著者
川戸 貴史
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.二一-七四, 2013-07-25

戦国期の日本は「地域通貨」の登場に伴って授受のトラブルが頻発するようになったことが明らかにされている。そのような貨幣流通の事情下での、当時の人々の持つ貨幣観について、一六世紀に著された『玉塵抄』の記事を手がかりに分析を行った。それによると、「鳥目」「鵞眼」などの名称が、起源である中国と当時の日本とでは意味が異なっていることや、当時の日本は銭が貨幣として隅々まで行き渡っていること、銭が人々を豊かにするものであったことが意識されていた。また、当時特有の問題である撰銭については、ランダムに選択することを指した中国の故事とは異なり、意図的に良い銭を選ぶ行為として人々の間で常識的に理解されていた点を明らかにした。
著者
堀口 和久
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:0915972X)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.65-79, 2011-12-30

本論文では,現代英語の冠詞について,樋口(2003)等の実証的研究では不十分にしか扱われていない論点に着目し,COCAコーパス等を用いて,特に地理上の固有名詞を分析する。これまで現代英語の冠詞については,認知言語学等の一般言語理論に基づく冠詞の用例の統一的な説明を目標とする研究や,BNCコーパスを利用した研究はあるが,COCAコーパス・COHAコーパス等によるものは見当たらない。本論文では,樋口(2003)の実証的分析を発展させるとともに,従来の研究の問題点を指摘し,かつ先行研究では扱われていないいくつかの項目について実証的かつ記述的に分析を行った。その結果,公式の国名と実際の言語運用の間に一致が見られないケースがあること,アメリカ英語で国名について,the Vatican City>Vatican Cityへの変化がみられること,the Congo, the Gambia, the Ukraine, the Sudan等の例外的な国名のtheの用例は依然として見られること,固有名詞the Nile Deltaに関しては高い頻度で定冠詞が用いられていること等が明らかとなった。
著者
岩橋 清美
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.一-一九, 2013-07-25

本稿は、江戸の町における迷子の保護について分析を行ったものである。迷子は捨子と同様に近世後期には主要な都市問題の一つになっていた。それは、捨子に準じ、親類・縁者・養父母が見つかるまで養育しなくてはならず、その費用を町入用から捻出したからである。こうした町の負担を軽減すべく、安政四年(一八五七)、町の有志によって一石橋に迷子石が建立された。これは迷子情報を手軽に広めることができる方法だったため、明治初年にかけて各町に次々と迷子石が建てられることになった。本稿では迷子石建立をめぐる手続きを分析し、迷子保護に対する町奉行所と町人たちの意識の差異、迷子石の社会的意義について考える。
著者
中嶌 剛
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.23-39, 2013-07-25

本研究は、近い将来、就職活動を控える学生の心理状態に注目し、キャリア教育(キャリア形成支援)を通じて顕在化する潜在意識が、彼らのキャリア形成にとってどのような役割を果たし得るのかを、複数大学(4年制大学、女子大学)の学生の自由記述回答データを用いたテキストマイニング手法により探ったものである。厳しい新卒採用状況下、先行き不透明かつ不安感に満ちた学生心理に立脚した計量テキスト分析により、教育現場おいて、いかなる潜在意識への働きかけが学生の主体的行動にとって重要となるかを明らかにした。こうした結果は、「行動してからようやく物事を理解する」という体験学習が人生を切り拓くヒントになり得ると同時に、潜在意識の有効活用が自己のキャリア形成に寄与することを論じたものである。
著者
三浦 洋子
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:0915972X)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.51-69, 2012-07-24

北朝鮮は1993年`国連人口基金 (UNFPA)'の援助で最初に人口総調査を実施して以来、15年ぶりに「2008年北朝鮮人口センサス」を発表した。当センサスによって、北朝鮮の食糧難が人口構成に大きく影響していることや、いわゆる「少子高齢化」に接近していることがわかった。また、住環境、トイレや暖房方式、燃料や水道設備、また家事と呼ばれる内容までもが、北朝鮮側から提示されたことは、大変に興味深い。「ベールに包まれた国」と言われてきた国で、脱北者の証言でしか知らなかった一般庶民の暮らしぶりが、この統計から具体的にわかってきたことは非常に意義深い。
著者
平井 岳哉
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:0915972X)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.17-43, 2003-07-15

