著者
伊藤 康弘 宮内 昭
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.256-258, 2012 (Released:2013-05-01)
参考文献数
3

甲状腺乳頭癌の予後因子については様々な研究がなされているが,実際に再発をきたした後の生命予後がどうなっているのかは,あまりデータがない。今回われわれは,リンパ節再発および遠隔再発後の乳頭癌の生命予後因子について検討した。術後にリンパ節再発をきたした329症例における検討では,再発時年齢,原発巣の腫瘍径,原発巣のEx,病理組織検査によるaggressive histology,3cm以上のリンパ節転移が生命予後を左右した。多変量解析ではEx2以外の因子が独立した生命予後因子として認められた。遠隔再発をきたした105例では再発年齢,原発巣のEx,肺以外への再発が単変量解析で生命予後因子として認められ,このうち再発年齢,Exが多変量解析でも独立した生命予後因子であった。もともとの原発巣やリンパ節の状態が,生命予後を規定することがわかった。

3 0 0 0 OA NCDとがん登録

著者
友滝 愛 宮田 裕章 岩中 督
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.29-33, 2014 (Released:2014-04-30)
参考文献数
11

医療の質向上を目的とした臨床データベース事業として,2011年から外科専門医制度と連携したNational Clinical Database(NCD)が始動した。NCDは開始当初より,一部の臓器がんに対してはがんの詳細情報が登録され,2012年からは乳癌登録・膵癌登録も開始された。NCDデータは,がん診療の質を評価する指標の開発やがん医療の均てん化の取り組みなど,様々な活用が期待される。一方,がん情報の症例登録では,登録の悉皆性や予後情報の追跡調査などデータの質の担保が重要である。個人情報保護や倫理的側面に配慮したうえで,他のがん登録との連携も見据えたデータ収集の効率化を検討している。さらに,医療現場にリアルタイムで直接情報をフィードバックする仕組みを構築し,患者の術後死亡や合併症の予測率を計算する機能の開発や,NCDデータを基盤とした臨床研究などにも取り組んでいる。NCDは患者視点に立ち,医療従事者が理解・納得して参加できる事業として,さらに発展を目指している。
著者
坂東 伸幸 後藤 孝 赤羽 俊章 大貫 なつみ 山口 朋美 佐和 弘基 西原 広史 田中 伸哉
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.142-147, 2013 (Released:2013-08-30)
参考文献数
16

穿刺吸引細胞診は甲状腺結節の質的診断のために最も有用な検査である。当院ではこれまでプレパラートに穿刺吸引細胞を吹き付ける従来法で細胞診を行ってきたが,診断率は高くなかった。そこで液状処理細胞診(Liquid-based cytology;LBC)を採用した。2007年4月から2011年5月までに従来法で穿刺吸引細胞診を施行し,パパニコロウのクラス分類で判定した426病変(従来法群)と2011年6月から2012年8月までにLBCを施行し,当院で甲状腺癌取り扱い規約第6版に準じて判定した297病変(LBC群)との比較を試みた。検体不適正についてLBC群では27病変(9.1%)であり,従来法の68病変(16%)と差を認め,同規約の付帯事項である10%以下を達成した。手術施行し,病理組織と対比できた従来法群125例においてclass Ⅲを除くと感度69.6%,特異度95.2%,正診率80.5%であったが,LBC群53例では鑑別困難例を除くと感度,特異度,正診率とも100%を示した。穿刺吸引細胞におけるLBCは従来法と遜色ないと考えられる。
著者
伊藤 康弘 宮内 昭
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.175-178, 2015 (Released:2015-12-19)
参考文献数
16

家族性甲状腺癌の中でもっとも有名なものはRET遺伝子変異を伴う髄様癌である。しかし,日常臨床ではあまり留意されていない甲状腺分化癌も,原因遺伝子は同定されていないものの家族内発症が知られており,その臨床的意義が議論の的になっている。本稿では家族性乳頭癌を中心に,その頻度,臨床病理学的因子,予後について散発性乳頭癌との差異について検討した。その結果,家族性乳頭癌は家族歴のない症例に比べて腫瘍が単発性ではなく,多発性のものが多い以外に大きな特徴がなく,予後についても家族歴の有無は関係しなかった。従って手術術式としては全摘を行うことが望ましい以外,家族歴があるからといって特別に留意すべき点は見いだせなかった。また,low-riskな微小癌の経過観察を行ったシリーズでも家族歴の有無は,経過観察の妨げにならないことも判明した。

2 0 0 0 OA エベロリムス

著者
増田 慎三
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.80-85, 2015 (Released:2015-09-02)
参考文献数
23

