著者
市橋 正光 吉本 聖 安藤 秀哉
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.121-129, 2018 (Released:2019-09-02)
参考文献数
36

健康で社会貢献しながら楽しく長生きしたいとだれもが望む。しかし,現状では,成長期が過ぎると,身体を構成する細胞・組織の機能が低下し始め老化を実感する。老化を少しでも遅くするためにはどのような努力をすべきか,近年多くの科学的知見が提示されている。見た目の老化は内臓を含め全身の老化を反映している。皮膚に視点を置き筆者らの私見を述べる。簡単に皮膚の構造と機能については,表皮のバリア機能,自然免疫,および紫外線による皮膚の損傷とその防御について簡単に紹介する。皮膚のアンチエイジングにおける食の重要性についてはまだ科学的に納得できる報告は少ないが,過去20 年くらいの主だった論文を紹介したい。また,一般にまだ十分に理解されていない紫外線A の皮膚老化への影響に関する新しい筆者らの知見も紹介する。
著者
日比野 英彦
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.9, no.10, pp.443-453, 2009 (Released:2013-06-01)
参考文献数
44

真性肉食動物の猫は栄養素必要性としてアラキドン酸, レチノール, タウリンが知られている。アラキドン酸の必須性は△6-不飽和化酵素の欠損による。そのため, リノール酸を摂取してもアラキドン酸に代謝できない。レチノール (ビタミンA) の必須性は腸内ジオキシゲナーゼを欠失しているためβ-カロチンをレチノールに分解できない。タウリンを合成する酵素を持っていないため, 動物性タンパク質にのみ存在するタウリンを摂取する必要がある。△6-不飽和化酵素の欠損はn-3系脂肪酸のリノレン酸を摂取してもEPAやDHAに代謝できないことも意味している。真性肉食動物の猫はアラキドン酸およびEPAやDHAを得るため植物のリノール酸やリノレン酸を摂取しても代謝できないのでそれらを含有している哺乳類の肉を摂取する必要がある。魚はEPAやDHAの他, アラキドン酸, レチノール, タウリンを含有している。闇の中でものが見える猫の網膜の視細胞, すなわち, 光受容器細胞の構築と維持のためにもDHA, レチノール, タウリンが必要である。以上の理由から筆者は, 「肉を摂取できない時は, 猫は魚を食べる」という仮説を提案する。
著者
野末 雅之
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.13, no.6, pp.267-273, 2013 (Released:2016-02-01)
参考文献数
10

飢餓人口が増大,食糧問題が深刻化している。食糧増産は人類共通の重要課題であるが,その現状は,水資源の枯渇,温暖化などの資源・環境問題など多くの問題を抱え,持続可能な農業生産システムの必要性が以前から指摘されている。一方,生育環境を制御して農作物を周年計画生産する植物工場への期待が高まっている。植物工場には従来の農業生産システムにはない特徴があり,近年,わが国だけでなく海外でも注目されている。採算性,栽培品目,販路などの植物工場の課題解決に向けて,現実的な取組みも行われている。過去3 年間でわが国の植物工場稼動数は着実に増加し,新たな産業の核としての期待が高まっている。信州大学先進植物工場研究教育センター(SU-PLAF)は 全国8箇所の植物工場基盤技術開発拠点の1 つとして開設され,太陽光利用コンテナ植物工場や省エネルギー周年ワサビ苗生産技術などの開発に取組んでいる。
著者
白土 明子 中西 義信
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.9, no.10, pp.465-471, 2009 (Released:2013-06-01)
参考文献数
18

私たちの一生を通じて, 多くの細胞が生理学的細胞死のアポトーシスを起こし, 速やかに貧食を受けて生体から除去される。このアポトーシス細胞の貧食除去は, 生体恒常性の維持に必要である。膜リン脂質はこの現象に関与し, 標的細胞が食細胞に認識される際の目印や食細胞中での貧食誘導性情報伝達の制御因子として働くことが知られる。本稿では, 膜リン脂質に依存したアポトーシス細胞貧食反応の仕組みと意義とを解説する。
著者
浅原 (佐藤) 哲子
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.10, no.10, pp.365-370, 2010 (Released:2013-06-01)
参考文献数
31
被引用文献数
1

最近の疫学研究により, 飽和脂肪酸摂取やトランス型脂肪酸摂取が, 虚血性心疾患のリスクを有意に高めることが報告されている。飽和脂肪酸を含む遊離脂肪酸はその脂肪毒性により, 全身のインスリン抵抗性, 糖脂質代謝や肥満を悪化させ, 炎症・動脈硬化など心血管病リスクを促進する。一方, 不飽和脂肪酸は飽和脂肪酸の炎症惹起作用を減弱しうる。今後, 摂取脂肪量のみならず, 脂肪の質, つまり飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の比に着目した食事指導・脂質管理が虚血性心疾患の予防に有効であると考えられる。さらに近年, 個々の脂肪酸の研究とともに, 脂質やその代謝物の網羅的解析 (リピドミクス) の重要性も注目されている。
著者
永尾 晃治 柳田 晃良
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.129-135,128, 2002-03-01 (Released:2013-04-25)
参考文献数
42
被引用文献数
3 2

