著者
川戸 貴史
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.二一-七四, 2013-07-25

戦国期の日本は「地域通貨」の登場に伴って授受のトラブルが頻発するようになったことが明らかにされている。そのような貨幣流通の事情下での、当時の人々の持つ貨幣観について、一六世紀に著された『玉塵抄』の記事を手がかりに分析を行った。それによると、「鳥目」「鵞眼」などの名称が、起源である中国と当時の日本とでは意味が異なっていることや、当時の日本は銭が貨幣として隅々まで行き渡っていること、銭が人々を豊かにするものであったことが意識されていた。また、当時特有の問題である撰銭については、ランダムに選択することを指した中国の故事とは異なり、意図的に良い銭を選ぶ行為として人々の間で常識的に理解されていた点を明らかにした。
著者
川戸 貴史
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 = CHIBA KEIZAI RONSO (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.66, pp.163-185, 2022-06-30

本稿は、近年厖大な研究成果が蓄積されてきた中世日本の貨幣流通史の概要を叙述したものである。主に中国から流入した銭貨を貨幣として受容した中世日本では、15世紀にかけて銭貨が大量に流入し、国家的な主導を経ずに安定的な貨幣流通秩序が形成された。しかし15世紀後半に中国が銭貨の鋳造を放棄したため日本への流入が減少し、16世紀に混乱が生じた。同時期に日本で石見銀山の開発が進み、1560年代には日本でも銀を貨幣として用いるようになった一方、各地で深刻な銭不足に見舞われ、秩序も混乱が続いた。統一政権誕生後は列島規模での秩序の再編成が必須の課題となり、17世紀前半にかけて江戸幕府は自らその整備を進めていった。当該研究では論者によって見解が分かれている論点があり、本稿ではそれらについていくつか指摘して今後の課題を示した。
著者
間瀬 久美子
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 The proceedings of Chiba Keizai University (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.61, pp.1-31, 2019-12

近世後期光格天皇を挟む前後の時代の朝廷・幕府の災害祈禱を考察することが課題である。天明飢饉以降、大政委任論や国内外の危機的状況の深化に伴い、幕府も災害祈禱に直接関与するようになった。開港後の朝廷祈禱の中心は攘夷へと移っていくが、幕府の衰退と反比例して朝廷の国家祭祀権が単純に強くなったとのみいえない面もあり、多面的な考察が必要であることを提起したい。
著者
小池 順子
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 = CHIBA KEIZAI RONSO (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.54, pp.1-19, 2016-07-21

本論文は、音楽における表現とはいかなる営為かという問いの解明を目指している。この課題を遂行するにあたり、美学と音楽美学の知見を手がかりに、表現の概念が様々に揺れ動いてきたことを論証した。造形芸術においては、表現概念の中で描写と表出の対立が長くあった。対照的に、音楽芸術は造形よりも早く、表出芸術として認識された。19世紀には作曲家が表現の主体として存在価値を高めた。しかし作曲家の表現としての音楽は、演奏行為を通じて初めて直観的になる。演奏行為が演奏者という別の主体に委ねられるとき、次の問いが導かれる。第一の問いは、演奏者の行為は作曲家の表現を単に再現する行為なのかという問い、第二の問いは、演奏者の演奏行為は表現になりうるか、なりうるとしたら表現者としての演奏者はいかなることを遂行しているのかという問いである。
著者
近藤 光
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 The proceedings of Chiba Keizai University (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.64, pp.59-80, 2021-06

現在,業務用・家庭用を問わずビデオゲームにおいて一般的に利用されているCGを用いた3D表現はいかに普及していったのか。そして,技術革新がビデオゲームを巡る競争にどのような影響を与えたのか,ナムコ,ソニー,セガ,任天堂の企業行動に着目しながら明らかにすることが本稿の目的である。 本稿では,戦後から1970年代までのCG技術の発展とコンピュータゲームへの応用について整理し,その後,1980年代から始まるアーケードゲームにおける3D表現の展開を明らかにする。更に,そうしたアーケードゲームの展開を受けて,家庭用ゲームにおいて3D表現が導入されていく過程を三つの企業グループの活動から明らかにする。最後に,日本のゲーム産業におけるCG技術導入の特徴について言及する。
著者
菅根 幸裕
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 = CHIBA KEIZAI RONSO (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.64, pp.一-四七, 2021-06-01

筆者は近世における俗聖、特に空也聖の実態について、京都市空也堂の史料を中心に分析してきた。そうした中、なぜ俗聖が空也堂と本末を結んだのかがポイントとしてきた。本論は、六歳念仏講と末流(茶筅・鉢屋)を中心に、空也聖の近世から近代への変容を考えてみたい。 特に空也堂配下が一堂に会した歴代天皇の焼香式については、その記録を詳細に分析したいと考えている。そのうえで空也堂と六斎念仏講及び末流が本末を結ぶことのメリットは何であったのかを考察するものである。言い換えれば、空也堂はなぜ歴代天皇の焼香式を行ったのか、六斎念仏講や末流がこれに供奉することでどのような特典があったのかを分析してみたい。
著者
佐藤 典子 Noriko Sato 千葉経済大学 CHIBA KEIZAI UNIVERSITY
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 = Chiba keizai ronso (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.52, pp.1-23,