PI3K/AKT系のgrowth factorシグナルの中心位置に存在するmTORは,乳癌増殖において重要な役割を担っている。その作用を阻害するエベロリムスの登場により,特に進行再発ホルモン陽性乳癌の治療体系のダイナミックな変化が生じている。比較的緩やかな増悪傾向を有するホルモン陽性乳癌の治療経過において,ホルモン感受性と耐性,その機序を考察しながら,エベロリムス+エキセメスタン併用療法(BOLERO-2試験)によるホルモン療法耐性解除のベストタイミングを探る必要がある。本剤はHER2陽性乳癌領域においても,トラスツズマブ+抗ガン剤に併用する効果の検証が大規模試験で継続中である(BOLERO-1,BOLERO-3試験)。薬剤コスト,口内炎や間質性肺炎などの副作用と,有効性とのバランスを上手に担保できるようなバイオマーカー,コンパニオン診断薬などの開発が今後期待される。
著者
覚道 健一 谷口 恵美子 若狭 朋子 山下 弘幸
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.99-103, 2014 (Released:2014-08-07)
参考文献数
20

日本甲状腺学会は,甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013を出版した。甲状腺結節の診療では細胞診が重要な役割を持つ。しかし細胞診で30%以上の症例は,良性・悪性の結論が出ない「検体不適」,「鑑別困難」,「悪性疑い」に診断される。甲状腺結節取扱い診療ガイドラインでは,これらを実地臨床の場でどのように取り扱うかの解決策を示した。細胞診で鑑別困難に分類された症例は,画像などの臨床検査と合わせて手術対象例を絞り込む。細胞診でも,鑑別困難をさらにリスク分類することを推奨した。まず鑑別困難を「濾胞性腫瘍」と「その他(濾胞性腫瘍以外)」に分類する。濾胞性腫瘍群は,悪性の可能性の高い(favor malignant)と良性の可能性が高い(favor benign)に分類することを推奨した。すなわち鑑別困難群の大半(70~90%)を占める良性結節患者に無用な診断的葉切除術を適応しないことを求めている。欧米では全例に診断的葉切除術が薦められるのに対し,日本では「濾胞性腫瘍」患者でも,他の臨床検査項目が良性の患者は経過観察も選択肢となる。濾胞性腫瘍の亜分類を省略した診断様式を選択すると,国際的診断様式と読み替え可能な6カテゴリー分類に変換できる。平易な診断用語を用い,悪性の確率,甲状腺結節の性状が類推しやすい言葉を用い利用者の利便性を図った。
著者
成瀬 光栄 立木 美香 馬越 洋宜 田辺 晶代
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.243-245, 2015 (Released:2016-03-04)
参考文献数
4

褐色細胞腫・パラガングリオーマは適切な診断と治療により治癒が期待できる一方,診断の遅れは,高血圧クリーゼ,不整脈,たこつぼ型心筋症などを合併する。更に約10%が悪性で,初期の診断が困難かつ有効な治療法がない。著者らは日本内分泌学会臨床重要課題委員会と厚労省難治性疾患克服研究事業研究班との協力で褐色細胞腫診療指針2012年を取りまとめたが,本稿では2014年に米国内分泌学会から発表された褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドラインの要点を解説する。根拠となる論文には4段階のエビデンスレベル,診療行為には2段階の推奨グレードが付記されている。基本的な点は我が国における診療指針と同様であるが,機能検査,画像検査,遺伝子検査などの各点で差異を認める。我が国の保険医療制度を考慮して日常診療に活用する必要がある。
著者
長沼 廣
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.69-72, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
8

甲状腺結節性病変の鑑別診断についてはガイドラインなどが示されている[1]。甲状腺結節性病変は術前の超音波,CT,MRI,細胞診などでかなり質的に診断が出来ているが,手術適応に関しては画像診断と併せて細胞診の診断が重要である。さまざまな組織像を示す結節性病変の中で濾胞性腫瘍の良悪性の診断は依然として容易ではない。正確に病理診断をするためには切除甲状腺の取扱いも大切である。濾胞腺腫と微少浸潤型濾胞癌の鑑別は肉眼所見にはきわめてむずかしい。適確な濾胞性腫瘍の診断には良好な固定状態で検査することが望まれ,濾胞癌の診断基準を標準化することが重要である。甲状腺癌取扱い規約第7版では切除検体の取扱いは簡略化したが,濾胞癌の診断基準である脈管浸潤,被膜外浸潤ついて前版より詳細に記載した。濾胞性腫瘍の鑑別診断に役立てていただきたい。
著者
亀山 香織
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.115-119, 2014 (Released:2014-08-07)
参考文献数
5

