著者
矢谷 博文
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.209-224, 2020 (Released:2020-08-13)
参考文献数
56

目的:オールセラミックカンチレバーブリッジの生存率,成功率と合併症に関する系統的文献レビューを行い,評価すること.方法:オールセラミックカンチレバーブリッジの生存率,成功率,失敗のリスクファクターならびに合併症について記載された文献について,適切なMeSHの選択と包含基準の設定を行ったうえで,PubMedからコンピュータオンライン検索を行った.検索された文献の抄録を精読してさらに文献を絞り込み,最終的に15論文を選択し,レビューを行った.結果:得られた結果は以下のとおりである:1)生存率と成功率の考察は,異なる10のコホートの患者302人,ブリッジ381個の臨床成績を対象とした,2)MIを具現化する少数歯欠損補綴法としてのカンチレバーブリッジ,特に接着カンチレバーブリッジの生存率,成功率は高く,2リテーナー型の接着ブリッジよりも優れた臨床成績が得られている,3)症例選択はカンチレバーブリッジ成功の重要な要素であり,欠損部位としては,上顎側切歯,上顎中切歯,下顎切歯,上下顎小臼歯が適しており,欠損歯数は1歯で支台歯は生活歯であることが望ましい,4)使用材料としては,最近はガラスセラミックスに代わって高密度焼結型ジルコニアが用いられるようになっており,材料として最も適切と考えられる,5)合併症の出現率は総じて低く,特に生物学的合併症の出現頻度はきわめて低く,ほとんどが脱離をはじめとする技術的合併症である,6)接着カンチレバーブリッジを成功に導くためには,2リテーナー型接着ブリッジにおいて確立された接着技法を遵守することが重要であり,装着にはMDP含有の歯科用接着材が適している.結論:オールセラミックカンチレバーブリッジ,特に接着カンチレバーブリッジの生存率,成功率は高く,また従来型2リテーナー型ブリッジを上回る利点を多く有し,メタルフレームを用いたカンチレバーブリッジとともに少数歯欠損補綴法の1オプションに加えられるべきである.
著者
堀田 康弘
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.291-298, 2021 (Released:2021-10-30)
参考文献数
8

近年,歯科だけにとどまらず,産業界でも3Dプリンティングを中心とした新たな三次元での製造技術の普及と共に,もとになる三次元座標データ収集に対する要求が高まっている.以前は,設計形状を図面として記述するために行っていた製図やクレーモデル製作などの手作業での工程を効率化するために開発がすすめられたCAD/CAMシステムであったが,リバースエンジニアリングやCAE(computer-aided engineering)など,デジタルデータをスタートラインとする工程が増えたことで三次元計測に対する研究開発が進められるようになった.本解説では,産業界の三次元計測に用いられる代表的な手法について,その原理と特徴を解説し,歯科の口腔内スキャナで応用されている技術の解説と注意点についてまとめる.
著者
田上 直美
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.244-249, 2022 (Released:2022-07-28)
参考文献数
5

日本におけるCAD/CAM冠の歯科医療保険収載は,2014年の小臼歯部への適用を皮切りに始まった.同年,公益社団法人日本補綴歯科学会医療問題検討委員会は,「保険診療におけるCAD/CAM冠の診療指針2014」を作成し,CAD/CAM冠を用いた補綴歯科診療方針の詳細を,学会ホームページにて会員に,診療報酬改定関連セミナー等を通じて広く歯科医療従事者に報知した.その後,保険収載が大臼歯や前歯部へ拡大したことを受け,同委員会は改めて2020年に「保険診療におけるCAD/CAM 冠の診療指針2020」を作成した.本解説では,診療指針2014を基本としつつ大幅に改訂された診療指針2020の概要についてまとめる.
著者
武内 博朗 花田 信弘
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.206-214, 2019 (Released:2019-07-30)
参考文献数
21
被引用文献数
1