リン脂質の生理機能に関する最近の研究には目覚ましいものがあり, 様々な実験結果からリン脂質の代謝変動が細胞機能及び生命活動と密接に関わっている事が示されている。リン脂質の生理学的重要性としては, 生体膜の構成成分としてだけでなく, 生理活性物質としてのリン脂質代謝物や細胞内情報伝達物質としてのリン脂質代謝産物が挙げられる。本稿ではリン脂質機能に関する最近の知見, とくにリポタンパク質代謝における役割と食事リン脂質による肝臓や脳機能への栄養薬理学的研究の成果を中心にまとめた。
著者
丸山 武紀
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.107-114, 2008-03-01 (Released:2013-06-01)
参考文献数
19
被引用文献数
4 2

最近, わが国でも食品中のトランス脂肪について, 食品メーカー, 小売業者および消費者はそれぞれの立場から大きな関心を寄せている。日本人の平均的なトランス脂肪酸の摂取量について2007年6月に食品安全委員会から, 日本人1人, 1日当たりの摂取量は, 積み上げ方式で0.7g (0.3エネルギー%), 生産量からの推計では13g (0.6gエネルギー%) であると報告された。後者の推計値は1999年の生産量からの推計よりも0.26g (0.1エネルギー%) 減少した。この量は西洋諸国およびWHO/FAOおよびFDAの勧'告値よりも低い。これは, 伝統的な日本食は総体的に脂肪量が少ないからである。日本では現時点におけるTFAの摂取量は少ないので重要な問題ではないが, 若い年代層では西洋型の食事を好むので, 注意することが必要である。
著者
永尾 寿浩 菊川 寛史 山下 和彦
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.23, no.11, pp.549-558, 2023 (Released:2023-11-08)
参考文献数
42

Staphylococcus aureus(S. aureus,黄色ブドウ球菌)はアトピー性皮膚炎の炎症部で顕著に増加して炎症を増悪化する。一方,健常者の皮膚に多いStaphylococcus epidermidis(S. epidermidis,表皮ブドウ球菌)はS. aureusの生育抑制などの有用機能を保持する。多数の脂肪酸のS. aureusとS. epidermidisに対する抗菌活性を調べたところ,6-cis-C16:1,7-cis-C16:1,および9-cis-C16:1はS. aureusの生育を抑制し,S. epidermidisの生育を抑制しない選択的抗菌活性を保持し,アトピー性皮膚炎の炎症緩和に寄与することが期待される。皮脂中に存在する6-cis-C16:1は天然油脂中に存在しないことから,7-cis-C16:1と9-cis-C16:1を微生物法で生産することを試みた。Aeromonas hydrophilaおよびAcinetobacter sp.は,9-cis-C18:1を含む植物油を基質としたとき,9-cis-C18:1の炭素数を小さくした7-cis-C16:1に変換した。種々の遺伝子組換えを施したSaccharomyces cerevisiaeは高含量の9-cis-C16:1を含む油脂を生産した。さらに精製条件の検討により9-cis-C16:1含量を98%まで高めることができた。また,消費者の認知度の高いBifidobacterium sp. JCM 7042株は菌体内に7-cis-C16:1を生産した。
著者
柴垣 奈佳子
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.23, no.11, pp.569-574, 2023 (Released:2023-11-08)
参考文献数
65

敏感肌とは,通常は感じられない強さや種類の刺激によって不快な刺激を感じる肌のことを指す。世界中で敏感肌であると感じる人の数は非常に多く,敏感肌向けの製品も多いが,皮膚常在菌叢をターゲットにした製品は少ない。皮膚常在菌叢が皮膚バリアに与える影響の大きさを示唆する結果は多く,皮膚常在菌叢の敏感肌への関与は大いにあり得る。本稿では,敏感肌と皮膚常在菌叢に関する研究について総説する。
著者
永塚 貴弘 西田 浩志 仲川 清隆 宮澤 陽夫
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.261-268, 2017 (Released:2019-08-05)
参考文献数
34
被引用文献数
1

