも男性が高率であった.治療率は,60歳未満55.7%,60歳代68.8%,70歳代66.6%,80歳以上63.9%で,60歳未満で低かった.CHADS2スコアが1以上となる75歳以上では65.0%であった.AF有病率の経年推移は,2013年度1.03%,2014年度1.04%,2015年度1.10%,2016年度1.12%,2017年度1.13%と増加傾向が認められたが,男女別の年齢調整後の有病率には差を認めず受診者の高齢化が原因と考えられた.結論:AF有病率は1.13%で,男性に多く高齢になるほど増加した.60歳未満では未治療者が多く75歳以上でも35%は未治療であり,加療の必要性を啓発していく必要がある.
著者
長谷部 靖子 尾上 秀彦 松木 直子 渡邉 早苗 八木 完
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.603-611, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
15

目的:近年,我が国における急速な高齢化や生活様式の欧米化により,脳心血管病(cerebral cardiovascular disease: CVD)が増加しており,CVDへの取り組みは喫緊の課題になっている.今回,腹部超音波検査で得られた腹部血管の所見について調査し,今後の健診における課題を検討した.方法:2015年度から2017年度に健診腹部超音波検査を受検した10,594名を対象とし,腹部動脈の所見と背景因子を調査した.結果:腹部超音波検査にて指摘した所見は,腹部大動脈瘤8名(0.08%),総腸骨動脈瘤4名(0.04%),内臓動脈瘤6名(0.06%)(脾動脈2名,腎動脈3名,右胃大網動脈1名)であった.また,腹部大動脈の穿通性アテローム性潰瘍(penetrating atherosclerotic ulcer: PAU)は10名(0.09%)に認めた.粥状硬化は腹部大動脈と腸骨動脈病変で強く,内臓動脈瘤では目立たなかった.結論:健診腹部超音波検査で動脈疾患を指摘することは,CVDによる死亡率の減少と健康寿命の延伸のために意義がある.内臓動脈瘤の指摘には嚢胞と確信の持てない無エコー腫瘤に対して,カラードプラやFast Fourier Transform 解析(FFT解析)を行うことが重要である.腹部大動脈の走査では,腹腔動脈,上腸間膜動脈,腎動脈の起始部や腸骨動脈の狭窄評価,特に粥状硬化が目立つ症例では血管内膜下の低エコーの有無を確認しながら可能な限り腸骨動脈末梢まで走査することがPAUの前駆病変やPAU,動脈瘤の評価には必要である.
著者
志賀 朋子 志賀 清彦 菊池 式子 東岩井 久 米田 真美 関口 真紀 石垣 洋子 森山 紀之 小澤 信義
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.525-529, 2017 (Released:2017-12-22)
参考文献数
4

目的:当施設では2014年4月より婦人科検診の精度向上のため子宮頸部擦過細胞診をThinPrep法による液状化細胞診(liquid based cytology:以下,LBC法)に変更した.今回我々は,従来法とLBC法との検出率の比較を行い,LBC法の効用について報告する.対象と方法:当施設で実施した子宮頸部擦過細胞診について,2013年(1~12月)の20,341件従来法と2015年(1~12月)の21,690件LBC法を対象とした.不適正標本出現率と異型細胞診検出率を比較した.LBC法はThinPrep法(オートローダ―)を使用した.結果:不適正標本出現率は従来法0.39%,LBC法0.10%,異型細胞検出率はASC-US(Atypical squamous cells of undetermined significance):従来法0.84%,LBC法0.77%,ASC-H(Atypical squamous cells cannot exclude HSIL):従来法0.01%,LBC法0.03%,LSIL(Low-grade squamous intraepithelial lesion):従来法0.30%,LBC法0.60%,HSIL(High grade squamous intraepithelial lesion):従来法0.22%,LBC法0.29%であった.考察:LBC法は従来法と比べ,不適正標本出現率を軽減した.LBC法は細胞回収率を高く保ち,標本作製までの技術差を解消できたことが要因であると考えられる.鏡検過程でのスクリーナーの負担軽減やLBC法への移行に伴う細胞所見の観察に関する研修も必要であると考える.その反面デメリットは初期投資やランニングコストの増加,血液の前処理などの増加がある.結語:LBC法への移行は不適正標本の減少,異型細胞検出率の向上をもたらし,鏡検時間の短縮など,細胞検査士の負担も軽減したと考える.
著者
ルネ・ デュ・クロー 岡部 夕里
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.615-626, 2011 (Released:2012-03-28)
参考文献数
36