歯を喪失すると咀嚼機能が低下する.咀嚼機能が低下した状態では,糖質の摂取量が増加する.一方で低GI食品,タンパク質,抗酸化物質,食物繊維,ビタミン群,ミネラル群などの摂取量が低下する.ブドウ糖負荷の増加およびタンパク質エネルギー低栄養の状態はメタボリック症候群やフレイル,さらには非感染性疾患Non Communicable Diseases(NCDs)の発症リスクを上昇させる. 本稿は,歯科補綴治療による咀嚼機能回復と栄養指導を中心とする保健指導の集中運用が体組成や代謝指標にもたらす健康増進効果について症例を提示し紹介する. 大臼歯欠損者71名を対象に歯科補綴治療介入前後の咀嚼機能値を評価した.また,71名の症例のうち歯科補綴と同時に保健指導を実施した25名について,歯科補綴治療介入前および保健指導90日後に体組成,血圧測定,血液検査を行い,体組成・代謝について数値を比較評価した. 歯科補綴による咀嚼機能向上が71名の全症例で認められた.保健指導を実施した25名の全症例で基礎代謝基準値(骨格筋量),BMI,体脂肪率,内臓脂肪レベル,タンパク質充足率が改善した.HbA1cは保健指導群のうち測定した7例全例で改善した. 咀嚼機能低下者におけるNCDsの発症予防,重症化予防のためには,歯科補綴による咀嚼機能回復と同時に行う保健指導が有効と考えられた.
著者
髙江洲 雄 谷口 祐介 平川 智裕 一志 恒太 城戸 寛史 佐藤 博信 松浦 尚志
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.230-236, 2021 (Released:2021-07-30)
参考文献数
22

目的:コンポジットレジンブロックによる小臼歯CAD/CAM冠(以下,CAD/CAM冠)の短期間の臨床報告はあるものの,接着処理などの条件が統一されていないため永続性には不明確な部分が多い.本研究では,接着処理を一定の条件下で装着した小臼歯CAD/CAM冠の予後評価を行う事を目的とした.方法:2014年4月1日から2020年3月31日までの6年間に福岡歯科大学医科歯科総合病院補綴科・インプラント科の歯科医師16名が装着した小臼歯CAD/CAM冠の装着数,性別,装着時年齢,支台歯および対合歯の状態,残存歯数,歯種,アルミナサンドブラスト処理,リン酸処理,シラン処理の接着処理をすべて行った群(ガイドライン順守群)と接着処理のいずれか一つを行わなかった群(ガイドライン不順守群)に分け調査した.また.生存期間とそれに関連する因子をKaplan-Meier法とCox比例ハザード分析を用いて検討した.結果:6年累積生存率は93.6%,成功率は88.8%であった.ガイドライン順守群とガイドライン不順守群の6年累積成功率はガイドライン順守群が92.7%,ガイドライン不順守群が79.5%であり,統計学的な有意差を認めた.Cox比例ハザード分析を用いた結果,接着処理の有無で生存期間と有意な関連を認めた.結論:接着処理の手順を遵守することが,長期予後を得るために重要である可能性が示唆された.
著者
和気 裕之 小見山 道
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.256-266, 2012 (Released:2012-09-21)
参考文献数
62
被引用文献数
2 1

顎関節症の治療は,その病態や病因に関する研究や臨床経験などを基に日々発展しているが,未解明な部分も多い.本論文の目的は,顎関節症患者の心身医学的な治療の変遷をまとめることで,患者および研究者,臨床家に貢献することである.論文の検索は,医学中央雑誌,PubMedおよび出版されている書籍などを用いた.その結果,顎関節症の心身医学的な病因や,心身医学的対応に関する検討は少なく,またランダム化比較試験などのエビデンスの高い研究はほとんど認めなかった.しかし,その重要性を示唆する論文や書籍は多く,今後,さらに基礎的・臨床的な研究を進めることが,顎関節症患者の健康につながると考えられた.
著者
松山 美和
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.285-290, 2014 (Released:2014-08-12)
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

社会変化に伴い高度化・複雑化する医療の中で,歯科衛生士にも専門医療職としての資質向上が求められている.歯科衛生士の職域や業務内容は今後拡大すると予測され,「自ら学び行動できる」歯科衛生士が社会に必要とされる. 本稿では歯科衛生士の大学教育と大学院教育を紹介し,キャリアとしての認定歯科衛生士制度についても紹介する.歯科衛生士が資質向上を目指すとき,歯科医師は技術指導のみならず,「学べる」機会や環境を提供し,知識・理解を深めることを支援すべきである. 本学会には,日本歯科衛生士会と連携して歯科衛生士の学びの場として提供・活用することが歯科衛生士のキャリアアップ支援になることを提言したい.
著者
上窪 祐基
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.193-196, 2022 (Released:2022-04-27)
参考文献数
7