2013年に甲状腺結節取扱い診療ガイドラインが発刊された。ここではこれまですべて鑑別困難と報告していた濾胞性腫瘍疑いの例を,細胞所見よりfavor benign,borderline,favor malignantの3群に亜分類し,ある程度臨床医のニーズに応えることとした。この3群の分類は元々伊藤病院で行っているものであり,ガイドラインへの収載に際しては病理委員4名で検証を行い,有効性を確認した。一方で2007年に欧米でベセスダ方式という,やはり甲状腺細胞診の診断様式が発表されている。わが国のガイドラインと類似しているが,定義や臨床的取扱いなど課題もみられる。各施設ではどの様式を使っても,その判定に対する臨床的取扱いについては病理医と臨床医できちんと取り決めをしておくことが重要である。
著者
工藤 篤 田邉 稔
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.290-297, 2014 (Released:2015-02-17)
参考文献数
53

膵神経内分泌腫瘍の術後5年生存率は60~80%,肝転移再発率は30~85%と報告されている。原発巣切除の意義は極めて高く,リンパ節郭清が必要である。核出術が選択可能な腫瘍の肉眼型分類は,理論上被膜形成のある単純結節型に限定されるが,被膜形成や被膜外浸潤などの病理学的所見を術前に判定することは極めて困難であることは極めて明白であり,リンパ節郭清を伴う定型的切除を選択することがベストである。また,本邦においては初診時に遠隔転移を認める症例が約2割,非機能性NECに至っては半数を占める。肝転移を伴う症例の予後は極めて不良であり,集学的治療の一環としての外科切除が果たす役割は極めて重い。しかしながら,切除だけで根治を狙うことには限界がある。従来のソマトスタチンアナログ製剤に加えて,2011年にエベロリムスが2012年にスニチニブが保険適応となった。近年の大腸癌に対する集学的治療の革新的な進歩がそうであったように,膵神経内分泌腫瘍においても分子標的療法の発展に伴い外科治療の適応は今後ますます拡大していくことが予想される。
著者
坂本 穆彦
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.104-107, 2014 (Released:2014-08-07)
参考文献数
10

日本甲状腺学会は2013年8月に「甲状腺結節取扱い診療ガイドライン2013」を刊行し,その中で穿刺吸引細胞診分類を提起した。わが国ではすでに作成当時の国際標準に準拠した甲状腺細胞診判定基準が「甲状腺癌取扱い規約」第6版(2005年)に掲載されており,このたびの日本甲状腺学会のガイドライン刊行によって,わが国にはあたかも2つの細胞診判定基準が生じたかの様な状態となった。他方,「甲状腺癌取扱い規約」は近年改訂されることになっており,ここでは2008年に米国より示されたベセスダ・システムに基づいた変更が行われる。このことは,「規約」刊行母体の日本甲状腺外科学会ではすでに機関決定されている。この様な状況をふまえ,本稿ではベセスダ・システムの概容と意義について概説する。甲状腺細胞診の判定基準が国内に複数存在するという事態は是非とも回避されねばならない。

1 1 1 0 OA 褐色細胞腫

著者
竹原 浩介 酒井 英樹
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.175-179, 2014 (Released:2014-10-31)
参考文献数
14
被引用文献数
2

褐色細胞腫はカテコールアミンを産生する神経内分泌腫瘍であり,高血圧を中心とした様々な臨床症状を呈する。手術にて治癒可能な疾患であるが,約10%が悪性であり,また病理組織学的な良悪性の鑑別が困難なため,良性と判断されても,術後に再発する症例もある。厚生労働省難治性疾患克服研究事業研究班により褐色細胞腫および悪性褐色細胞腫の診断基準および診療アルゴニズムが作成され,指針に準じた診療が一般的となっている。褐色細胞腫の術前には十分量のα遮断薬の投与が必要であり,術後24時間は低血圧や低血糖に注意する必要がある。また悪性の可能性を念頭においた長期の経過観察が必要である。悪性褐色細胞腫に関しては確立された有効な治療方法がなく,手術,CVD療法やMIBG照射を組み合わせた治療が施行されている。
著者
大石 一行 田尻 淳一 深田 修司 菱沼 昭 佐藤 伸也 横井 忠郎 橘 正剛 森 祐輔 覚道 健一 山下 弘幸
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.144-149, 2014