目的:著者らはオランダの公立病院を会場として,主に在蘭日本企業の社員とその家族を対象とした「在蘭日本人健康診断」を行っている.オランダ在住の日本人ではライフスタイルの変化により脂質値など動脈硬化性疾患リスク因子への影響が考えられる.本研究では,在蘭日本人駐在員におけるリスク因子分析およびリスク評価の結果に基づき,予防的見地からの脂質管理の重要性を明らかにする.方法:2003年1月から2010年9月までの間に実施された在蘭日本人健康診断の30歳以上の初回参加者,男性657名,女性513名の合計1,170名を対象に,性別と年齢,BMI,血圧,脂質値,空腹時血糖,喫煙,冠動脈疾患の家族歴,運動習慣,飲酒量の各データについて検討した.このデータに基づき,脂質を始めとする動脈硬化性疾患の危険因子を分析し,日本の既存のデータと統計的に比較した.結果:年齢調整後,LDLコレステロール,総コレステロール/HDLコレステロール比,空腹時血糖が本研究対象者の男性で日本のデータに比べ有意に高かった.また,高LDLコレステロール血症の有病率が他の危険因子を大きく上回った.男性の他の危険因子および女性では,本研究対象者が日本在住者より良い結果であった.結論:本研究対象者では脂質異常が動脈硬化性疾患の主な危険因子であり,他の因子の関与は少なかった.したがって,健康指導においては脂質管理に重点を置くべきである.
著者
新 啓一郎 美並 真由美 石川 豊 首藤 真理子 松本 洋子 庄司 きぬ子 石坂 美智子 加治 清行 小﨑 進 藤間 光行 萎沢 利行
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.608-615, 2013 (Released:2014-03-28)
参考文献数
17

目的:高齢者では,自律神経系の調節障害により起立性低血圧を来しやすいことが知られている.本研究では,仰臥位から座位への体位変換に伴う血圧の変化を調べ,年齢および高血圧との関連を検討した.方法:2010年に健診を受診した8,862人(男性5,325人,女性3,537人)を対象とした.安静仰臥位で血圧を測定し,つぎに座位への体位変換1分後に血圧を測定した.一部のものでは1分間隔で座位5分後まで測定した.1分後の血圧変化と年齢および臥位血圧との関係を調べた.全対象者を男女別に座位1分後の収縮期血圧変化量により4群に分け(Ⅰ群:≧10mmHg,Ⅱ群:9~0,Ⅲ群:-1~-9,Ⅳ群:≦-10),さらに10歳ごとの年齢層別に分けて高血圧,脂質異常症および耐糖能異常との関係を比較した.結果:血圧は体位変換1分後より低下し,5分後まで低下していた.1分後の血圧変化と年齢および臥位血圧との間には負の相関関係が認められた(年齢:男性r=-0.201,女性r=-0.180,ともにp<0.001,臥位血圧:男性r=-0.397,女性r=-0.361,ともにp<0.001).男性では40歳以上,女性では40~69歳で,Ⅳ群においてⅠ~Ⅲ群よりも高血圧を有するものの割合が多かった.結論:体位変換による血圧低下は加齢や血圧増加と関連があり,さらに,血圧低下の大きかったもので年齢が高く,高血圧を有するものの割合が多かったことより,その機序には加齢や高血圧による自律神経系の調節障害の関与が考えられる.
著者
髙島 周志 竹中 博美 泉 由紀子 齋藤 伸一 住谷 哲 中村 秀次 佐藤 文三
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.44-49, 2010 (Released:2013-02-28)
参考文献数
20

目的:非アルコール性脂肪性肝障害(Nonalcoholic Fatty Liver Disease:以下,NAFLD)の患者の多くでインスリン抵抗性を示すことが報告されてきている.しかし,インスリン抵抗性がNAFLDの原因なのか結果なのか,脂質代謝に如何に関与するのか,抵抗性がインスリン作用発現機構のどのステップで生じているのか等は不明な点が多い.今回我々は人間ドック受診者を対象に,NAFLDにおけるインスリン抵抗性が生じる機構について検討した.方法:当センターを2008年に受診した3,698名の中で,アルコール飲酒の習慣がなく,糖および脂質に関する薬を服用していない男性521名,女性575名を対象とした.インスリン抵抗性の指標としては,糖代謝関係のHOMA-Rと,脂質関係のTG/HDL-Cを用いた.脂肪肝の有無は腹部超音波検査で判定した.結果:HOMA-R値上昇とともに脂肪肝の発生頻度も上昇した.一方TG/HDL-C値上昇とともに脂肪肝の発生頻度も増加し,ROC解析でTG/HDL-C値はHOMA-Rと同等の脂肪肝検出能を持っていた.結論:NAFLDの発生頻度はHOMA-R値上昇につれ増加し,インスリン抵抗性はNAFLDの病態に関与することが示唆された.また,インスリン抵抗性はレセプター以降の,糖質制御経路と脂質制御経路の分岐以降で生じていると考えられた.
著者
船津 和夫 山下 毅 本間 優 栗原 浩次 斗米 馨 横山 雅子 細合 浩司 近藤 修二 中村 治雄
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.32-37, 2005-06-30 (Released:2012-08-20)
参考文献数
13
被引用文献数
1