高齢社会の到来とともに看護師の医療・介護界での需要は高まり、その重要性の認識も社会において自明視されている。それと同時に、業務もより専門化しているが、キャリアの浅い若手看護師が2001年、2007年と連続して過労死(認定はいずれも2008年)する事件が起きており、ここ数年の調査でも、看護師の過労や離職の問題は改善されていない状況である。そこで、制度の問題だけでなく、そうならざるを得ない状況について、多くの看護師が女性であることから、これらの要因がジェンダー化された仕事としての看護職にあるのではないかといった視点を含めて考えてみたい。
著者
小池 順子
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 The proceedings of Chiba Keizai University (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.54, pp.1-19, 2016-07

本論文は、音楽における表現とはいかなる営為かという問いの解明を目指している。この課題を遂行するにあたり、美学と音楽美学の知見を手がかりに、表現の概念が様々に揺れ動いてきたことを論証した。造形芸術においては、表現概念の中で描写と表出の対立が長くあった。対照的に、音楽芸術は造形よりも早く、表出芸術として認識された。19世紀には作曲家が表現の主体として存在価値を高めた。しかし作曲家の表現としての音楽は、演奏行為を通じて初めて直観的になる。演奏行為が演奏者という別の主体に委ねられるとき、次の問いが導かれる。第一の問いは、演奏者の行為は作曲家の表現を単に再現する行為なのかという問い、第二の問いは、演奏者の演奏行為は表現になりうるか、なりうるとしたら表現者としての演奏者はいかなることを遂行しているのかという問いである。
著者
中嶌 剛
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 = CHIBA KEIZAI RONSO (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.62, pp.25-50, 2020-06-30

本稿では,就職活動を行う若者の8割程度が入社前に抱くと報告されてきた「何が何でも正社員として就職したい」(労働政策研究・研修機構,2006)という曖昧な進路・目的意識が入社後のキャリア形成に及ぼす影響を推定した。先行研究の理論的考察を通じて8つの仮説を設定し,労働供給側(仮説①・②・③)と労働需要側(仮説④~⑧)の両面から検証を行った。 その結果,労働供給サイドからの「とりあえず正社員」意識に立脚した仮説①・③,および,労働需要サイドの仮説⑥・⑦・⑧が支持され,「とりあえず正社員」意識が必ずしも優柔不断で曖昧な否定的意識として,一面的に捉え切れないことが示唆された。 さらに,就職困難な状況で卒業期を迎える若者が自分を信じて,困難な状況を乗り越えることで就職活動を通じた人間的成長が見込めるばかりか,その間に成熟していく意識は,会社内の良好な職場環境の維持に有効な面があり,人事評価・処遇やキャリア開発支援の充実等の労働需要側の要因によっても,さらに引き伸ばすことが可能な要素となり得ることを見出した。
著者
川戸 貴史 Takashi Kawato 千葉経済大学 CHIBA KEIZAI UNIVERSITY
雑誌
千葉経済論叢 = Chiba keizai ronso (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.48, pp.二一-七四,

戦国期の日本は「地域通貨」の登場に伴って授受のトラブルが頻発するようになったことが明らかにされている。そのような貨幣流通の事情下での、当時の人々の持つ貨幣観について、一六世紀に著された『玉塵抄』の記事を手がかりに分析を行った。それによると、「鳥目」「鵞眼」などの名称が、起源である中国と当時の日本とでは意味が異なっていることや、当時の日本は銭が貨幣として隅々まで行き渡っていること、銭が人々を豊かにするものであったことが意識されていた。また、当時特有の問題である撰銭については、ランダムに選択することを指した中国の故事とは異なり、意図的に良い銭を選ぶ行為として人々の間で常識的に理解されていた点を明らかにした。
著者
間瀬 久美子
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 The proceedings of Chiba Keizai University (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.59, pp.1-26, 2018-12

江戸中期寛延の三件の怪異と地震に対する朝廷祈禱は、賀茂・阿部・卜部等の卜占や先例を基に判断されたが、怪異は祈禱名目や祝詞の文言からは除去され、天皇の慎みや国家安全祈禱として、その災禍に対処した。一方、自然現象への合理的解釈も社会に浸透し、神社社家等は、怪異を神社造営や運営参加を要求する契機として利用するようになった。
著者
岩橋 清美
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.一-一九, 2013-07-25

本稿は、江戸の町における迷子の保護について分析を行ったものである。迷子は捨子と同様に近世後期には主要な都市問題の一つになっていた。それは、捨子に準じ、親類・縁者・養父母が見つかるまで養育しなくてはならず、その費用を町入用から捻出したからである。こうした町の負担を軽減すべく、安政四年(一八五七)、町の有志によって一石橋に迷子石が建立された。これは迷子情報を手軽に広めることができる方法だったため、明治初年にかけて各町に次々と迷子石が建てられることになった。本稿では迷子石建立をめぐる手続きを分析し、迷子保護に対する町奉行所と町人たちの意識の差異、迷子石の社会的意義について考える。
著者
加藤 修一
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 = CHIBA KEIZAI RONSO (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.56, pp.55-72, 2017-07-18