こめ油には不飽和ビタミンEトコトリエノール (T3),フェルラ酸(FA),γ-オリザノール, 植物ステロールなどの食品成分が豊富に含まれていることから,こめ油の健康機能性が注目を集めている。 我々はT3の抗血管新生やテロメラーゼ阻害を報告し,T3が高い抗がん作用を有することを明らかにしてきた。T3は4種の異性体の間で生理活性の強さが異なり,δ-T3が最も高い抗がん効果を示す。T3は通常のビタミンEであるトコフェロールと比較してバイオアベイラビリティが低いため,T3の生理活性を相乗的に高める化合物が精力的に探索されている。本総説では,こめ油成分であるT3とFAを活用した相乗的ながん抑制作用について紹介する。
著者
鈴木 啓章
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.14, no.12, pp.555-561, 2014 (Released:2017-02-01)
参考文献数
66
被引用文献数
1 1

ビタミンKは正常な血液凝固の維持に必要なビタミンとして発見された脂溶性ビタミンの1つである。近年,ビタミンKは骨粗鬆症や動脈硬化の予防に効果があることが明らかになってきた。ビタミンKは骨のオステオカルシンや動脈のマトリックスGlaタンパク質を活性化することで生体内のカルシウム代謝を調節し,骨や動脈の健康維持に役立っている。骨の健康維持のためには食事摂取基準における摂取目安量よりも多くのビタミンKの摂取が推奨されている。食品に主に含まれるビタミンKのうち,納豆に含まれるビタミンKであるメナキノン-7が最も高い栄養価を有している。
著者
長谷川 健
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.129-136, 2016 (Released:2019-02-01)
参考文献数
25

パーフルオロアルキル(Rf)基をもつ有機フッ素化合物は,炭化水素化合物では実現し得ない独特なバルク物性を示す。しかし,その物性が発現する機構を分子の一次構造と関連付けて理解することは長年の課題であった。本稿では,階層双極子アレー(SDA)理論と電磁気学によりこれまでの混乱を取り除き,Rf化合物の物性を,1分子とバルクに分けて統一的に理解可能にする新しい考え方について述べる。
著者
菊池 麻実子
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.22, no.9, pp.459-464, 2022 (Released:2022-09-03)
参考文献数
20

皮脂中の脂質過酸化やそれに続く角層タンパク質のカルボニル化といった皮膚表面での酸化ストレスは,皮膚の性状や外観に影響を及ぼすため,化粧品科学の分野において,長年,重要な課題とされてきた。皮脂は毛穴を通って角層表面に広がっていくため,皮脂中の脂質過酸化状態を考えるにあたって,毛穴の中の酸化反応を無視することはできない。そこで,皮膚表面での酸化ストレスを制御するためには,皮脂,角層,毛穴および毛穴に詰まっている角栓を合わせて,一連の酸化ストレスの対象物として理解する必要がある。本稿では,角栓が酸化ストレスへ与える影響,および角栓洗浄による酸化ストレス低減を介した皮膚外観への効果について紹介する。
著者
大矢 勝
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.19-26, 2007-01-01 (Released:2013-06-01)
参考文献数
20
被引用文献数
4 4

界面活性剤の水環境への影響は, 水生生物への急性毒性, 生態系への無影響濃度, 生分解性などの項目が取り上げられてきた。従来は個別の項目で各種界面活性剤の優劣が論じられてきたが, 近年は実際の環境中の許容濃度と予測実態濃度とを比較してリスクを評価するようになったが, 最近のレポートによると家庭用洗剤類に用いられる代表的な各種界面活性剤は, 欧州や日本の河川環境に悪影響を及ぼしているとは考えられない。今後は, 硬度などの水質が毒性に及ぼす影響, 界面活性剤が実際の自然環境下で懸濁物質に吸着する特性, 界面活性剤の無影響濃度を急性毒性値から間接的に計算する手法などを考慮したリスク評価法の改善が求められる。界面活性剤のリスク評価は化学物質のリスク評価手法の先進的研究としての意味がある。
著者
織田 政紀 内山 雅普
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.16, no.7, pp.331-336, 2016 (Released:2019-02-01)
参考文献数
22
被引用文献数
2 1

角層は皮膚最外層に存在する薄い膜であり,皮膚を健常に保つ役割を果たす。角層中の細胞間脂質は,角層細胞間隙に,皮表に対して平行に展開されたラメラ構造を形成することで保湿バリア機能を発揮する。高含水α-ゲル製剤化技術は,細胞間脂質の主成分であるセラミドを用いて,肌上に細胞間脂質と同じ構造の膜を形成させるために開発された。本稿では,保湿スキンケア化粧品の観点から,最近の角層細胞間脂質研究動向を交えながら,本製剤化技術についてレビューする。
著者
徳留 嘉寛
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.135-139, 2020 (Released:2020-03-04)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