目的・方法:近年,男性において,肥満者の増加に伴い生活習慣病の1つである脂肪肝罹患者数の増加が著しい.最近,非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)やC型肝炎において瀉血療法により血中ヘモグロビン(Hb)を低下さることにより,肝細胞障害の改善とともに,肝細胞内の脂肪滴貯留が改善することが報告され,肝炎や脂肪肝において肝臓に蓄積した鉄がこれらの病態に関与していることが明らかにされてきた.しかし,脂肪肝と血中ヘモグロビンとの関係についてはこれまで検討されていない.そこで,中年男性を対象として,血中ヘモグロビン値と脂肪肝との関連について調査した.結果:非肥満者,肥満者ともに脂肪肝を有する群が無い群に比べ,血中ヘモグロビン値は有意に高値であった.また,血中ヘモグロビンの高値は肥満の有無にかかわらず,脂肪肝における肝機能検査値の異常にも関係していることが示された.さらに,ロジスティック回帰分析より,血中ヘモグロビンは飲酒量,肥満度とともに,独立した脂肪肝の関連因子であることが明らかにされた.結論:以上より,血中ヘモグロビンに含まれている鉄が間接的に脂肪肝の発症とそれに伴う肝機能障害に関連していることが示唆された.
著者
吉益 順 三好 恭子 見本 真一 菊池 美也子
出版者
Japan Society of Ningen Dock
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.555-561, 2013

<b>目的:</b>健診における接遇改善のため,施設全体での取り組みのほかに放射線技術部が独自の方法で対策を試み,接遇向上に寄与することを目的とした.<br><b>方法:</b>部内で選ばれた風紀委員が接遇の月テーマ,週テーマを設定し,部内スタッフ26名全員がひと月ごとに当番制で接遇の評価担当者となった.評価担当者はテーマに沿って日常業務のなかでスタッフや健診現場を観察しながら,優秀な手本となる対応などを評価した.お互いの接遇を観察し合うなかで全体の意識と行動のレベルアップを図り,お客様の声や職員健診時のアンケートから効果を確認した. <br><b>結果:</b>優秀者として15名が取り上げられた.内訳としては20歳代8名中2名,30歳代4名中3名,40歳代10名中6名,50歳代4名中4名で経験年数の長いスタッフが多くを占めた.職員健診時の接遇に関するアンケート結果では,ほとんどが「良い」と「まあまあ」であった.「お客様の声」ではお褒めの言葉の割合が年々増加し,取り組みを継続した結果,平成24年はお褒めの言葉が苦情・要望を上回った.<br><b>結論:</b>部署独自の状況を考慮した方法で接遇改善に取り組むことにより,効果的に接遇向上がなされた.さらにレベルの高いサービスを提供するために今後も活動を継続していく必要がある.<br>
著者
加藤 裕美佳 藤井 晴代 吉田 徹 佐尾 浩 長尾 和義 二村 良博
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.527-532, 2008-09-30 (Released:2012-08-20)
参考文献数
11
被引用文献数
2

目的:ストレスを感じている受診者の生活習慣,ドック検査結果の傾向およびそれらの3年間の推移を分析し,ストレスの健康に及ぼす影響を検討した.方法:2004年1月から2006年12月までに一日人間ドックを受診した3,244名(男性2,242名,女性1,002名)において,「ストレスがたまっていると感じることがありますか?」の問いの回答により,A群:いいえ,B群:少しある,C群:かなりある・常にある,の3群に分けて検討した.結果:C群は,約15%で,A群,B群と比較し,平均年齢は低く,若い会社員,若い主婦が多い.生活習慣は,趣味は少なく,笑いが少なく,運動しない傾向にあり,さらに睡眠障害の訴えが強く,多彩な身体症状を自覚している。検査結果に異常を認めない割合は高いが,3年間の経過で,約70%に新たな異常所見を認めた.異常所見のうち,早期に出現し,一番頻度が高かったのは,脂質異常であった.慢性的なストレスと睡眠障害を訴えるC群の14.6%が不眠症を含む精神疾患の治療を受けていた.結論:若い世代では,ドックの検査結果上,特に異常を認めないことが多いが,ストレスを感じ,睡眠障害の訴えがある場合は,経過とともに異常所見が出現し,身体的,精神的疾患を生じてくる可能性が高い.睡眠障害の訴えは特に重視し,健診が,心療内科,精神神経科などへの早期受診,指導,治療へとつながってゆく架け橋となる必要がある.
著者
村尾 敏 岡 翼 長町 展江 本多 完次 荒川 裕佳子 森 由弘 厚井 文一
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.65-70, 2010 (Released:2013-02-28)
参考文献数
9