症例の概要:79歳の女性,歯肉の腫脹と疼痛を主訴に来院した.診断の結果,保存不可の歯を抜歯し,旧義歯の修正と歯周基本治療を行った.対合にインプラントを含むため,強度を考慮した金属床義歯を設計し,補綴前処置として支台歯に歯冠修復を行い,金属床義歯を装着した.考察:義歯の動揺の減少を目的に,支台装置の連結強度を高めた金属床義歯による補綴治療を行った.その結果,適切な支持・把持・維持と強度が得られ,咬合力分散と歯軸方向への伝達が可能となり,良好な予後を得ることができた.結論:対合にインプラントを含む本症例は,連結強度を高めた最終補綴装置の装着により,咀嚼能力を改善させることができた.
著者
谷口 祐介
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.209-212, 2022 (Released:2022-04-27)
参考文献数
4

症例の概要:患者は64歳女性.上顎前歯部欠損と下顎両側遊離端欠損による咀嚼障害を主訴に来院した.咬合平面の不整や咬合崩壊を認め,これらを改善するために,上下顎欠損部のインプラント補綴を伴う咬合再構成を行った.考察:インプラント固定性補綴歯科治療により咀嚼機能が向上した.最終補綴装置装着後約4年経過したが,全顎的な補綴処置を行うことによって咬合の安定が図られたことと継続的なメインテナンスによって残存歯ならびにインプラント部が経年的に維持できたと考えられた.結論:本症例では,欠損部のインプラント補綴と残存歯の歯冠修復による咬合挙上を伴う咬合再構成を行ったことで,咀嚼障害が改善された.
著者
浦野 絵里
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.97-100, 2022 (Released:2022-01-19)
参考文献数
2

症例の概要:76歳女性.下顎義歯不適合および 21| 疼痛による咀嚼困難を主訴として来院した.21| 残根上にオーバーデンチャーが装着されており,21| に動揺を認めた.下顎両側臼歯部は顎堤吸収が著しく,義歯は不安定であった.21| 抜歯の同意を得た後,2本のインプラントを支台とするインプラントオーバーデンチャーを装着した.考察:残存歯を保存することによりインプラント埋入直後の創面保護が可能となった.磁性アタッチメントによるインプラントオーバーデンチャーは,高齢患者にも義歯着脱が容易であった.結論:高度な下顎顎堤吸収の症例に対し,インプラントオーバーデンチャーを適用し,良好な予後が観察された.
著者
山瀬 勝 曽布川 裕介 石田 鉄光 岡田 智雄
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.137-144, 2017 (Released:2017-05-30)
参考文献数
33
被引用文献数
4 3

目的:日本歯科大学附属病院におけるCAD/CAMレジンクラウンの臨床応用実態を把握するために,小臼歯に装着された補綴装置の装着本数を調査した.方法:平成26年4月から平成28年3月までの24カ月間に日本歯科大学附属病院で装着されたCAD/CAMレジンクラウン,硬質レジンジャケットクラウンおよび全部金属冠の本数を調査した.CAD/CAMレジンクラウンについてはトラブルの割合を調査し,その原因を検証するため装着操作に関するアンケート調査を行った.結果:CAD/CAMレジンクラウン,硬質レジンジャケットクラウン,全部金属冠の装着数はそれぞれ474個,196個,818個であった.CAD/CAMレジンクラウンの装着本数は徐々に増加し,平成28年3月では小臼歯補綴の51.3%を占めた.脱離・破折といったCAD/CAMレジンクラウンのトラブルの割合は5.7% であった.装着操作についてはサンドブラスト処理が37.8% の症例でしか行われていなかった.結論:CAD/CAMレジンクラウンの装着数は増加しており,小臼歯の補綴装置として認知されてきていることが示唆された.しかし脱離・破折症例も認められたため,適応症の選択や接着操作に留意することが示唆された.
著者
古賀 麻奈花
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.281-284, 2021 (Released:2021-07-30)
参考文献数
3