戦後,三井,三菱,住友の3財閥ではGHQによる一連の財閥解体政策で,財閥の機構そのものが根底から否定された。こうした中,旧財閥系の傘下企業群は,さらに新たな課題に直面した。それは財閥の商号商標の使用禁止令である。3つの旧財閥系企業はともに協力して,GHQや日本政府首脳へ陳情を行い,使用禁止令の施行取り止めに成功した。使用禁止令を撤回させて,難題は解決したかのように見えたが,旧三菱系企業群にとって商号商標問題は,依然として複数の障害を抱えて重要な経営課題となっていた。戦前の財閥本社における商標登録の遅れとそれに伴う第3者による登録,本社に代わって商標管理を担った三菱商事の解散による商標保全のトラブル,三菱重工業の分割など企業分割によって生じた同一業種における複数企業による商標の使用,財閥家族との商号商標に関する保有権の明確化,などである。旧三菱系企業群はこれを機に,1950年代から60年代初頭にかけて,グループ内での商号商標の管理について,管理組織の設置,使用基準マニュアルの作成などを骨子とした基本的な対策を講じた。商号商標のもつ信用性の維持保全のため,外部の第3者による不正使用を防止する一方で,内部のメンバー企業に対しても厳格な使用規定を設けるものであり,このルールは今日の三菱グループにおいても継承されることになった。
著者
岡室 美恵子
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.35-52, 2016-07-21

原油価格の下落、サウジアラビアとイランの国交断交など中東情勢の緊迫化・混迷化により中東経済の減速が懸念されている。主要産油国ではエネルギー補助金の削減や付加価値税の導入などによる財政改善や構造改革に着手し始めている。そのなかで、ヨルダン・ハシェミット王国(ヨルダン)は、石油や天然ガスなどのエネルギー資源に恵まれず、しかし、産油国経済と密接に関係しつつその経済を発展させてきた。その一方で、地勢的、外交的な重要性を増している。非産油国であるが、中東情勢において重要性を増すヨルダン経済の現状を概観し、今後、その課題と可能性の詳細分析に必要な初期的な分析を行う。
著者
岡室 美恵子
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.39-53, 2015-12-17

2012年、中国山東省青島市で日本の介護保険に類似する「長期医療護理保険」の試験的導入が開始された。中国は、2035年に2人の労働者が1人の高齢者を支える「超高齢社会」を迎えると推測されており、「一人っ子政策」の完全撤廃が決定された一方、高齢化に対応する社会保障・福祉制度の整備が急務となっている。本稿は、中国における高齢化対応政策の変遷と介護保険制度の試験導入の過程を概観し、今後、超高齢社会への対応を迫られる中国の社会保障制度の運営と持続可能性、財政的課題、国際比較などの多様な視角から分析を行うための初期的な考察を行うものである。
著者
江藤 肇
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:0915972X)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.1-52, 2006-07-15

科学技術者の倫理という問題の他、計算機情報学の発展は、科学技術と人文学の交流を必要としており、2005年にはロボット研究における人文科学との交流を呼びかける会が文部科学省科学技術政策研究所の主催で開かれている。しかし科学技術者や行政官は、医学と並んで最も古い伝統を持つ人文学の本質について考察することなく、便利屋として人文学の細切れ知識の動員を企図している嫌いがある。人文学は古いが故に非科学技術的と無視される反面、同じ理由で魅力を感じ、少数とはいえ人文学の研究に励んだ科学技術者や行政官もいる。「昭和の鴎外」と呼ばれた皮膚科学者太田正雄東大教授(詩人木下杢太郎)における医学研究、宗教史、美術史研究に共通する方法論や価値観を事例として、人文学と科学技術(彼の場合は医学)との方法論的関連について考察する。
著者
菅根 幸裕
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.七五-一一四, 2013-07-25

近世における様々な俗聖のうち、鉢叩をとりあげ、常陸国新治郡宍倉村(茨城県かすみがうら市)の空也堂に伝わる史料から、その実態を分析する。空也堂の鉢叩は自らの祖を空也とし、空也を醍醐天皇第二皇子とする巻物を携え、ステータスアップを図ったものであると考える。近世、鉢叩・鉢屋・茶筅などの空也聖は西日本に顕在し、東日本ではこの宍倉空也堂の史料が唯一のものである。しかも空也堂には末流が存在し、鉢叩にいわゆる本末関係が結ばれていたことが明らかになった。
著者
粟沢 尚志
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.65-78, 2013-12-21

本稿は、商店街に関して筆者が展開した理論的考察を、久繁哲之介氏の著書『商店街再生の罠』で見出された観察や導かれた含意と対応させて、商店街の役割とは、私益よりも公益を重視するような人を中心とした組織的市場ととらえるべきであることを明らかにしている。第1節では、心理会計モデルを用いて、コミュニケーションが顧客の心理的価値を高めるために重要であることを明らかにしている。第2節では、地域コミュニティが持つ価値観が、えてして不統一になりがちな商店街各店へ一貫性をもたらすために重要であることを明らかにする。第3節では、商店街と市民とのゆるやかなつながりが生み出されると、それが買い物の安心感をもたらし、さらに店の経営努力によって商店街の競争優位が高まることを示す。
著者
佐藤 典子
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:0915972X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.21-34, 2009-07-27

経済の不安定さ(precarite プレカリテ)は、すなわち、社会の不安定さとして、人々の生活基盤を脆弱にしてしまう。とりわけ、雇用の不安定さは、最も影響が大きいだろう。そこで、グローバリゼーションのなかで、ネオリベラルな路線に向かいつつある多くの国が、切り捨てられる運命にある不安定雇用の実態をどのようにとらえているのか、フランスのCPE反対運動の事例から見ていきたい。
著者
鶴岡 詳晁
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:0915972X)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.47-60, 2006-01-31