自然の理解は観察が論理に優先するが、観察が与える"共に生きている"という共感を引き起こすような感動を基調とする行動こそが環境問題を解く鍵である。粘菌博物館は粘菌そのものの理解と、粘菌を通して自然環境を守る意義及び微生物の産業利用の理解が深まる施設として期待が大きい。ここでは粘菌学校を開設してバイオマスや汚染物質除去などの微生物産業に続いて食の安全や、健康への貢献、生命現象の解析などの未来産業が課題として取り上げられている。
著者
中嶌 剛
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.23-39, 2013-07-25

本研究は、近い将来、就職活動を控える学生の心理状態に注目し、キャリア教育(キャリア形成支援)を通じて顕在化する潜在意識が、彼らのキャリア形成にとってどのような役割を果たし得るのかを、複数大学(4年制大学、女子大学)の学生の自由記述回答データを用いたテキストマイニング手法により探ったものである。厳しい新卒採用状況下、先行き不透明かつ不安感に満ちた学生心理に立脚した計量テキスト分析により、教育現場おいて、いかなる潜在意識への働きかけが学生の主体的行動にとって重要となるかを明らかにした。こうした結果は、「行動してからようやく物事を理解する」という体験学習が人生を切り拓くヒントになり得ると同時に、潜在意識の有効活用が自己のキャリア形成に寄与することを論じたものである。
著者
青木 慎
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 = CHIBA KEIZAI RONSO (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.65, pp.77-93, 2021-12-01

現代貨幣理論(Modern Money Theory;MMT)の理論家は、主流派マクロ・モデルであるIS - LMモデルに否定的な立場を取っている。それにもかかわらず、MMTにはそのモデルに代わるモデルがなく、政策の手順とその効果だけで、その間の過程を欠如した理論になっています。本論は、MMTのこの問題点について着目し、MMTを主流派モデルに当てはめると、MMTの理論家にとって、どのような不都合が生じるのかについて明らかにすることを目的とします。また、補足として、MMTが提唱する「最後の雇い手」(ELR)についても、経済の安定化として十分に機能するのかを検討します。
著者
菅根 幸裕
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 = CHIBA KEIZAI RONSO (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.64, pp.一-四七, 2021-06-01

筆者は近世における俗聖、特に空也聖の実態について、京都市空也堂の史料を中心に分析してきた。そうした中、なぜ俗聖が空也堂と本末を結んだのかがポイントとしてきた。本論は、六歳念仏講と末流(茶筅・鉢屋)を中心に、空也聖の近世から近代への変容を考えてみたい。 特に空也堂配下が一堂に会した歴代天皇の焼香式については、その記録を詳細に分析したいと考えている。そのうえで空也堂と六斎念仏講及び末流が本末を結ぶことのメリットは何であったのかを考察するものである。言い換えれば、空也堂はなぜ歴代天皇の焼香式を行ったのか、六斎念仏講や末流がこれに供奉することでどのような特典があったのかを分析してみたい。
著者
黒川 太 河原 礼修
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 = CHIBA KEIZAI RONSO (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.63, pp.101-117, 2020-12-01

学習成果における学生のエンゲージメントが果たす役割は非常に重要であるとの見解は共通認識となっている.日本においても学生のエンゲージメントをあらわす指標として,自主的な学習時間の確保が不可欠であるとの認識が広まっている. ただし,日本における大学生を対象とした学生のエンゲージメントに関する研究においては,データ制約などの事情もあり学習成果として客観的指標を用いた分析は少ない.よって本稿では客観的学習成果指標を用いることを前提に,本学の学生データとアンケートデータを用いて成績素点と自主学習時間をはじめとする学生のエンゲージメント要因,学生個人の属性要因,教育環境要因との関係を分析した. 分析の結果,学生のエンゲージメントの1要素である自主学習時間は学習成果に対する影響は認められるが,その効果は比較的小さいものであった.一方,学生のエンゲージメントの他の要因である授業出席回数や授業に関する興味関心については,自主学習時間よりも学習成果に大きな影響を与えていることが確認された.
著者
間瀬 久美子
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 = CHIBA KEIZAI RONSO (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.61, pp.一-三一, 2019-12-31

近世後期光格天皇を挟む前後の時代の朝廷・幕府の災害祈禱を考察することが課題である。天明飢饉以降、大政委任論や国内外の危機的状況の深化に伴い、幕府も災害祈禱に直接関与するようになった。開港後の朝廷祈禱の中心は攘夷へと移っていくが、幕府の衰退と反比例して朝廷の国家祭祀権が単純に強くなったとのみいえない面もあり、多面的な考察が必要であることを提起したい。