症例の概要:患者は45歳男性,う蝕による咀嚼障害を主訴に来院.上顎右側中切歯および下顎左右側臼歯はう蝕により残根状態を呈しており,咬頭嵌合位にて上顎左右側第二大臼歯は機能咬頭が下顎顎堤に接していた.下顎残存歯切縁および咬合面をジルコニアフレームワークにて被覆した部分床義歯にて咬合挙上および咬合平面の是正を行い,咀嚼障害の改善を図った.考察:垂直的補綴空隙の減少に対し,部分床義歯にて咬合高径と咬合平面を是正したことで,咀嚼障害の改善と最大咬合力の増加が認められた.結論:垂直的補綴空隙の減少を伴う咀嚼障害に対し,ジルコニアフレームワークを用いた部分床義歯により咀嚼機能の回復が認められた.
著者
鈴木 敏彦
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.129-134, 2015
被引用文献数
1

2011年3月11日に発生した東日本大震災における犠牲者は,2015年2月現在で1万5,800名を超え,なおも2,500名以上が行方不明となっている.発見遺体は99%以上が身元が判明し,歯科所見に基づく生体情報の有効性が実証された.その一方で,多数の歯科医師の身元確認作業への動員という人的マネージメント,そして膨大な生前・死後情報の整理と,今後起こりうる緊急状況に備えた歯科診療情報の保全という情報マネージメントの面に代表される問題点も浮上している.本稿では,発災から4年間,身元確認作業で何が行われてきたかを継続的に見てきた立場から,身元確認の現場の状況と課題,そして今後の展望の整理を試みた.
著者
山本 司将 中村 健太郎 山口 雄一郎 松浦 尚志
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.135-142, 2019 (Released:2019-05-02)
参考文献数
11

目的:本研究の目的は超高速MRI装置を用いて咀嚼運動時における顎関節部の撮像を行い,咀嚼運動時における下顎頭と関節円板の動態を読影するとともに,下顎頭および関節円板が移動した距離を測定できるかどうかを分析することである.材料と方法:被験者は健常有歯顎者の成人男性歯科医師1名とし,高速撮像が可能なMRI装置を用いて,顎関節部の習慣性開閉口運動ならびに被験食品(ガムとカマボコ)の咀嚼運動について撮像を行った.撮像によって得られたDICOMデータからDICOMビューア上で顎関節部の動態を読影し,下顎頭と関節円板の移動距離を計測した.考察:顎関節部を超高速MRI装置で撮像を行うことで,従来行われてきた顎関節の形態や開閉口運動の読影のみではなく,咀嚼運動時における下顎頭と関節円板の運動(顎関節部の動態)を読影することができた.結果として咀嚼運動時における下顎頭と関節円板の移動距離を計測することが可能であり,その移動距離がわずかであることがわかった.結論:咀嚼運動時の顎関節を超高速MRI装置で連続撮像することで下顎頭と関節円板の運動(顎関節部の動態)を読影することができ,同時に下顎頭と関節円板の移動距離を計測することが可能となった.
著者
水口 俊介
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.315-321, 2011 (Released:2011-12-08)
参考文献数
35

全部床義歯の製作法には多くのドグマが潜んでいる.しかし超高齢社会を迎えたわが国において,各種コストを浪費するこのようなドグマが存在することは許されない.個人トレーとコンパウンド等を用いた辺縁形成による印象法が多くの大学で採用されている.しかしコンパウンドは,習熟するまでには訓練が必要であり,技術修練のための教育時間が著しく削減された現状の教育環境ではそれが達成できているかどうか疑わしい.またそのように手間をかけて製作した義歯が必ずしも患者の満足につながらないという報告は多い.われわれは,これまでの製作法や教育法を綿密に再検討し,真に適切な手法で教育しなければならない.
著者
山脇 加奈子 吉川 峰加 津賀 一弘 久保 隆靖 田地 豪 赤川 安正
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.179-184, 2015 (Released:2015-04-18)
参考文献数
19