去る2005年5月に米国の世界的企業のGMとフォードの業績が急激に悪化し、社債格付けが「投資不適格」にまで引き下げられた。ほぼ同時に米国の自動車市場での日本車のシェアが30%という経済摩擦の危機ラインを越えたというニュースも世界を駆け巡った。この小論は、第三次日米自動車摩擦が起きることはないのかを、GMなどの業績の問題点を指摘し、かつその改革案を経済論理的な視点から分析したものである。とくに、日本の大手3社が自社のクルマの値上げをはかって、米国企業のクルマの販売増を側面から支援したり、また、GMが日本の富士重工業の持ち株を売却したのをトヨタが引きうけるなど、従来の日米間の競争よりも共生を目指して日米間の摩擦の解消をはかっている。2005年11月時点では、日米間の摩擦は経済論理的な面では起こりえないと信じているが、来年にもち越されるリストラの動きと11月の中間選挙に関連して政治面的な要因から摩擦が起きる可能性がある。
著者
小野 正芳
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.1-17, 2013-12-21

日本の財政再建に向けた第一歩として2014年4月から消費税が8%に、2015年10月から10%になることが決定している。しかし、GDPの2倍近くに迫る政府債務、GDPの8%に迫る毎年の財政赤字、国際的にかなり低い国民負担率といった点を考えると消費税の増税だけでは不十分である。そこでは国際的にみてもかなり低い水準にとどまっている所得税が増税の候補となりうる。一方で、所得税は景気に大きく影響される不安定な財源であるとの指摘がある。しかしながら、所得税の源泉となる給与収入と景気の関係はそれほど大きくなく、所得税収を不安定にしているのは主に所得控除項目である。特に、給与収入が高いほど配偶者控除や配偶者特別控除の適用割合が高くなっており、給与収入が高い者の納税額を減少させる要因になっている。また、社会保険料の負担増加も所得税を減少させる大きな要因になっている。現在の社会保障を維持するのであれば、社会保険料と所得税が相関をもたないように制度を設計すべきであろう。さらに、住宅借入金等特別控除も所得税を大きく減少させる要因になっている。住宅借入金等特別控除は、景気刺激を目的とした政策である。本来国庫に入るべき財が、住宅という個人の財の蓄積に回されているのであり、財政再建を考える場合には、その政策効果が十分に得られているのかを慎重に検討する必要がある。このように所得税を安定かつ大きな財源にするために、所得控除項目の見直しが急務である。
著者
粟沢 尚志
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:0915972X)
巻号頁・発行日
no.32, pp.43-62, 2005-07

本稿の目的は、少子高齢社会における地方自治体の競争優位がいかに変化するかを説明することである。財政学では、市場の失敗の度合いが公的部門の役割を決める要因とされるが、どれほど市場の変化へ柔軟な対応をできるかも重要となる。それを明示的に考慮すると、高齢社会における地方自治体の政策効果は混沌が長く続くだろうとの結論を得る。
著者
小野 正芳
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.1-21, 2013-07-25

日本の財政再建に向けた第一歩として2014年4月から消費税率が8%に、2015年10月から10%になることが決定している。消費増税においては消費税収の安定度、消費課税の国際的水準という点から、その正当性が主張されている。しかしながら、消費税収の所得税収に対する相対的安定度、消費課税の国際的水準という点を詳細に検討してみると、それらが消費税増税の正当な根拠とはなり得ないことが明らかとなる。消費税収は所得税収よりも相対的に安定しているといわれているが、所得税収の大きな部分を占める給与収入に基づく税収に関していえば、消費税収よりもよほど安定している。結果的に所得税収が消費税収よりも不安定になっているのは、給与収入を給与所得に変換する際の手続き(各種控除)の影響であり、それは政府によってコントロール可能な要因である。また、消費課税の国際的水準について、税率という面でみれば確かに日本の消費課税の水準は低いといえるが、税額という面でみれば日本の消費課税の水準はそれほど低くない。むしろ、国際的水準でみれば所得課税の水準が低いのである。すなわち、日本においては消費税を増税すべきではなく、所得税を増税すべきである。本稿は、納税主体の大部分を占める個人を対象として、その経済的価値の流れという視点から課税関係を整理し、上記のような結論に至っている。
著者
太田 塁
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 (ISSN:0915972X)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.1-26, 2010-12-24

本論文の目的は、衰退産業に対する既存研究と最新の論点を紹介することにある。衰退産業における企業行動は経営学・経済学の両面から分析されてきた。経済学では、特に企業の最適退出行動に焦点が当てられてきたが、最近では筆者によって衰退産業における企業の価格設定行動が研究されている。また、この衰退産業における価格設定行動は、近年Yano(2009)によって提唱されている「市場の質理論」においても重要なテーマであることを紹介する。