目的:日本人のLDL-コレステロール/HDL-コレステロール(L/H)比の分布と動脈硬化危険因子との関連を検討する.方法:対象は2004年に当院人間ドックを受診した3,717名.これらから,検討1):糖尿病・高血圧・高脂血症の治療を受けていていないもの,検討2):body mass index(BMI),血圧,種々の代謝因子がすべて2008年人間ドック学会ガイドラインの基準内のもの,検討3):検討1対象者のなかでLDL-コレステロールが139mg/dL以下であるもの,を抽出しL/H比と他の動脈硬化危険因子を検討.結果:L/H比は検討1,検討2,検討3でそれぞれ2.24±0.88,1.46±0.42,1.90±0.67でありすべての群で性差(男性が高値)を認めた.検討2対象者のL/H比の90パーセンタイル値は2.02(男性2.25,女性1.77)であった.LDL値が比較的低値の集団(検討2,3)ではL/H比はLDL値よりHDL値に大きな影響を受けていた.LDL値が139mg/dL以下であってもL/H比が高値のものは低値のものより高感度CRP値が高値であった.結論:BMI,血圧,種々の代謝因子がすべて人間ドック学会ガイドライン基準内にある者のL/H比の90パーセンタイル値は2.02であった.LDL値が低値でもL/H比高値のものはL/H比低値のものより動脈硬化の危険因子が高度である可能性がある.
著者
尾上 秀彦 長谷部 靖子 渡邉 早苗 八木 完
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.478-485, 2018 (Released:2018-12-31)
参考文献数
17

目的:近年,非アルコール脂肪性肝疾患(Nonalcoholic Fatty Liver Disease:NAFLD)やアルコール性肝障害(Alcoholic Liver Disease:ALD)の増加に伴う肝硬変,肝細胞がんが問題になっている.そこで,腹部超音波検査で脂肪肝の評価を行い,生活習慣病関連項目との関係を検討した.対象:2015年度に健康診断にて腹部超音波検査を受検した5,436名を対象にした.脂肪肝の有無を評価し,脂肪肝をNAFLDの飲酒量である少量,中等量,ALDの飲酒量である多量の3群に分類した.結果:脂肪肝は男性の約46%,女性の約22%に認められた.BMIや腹囲,血圧,糖代謝,肝機能検査は,脂肪肝がない群と比較して3群とも有意に高値であった.また飲酒量による比較では,飲酒量が増えるにつれ,TGやHDL-C,肝酵素の上昇を認めた.生活習慣に関する検討では,性別や飲酒量に関わらず,脂肪肝では「20歳から10kg以上体重増加」が独立して影響し,男性ではNAFLDは「1回30分以上の運動を週2回以上,1年以上」のないこと,中等量やALDは「就寝前2時間以内の夕食が週に3回以上」が独立して影響していた.結論:若年時から生活習慣に対しての介入,飲酒量も加味した保健指導が重要である.
著者
茂木 智洋 永田 浩一 藤原 正則 村岡 勝美 飯田 直央 那須 智子 増田 典子 小倉 直子 島本 武嗣 光島 徹
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.22-28, 2013 (Released:2013-09-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1

目的:大腸3D-CTを異なる一定線量あるいは自動露出機構で撮影し,適正撮影条件を被ばく線量と画質から比較検討した.方法:任意型検診として大腸3D-CTを受診した836名を対象とした.64列CTの撮影条件を一定線量のA群:50mAs,B群:75mAs,C群:100mAs,そして自動露出機構のD群:Volume EC,SD20の4群とし,各群の平均被ばく線量を算出した.各群をさらにBMI(20未満,20以上25未満,25以上30未満,30以上)別に分けて平均被ばく線量と線量不足による画質劣化の有無を評価した.結果:各群の平均被ばく線量はA群で10.7mSv,B群で16.0mSv,C群で20.7mSv,D群で5.4mSvとなり,撮影線量を一定線量としたA~C群よりも自動露出機構のD群で平均被ばく線量が低かった.A~C群の各群では,BMIが高くなるにつれ撮影範囲が長くなることにより平均被ばく線量が高くなる傾向にあった.D群ではさらに体厚に合わせて線量が自動調整されるためBMIの違いによる変化が大きくなった.線量不足による画質劣化のために読影不能となる症例は全群で認めなかった.結論:自動露出機構群は一定線量群と比べると,読影に支障を来すことなく個人に適した線量が自動調整されることにより,平均被ばく線量を抑えることができた.適切な自動露出機構を設定し撮影することは臨床上有用であると考えられた.