症例の概要:患者は73歳男性で脳血管性認知症を有しており,認知症病棟に入院中である.唾液や食物を飲み込みにくいという主訴の下,摂食観察を行ったところ多量の口腔内食物残留および喫食率の低下を認めた.また,嚥下造影検査(Videofluoroscopic examination of swallowing: VF)では,舌搾送運動の不良,嚥下反射の惹起遅延,ならびに口蓋から咽頭部にかけての食物残留を認めた.そこで,従来からの口腔機能リハビリテーションに加え,飴を舐める機能を応用したリハビリテーションを6カ月間行い,訓練介入前後および介入期間中の嚥下機能,口腔機能,口腔内環境,体重および摂食状況を観察したところ,舌搾送運動の改善,最大舌圧値,体重,喫食率の増加,口腔内の食物残留量や細菌数の減少を認めた.考察:中等度認知症患者に対し,従来のリハビリテーションに加えて,複雑な指示理解を必要としない飴を舐めるリハビリテーションを継続することにより,口腔内および口腔周囲筋の廃用防止と口腔内環境の改善につながったものと考えられた. 結論:6カ月間の本口腔機能リハビリテーションにより,口腔の機能と環境に改善を認めたことより,中等度認知症患者において,飴を用いたリハビリテーションが有効である可能性が示唆された.
著者
飯田 良平
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.316-321, 2020 (Released:2020-10-24)
参考文献数
5

パーキンソン病は神経変性疾患のなかではアルツハイマー型認知症に次いで多く,訪問歯科診療などの現場では少なからず遭遇する.オーラルジスキネジアや開口保持が困難となれば,種々の歯科治療だけでなく口腔衛生管理に際しても難渋することとなる.姿勢や口腔機能の障害が進行すれば,義歯のコントロールも不良となり,徐々に使用困難となることが多い.摂食嚥下障害は高率に存在するが身体的運動障害とは必ずしも関連しないとされている.また不顕性誤嚥(誤嚥してもむせがみられない)の多いことも特徴とされている.患者の予後に影響する①摂食嚥下障害における口腔衛生管理や摂食機能療法,②水分・栄養・服薬管理の観点からの口腔機能管理,③付随する唾液誤嚥や流涎,そして顎関節脱臼への対応など,歯科が対応すべき問題は多いと考える.
著者
黒住 明正 赤松 由崇 白木 篤 中島 啓一朗 佐伯 正則 西川 悟郎 原 哲也 皆木 省吾
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.260-266, 2010-10-10 (Released:2010-10-22)
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

目的:阪神・淡路大震災において被災者の一部は,地震による家屋の倒壊により避難時に義歯を放置・紛失するという状態に陥った.復興のさなか,簡便で効率的な義歯製作法が求められたので,われわれが阪神・淡路大震災において実施した大規模災害時における有床義歯製作の考え方とその製作方法について報告する.材料と方法:通法に従い口腔内のアルジネート印象を採得し,印象用石膏により製作した作業用模型上にて基礎床を作る.上顎 6前歯・下顎 6前歯が一塊となった人工歯と 4臼歯が一塊となったシェル臼歯を口腔内で基礎床と常温重合レジンにより位置決めし,両者の間隙に粉液比を低く低粘稠度に混和した常温重合レジンを流し込み研磨面形態を製作する.最後に粘膜面に暫間軟質裏装材を適応する.考察:本義歯製作方法は,審美性にやや劣り永続的使用に適さないという欠点を有する.しかし,通法と比較して大幅に作業時間が短縮し,復興後のかかりつけ歯科医のコンセプトに従った補綴装置の設計・製作を阻害しないという点を有しており,災害時の歯科救援活動に貢献するものと考える.結論:本義歯製作方法は,大規模災害時において簡便かつ効率的な義歯製作を可能とするものであり,半年程度で現地歯科医療機関の一次的な復興が望める被災地においては特に有効であると考えられる.
著者
田地 豪 二川 浩樹
出版者
公益社団法人 日本補綴歯科学会
雑誌
日本補綴歯科学会誌 (ISSN:18834426)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.399-404, 2014 (Released:2014-11-12)
参考文献数
13

平成17年,わが国で初めて広島大学歯学部に4年制の歯科技工士養成機関である口腔保健学科口腔保健工学専攻が設置された.歯科技工士をオーラルエンジニアと捉え,新しいオーラルエンジニアには工学的知識・技能のほかに,生物学的知識・技能,高度専門医療やチーム医療などに関する能力が必要になると考え,教育カリキュラムを策定した.教養教育の充実,材料や機器の革新に伴う専門教育の強化,関連分野の教育の実践を目指し,特色ある授業科目を設定している.これまでの教育の結果,卒業生は多方面で活躍しており,今後とも,口腔工学として専門分野や関連分野で活躍できる人材の育成に努めていきたいと考えている.