著者
伊奈 林太郎 五十嵐 淳
出版者
Japan Society for Software Science and Technology
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.18-40, 2009-04-24

静的型システムと動的型システムの両者の利点を活かす枠組みとして,SiekとTahaは漸進的型付けを提唱している.漸進的型付けでは,型宣言された部分のみ静的型検査が行なわれ,残りの部分については実行時検査が行なわれる.これにより,当初型を付けずに書いたプログラムに型宣言を徐々に付加し,静的型付けされたプログラムを完成させることができる.本研究では,漸進的型付けをクラスに基づくオブジェクト指向言語で実現する理論的基盤として,Igarashi, Pierce, Wadlerらの計算体系Featherweight Java (FJ)に動的型を導入した体系FJ<SUP>?</SUP>を定義し,型付け規則を与える.さらにFJ<SUP>?</SUP>からFJにリフレクションを加えた体系への変換を定義することで意味論を与え,静的に検査した部分の安全性が保証されることを示す.
著者
増原 英彦 松岡 聡 渡部 卓雄
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.175-192, 1994-05-16
参考文献数
31
被引用文献数
5

並行オブジェクトの間で共有される計算資源の概念をとり入れた自己反映計算モデルであるHybrid Group Architectureと,その記述言語ABCL/R2を提案した.ABCL/R2では,オブジェクト単位の自己反映計算と,オブジェクトグループ単位での自己反映計算の両方が可能なため,スケジューリングのような,並列・分散システムにおける共有計算資源に関する制御を,本来の計算から隠蔽された形をとりつつ,言語の枠内から柔軟に記述できる.また,自己反映システムの効率的な処理系は,作成が困難とされていたが,部分コンパイル・段階的なメタレベル生成・軽量オブジェクトなどの技法による効率的な処理系の作成方法を示した.実際に共有記憶型並列計算機上に作成したABCL/R2処理系では,自己反映計算を行うことによる速度低下を,行わない場合の10倍以下に抑えられ,非自己反映計算の実行速度は,非自己反映処理系とほぼ同等であるというベンチマーク結果を得た.
著者
栗原 秀輔 瀬野 瑛 澤村 一
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.52-59, 2008-10-28
被引用文献数
2

多値議論の論理は不確実な知識を基に不確実な問題に対して議論を可能とする.本論文では,LMAのソーシャルウェブ:SNS,Wikipediaへの応用を述べる.これらは,現在および未来の情報社会に最も影響を与えるであろうソーシャルウェブアプリケーションだと言われている.SNSについては,mixiのマイミクシィへの登録承認をLMAをもとに判断するエージェントを提案する.Wikipediaについては,Wikipediaの削除問題に着目し,LMAをもとにその問題の原因となった記事を削除するべきか否かという問題について議論し,削除依頼による議論の分析を行うエージェントを提案する.
著者
古澤 仁 高井 利憲 Hitoshi Furusawa Toshinori Takai 鹿児島大学理学部数理情報科学科 産業技術総合研究所システム検証研究センター Department of Mathematics and Computer Science Faculty of Science Kagoshima University Research Center for Verification and Semantics AIST.
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.14-34, 2006-07-26
参考文献数
46

クリーニ代数は正規言語を公理的に取り扱うための代数的枠組みである.正規表現が計算機科学のいたるところに現れることを考えると,クリーニ代数が計算機科学に現れる構造の自然なクラスの性質を公理的にとらえ得るであろうことが容易に推測されるであろう.クリーニ代数の定義は,等式とホーン節で与えられるため,ある現象をクリーニ代数においてモデル化すると,その現象が簡単な式変形によって検証できるという特徴をもつ.本稿ではクリーニ代数の基本的な性質とそのプログラム理論への応用例について紹介する.A Kleene algebra is an algebraic framework to handle regular languages. Considering that regular expressions appear everywhere in fields of computer science, it may be easy to infer that a Kleene algebra can captures properties of natural class of structures appear in computer science. Since Kleene algebras are defined by equations and Horn clauses, if a phenomenon is interpreted in Kleene algebra, reasoning of the phenomenon is performed by simple transformations of expressions. We introduce basic properties and application examples of Kleene algebras to theory of programs.
著者
岩間 太 小林 直樹
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.58-64, 2002-03-15