薬学や健康科学領域で,化合物の経皮吸収は大変重要な技術領域である。一般に,皮膚は外部からのバリアとしてはたらくことが知られている。一般的に経皮吸収に有利な化合物は,低分子(分子量500以下),脂溶性が高い(オクタノール水分配係数が1から2)であることとされる。したがって水溶性高分子化合物の皮膚浸透性は極めて悪い。本稿では,一般的に経皮吸収に不向きとされる水溶性高分子としてヒアルロン酸をモデルとして最近の著者らの研究成果を紹介する。具体的には,ポリイオンコンプレックス法でヒアルロン酸ナノ粒子を作成し,それを皮膚に適用することでHA を受動拡散で皮膚中に送り込むことができた。これらの技術が将来,健康科学に貢献できることを望む。
著者
鈴木 敏幸
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.12, no.8, pp.311-319, 2012 (Released:2015-02-04)
参考文献数
30

乳化の基礎として,エマルションの生成と乳化剤の選択および相図を用いた乳化プロセスの解析と分子集合体を用いた微細なエマルションの調製について解説を行った。 エマルションは熱力学的に不安定な系であるため,その状態は調製プロセスによって大きく異なる。 最適な乳化条件は,油/水/界面活性剤からなる3成分系の相図を用いることにより解析できる。 乳化の過程において,液晶や界面活性剤相(D相)などの分子の無限会合体形成領域を経由させると,油/水界面張力が著しく低下するため,微細な乳化粒子が生成する。従って乳化の初期段階で液晶やD相を連続相として用いる乳化法が開発され,実用系でも応用されている。 こうした現状を基に,エマルションの今後の潮流に関しても考察を行った。
著者
井上 賢一
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.207-213, 2023 (Released:2023-04-05)
参考文献数
15

肺胞の表面を覆う肺サーファクタントは,主成分である脂質の両親媒性により,呼吸機能の維持に重要な役割を果たしている。最近,この肺サーファクタントに含まれる不飽和脂質が空気中に含まれる程度の極低濃度オゾンによっても酸化されることを示唆する結果が報告されている。極低濃度オゾンの呼吸器への影響を明らかにする上で分子レベルでの反応機構を明らかにすることは重要であるが,技術的な難しさのためにその詳細はこれまでに十分には明らかになっていない。和周波発生(SFG)分光法は,2次の非線形光学効果に基づき分子の界面構造に非常に敏感な分光法である。特に,SFG光の干渉信号を検出するヘテロダイン検出は,従来の光強度測定と比較してより多くの情報を得ることが可能である。本稿では,ヘテロダイン検出SFG分光法の原理と極低濃度オゾン環境下における不飽和脂質単分子膜の酸化反応のその場測定への適用例について紹介する。
著者
二神 岳 草森 浩輔 西川 元也
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.55-61, 2021 (Released:2021-02-04)
参考文献数
45

エクソソームは,脂質二重膜で覆われたナノサイズの細胞外小胞(EVs)であり,その中には核酸やタンパク質,脂質など,エクソソームを産生する細胞固有の物質が含まれる。エクソソームを含むEVsの様々な生理的状態や疾患との関連性の深さから,幅広い疾患において診断あるいは治療用のツールとしてのEVsの応用が期待されている。しかしながら,EVsは産生される細胞の起源やそのサブタイプによって体内動態が異なることが報告されていることから,個々のEVsの体内動態特性を理解することは極めて重要である。そこで,EVsの体内動態の解明や治療効果向上に向けた体内動態制御,さらには低分子化合物やタンパク質,核酸などの様々な薬物のデリバリーキャリアとしての適用拡大を目的とした研究が盛んに行われている。本稿では,エクソソームを含む直径100nm程度のsmall EVsに焦点を当て,標識方法を含むEVsの体内動態と,その制御方法および制御技術に関するこれまでの研究報告を紹介する。
著者
中澤 昌美
出版者
公益社団法人 日本油化学会
雑誌
オレオサイエンス (ISSN:13458949)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.73-78, 2023 (Released:2023-02-04)
参考文献数
12

単細胞真核藻類のユーグレナ(和名ミドリムシ)は,好気・嫌気の両環境にフレキシブルに適応できる代謝系を有している。細胞が嫌気状態にさらされると,貯蔵多糖パラミロン(直鎖状β-1,3 グルカン)を分解して,脂肪酸-脂肪アルコールエステルであるワックスエステルを生成する。この代謝過程ではATPを消費しないミトコンドリア局在脂肪酸合成系が利用されることから,長らく「ワックスエステル発酵」と呼ばれてきた。しかし,近年の研究から,ATPを消費しないだけではなく,ミトコンドリア嫌気的呼吸鎖と共役したATP合成が同時に行われていることが明らかとなってきた。本稿では,嫌気下でのワックスエステル合成発見から,現在明らかになっている代謝メカニズムまでを概説する。