症例は8歳女児。母親は遺伝性髄様癌と診断され甲状腺全摘術と側頸部リンパ節郭清術を受けていた。遺伝を心配した母親に連れられて当院を受診し,<i>RET</i>遺伝子検査でexon11 codon634に母親と同じmissense変異を認めた。超音波検査で甲状腺内に明らかな腫瘤は認めず,カルシトニンやCEAの上昇はなかったが,カルシウム負荷試験では陽性であった。上記の遺伝子変異は髄様癌発症のhigh risk群に分類されるため,髄様癌発症の可能性について両親と面談を繰り返した後,最終的に発症前の予防的甲状腺全摘術を希望された。術後の病理組織診断は微小髄様癌,C細胞過形成が甲状腺内に多発しており,遺伝性髄様癌に一致する所見であった。遺伝性髄様癌に対して海外では幼少時での手術を推奨する施設もあるが,本邦では予防的甲状腺全摘術の報告はほとんどない。今回われわれは予防的甲状腺全摘術を行った遺伝性髄様癌の一女児例を経験したので報告する。
著者
土井 隆一郎 阿部 由督 伊藤 孝 中村 直人 松林 潤 余語 覚匡 鬼頭 祥悟 浦 克明 豊田 英治 平良 薫 大江 秀明 川島 和彦 石上 俊一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.256-261, 2013 (Released:2014-01-31)
参考文献数
9
被引用文献数
1

膵神経内分泌腫瘍(pNET)は神経内分泌組織にある腸クロム親和性細胞由来の腫瘍であるとされる。実際に遭遇する腫瘍の種類は多く,腫瘍ごとに症状が異なるため診断方法もさまざまである。しかしながらpNETと診断された場合はすべて外科切除の適応と考えるべきである。インスリノーマ以外の腫瘍は転移・再発のリスクが極めて高く,リンパ節郭清が必要である。肝転移を伴っている場合は予後不良であるが,一方,切除によるメリットがあると判断される場合は肝切除の適応がある。外科切除のみで根治できない症例が多く,集学的治療を考慮しなければならない。pNETに対する分子標的治療薬を組み込んだ治療体系の整理が必要である。
著者
紫芝 良昌 今井 常夫 神森 眞 栗原 英夫 鳥 正幸 野口 仁志 宮内 昭 吉田 明 吉村 弘
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.51-56, 2017 (Released:2017-04-28)
参考文献数
16

甲状腺の手術の際,発生する合併症の一つである永続性副甲状腺機能低下症の日本全国の症例数を検討した成績はこれまでにない。甲状腺手術を専門とする15病院に対してアンケートを行い2012年~2013年の甲状腺手術について回答の得られた5,445例について術式別に永続性副甲状腺機能低下症の発生率を求めた。その結果,甲状腺片葉切除で0.08%,全摘・亜全摘4.17%,甲状腺全摘と頸部中央および(または)外側区域郭清で5.75%であり甲状腺切除術全体を通じて2.79%に永続性副甲状腺機能低下症がみられた。また,副甲状腺腫瘍手術344例について14例(4.07%)の永続性副甲状腺機能低下症例を得た。この数字を厚労省がん統計資料に当てはめて日本全国での甲状腺・副甲状腺手術による永続性副甲状腺機能低下症の頻度を求めると,年間705人となる。手術のピーク年齢を68歳,手術後の平均存命期間を9年として,すべての甲状腺・副甲状腺手術患者が上記の条件を満たす単純モデルで計算すると,永続性副甲状腺機能低下症の本邦総数は31,725人になる。特発性副甲状腺機能低下症患者数は本邦で900人と推定され全体では32,625人となり人口10万人あたり26人。米国18.3人,デンマーク24人と報告されている。
著者
小川 真
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.224-227, 2016 (Released:2017-01-26)
参考文献数
24

反回神経麻痺による嗄声は,副甲状腺機能障害と並び,甲状腺摘出後に生じる主要な合併症の1つとなっている。片側反回神経麻痺により声帯の内外転運動が障害されると,発声時の声門のスリット形成が妨げられ,ベルヌーイ力と声門下圧の交互作用による声帯振動が生じにくくなる。甲状腺摘出後の反回神経麻痺の頻度は,一過性および永続的なものを含めて1~13.3%と報告されており,再手術,悪性腫瘍,頸部郭清の併施,反回神経麻痺を同定しない手術などがリスク因子とされている。反回神経麻痺による嗄声の治療に関して,麻痺が一過性である可能性があるために,発症後6カ月以内の姑息的治療とそれ以降の永久的な治療がある。姑息的治療として,音声治療および局所麻酔下声帯内注入術の有効性が報告されている。しかしながら,局所麻酔下声帯内注入術については,本邦の医療保険の事情からあまり行われていないのが現状である。永久的な治療法として,甲状腺手術後の頸部の瘢痕形成のために通常の喉頭形成手術の施行に難渋するため,甲状軟骨翼状板外側下方を開窓して行う披裂軟骨内転術,神経吻合術,神経筋移植術などの術式が選択されることがある。