プログラミング言語Javaの仮想機械では,実行前にコードの検証を行い,不正なコードを排除している.しかし,現在の検証器では,並行スレッドによるロックの獲得・解放の整合性に関する検証は行っていない.この問題を解決するため,本研究では,AbadiとStataによるバイトコード検証のため型システムを改良する.新しい型システムでは,各オブジェクトのロックが獲得・解放される順序の情報をオブジェクトの型に付加することにより,ロックの正しい使用を保証する.
著者
古瀬 淳
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.90-94, 2005-04-26

Extensional polymorphismは関数型言語ML上での非パラメトリック多相性を実現するための枠組のーつであり,generic valueという,純粋なパラメトリック多相性の下では不可能な機能を提供する.我々は型ディスパッチと型パターンマッチを利用したgeneric valueの既存のコンパイルにおける意味論と効率の問題を指摘し,新たに[フロー」と呼ばれる,型付け情報を整数グラフに変換した物をディスパッチする変換方法を提案する.フローを使うことで,より自然な意味論に沿った変換が可能になり,多重定義値の呼び出しの効率も改善される.
著者
須子 善彦 小池 由理 村井 純
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.66-77, 2007-10-26

本システムは,イラストやアニメーション等のデジタルアート作品の流通を支援するWebベースのシステムである.本システムでは,世界中のブログを一種のセレクトショップと見なし,ブログを仲介にしたアート作品の流通モデルを実現することで,デジタルアート作品の流通の問題の一部である,1)デジタルアート作晶へのニーズが切迫していない点,2)検索におけるアート作品特有の困難さ,という問題を解決した.a)上記の課題の導出は要件定義段階からアーティストとの協働によるものである点,b)その解決モデルの実現のためのdesign choicesとして,各要素技術の難易度や新規性を求めず,しかしながら組み合わせが斬新で有用である点を重視,c)前述の結果として短期間に一般公開可能なシステム開発が可能となった点,が特徴である.本システムは,一般ユーザに気軽にデジタルアート作品に触れる機会を増大し,ユーザ個々人の趣味・嗜好によって異なった作品発見を可能にした.また,周囲の環境にマッチする必要性など,アート作品特有の検索要件に新たな解を与えた.
著者
佐々木 貴宏 所 真理雄
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.365-378, 1997-07-15
被引用文献数
6

マルチエージェント系におけるエージェントの環境への適応は,進化論からの類推に基づき,個体による生涯内での「学習」と集団による世代をまたいだ「進化」といった異なる2過程の相補的なものとして捉えられる.本稿では,ダーウィン型あるいはラマルク型の遺伝機構を持つ集団の進化の過程を再現し,特に動的な環境下でのそれぞれの集団の適応性について評価および議論する.その結果,ダーウィン型の集団の方が,静的環境下では効率的なラマルク型の集団よりも環境の変動に対して安定した挙動を示すばかりでなく,世代を通じて動的環境自体に適応していくことが可能であることを示す.
著者
横手 靖彦 所 真理雄
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.582-598, 1985-10-15
被引用文献数
3

ConcurrentSmalltalkはSmalltalk-80に並行プログラミング能力を付加したプログラミング言語/システムであり,並行構文,アトミック・オブジェクト,および外部参照解決機構により,分散環境での並行プログラミングを可能にしている.本論文では,オブジェクト指向計算と並行プログラミングについて述べた後,ConcurrentSmalltalkの設計方針と言語仕様について,主に並行プログラミング機能を中心に述べている.最後に,ConcurrentSmalltalkの実装についても述べている.
著者
梶浦 正浩 安西 祐一郎
出版者
一般社団法人日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.42-51, 1992-01-16
被引用文献数
1

チェスやオセロゲームに代表される2人零和完全情報ゲームでは,ゲーム本探索には一般にMin-Maxアルゴリズムが用いられる.そして,効率良く探索するためにα-β法やSSS法などの枝刈りアルゴリズムが併用される.これに対し,n人完全情報ゲームでのゲームの木の探索では,一般にMAX^Nアルゴリズムが用いられるが,併用される枝刈りアルゴリズムは特定の条件の下で有効なものしか提案されていない.本論文ではその条件が成り立たない別種のゲームにおける新しい枝刈りアルゴリズム「限界増分枝刈りアルゴリズム」を提案する.そしてこの種のゲームの一つである「ダイヤモンドゲーム」に適用し,評価結果を示す.